休職中の定期健康診断、会社の義務と対応手順3ステップ

休職中の定期健康診断、会社の義務と対応手順3ステップ メンタルヘルス対応
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「休職中の社員に健診の案内を送っていいのだろうか。メンタル不調で療養中の人に連絡するのは逆効果では……」と手が止まったまま、気づけば健診実施期間が終わっていた——中小企業の兼務担当者から、こうした相談を多く受けます。

案内を送るべきか否か、受診できなかった場合の記録はどうするか、復職後にまとめて受診させることは問題ないのか。判断に迷うポイントが重なるテーマです。この記事では、法的根拠を踏まえながら、専任人事がいない企業でも実行できる対応手順を3ステップで整理します。

休職中社員への定期健康診断、会社の義務はどこまでか

結論からお伝えすると、「休職中だから健診義務は完全に免除される」とは言い切れません。ただし、実際に就労していない期間については、一定の例外的扱いが認められる余地があります。この微妙なラインを正確に理解しておくことが、適切な対応の出発点です。

法律が会社に課している「実施義務」の範囲

労働安全衛生法第66条第1項は、事業者に対して「労働者に医師による健康診断を受けさせなければならない」と定めています。義務の主体はあくまで会社側であり、在籍している労働者全員が原則的な対象です。休職中であっても雇用関係は継続しているため、この対象から自動的に外れるわけではありません。

一方で、厚生労働省の関連通達(昭和47年9月18日 基発第602号など)の解釈上、就業が義務付けられていない期間中の実施については、厳密な義務を課すものではないとする考え方が実務慣行として一般的に認められています。つまり「義務が緩和される可能性がある」のであって「義務がない」とは断言できないのが正確な理解です。

「義務が緩和される=何もしなくていい」ではない理由

ここが最も誤解されやすいポイントです。仮に休職中の受診義務が緩和されるとしても、それは「対応しなくていい理由」にはなりません。労働契約法第5条に定める安全配慮義務の観点から、会社は労働者の健康を管理するための「合理的な措置を講じていたか」が問われます。

後に社員の健康問題が顕在化したとき、「案内も送っていない、記録も残っていない、復職後も受診させていない」という状況では、安全配慮義務違反のリスクが生じる可能性があります。記録に残す・案内の形跡を作る・復職後に受診させる、という「対応した証拠の整備」が本質的に重要です。

案内送付の判断基準と送り方の工夫

法的に「案内送付を義務付ける」明示規定はありませんが、受診機会を実質的に確保するための合理的な働きかけとして、案内を送ることは安全配慮義務の観点から推奨されます。問題は「送るかどうか」ではなく「どのように送るか」です。

メンタル不調の社員への案内で配慮すべきこと

「療養中の人に健診の案内を送るのは負担をかけるのでは」という心理的ハードルは、多くの担当者が感じることです。ただし、案内を送ること自体が問題なのではなく、送り方や文面が適切かどうかが重要です。

主治医や産業医と事前に連携し、本人の状態を確認したうえで、配慮文言を入れた案内文を作成することが望ましい対応です。たとえば「療養中であることを考慮し、受診が難しい場合は無理に対応いただく必要はありません。ご都合のよい時期に受診いただけるよう、後日改めてご案内します」といった一文を添えるだけで、受け取る側の心理的負担は大きく変わります。

判断に迷う場合は、人事対応の専門家に相談することで、本人への負担と会社の法的責任のバランスをとることができます。

産業医や就業規則の有無による対応の分岐

会社の状況によって、具体的な対応手順は異なります。以下を参考に、自社のケースに当てはめてください。

会社の状況 推奨される対応
産業医が選任されている(従業員50名以上) 産業医に本人の状態を確認のうえ、案内送付のタイミングと文面を相談する
産業医なし・就業規則に健診規定あり 就業規則の規定に沿って案内を送付し、受診できない場合はその旨を記録に残す
産業医なし・就業規則に健診規定なし 配慮文言を入れた案内を文書で送付。主治医意見書があれば状態を参照して判断する

連絡したが返答がない場合の対処

案内を送付したものの、本人からの返答がない・家族からしか情報が来ない、というケースは珍しくありません。この場合、重要なのは「会社として合理的な働きかけをした記録を残すこと」です。送付した日時・手段(郵送・メール等)・内容を記録しておき、「未受診・連絡試みた形跡あり」として個人票に記載しておけば、後日問題が生じたときの説明責任を果たすことができます。

無理に連絡を繰り返すことは本人の状態を悪化させるリスクもあるため、一定回数(例:1〜2回)の案内を送付した記録を残したうえで、復職後の受診に切り替える方針を就業規則等に明記しておくことが現実的です。

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休職中の未受診記録と個人票の管理方法

休職中で健診を受けられなかった場合も、記録の整備は必要です。「未受診のまま放置」は実務上のリスクになります。労働安全衛生規則第51条は、健康診断個人票の作成と5年間の保存を義務付けています。

未受診時の個人票への記載方法

休職中で受診できなかった社員については、個人票に「未受診」と記載し、その理由(例:「休職中のため受診不可」)を明記しておくことが実務上の適切な対応です。空欄のままにしておくと、後から「健診を実施しなかったのか、記録漏れなのか」が判別できなくなります。理由を明記した記録が、安全配慮義務への対応を示す証拠になります。

年度をまたぐケースへの対応

休職が長引いて健診実施期間(多くの企業は年1回・年度内)を超えた場合、復職後に受診させると年度が変わるケースが出てきます。この場合、復職後速やかに受診させたことを記録し、「前年度未受診・今年度受診」という形で個人票を整理しておくことが重要です。年1回の実施義務との関係で、受診日が前回受診日から1年以上空いていないかも確認しておきましょう。

復職後の定期健康診断実施の基本的な流れ

「復職後にまとめて受診させる」という方針自体は実務上許容されうるものですが、それを機能させるためには事前の整備が必要です。場当たり的な対応では「復職後も気づいたら受診していなかった」というケースが起きます。まず就業規則等への明記から始め、次に復職時の書類への記載、そして速やかな受診手配という流れで対応します。

就業規則・健康管理規程への明記

「休職中は復職後速やかに健康診断を受診するものとする」という旨を就業規則または健康管理規程に明記しておくことが、運用の土台になります。明記がなければ、復職後の受診を促す根拠が曖昧になり、社員側から「なぜ復職後に改めて受診が必要なのか」と問われたときに説明しにくくなります。

休職辞令・復職確認書類への記載

休職辞令や復職確認書類(復職承認書・復職誓約書など)に「復職後○週間以内に定期健康診断を受診すること」という条件を盛り込んでおくと、口頭での取り決めよりも確実に実行されやすくなります。書類上の合意があることで、担当者が後任に変わった場合でも引き継ぎが容易になります。

復職判断と定期健康診断を混同しない

ここはよくある誤解ポイントです。復職を判断するための医療的根拠は、主治医の診断書・意見書や産業医の意見が中心となります。定期健康診断(一般健診)はあくまで健康状態のスクリーニング(全体的な把握)であり、復職可否の直接的な判断材料とは性格が異なります。「定期健診の結果が出るまで復職させられない」という運用は法的根拠に乏しく、復職を不当に遅らせるリスクがあります。両者の役割を明確に区別して運用することが大切です。

兼務担当者が優先すべき対応の整理

専任人事がいない環境では、すべてを完璧に対応することは現実的ではありません。限られたリソースの中で「何を優先するか」を整理しておくことが、実務上の安全管理につながります。

最低限やっておくべきこと

  • 案内を送付した記録(日時・手段・内容)を残す
  • 個人票に「未受診・理由(休職中)」を明記する
  • 復職後に受診させる方針を就業規則等に明記する
  • 復職後、速やかに受診の手配をする(放置しない)

余裕があれば整備しておきたいこと

上記の最低限の対応が整ったうえで、さらに体制を強化したい場合は、産業医との連携体制の構築・健診管理台帳の整備・休職者対応フローのマニュアル化などが有効です。特に従業員が増えてきた段階(目安として30名超)では、健診管理を属人的に行うリスクが高まるため、フロー化しておくことで引き継ぎや抜け漏れ防止に役立ちます。

まとめ

休職中の社員に対する定期健康診断の対応は、「義務がないから何もしなくていい」ではなく、「義務が緩和される可能性はあるが、対応した記録を残すことが安全配慮義務の観点から重要」というのが正確な理解です。

実務上の優先順位としては、まず案内送付の記録を残すこと、次に個人票に未受診理由を明記すること、そして復職後に速やかに受診させる仕組みを就業規則等に整備することの三点が基本的な対応の柱になります。

人事判断に迷う場面では、一社だけで抱え込まず、外部の専門家に相談することで、より確実な対応が可能になります。ウェルセンス株式会社では、20〜50名規模の企業における休職・復職対応や健康管理体制の整備について、個別の状況に合わせた相談をお受けしています。一人で判断が難しいと感じたときは、お気軽にご相談ください。

よくある質問

Q. 休職中の社員に健康診断の案内を送ることは法律上の義務ですか?

A. 案内送付そのものを義務付ける明示的な法規定はありません。ただし、労働契約法第5条の安全配慮義務の観点から、受診機会を確保するための合理的な働きかけ(案内・日程通知など)を行い、その記録を残しておくことが推奨されます。「案内を送った形跡がない」という状態は、後々リスクになる可能性があります。

Q. 休職中に健診を受けられなかった場合、個人票はどう記載すればよいですか?

A. 個人票に「未受診」と記載し、理由として「休職中のため受診不可」と明記することが実務上の適切な対応です。空欄のまま放置するのではなく、理由を記録に残しておくことで、安全配慮義務への対応を示す証拠になります。労働安全衛生規則第51条に基づき、個人票は5年間保存する必要があります。

Q. 復職後にまとめて健診を受けさせる方針は問題ありませんか?

A. 実務上許容されうる方針ですが、就業規則や健康管理規程に「休職中は復職後速やかに受診する」旨を明記しておくことが前提です。また、復職後に放置せず速やかに受診手配をすることが重要です。「復職後受診」の方針を明文化しておかないと、復職後も受診が行われないまま時間が経つリスクがあります。

Q. 定期健康診断の結果が出るまで、復職を待たせることはできますか?

A. 原則として難しい対応です。復職の可否判断は、主治医の診断書・意見書や産業医の意見が中心となります。定期健康診断はあくまで健康状態の全体的なスクリーニングであり、復職可否を直接判断するための書類とは性格が異なります。「健診結果が出るまで復職させない」という運用は法的根拠が薄く、復職を不当に遅らせるリスクがあります。

Q. 産業医がいない小規模企業でも、同じ対応が必要ですか?

A. 産業医の選任義務は従業員50名以上の事業場に課されていますが、50名未満の企業でも安全配慮義務(労働契約法第5条)は適用されます。産業医がいない場合は、主治医の意見を参考にしながら、案内送付・記録整備・復職後の受診手配という基本的な対応を自社で行うことが重要です。地域産業保健センター(地産保)を活用して、低コストで産業保健の相談ができる制度もあります。

【監修】ウェルセンス株式会社
ウェルセンスは、メンタル不調者対応・休職復職支援に強い職場メンタルケアサービスです。産業医・保健師・心理士・社労士などの専門家ネットワークが、人事・管理職だけでは判断しづらいケースの初動対応、専門家連携、再発防止まで支援します。

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