「産業医の面談が終わったあと、従業員本人から『面談の結果を主治医に伝えてほしい』と言われた。断っていいのか、応じなければならないのか……」
そんな問い合わせを、復職対応の経験が少ない経営者や兼務人事担当者から受けることが増えています。産業医と主治医、どちらも医療の専門家ですが、会社との関係は異なります。復職 産業医面談結果 主治医 情報共有をどこまで進めてよいのか、会社に対応義務があるのか——法的根拠が曖昧なまま個別対応を続けると、後日トラブルになるリスクがあります。この記事では、情報共有の義務の有無・同意書の取り方・社内規程の整備まで、実務に即した形で整理します。
産業医の面談結果を主治医に共有する「義務」はあるか
結論から言えば、会社に主治医へ産業医の面談結果を共有する法的義務はありません。ただし、本人が同意したうえで会社が共有することは適法であり、復職を円滑に進めるためにむしろ有効な場面もあります。
「義務がない」の意味を正確に理解する
従業員や家族から「産業医の面談結果を主治医に送ってほしい」という要求を受けたとき、会社はそれに応じる法的義務を負いません。労働安全衛生法にも個人情報保護法にも、会社が産業医の情報を主治医へ提供しなければならないという規定は存在しないからです。
一方で、従業員本人から「自分の産業医面談記録を見せてほしい(開示してほしい)」という請求があった場合は話が変わります。産業医の面談記録は会社が業務上保有する個人情報に該当するため、個人情報保護法第33条に基づき、原則として本人への開示に応じる義務が生じます。「主治医への共有」と「本人への開示」は異なる話なので、混同しないよう注意が必要です。
「断れる」「応じられる」の判断基準
会社としてどう対応するかは、以下の整理で考えると判断しやすくなります。
| 要求の内容 | 法的性格 | 会社の対応義務 |
|---|---|---|
| 本人が「面談記録を自分に見せてほしい」と請求 | 個人情報保護法33条に基づく開示請求 | 原則として開示義務あり(一部例外あり) |
| 本人が「面談結果を主治医に送ってほしい」と要求 | 個人情報の第三者提供(同法27条) | 義務なし。本人同意があれば対応可能 |
| 会社が産業医と主治医の連携を仲介したい | 同上(第三者提供) | 義務なし。本人同意があれば対応可能 |
産業医・主治医・会社、それぞれの役割と情報の流れ
情報共有をめぐるトラブルの多くは、産業医と主治医の役割の違いが本人・家族に伝わっていないことが原因です。会社が正確に説明できるようにしておくことが、無用な板挟みを防ぎます。
主治医と産業医、何が違うのか
主治医は「患者(従業員)の治療・回復」を目的とした医師です。一方、産業医は「職場環境における従業員の健康と安全」を目的とする医師であり、会社との契約に基づいて働いています。
主治医が「復職可能」と診断書に書いても、それは「治療の観点から職場に戻れる状態」という意味であり、「その会社の業務内容・ストレス環境・業務負荷に耐えられる状態」を保証するものではありません。産業医が追加で面談を行うのは、職場の実態を踏まえた「就業適性」を確認するためです。
産業医から会社へ伝えられる情報の範囲
産業医は医師として守秘義務(刑法第134条)を負っています。ただし、労働安全衛生法第13条の4は、産業医が「就業上の措置に必要な情報」として就業可否に関する意見を会社に述べることを認めています。
つまり、産業医が会社に共有できる情報は、大きく次の二つに分けられます。
- 本人同意なしに会社へ伝えられる情報:就業可否の意見(「時間外制限が必要」「フルタイム復帰は不可」など、就業上の措置に関する意見)
- 本人同意が必要な情報:診断名・治療内容・服薬状況など医療上の詳細情報
会社が産業医から受け取る「意見書」には前者が記載されるのが通常です。後者を主治医に共有したい場合は、必ず本人の書面による同意が必要になります。
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情報共有に同意書が必要な理由と、書面で取るべき理由
本人の同意があれば、会社が産業医の面談結果を主治医に提供することは適法です。ただし、その同意は必ず書面で取ることが実務上の大原則です。
口頭同意だけでは後から必ずトラブルになる
復職面談の場面では、従業員も会社も早期復職を希望していることが多く、「その場の流れ」で口頭確認だけで情報共有が進んでしまうことがあります。しかし、復職後にメンタル不調が再発した場合や、本人が「そんなことに同意していない」と主張した場合、証拠のない口頭同意は会社を守りません。
同意書に明記すべき最低限の項目
情報共有の同意書には、少なくとも以下の内容を明記することをお勧めします。
- 提供する情報の具体的な内容(産業医意見書・面談記録など)
- 提供先(主治医の氏名・医療機関名)
- 提供の目的(円滑な復職支援のため、など)
- 同意の撤回が可能である旨
- 本人の署名・日付
「包括的な同意」として「復職に関する情報の共有全般に同意する」という記載だけでは、後日「そんな広い範囲の同意ではなかった」と争われるリスクがあります。共有する情報の具体性が重要です。
個別の復職対応で判断に迷ったとき、外部の産業医やコンサルタントに相談することで、後々のリスクを大幅に減らせます。
就業規則・社内規程に復職フローと情報管理を明記する
個別対応を続けることには限界があります。同じ問題が繰り返されないよう、復職時の情報管理ルールを就業規則または関連規程に明文化しておくことが、会社を守る最大の予防策です。
規程に盛り込むべき4つの要素
現在の就業規則に休職・復職の条項があっても、情報管理について何も書かれていないケースが大半です。少なくとも以下の4点を明記しましょう。
- 情報管理の主体:産業医面談記録・意見書は誰(人事担当者・総務責任者など)が管理するか
- 保管場所と閲覧権限:鍵のかかる場所またはアクセス制限されたシステムに限定し、閲覧できる者を限定する
- 共有範囲の原則:「就業上の措置に必要な情報のみを関係者(上長・産業医・必要な場合は主治医)と共有し、本人同意のない医療情報は共有しない」と明記する
- 同意取得の手続き:復職プロセスの開始時点で、情報共有に関する同意書を必ず書面で取得することを手順として定める
産業医との契約内容も見直す
産業医との嘱託契約が「月1回の職場巡視のみ」という最低限の内容になっている会社では、そもそも面談記録の書面化・保管・会社への提供が契約上カバーされていないことがあります。復職面談を産業医に依頼する際は、「意見書を書面で会社に提供すること」「面談記録の保管責任の所在」を契約または覚書で明確にしておく必要があります。
従業員数49人以下(産業医の選任義務がない規模)の会社でも、外部の産業医・産業保健サービスを活用することは可能です。契約内容の見直しを合わせて検討することをお勧めします。
安全配慮義務と個人情報保護のバランスをどう取るか
「情報を開示しすぎると個人情報保護法違反になるのでは」「でも開示しないと安全配慮義務違反では」という二律背反を感じている担当者は少なくありません。ただし、この二つは実際には両立します。
安全配慮義務が求めるのは「情報共有」ではなく「適切な措置」
労働契約法第5条が定める安全配慮義務は、「従業員の健康・安全に配慮した措置を取る義務」です。これは「従業員の医療情報を何でも収集・共有してよい」という意味ではありません。産業医の就業適性に関する意見(「残業禁止」「軽作業への配置転換が必要」など)を業務上の措置に反映させることが、安全配慮義務の実践です。
個人情報保護法違反を避けるポイント
個人情報保護法の観点からは、収集・保管・共有のそれぞれの段階で目的外利用をしないことが求められます。復職目的で取得した産業医の意見書を、例えば人事評価や別の業務判断に流用することは目的外利用にあたります。「復職支援の目的でのみ使用する」というルールを徹底することで、個人情報保護と安全配慮義務の両方を満たすことが可能です。
まとめ
産業医の面談結果を主治医に共有する法的義務は会社にはありません。ただし、本人が同意した場合には適法に共有することができ、復職を円滑に進めるうえで有効な選択肢になります。重要なのは、口頭ではなく書面で同意を取ること、共有する情報の範囲を具体的に明示することです。
また、こうした対応を属人的・個別的に続けることには限界があります。産業医との契約内容の見直し、情報管理ルールの就業規則への明記、同意書書式の整備——この三つを整えることで、会社は従業員からの要求にも法的根拠を持って対応できるようになります。
復職支援の仕組みを一から構築するのは、兼務人事では難しいものです。ウェルセンス株式会社では、実際の企業対応事例に基づいた復職フローの整備、同意書・規程の整備サポートを行っています。「うちの場合はどう進めるべき?」という実務的な相談も、まずはお気軽にお問い合わせください。
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