休職中の有期社員、更新か雇い止めか判断する4つの基準

メンタルヘルス対応

「契約期間が終わるから、そのまま更新しなければいい」——休職中の有期社員への対応を、そう割り切ろうとしたことはありませんか。気持ちはわかります。でも、その判断が後から「違法な雇い止め」と指摘されるケースが実際に起きています。有期雇用だからといって、休職中の契約満了を自動終了として扱えるわけではありません。この記事では、休職中の有期社員について「更新するのか、雇い止めにするのか」を適切に判断するための4つの基準を、法的な根拠と実務の手順とともに解説します。

「有期だから満了で終わり」は通用しない場合がある

有期雇用社員の契約が満了しても、状況によっては雇い止めが違法と判断されます。まず、この前提を押さえておくことが重要です。

雇い止め法理とは何か

労働契約法第19条は、一定の条件を満たす有期契約の雇い止めについて、正社員の解雇と同等の厳格な基準を課しています。この「雇い止め法理」が適用される場面は、大きく2つに分かれます。

ひとつは、契約が反復更新されており「実質的に無期労働契約と同視できる状態」にある場合(労働契約法19条1号)。もうひとつは、これまでの更新状況や会社側の言動・慣行から、労働者が「また更新される」と合理的に期待できる状態にある場合(同条2号)です。どちらかに当てはまると、「客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当と認められる」場合でなければ雇い止めはできません。

休職中であること自体は雇い止めの理由にならない

よくある誤解に「休職に入ったから、契約を切れる」というものがあります。しかし、契約期間中に休職に入っても、契約は自動消滅しません。契約満了日はそのまま到来し、「更新するかどうか」の判断が必要になるだけです。休職中であること自体は、直ちに雇い止めの正当な理由にはなりません。「復職の見込みが立たない」「休職期間が契約期間を大幅に超えている」といった事実は判断材料になり得ますが、それだけで自動的に雇い止めが適法になるわけではないのです。

業務上の疾病が疑われる場合はさらに慎重に

メンタル不調の背景にハラスメントや長時間労働が関係している場合、「業務上疾病」と判断されるリスクがあります。業務上の疾病や負傷による休業中とその後30日間は、雇用形態を問わず解雇が禁止されています(労働基準法第19条)。有期雇用の雇い止めが解雇と同等に扱われる状況で、業務起因性まで重なると、対応の難易度は一気に上がります。不調の原因に心当たりがある場合は、特に慎重な対応が必要です。

更新か雇い止めかを判断する4つの基準

休職中の有期社員について、更新か雇い止めかを判断するには、以下の4つの観点を順番に確認することが実務上の出発点になります。

確認項目 確認内容 判断に影響するポイント
更新回数・通算期間 これまで何回更新しているか、通算何年か 3回以上または1年超で雇い止め法理が適用される可能性が高まる
更新への期待形成 「また更新します」などの発言・慣行があるか 合理的期待があると雇い止めに正当な理由が必要になる
不調の業務起因性 長時間労働・ハラスメントなど業務との関連があるか 業務上疾病と認定されると解雇制限が適用される
復職の見込み・時期 主治医・産業医の見解、復職見込み時期 「見込みがない」だけでは不十分。配慮の余地を検討したか否かも問われる

更新回数・通算期間の確認

まず確認したいのは「何回更新しているか」「通算の在籍期間は何年か」という事実です。3回以上更新している、あるいは雇用期間が通算1年を超えている場合、労働基準法施行規則に基づく雇い止め予告義務の対象になります。さらに、更新回数が多いほど「実質的に無期雇用と同視できる」と判断されやすくなります。また、通算5年を超えている場合は無期転換申し込みの権利(労働契約法第18条)が発生するため、雇い止めと無期転換の問題が同時に絡んでくる点にも注意が必要です。

「また更新される」という期待を会社が作っていないか

更新回数だけでなく、「会社側の言動や慣行」も判断に影響します。たとえば、過去に口頭で「ずっとお願いしたい」「来年もよろしく」などと伝えていた場合、労働者側に「更新される」という合理的な期待が形成されていると判断されることがあります。採用時の面接での発言、更新時の書類の書き方なども確認対象になります。思い当たる言動がある場合は、雇い止めに十分な理由があるかどうかを弁護士や社労士に相談することを強くお勧めします。

不調の背景と復職見込みを整理する

不調の原因が業務に関係している可能性がある場合は、その事実を曖昧にしたまま雇い止めを進めることは避けてください。また、復職見込みについては、主治医の診断書だけでなく、産業医がいる会社であれば産業医の意見も加えた判断が望ましいです。産業医がいない20〜50名規模の企業では、産業医との連携がないまま経営者の判断だけで進めてしまいがちですが、この判断を誤ると後から深刻なトラブルになります。

就業規則の休職規程が有期社員に適用されるか確認する

多くの中小企業では、就業規則の休職規程が「正社員向け」として作られており、有期雇用社員への適用が明確になっていません。まず自社の就業規則を確認することが、対応の第一歩です。

休職制度は法律上の義務ではない

休職制度は、会社が就業規則で任意に設ける制度であり、法律上の義務ではありません。そのため、「有期雇用社員に休職を認めるかどうか」は、就業規則の記載内容によって決まります。就業規則に「正社員に適用する」と明記されている場合、有期雇用社員には適用されないのが原則です。

適用が不明確なままでいることのリスク

問題は、「明確に除外されてもいないし、明確に含まれてもいない」という曖昧な状態で運用しているケースです。適用が不明確なまま休職を認めると、後から「休職期間中の給与はどうなるのか」「社会保険はどうするのか」「復職の手続きは何が必要か」といった問題が次々と生じます。今回のケースを機に、就業規則に有期雇用社員への適用可否を明記することを検討してください。

適用しない場合の対応方針を決めておく

有期雇用社員に休職規程を適用しない場合でも、「何も対応しない」は通用しません。契約期間中の欠勤扱い・無給の取り扱い・契約満了時の通知方法など、個別の対応方針を書面で合意しておくことが、後のトラブルを防ぐうえで重要です。特に、メンタル不調の場合は状況が長引くことも多く、最初の取り決めが曖昧だと、契約満了時に「話が違う」となりがちです。

雇い止め通知のタイミングと手順

雇い止めを決断した場合、通知のタイミングを誤ると「自動更新」とみなされるリスクがあります。少なくとも契約満了の30日前までに、書面で明確に伝えることが必要です。

30日前予告が必要なケースを確認する

「有期労働契約の締結、更新及び雇い止めに関する基準」(厚生労働省告示)に基づき、以下のいずれかに当てはまる場合は、契約満了の30日前までに雇い止めの予告が必要です。

  • 契約期間が1年を超える有期労働契約を更新しない場合
  • 契約期間が1年以下でも、3回以上更新した後に更新しない場合

この予告を失念すると、「通知が来なかったから更新されたと思った」という主張を労働者側がしやすくなります。特に休職中は本人との連絡が取りにくいため、早めに動くことが重要です。

通知の方法と内容

雇い止めの通知は、口頭だけでなく書面で行うことが原則です。通知書には「契約満了日」「更新しない旨」「その理由」を明記します。理由については「業務量の減少」「回復・復職の見込みが立たないこと」など、客観的な事実に基づいた記載が必要です。曖昧な理由や感情的な表現は避け、事実を淡々と書くことがトラブル防止につながります。

本人・家族への伝え方

休職中の社員やその家族に「更新しない可能性がある」と伝える場面は、心理的な難易度が高いです。ポイントは「契約満了という事実の確認」と「更新判断の時期・手続き」を、できるだけ早い段階で丁寧に説明することです。突然の通知は不信感を生みます。「現時点では判断中であり、〇月末までに結論をお伝えする」と見通しを示すだけでも、受け取る側の不安は大きく変わります。伝える内容を事前に文書化しておくことも、後から「そんなことは聞いていない」と言われることを防ぐ手段として有効です。

雇い止めトラブルを防ぐための事前整備

個別ケースの対応と同時に、制度・書類の整備を進めることが、中長期的なトラブル防止につながります。今すぐできる確認事項を押さえておきましょう。

労働契約書に「更新上限」を明記する

有期労働契約を締結する際、更新回数の上限や更新しない場合の条件を契約書に記載しておくことで、「更新への合理的期待」が形成されにくくなります。たとえば「本契約は最大3回を上限として更新する場合がある」「更新は業務の状況・本人の勤務状況を勘案して判断する」といった記載が有効です。ただし、記載内容が実態と乖離していると逆効果になるため、実際の運用と合わせた設計が必要です。

更新判断のプロセスを記録に残す

更新か雇い止めかを決めるプロセスを、社内で記録として残しておくことが重要です。「いつ、誰が、何を判断材料にして決定したか」が後から追えるようにしておくと、万が一訴訟になった際に会社の正当性を示す証拠になります。記録のない「口頭だけの判断」は、「恣意的な雇い止め」と受け取られるリスクがあります。

就業規則・労働契約の定期的な見直し

有期雇用社員の比率が高い会社や、パートタイム・アルバイトを含む多様な雇用形態がある会社は、就業規則が実態に追いついていないケースが多くあります。休職規程の適用範囲、更新上限の明記、雇い止め手続きの整備——これらを一度専門家と確認する機会を設けることが、リスクの根本的な対策になります。

まとめ

休職中の有期社員に対して「契約満了だから自動終了」という対応は、状況によって違法な雇い止めと判断されるリスクがあります。更新か雇い止めかを適切に判断するには、更新回数・通算期間、更新への期待形成、不調の業務起因性、復職見込みという4つの観点を順番に確認することが出発点です。加えて、就業規則の休職規程が有期社員に適用されるかどうかの確認、30日前予告の履行、書面による通知と記録の保存が、実務上の最低限の対応として求められます。

「自社のケースがどちらに当てはまるかわからない」「就業規則の整備まで手が回っていない」というご担当者の方は、ウェルセンス株式会社にご相談ください。休職・復職支援から人事労務の整備まで、専任人事がいない中小企業の実情に合わせた支援を行っています。個別の事情をお聞きしたうえで、具体的な対応方針をご提案します。

よくある質問

Q. 有期雇用社員が休職に入ったまま契約満了を迎えました。自動的に契約終了になりますか?

A. 自動終了にはなりません。契約満了日は変わらず到来しますが、「更新するかどうか」の判断が必要です。休職中であること自体は雇い止めの理由になりません。これまでの更新回数や業務起因性の有無などを確認したうえで、適切な手順で対応する必要があります。

Q. 2回しか更新していない有期社員でも、雇い止めに正当な理由が必要ですか?

A. 更新回数だけで判断するのは危険です。更新回数が少なくても、採用時や更新時に「長期的に働いてもらいたい」といった発言があった場合や、同様の立場の社員が継続更新されてきた慣行がある場合は、「合理的な更新への期待」が認められることがあります。雇い止めに正当な理由が必要になるかどうかは、個別の状況を総合的に判断する必要があります。

Q. 有期雇用社員には就業規則の休職規程を適用しなくてもよいですか?

A. 就業規則に「正社員に適用する」と明記されていれば、原則として有期社員には適用されません。ただし、適用しない場合でも欠勤中の給与・社会保険・復職手続きについて個別に取り決めが必要です。曖昧なまま放置すると後からトラブルになりやすいため、今回のケースを機に就業規則の適用範囲を明確にすることをお勧めします。

Q. 雇い止めの30日前予告をうっかり忘れた場合、どうなりますか?

A. 予告を怠った場合、労働者から「自動更新されたと認識していた」と主張される可能性があります。雇い止めが有効か無効かの判断は個別の事情によりますが、予告の遅れは会社側に不利に働くことが多いです。気づいた時点で速やかに書面で通知し、必要であれば社労士や弁護士に相談して対応を検討してください。

Q. 休職中の有期社員本人に「更新しないかもしれない」と伝えるタイミングはいつがよいですか?

A. 契約満了の30日前よりも前に、見通しを伝えることが望ましいです。「現在検討中であり、〇月末までに結論をお知らせする」と早めに伝えることで、本人・家族の不安を軽減できます。突然の通知はトラブルの原因になるため、状況の進捗を定期的に共有する姿勢が大切です。伝える内容は口頭だけでなく書面でも残しておくと、後から「聞いていない」というトラブルを防げます。

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【監修】ウェルセンス株式会社
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