「フルタイムは難しいけれど、業務委託なら続けられるかもしれない」——休職中の従業員からそんな申し出を受けたとき、あるいは自社でそのアイデアを思いついたとき、一見すると合理的な解決策に見えます。しかし、この判断には重大な法的リスクが潜んでいます。本記事では、雇用契約から業務委託への転換が抱える問題点を整理し、フルタイム復職が難しい従業員に対して会社が取るべき現実的な対応策を解説します。
業務委託転換は「解雇の代替」とみなされるリスクがある
結論から言えば、休職中の従業員を雇用契約から業務委託契約に切り替えることは、法的に非常にリスクの高い行為です。たとえ善意の提案であっても、会社側が重大な責任を問われる可能性があります。
実態が変わらなければ「偽装請負」になる
業務委託契約に切り替えたとしても、業務の内容・指示の出し方・勤務場所などが雇用時と変わらない場合、労働基準法や労働組合法における「使用従属関係」があるとみなされ、実質的に労働者として扱われます。厚生労働省が示す「労働者性の判断基準」では、指揮命令の有無・報酬の性格・業務の専属性などが総合的に評価されます。見かけ上は業務委託でも、実態が雇用と変わらなければ「偽装請負」として労働者派遣法や職業安定法違反に問われるリスクがあります。
実質的な解雇として争われる可能性
雇用を終了させる手段として業務委託転換を活用した場合、それは実質的な解雇とみなされることがあります。労働契約法第16条の解雇権濫用法理が適用され、「客観的に合理的な理由がなく、社会通念上相当でない解雇は無効」と判断されるリスクがあります。復職が難しいという事情があっても、それだけで雇用契約を一方的に終了させる正当な理由にはなりません。
安全配慮義務違反も問われうる
精神疾患や身体疾患により就労能力が低下している従業員を雇用の外に追いやることは、労働契約法第5条が定める使用者の安全配慮義務に違反するとして争われる可能性もあります。会社には、従業員が安全に働ける環境を整える義務があり、困難な状況にある従業員への対応はとくに慎重さが求められます。
「本人が同意しているから大丈夫」は通じない
本人や家族から「業務委託でもいいので続けたい」という申し出があっても、それだけで法的なリスクが消えるわけではありません。この点は多くの経営者・人事担当者が誤解しているポイントです。
精神疾患回復途中の同意は後から争われる
うつ病や適応障害からの回復途中にある従業員が行った意思表示は、後日「病気の影響で判断能力が十分でなかった」「不安定な状態での合意だった」として無効を主張される可能性があります。民法上の錯誤・強迫に該当しなくても、労働法の文脈では「実質的な合意があったかどうか」が厳しく問われます。「本人が望んだ」という事実は、法的な免責事由にはなりません。
書面だけでは不十分なケース
合意書や同意書に署名をもらっていても、それだけでは不十分です。特に精神疾患の回復期にある従業員との合意形成においては、主治医や産業医の意見書を取得し、第三者(社会保険労務士・弁護士)の確認を経てから書面を交わすことが実務上の最低限の要件となります。この手順を踏まずに進めてしまうと、後日のトラブル時に会社側の対応の不備として指摘されます。
遡及請求のリスク
業務委託転換後に「実態は労働者だった」と認定された場合、転換時点に遡って未払い残業代・社会保険料・各種手当の請求を受けるリスクがあります。社会保険料の会社負担を減らせると期待して業務委託を選んだはずが、遡及分の支払いで大きな損失になるケースも実際に起きています。
フルタイム復職が難しいときの現実的な代替手段
業務委託への転換を考える前に、雇用を維持しながら段階的に復職を支援する方法が複数あります。規模が小さく制度が整っていない会社でも取り組める手段を整理します。
試し出勤(慣らし勤務)の活用
厚生労働省の「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」では、試し出勤(リワーク・職場復帰支援プログラム)の活用が推奨されています。雇用関係を維持したまま、最初は週数時間・数日からスタートし、段階的に就労時間と業務量を増やしていくアプローチです。この間の処遇(賃金の扱いなど)は事前に本人と合意しておくことが必要ですが、制度がなくても個別の書面合意で対応することは可能です。
時短勤務・短時間正社員制度の個別設計
時短勤務は育児・介護のためだけの制度ではありません。就業規則または個別の労働条件変更合意により、傷病からの回復を理由とした時短勤務を認めることができます。20〜50名規模の会社では就業規則に時短復職の定めがないケースも多いですが、個別合意を書面で締結することで対応できます。重要なのは、合意内容(勤務時間・業務内容・賃金・見直し時期)を明確に文書化することです。
業務の切り出しと軽作業ポストの暫定設定
「配置転換先がない」「軽作業専門のポジションを設ける余裕がない」という声はよく聞かれますが、正式な部署やポジションの新設でなくても構いません。既存業務の中からデータ入力・ファイル整理・簡単な確認作業など、負荷の低い業務を一時的に切り出して担当してもらう形でも、雇用継続と段階的復職の両立は可能です。数か月単位の暫定対応として設計し、定期的に医師の意見を確認しながら見直すことがポイントです。
業務委託転換を検討する前に確認すべきチェックリスト
休職中の従業員への対応を判断する前に、以下の観点を確認することが会社として最低限必要なプロセスです。状況によって取るべき対応が変わります。
| 確認項目 | 内容・判断基準 |
|---|---|
| 就業規則の休職・復職規定 | 休職期間の上限・満了時の扱い・復職条件が明記されているか確認する |
| 主治医の意見書 | 復職可否・推奨される勤務形態について書面で取得する |
| 産業医の有無 | 50名未満は産業医選任義務なし。ただし産業医不在の場合は地域産業保健センター等の利用を検討する |
| 試し出勤・時短復職の実施可能性 | 雇用を維持したまま段階的復職が設計できるか検討する |
| 本人の意向確認の方法 | 精神疾患回復途中の場合、面談に第三者(社労士等)を同席させることを検討する |
| 専門家への相談 | 社会保険労務士・弁護士・産業保健専門家への確認を経てから書面を交わす |
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休職満了が近づいているときの対応の優先順位
就業規則上の休職期間満了が数か月後に迫っているケースでは、「退職・復職・業務委託」という三択に焦点が当たりがちですが、まず優先すべきは段階的復職の可能性を探ることと、専門家との早期連携です。
休職期間の延長または猶予の検討
就業規則に定めた休職期間の満了をもって自動退職とする規定があっても、実態として延長や猶予が認められるケースがあります。医師の意見や本人の状態によっては、一律に満了退職を適用することが解雇権濫用と類似の問題を招くことがあります。期間満了が近い場合は、対応を急ぐ前に社会保険労務士または弁護士に状況を確認することを強くお勧めします。
主治医・産業医との連携で判断の根拠を作る
タイムプレッシャーを感じると、会社側の都合で対応を進めがちですが、医師の意見書を取得せずに結論を出すことは後日のリスクを高めます。50名未満の会社には産業医の選任義務はありませんが、地域産業保健センター(都道府県ごとに設置)では無料で産業保健に関する相談ができます。産業医がいない場合の現実的な選択肢として活用してください。
記録と書面の整備を並行して進める
どのような対応を取る場合でも、面談の記録・医師の意見書・合意内容の書面化を並行して進めることが必要です。「言った・言わない」のトラブルを防ぐだけでなく、万一の労働紛争や行政調査のときに会社の対応の正当性を示す根拠となります。記録は日時・出席者・合意事項を明記した文書として保存してください。
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まとめ
フルタイム復職が難しい従業員への対応として業務委託転換を検討することは、善意から生まれた判断であっても、偽装請負・解雇権濫用・安全配慮義務違反といった深刻な法的リスクを招く可能性があります。本人の同意があっても免責にはならず、精神疾患回復途中の合意は後から争われるケースがあります。まず確認すべきは、試し出勤・時短勤務・業務の一時的な切り出しなど、雇用を維持しながら段階的に復職を支援できる方法です。就業規則や産業医の整備が不十分な中小企業でも、個別の書面合意と専門家の関与によって適切な対応は可能です。
休職満了が近い・本人から業務委託の申し出があった・どう対応すべきかわからないといった状況にある方は、一人で判断せず、早めに専門家への相談を検討してください。ウェルセンス株式会社では、20〜50名規模の企業が直面するメンタルヘルス対応・休職復職支援・人事労務の課題について、実務に即した形でご相談をお受けしています。「うちの会社の場合はどうすればいい?」という具体的なご質問もお気軽にどうぞ。
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