繁忙期の休職申請、会社が断れない理由と対処法

繁忙期の休職申請、会社が断れない理由と対処法 メンタルヘルス対応
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「来月から繁忙期なのに、今日いきなり休職の診断書を持ってきた——」。そんな状況に直面した経営者・人事担当者から、私たちのもとには毎年この時期に相談が増えます。「正直、少し待ってほしいと言いたい」「断れるなら断りたい」という本音を持っている方も少なくないはずです。この記事では、その本音に正直に向き合いながら、会社として取れる対応・取れない対応を法的根拠とともに整理し、実務で今すぐ使える手順をお伝えします。

休職申請を会社は断れるのか

結論から言えば、医師の診断書が出ている状態でメンタル不調による休職申請を会社が断ることは、原則としてできません。「繁忙期だから」「代わりがいないから」という事情は、法的な断り理由にはなりません。

そもそも「休職拒否権」は存在しない

労働基準法・労働契約法には「休職制度」そのものの規定はなく、休職は各社の就業規則で定められた制度です。しかし、医師が「就労不能」と判断した社員を会社が就労させ続けた場合、安全配慮義務違反(労働契約法第5条)に問われるリスクがあります。電通事件最高裁判決(平成12年)では、使用者が労働者の健康状態を認知していた場合の予見可能性と損害賠償責任が問われており、中小企業も例外ではありません。

診断書が届いた瞬間に会社の責任は変わる

「〇月〇日から休養を要する」と記載された診断書が会社に届いた時点で、会社は正式に「不調を認知している状態」になります。この状態で就労を継続させ、症状が悪化した場合は損害賠償責任が生じ得ます。診断書を受け取ったあとで「繁忙期だから待ってほしい」と伝えることは、リスクが一気に高まる行為です。

「断れない」と「何も調整できない」は別の話

断れないことと、一切交渉・調整できないことは異なります。重要なのは「会社の都合で強要しない」という一点です。本人の意思と医師の判断を前提にした上であれば、限定的な調整の余地はあります。次の章でその範囲を詳しく解説します。

会社側が調整できる範囲・できない範囲

休職の開始日や引き継ぎ期間について、会社が調整できる余地は「本人の意思と医師の許可がある場合のみ」という条件付きで存在します。会社が一方的に開始日を遅らせることは認められません。

調整が可能なケース

診断書に記載された休職開始日が数日〜1週間先であり、かつ本人が「できる範囲で引き継ぎをしたい」と自ら意思表示している場合、その期間内で業務の申し送りを行うことは可能です。ただし、あくまで本人の体調が許す範囲での対応であり、会社側から「○○だけはやってから休んでほしい」と求めることは避けなければなりません。

絶対にやってはいけない調整

以下の対応は、後日「休職妨害」「精神的圧力」として問題になるリスクがあります。

  • 「繁忙期が終わるまで待ってほしい」と伝える
  • 「あなたがいないと業務が回らない」と告げる
  • 書面・メール・口頭を問わず、休職開始を遅らせるよう依頼・要求する
  • 診断書の内容を疑い、再診断を求める(正当な理由がない場合)

特に口頭でのやりとりは後から証拠として残りにくく、「言った・言わない」の水掛け論になります。発言内容は即日メモとして記録に残す習慣が必要です。

就業規則に「休職命令」条項があれば活用できる

社員の申請を待つだけでなく、会社側から能動的に「休職を命じる」規定(休職命令条項)が就業規則に盛り込まれている場合、会社が先手を打って休職を発令することができます。これは繁忙期対策というよりも、症状悪化の予防と会社リスクの低減を目的とした手段です。自社の就業規則にこの条項があるかどうかを今一度確認してください。

診断書を受け取ったあとに会社がすべき実務対応

診断書を受け取ったら、まず記録を残し、次に本人との面談、そして業務引き継ぎの段取りという流れで対応します。「とりあえず保留」は最もリスクの高い選択です。

受領当日に必ずやること

診断書を受け取ったその日のうちに、以下を記録してください。

記録項目 内容
受領日時 診断書を受け取った日付と時間
診断書の内容 診断名・休養期間の記載内容
本人の状態 受け取り時の様子(出社しているか、声のトーン等)
会社の対応内容 誰が、何を、どのように伝えたか

この記録は、後日トラブルが発生した際の対応根拠になります。Excelや紙の日報でも構いませんが、必ず日時入りで保管してください。

本人との面談で伝えていいこと・いけないこと

診断書受領後の本人面談では、「会社としてしっかり対応する」という姿勢を伝えることが最優先です。「ゆっくり休んでください」「復帰を焦らなくていいです」という言葉は、本人の安心感につながります。一方で「いつ頃戻れそうか」「あのプロジェクトはどうするか」といった業務プレッシャーを与える発言は控えてください。体調が落ち着いてからでも確認できる内容は、後回しにする判断が重要です。

業務引き継ぎは「お願いベース」で、記録に強制の痕跡を残さない

引き継ぎが必要な場合は、「もしできる範囲があれば」という言い方に留め、本人の体調が許す範囲でのみ対応してもらいます。メールで引き継ぎを依頼する場合も「〜をお願いしたい」ではなく「体調が許す範囲で〜を共有いただけると助かります」という表現にしてください。強制した事実が文書に残ると、後日の問題になり得ます。

企業規模別に異なる対応の分岐点

常時50名以上と50名未満では、法的に求められる体制が異なります。自社の規模に応じた対応の限界を把握した上で、外部リソースを活用することが現実的な選択です。

従業員50名以上の場合

常時50名以上の事業場では、産業医の選任(労働安全衛生法第13条)とストレスチェックの実施(同法第66条の10)が義務付けられています。休職の判断や復職の判断に産業医の意見を取り入れることができるため、会社単独で判断を迫られる場面は減ります。産業医との連携ルートが整備されているかを確認してください。

従業員50名未満の場合

産業医の選任もストレスチェックの実施も努力義務にとどまるため、多くの中小企業では「不調のサインを早期にキャッチする仕組み」が整っていません。この場合、外部の産業保健サービスや、メンタルヘルス支援を専門とする会社への相談が現実的な選択肢になります。「医師の診断書を見ても重症度がわからない」という状態は、専門家のサポートなしには解消しにくい課題です。

就業規則が整備されていない場合のリスク

休職制度の規定がない、あるいは古い就業規則をそのまま使っている企業では、そもそも「何日から休職になるか」「休職中の給与はどうなるか」「復職の条件は何か」が不明確なまま対応を迫られるケースがあります。今回のような事案をきっかけに、就業規則の休職・復職条項を整備しておくことを強く推奨します。

「すでに待ってほしいと言ってしまった」場合の対処法

もし本人に対して「もう少し待ってほしい」と口頭で伝えてしまっていた場合でも、すぐに正しい対応に切り替えることが重要です。放置するほどリスクは高まります。

まず状況を整理し、発言の記録を残す

いつ、どのような文脈で、どの言葉を使ったかを記録してください。本人がその発言を問題視しているかどうかに関わらず、会社側の記録を先に作っておくことが後日の対応を楽にします。「休職を拒否した」という認識が本人に生まれていないかを、穏やかに確認することも一つの手です。

速やかに正しいスタンスに立ち戻る

発言後であっても、「改めて確認しましたが、診断書の内容を踏まえてしっかり休んでいただく方向で対応します」と伝え直すことができます。このタイミングで謝罪の必要はありませんが、明確に「休職を認める」意思を伝え直すことで、リスクを大幅に下げることができます。

専門家への相談を早めに動く

すでに「待ってほしい」と伝えてしまっている状況は、社労士や産業保健の専門家への早期相談が有効です。放置して症状が悪化した場合、会社への損害賠償請求の可能性が出てきます。事後的な対応でも、専門家のサポートがあれば正しい対応に立て直せます。

まとめ

繁忙期の休職申請であっても、医師の診断書が出ている以上、会社が一方的に断ることはできません。「断れない」という前提を受け入れた上で、診断書の受領記録を即日残し、本人への伝え方に配慮し、引き継ぎは強制の痕跡を残さない形で進める——この実務の流れが、後日のトラブル予防につながります。特に従業員50名未満の企業では、産業医や専門家の意見を得る仕組みが整っていないことが多く、一人の担当者が判断を抱え込むことがリスクを高めます。

ウェルセンス株式会社では、専任人事がいない中小企業を対象に、メンタル不調社員への初動対応・休職復職のサポートを提供しています。「診断書が出た、どう動けばいいか」という段階からご相談いただけます。対応に迷っている方は、まずお気軽にご連絡ください。

よくある質問

Q. 診断書がなく口頭で「休みたい」と言われた場合も、会社は対応しなければなりませんか?

A. 診断書がなくても、会社がメンタル不調を認知した時点で安全配慮義務は発生します。「診断書が出るまで様子見」という対応は法的に危険です。まず本人に受診を促し、状態の把握に努めてください。

Q. 休職中の給与は支払う義務がありますか?

A. 法律上、休職中の給与支払い義務は原則ありません。ただし、就業規則の規定によります。無給の場合でも、要件を満たせば健康保険の傷病手当金(最大1年6か月)が受給できるため、本人への情報提供が重要です。

Q. 繁忙期前に「少し引き継ぎをしてから休んでほしい」と伝えることは問題ですか?

A. 本人が体調的に可能であり、自ら引き継ぎを希望している場合に限り、限定的な対応は可能です。ただし、会社側から「○○が終わるまで待ってほしい」と要求することは避けてください。強制の痕跡が残ると、後日問題になる可能性があります。

Q. 産業医がいない会社では、診断書の内容をどう判断すればよいですか?

A. 従業員50名未満の企業には産業医の選任義務はなく、内部で医療的判断をする専門家がいないことがほとんどです。外部の産業保健サービスや、メンタルヘルス支援の専門会社に相談することで、診断書の内容を踏まえた適切な対応方針を得ることができます。

Q. 休職した社員が戻ってくる際、受け入れ態勢はどう整えればよいですか?

A. 復職は「職場に出てきた日」ではなく、「安定して業務を継続できる状態」を目標に段階的に進めることが重要です。主治医による復職可能の診断を確認した上で、業務量・勤務時間の段階的な引き上げ(試し出勤・リハビリ出勤など)を就業規則に定めておくことが、再休職の予防につながります。

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【監修】ウェルセンス株式会社
ウェルセンスは、メンタル不調者対応・休職復職支援に強い職場メンタルケアサービスです。産業医・保健師・心理士・社労士などの専門家ネットワークが、人事・管理職だけでは判断しづらいケースの初動対応、専門家連携、再発防止まで支援します。

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