社長がハラスメント加害者のときの相談窓口の作り方

社長がハラスメント加害者のときの相談窓口の作り方 コンプライアンス
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「うちの社長がパワハラをしているんですが、誰に相談すればいいんでしょうか……」

こうした声を、人事担当を兼務している方から聞くことが少なくありません。社内の相談窓口に申し出ようにも、窓口担当者の上司は社長本人。相談した翌日から自分の立場が危うくなるかもしれない——そんな状況では、誰も動けないのが現実です。加害者が経営トップである場合、通常のハラスメント対応の常識がそのまま通用しません。この記事では、社長・役員が加害者になったときに機能する相談窓口の設計方法と、人事担当者として取れる具体的な対処法を整理します。

社内相談窓口が「社長ハラスメント」に機能しない理由

社長・役員が加害者の場合、社内相談窓口は構造的に機能しません。窓口担当者が加害者の指揮下にあるため、報告・是正のプロセスが根本から成り立たないからです。

窓口担当者が動けない構造的な問題

多くの中小企業では、ハラスメント相談窓口は総務担当者や人事兼務担当者が担っています。しかし加害者が社長であれば、その担当者にとって社長は最上位の権限者です。被害の報告を受けても「誰に上申するのか」「誰が調査・処分を決定するのか」という意思決定のルートが社内に存在しません。

担当者が被害者の訴えを真摯に受け止めるほど、「社長に報告すれば自分が不利益を受けるかもしれない」「見て見ぬふりへの罪悪感」という板挟み状態に陥ります。これは担当者個人の意志の問題ではなく、組織設計そのものの問題なのです。

「窓口を設置している」だけは法的に不十分

労働施策総合推進法(パワハラ防止法)第30条の2は、事業主にパワーハラスメント防止のための措置を講じる義務を課しています。しかし「社内に相談窓口を設置している」という事実だけでは、同法上の「適切な措置」を講じたことにはなりません。

加害者が経営トップの場合、窓口が機能しないことが構造的に明らかであれば、外部への相談ルートや第三者機関の関与を窓口設計に組み込まなければ、法的義務を果たしたとは言えないのです。会社(法人)としての義務は、社長個人が加害者であっても消えません。

被害者の二次被害リスクと法的保護の現実

社長が加害者の場合、相談・通報した従業員が直接または間接的に不利益な人事措置(異動・降格・雇用終了など)を受けるリスクが特に高くなります。公益通報者保護法は、社長・役員によるハラスメントが法令違反に該当する場合に従業員が外部機関へ通報する行為を保護しており、通報を理由とした不利益取り扱いは禁止されています。

しかし制度があっても、小規模組織では事実上の抑止力が働きにくいのが実情です。だからこそ、窓口設計の段階から外部機関を組み込み、被害者が匿名で相談でき、相談内容を社内で握りつぶされないような仕組みが必要なのです。

社長が加害者のときに機能する相談窓口の設計方法

社長・役員が加害者になり得る組織では、相談・調査・是正の各機能を外部に委ねる設計が不可欠です。社内で完結しようとすることが、最初の設計ミスになります。

相談窓口を外部機関に委託する

まず、相談を受け付ける窓口そのものを外部機関に委託します。具体的には、外部のEAP(従業員支援プログラム)提供会社、社会保険労務士事務所、または弁護士事務所が相談窓口を引き受けるサービスを提供しています。従業員はフリーダイヤルやWebフォームで直接外部機関に相談できるため、社内で情報が握りつぶされるリスクが大幅に低下します。

窓口を外部化する際は、以下の点を事前に確認し、従業員に明示することが重要です。

  • 匿名での相談が可能か
  • 相談内容がどの範囲まで会社に報告されるか
  • 相談者のプライバシーはどう保護されるか
  • 費用はどう設定されているか

事実調査と判断は外部の専門家に委ねる

相談が寄せられた後の事実調査は、必ず外部(弁護士事務所または専門の第三者調査機関)に委ねることが実務の原則です。加害者が経営トップの場合、社内で調査を行うと中立性・信頼性を担保できないだけでなく、調査担当者自身が圧力を受けるリスクがあります。

外部弁護士が調査主体となることで、調査結果に法的な重みが生まれ、その後の是正プロセスにも活用しやすくなります。調査に要する費用は、組織規模や事案の複雑さにより異なりますが、「問題が起きてから多額の訴訟費用がかかる」ことを考えると、事前の外部調査は経営判断として合理的です。

是正・処分の決定者を事前に設計する

株式会社であれば、是正・処分の決定者として取締役会・監査役・社外取締役・株主総会を活用できます。会社法上、取締役の職務執行を監督するのは取締役会であり、監査役はその適法性を監査する権限を持ちます。社長によるハラスメントは取締役の「任務懈怠」(会社法第423条)に該当し得るため、監査役や社外取締役への報告ルートを事前に設計しておくことが重要です。

合同会社や個人経営に近い組織形態の場合は、社外の顧問弁護士や顧問社労士が是正の勧告主体になることが現実的な選択肢です。

外部相談機関の選び方と使い分け

外部相談機関にはそれぞれ役割の違いがあります。「何をしてもらいたいか」によって適切な機関が異なるため、選び方の基準を事前に整理しておくことが大切です。

機関・窓口 できること 注意点
都道府県労働局(雇用環境・均等部) 相談・助言・調停・是正指導。被害者本人だけでなく第三者(人事担当者)からの相談も受付可 行政指導であり強制力はない。事案が複雑な場合は弁護士との併用を推奨
外部EAP(従業員支援プログラム) 従業員の相談窓口として機能。カウンセリング・法律相談の紹介まで対応するサービスも 調査・処分機能はない。窓口受付と初期支援が主な役割
弁護士(労働・企業法務専門) 事実調査・法的見解の提供・調査報告書作成・是正勧告・紛争対応 費用が発生する。事前に役割範囲を明確にした契約が必要
社会保険労務士 就業規則・相談窓口体制の整備支援・行政対応のサポート 法的代理権はない(紛争代理は特定社労士に限定)
個別労働紛争解決制度(あっせん) 労働局のあっせん委員が間に入り、当事者間の合意形成を支援 あくまで任意の手続きであり、拒否も可能。強制解決にはならない

「相談したら会社に知られるのか」という従業員の不安

従業員が労働局に相談した事実は、原則として会社に通知されません。ただし、あっせん申請や是正指導の段階になると会社側への連絡が発生します。EAPの場合は、匿名相談・個人情報保護の設計を事前に確認することで、「相談したことが特定される」リスクを最小化できます。

従業員に窓口を案内する際は、以下の情報を明示した文書を配布することが信頼性につながります。

  • どの段階で会社に情報が共有されるのか
  • 匿名利用が可能か
  • 個人情報はどう管理されるのか
  • 相談を理由とした不利益が生じない旨の会社の約束

人事担当者自身が相談する場合の選択肢

被害者から相談を受けた人事担当者が、自分の対処法について相談したい場合もあります。この場合は、会社名を明かさない形で社外の社労士や弁護士に「法律相談」として持ち込むことが現実的です。労働局の総合労働相談コーナーも、使用者側・担当者側からの相談に対応しています。

自分自身の法的リスク(対応しなかった場合の責任など)を整理するためにも、早めの外部相談が有効です。相談内容について会社に秘密裏に記録を取ることで、後々の責任追及から身を守ることにもつながります。

人事担当者として今すぐ取れる対処法

加害者が社長であっても、人事担当者が「何もできない」わけではありません。自分を守りながら、被害者を守るために動ける手順があります。

被害の記録保全を最優先にする

まず最初にすべきことは、被害の記録を保全することです。被害者から相談を受けた際に、以下の情報を記録します。

  • 相談を受けた日時
  • 被害者の氏名と職位(または匿名で番号管理)
  • ハラスメント行為の具体的状況(日時・場所・発言内容など)
  • 被害者の身体的・精神的状態
  • 被害者の希望する対応内容

この記録は、その後の調査・行政機関への相談・法的手続きにおいて重要な証拠になります。重要なポイントとして、記録は社内の共有フォルダではなく、外部の安全な場所(個人のクラウドストレージなど)に保存しておくことをお勧めします。

被害者に具体的な外部窓口を案内する

次に、被害者本人に対して外部の相談先を具体的に案内します。案内すべき相談先には、以下のようなものがあります。

  • 都道府県労働局の総合労働相談コーナー(無料)
  • 弁護士事務所の労働相談窓口
  • 外部EAPサービス(会社経由で利用できる場合)
  • 地域の労働委員会

担当者が「社内では動けない」と判断した場合でも、外部窓口の情報を提供することは被害者支援として有効であり、会社(担当者)としての安全配慮義務(労働安全衛生法)に基づく対応としても法的な意味を持ちます。

自社の状況に応じた窓口設計を今から整備する

組織の形態によって、取れる手段は異なります。以下を参考に、自社の現状を確認し、不足している仕組みを整備してください。

  • 株式会社で監査役・社外取締役が存在する場合:是正報告ルートとして活用できる体制を整える
  • 社外顧問弁護士・顧問社労士が存在する場合:ハラスメント調査・相談の外部委託先として機能できるか確認する
  • 外部窓口を何も持っていない場合:EAPサービスまたは外部弁護士との顧問契約を検討する
  • 就業規則にハラスメント対応の規定がない場合:社労士に依頼して早急に整備する

20〜50名規模の会社であっても、月数万円程度でEAPや外部相談窓口を導入できるサービスは存在します。「問題が起きてから考える」ではなく、窓口設計を先に整備しておくことが、組織全体のリスク管理につながります。

まとめ

社長・役員が加害者の場合、社内相談窓口は構造的に機能しません。法律(労働施策総合推進法・公益通報者保護法・会社法など)が課す義務は会社(法人)として存続するため、窓口の外部化・調査機能の外部委託・是正決定者の設計という三つの軸で相談体制を再設計することが必要です。

人事担当者自身も板挟みのリスクを抱えており、記録の保全と外部相談の活用が自分を守ることにもつながります。「いつか問題が起きたときに対応できるか不安」という段階で、ウェルセンス株式会社に相談いただくことで、御社に合った体制整備が可能です。

よくある質問

Q. 社長がハラスメントをしている場合、会社として法的義務はないのでしょうか?

A. 法的義務は消えません。労働施策総合推進法(パワハラ防止法)第30条の2は「事業主(法人)」に対してハラスメント防止措置を義務づけています。加害者が社長であっても、法人として適切な措置を講じる義務は存在します。対応しなかった場合、会社全体が行政指導の対象になるだけでなく、従業員からの損害賠償請求に発展する可能性もあります。

Q. 労働局に相談すると、会社や社長にすぐ知られてしまいますか?

A. 相談段階では原則として会社への通知はありません。ただし、あっせん申請や是正指導の手続きに進むと会社側への連絡が発生します。まずは「相談」として匿名または氏名を伏せた形で都道府県労働局の総合労働相談コーナーに問い合わせることができます。人事担当者が担当者の立場で相談することも可能です。

Q. 社員数20名ほどの会社でも外部EAPを導入できますか?コストはどれくらいですか?

A. 20名規模でも導入できるEAPサービスは存在します。費用はサービス内容によって異なりますが、従業員一人あたり月数百円〜数千円程度の料金体系が一般的です。相談窓口機能だけに絞った廉価なプランもあるため、まず複数サービスに見積もりを依頼して比較することをお勧めします。ウェルセンス株式会社でも、御社のニーズに応じたEAPの選定をサポートできます。

Q. 人事担当者が対応を後回しにした場合、担当者個人に法的責任は生じますか?

A. 担当者個人への直接の法的責任が生じるケースは限定的ですが、「知っていたのに対応しなかった」という事実は、その後の訴訟や行政対応において会社の責任を重くする要因になります。また、担当者が板挟み状態に置かれ精神的な健康被害を受けた場合は、会社に対する損害賠償請求が認められた事例もあります。自分自身を守るためにも、外部への相談記録を残しておくことが重要です。

Q. 社長ハラスメント問題が発覚した場合、社長の処分は可能ですか?

A. 株式会社であれば、株主総会の決議によって取締役(社長)を解任することができます(会社法第339条)。また、懲戒処分(減給・出勤停止など)を行うことも理論上可能です。ただし、正当な理由なく任期途中に解任した場合は損害賠償請求のリスクが生じることがあります。ハラスメント行為は「正当な理由」に該当し得ますが、事実調査の記録・外部弁護士による法的見解の確認が不可欠です。まずは弁護士に相談した上で手続きを進めることを強くお勧めします。

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【監修】ウェルセンス株式会社
ウェルセンスは、メンタル不調者対応・休職復職支援に強い職場メンタルケアサービスです。産業医・保健師・心理士・社労士などの専門家ネットワークが、人事・管理職だけでは判断しづらいケースの初動対応、専門家連携、再発防止まで支援します。

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