「午前中だけ休みたいんですが」——そう社員に言われ、「まあいいか」と口頭でOKを出してきた経営者の方は少なくないはずです。でも、就業規則にその根拠がなければ、有給日数の管理ミスや退職時のトラブルに発展するリスクがあります。時間単位・半日単位の有給休暇は、種類によって必要な手続きがまったく異なります。本記事では、時間単位取得と半日単位取得の違いを整理し、導入に何が必要か、どの順番で動けばいいかを、専任人事のいない中小企業の担当者向けにわかりやすく解説します。
時間単位と半日単位は「必要な手続き」が違う
時間単位取得と半日単位取得は、一見似ていますが、法令上の根拠と必要な手続きがまったく異なります。この違いを知らないまま運用すると、法的根拠のない有給取得を認めてしまうリスクがあります。
半日単位取得に必要なこと
半日単位の有給休暇取得は、就業規則に記載するだけで導入できます。労使協定の締結は法令上の必須要件ではありません。根拠は労働基準法第39条の解釈・運用に基づきます。ただし、「半日」の定義——たとえば「午前は始業から12時まで、午後は12時から終業まで」といった区切り時刻——を就業規則に明記しておかないと、運用時に曖昧さが生まれます。
時間単位取得に必要なこと
時間単位取得は、労働基準法第39条第4項に明確な根拠があります。この制度を導入するには、労使協定の締結と就業規則への記載の両方が必須です。どちらか一方だけでは不十分で、労使協定なしに時間単位での取得を認めていた場合は、法的根拠のない運用として問題になりえます。なお、時間単位有給の上限は年5日以内です。
二つの制度の比較
| 項目 | 半日単位取得 | 時間単位取得 |
|---|---|---|
| 法的根拠 | 労働基準法第39条(解釈・運用) | 労働基準法第39条第4項 |
| 就業規則への記載 | 必要 | 必要 |
| 労使協定の締結 | 不要(任意) | 必須 |
| 上限日数 | 制限なし | 年5日以内 |
| 労基署への協定届出 | ― | 不要 |
労使協定の締結——誰と、どうやって結ぶのか
時間単位取得を導入する場合、最初のハードルになるのが労使協定の締結相手の確認です。労働組合がある会社は組合と締結しますが、多くの中小企業では「労働者の過半数代表者」と締結します。
過半数代表者の選び方
過半数代表者は、管理監督者でない労働者の中から、民主的な方法(挙手・投票など)で選出する必要があります。使用者が一方的に指名する方法はNGです。そのような選出では、労使協定自体が無効とみなされるリスクがあります。20〜50名規模の会社では「声をかけやすいベテラン社員に頼む」という形になりがちですが、選出プロセスを文書化しておくことが後のトラブル防止につながります。
労使協定に盛り込む内容
時間単位有給の労使協定には、以下の事項を定める必要があります。
- 対象となる労働者の範囲(全員か、特定の職種・雇用形態かなど)
- 時間単位で取得できる日数(年5日以内)
- 1時間以外の単位を設定する場合はその時間数
- 時間数の端数処理の方法
なお、この労使協定は労働基準監督署への届出は不要です。ただし、就業規則の変更届とは別物ですので混同しないようにしてください。
協定の有効期間と更新
労使協定の有効期間は法令上の定めはありませんが、1年単位で更新する形にしている会社が多いです。有効期間が切れたまま時間単位取得を続けることのないよう、更新時期を社内カレンダーに記録しておくと安心です。
就業規則への記載——何をどう書けばいいか
制度の導入に際して就業規則への記載は必須です。どちらの制度も、根拠規定がなければ会社が「認める」と口頭で約束していても、法的に安定した制度とはいえません。
半日単位取得の記載例
就業規則には「半日単位での有給休暇取得を認める」という旨に加え、半日の区切り時刻を明確に定めます。たとえば「午前は始業時刻から12時00分まで、午後は12時00分から終業時刻まで」のように書きます。フレックスタイム制など変形労働時間制を採用している会社は、「半日」の定義がより複雑になるため、労務専門家に確認することをお勧めします。
時間単位取得の記載例
就業規則には「労使協定に基づき、時間単位での年次有給休暇取得を認める。時間単位で取得できる日数は年5日を上限とする」といった内容を盛り込みます。あわせて、1時間単位が基本であることや端数処理の方法も記載しておくと管理がしやすくなります。
従業員数による届出義務の違い
就業規則を変更したあとの対応は、従業員数によって異なります。常時10人以上の労働者を使用する事業場は、所轄の労働基準監督署への届出が義務(労働基準法第89条)です。このとき、労働者代表の意見書を添付する必要があります(意見の内容は賛否を問いません)。一方、常時9人以下の事業場は届出義務はありませんが、就業規則を整備・周知しておくことは同様に重要です。
周知の方法——「メールで送った」だけでは不十分
就業規則を変更しても、適切に周知しなければ法的に有効な規則とはみなされないことがあります。労働基準法第106条は、周知方法を具体的に定めています。
法令上有効な周知方法
労働基準法第106条が認める周知方法は次のとおりです。
- 常時、見やすい場所への掲示または備え付け
- 労働者への書面の交付
- 社内イントラネット等への掲載(労働者がいつでも確認できる状態であること)
単に全員にメールを送っただけ、あるいはクラウドストレージに保存しただけでは「いつでも確認できる状態」とは言い切れない場合があります。従業員が就業規則を確認したいと思ったときに確実にアクセスできる形にしておくことが重要です。
周知のタイミングと記録
変更後の就業規則は、施行日より前に周知を完了しておくのが原則です。「変更したこと」「いつ周知したか」を記録に残しておくと、後日「知らなかった」というトラブルが起きた際の根拠になります。特に、変更内容が労働者に不利にならない範囲であっても、周知の事実は書面で残しておく習慣をつけましょう。
年5日取得義務との関係——管理ミスに注意
2019年4月施行の労働基準法改正により、年10日以上の有給を付与された労働者には年5日の時季指定義務が課されています。時間単位・半日単位の取得がこの5日カウントにどう影響するかを把握しておかないと、義務違反になるリスクがあります。
時間単位・半日単位は5日にカウントされるか
厚生労働省の解釈では、時間単位・半日単位で取得した有給は、合算して1日分になった場合のみ、年5日取得義務の履行にカウントできます。たとえば、時間単位で5時間(所定労働時間が8時間の場合)取得しても、1日分にならなければカウントされません。この点を見落として「時間単位で何度か取ったから5日達成した」と誤認するケースがあるため、注意が必要です。
管理台帳の整備が必須
時間単位・半日単位の取得を認める場合、従来の「日数管理」だけでは不十分です。時間単位での残数、半日単位での取得履歴、年5日義務の充足状況を別途管理する台帳が必要になります。労働基準監督署の調査(いわゆる臨検)が入った際には、管理台帳の提示を求められます。不整備の状態だと指摘を受けやすいため、制度導入と同時に管理体制も整えることをお勧めします。
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導入の手順——どこから動けばいいか
「なにから手をつけていいかわからない」という担当者のために、半日単位・時間単位それぞれの導入手順を整理します。まず自社が導入したい制度を明確にしてから、対応する手順を踏みましょう。
半日単位取得を導入する場合
まず就業規則の現行内容を確認し、半日取得に関する規定がなければ追記します。「半日」の区切り時刻を就業規則に明記したあと、常時10人以上の事業場であれば所轄の労働基準監督署に変更届を提出します(労働者代表の意見書を添付)。次に、変更後の就業規則を法定の方法で全従業員に周知します。すでに口頭で半日取得を認めてきた会社は、この機会に管理台帳も整備しましょう。
時間単位取得を導入する場合
時間単位取得は手順が一段階多くなります。まず過半数代表者の選出から始めます(労働組合がある場合は組合と交渉)。選出は民主的な方法で行い、選出プロセスを文書化しておきます。次に代表者との間で労使協定を締結します。協定の内容(対象者範囲・上限日数・端数処理等)を確認したうえで署名・押印します。そのあと就業規則に時間単位取得の根拠規定を追記し、常時10人以上の事業場は変更届を労働基準監督署へ提出します。最後に周知・管理台帳の整備を行います。
すでに根拠なく運用してきた会社の対応
就業規則や労使協定がないまま時間単位・半日単位取得を認めてきた会社は、まず現状の運用実態を棚卸しすることから始めてください。取得させてきた有給日数の計算が正しいか、年5日義務の充足に問題がないかを確認したうえで、不備があれば速やかに制度を正式化する手続きに入ることをお勧めします。放置するほど、退職時の精算トラブルや労基署調査での指摘リスクが高まります。
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まとめ
時間単位有給には労使協定と就業規則の記載が両方必要、半日単位有給は就業規則への記載のみで導入できる——この違いを押さえることが出発点です。どちらの制度も、根拠なく運用してきた場合は早急に正式化が必要です。手続きの流れは、過半数代表者の選出→労使協定の締結(時間単位のみ)→就業規則の変更→届出→周知→管理台帳整備という順番になります。
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