傷病手当金が切れても動かない社員に困ったら

傷病手当金が切れても動かない社員に困ったら メンタルヘルス対応
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傷病手当金が終わったのに、社員から何の連絡もない。復職するとも辞めるとも言ってこない。このまま給与だけ止まった状態で置いておくしかないのか……」

こうした状況に直面している経営者・人事担当者の方は少なくありません。傷病手当金の受給終了は、社員にとっても会社にとっても一つの節目。しかし「手当が切れた=会社が動けるタイミング」とは限らず、焦って対応すると法的リスクを招くこともあります。この記事では、傷病手当金受給終了後に社員が復職も退職もしない場合の対応方法を、実務レベルでお伝えします。

押さえたい「傷病手当金」と「休職期間」は別の制度

傷病手当金が切れても、会社の休職期間が残っている限り、雇用関係はそのまま継続します。この前提を誤解したまま動くと、対応全体が崩れてしまいます。

2つの制度の違いを整理する

傷病手当金は、健康保険法に基づいて協会けんぽや健康保険組合が支給する「お金の給付制度」です。支給開始日から通算1年6ヶ月で終了します。一方、会社の休職制度は就業規則に基づく「雇用上の取り扱い」であり、期間や条件は会社が独自に設定できます。

この2つはまったく別の仕組みです。傷病手当金が終わったとしても、就業規則で定めた休職期間がまだ残っていれば、社員は依然として休職中であり、会社はその期間中の雇用を維持する義務があります。

項目 傷病手当金 会社の休職期間
定める主体 健康保険法(協会けんぽ・健保組合) 会社の就業規則
上限期間 支給開始から通算1年6ヶ月 会社が独自に設定
終了したらどうなるか 給付がなくなるだけ 就業規則の定めによる(自然退職・解雇・延長など)

「傷病手当金が切れたから解雇できる」は誤り

「手当が切れたから、もう会社は何かできる」という認識は法的に正確ではありません。傷病手当金の終了は、あくまで健康保険上の出来事であり、雇用契約の終了理由にはなりません。会社として動けるタイミングは「就業規則に定めた休職期間の満了」です。まずここを明確にしておくことが、適切な対応の出発点になります。

就業規則に休職規定がない場合は要注意

中小企業では「傷病による休職は最長〇ヶ月」という条項が存在しない、あるいはあっても実態に合っていないケースがあります。規定がなければ「休職期間満了」という概念自体が成立せず、会社が雇用終了に向けて動こうとする行為は「解雇」と評価されます。解雇は労働契約法第16条の解雇権濫用法理の適用を受け、「客観的に合理的な理由」と「社会通念上の相当性」の両方が求められます。まず自社の就業規則を確認することが先決です。

休職期間満了による雇用終了の法的な位置づけ

就業規則に「休職期間満了時点で復職できない場合は自然退職とする」旨の条項があれば、雇用終了は解雇ではなく自然退職として整理されます。ただし、条項があるだけで安心はできません。

「自然退職」と「解雇」の違い

自然退職とは、一定の事由が発生したことによって当然に雇用関係が終了する扱いです。解雇と異なり解雇予告(労働基準法第20条)が不要とされるケースが多く、また解雇権濫用法理の直接適用を受けないとされています。しかし裁判例の中には、自然退職の条項があっても会社側の手続きが不十分だった場合に、解雇権濫用法理を類推適用して雇用終了を無効と判断したものがあります。形式上「自然退職」であっても、手続きの合理性は常に問われます。

条項がない場合・曖昧な場合の対応

就業規則に休職満了の定めがない場合や、条項の文言が曖昧な場合は、社員との丁寧な交渉(退職勧奨)か、就業規則の整備を先に行うことを検討してください。整備なしに強引に雇用終了を進めると、不当解雇として争われるリスクが高まります。社会保険労務士や弁護士への相談を早めに行うことをお勧めします。

傷病手当金終了後も動かない社員への具体的な対応の流れ

現時点で社員と連絡が取れておらず、復職も退職も決まっていない場合、会社がまず取るべき行動は「書面による状況確認」です。感情的にならず、記録を残しながら段階的に進めることが重要です。

連絡を再開する方法と記録の残し方

まず書面(郵送)と電子メールを併用して、社員に現状確認の連絡を取ります。電話だけで済ませると記録が残らず、後のトラブルになりかねません。書面には「休職期間の残り期間」「今後の流れ」「主治医の診断書の提出依頼」を明記します。送付した書類は控えを保存し、郵便は簡易書留か配達証明を使うと安心です。

社員が連絡に応じない場合でも、「連絡を試みた記録」が会社側の誠実な対応の証拠になります。一方的に放置せず、書面での連絡を継続することが大切です。

休職期間満了に向けたスケジュールの目安

休職期間満了に向けて、会社は以下の流れで動くことが望ましいです。

  • 満了の2~3ヶ月前:現状確認の書面送付・面談設定。復職意向と回復状況の確認を行う
  • 満了の1ヶ月前:主治医の診断書提出を正式に要請。復職可否の判断期限を明示する
  • 満了の2~3週間前:復職不可の場合、雇用終了の見通しを書面で通知(予告の趣旨で行う)
  • 満了日:就業規則の定めに沿って雇用終了または延長の判断を実施

産業医・主治医との連携が判断の根拠になる

「復職できる状態かどうか」の判断は、主治医の診断書だけでは不十分なことがあります。主治医は患者の回復を支援する立場から書くため、診断書の内容が抽象的だったり、会社の業務内容を踏まえた判断ではなかったりするケースがあるためです。50名以上の企業では産業医の選任が義務づけられており(労働安全衛生法第13条)、産業医に「就業上の意見書」を作成してもらうことが実務的に有効です。50名未満の企業でも、産業医や外部の専門家に個別相談できる仕組みを活用することをお勧めします。

会社が取れる選択肢と、それぞれのリスク

傷病手当金終了後、会社には複数の選択肢があります。どれを選ぶかは、就業規則の内容・社員の状態・会社の方針によって異なります。

休職期間の延長

就業規則に延長規定がある場合、または社員との合意がある場合は、休職期間を延長することができます。社員の回復が見込まれる場合や、復職準備中(リワークプログラムへの参加中など)の場合に有効な選択肢です。ただし、延長期間の上限・条件・その後の取り扱いを書面で明確にしておかないと、いつまでも終わりが見えない状態になりかねません。

退職勧奨

会社から社員に対して自発的な退職を促す交渉が退職勧奨です。強制することはできず、社員の自由意思による合意が必要です。「退職しなければ解雇する」という言い方や、繰り返し・しつこい勧奨は違法行為になりえます。社員が同意した場合は退職合意書を取り交わし、合意の経緯を書面で残してください。

休職期間満了による雇用終了(自然退職処理)

就業規則に「休職期間満了時に復職できない場合は自然退職とする」旨の条項がある場合に取れる方法です。前述のとおり、事前の連絡・通知・書面でのやりとりという手続きの合理性が問われます。手続きを丁寧に踏んだうえで進めることで、後から「突然解雇された」と争われるリスクを下げることができます。

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「動かない社員」を生まないために——今から整えておきたい仕組み

休職中の社員が「連絡もなく、復職も退職もしない」状態になる背景には、多くの場合、休職開始時点からのコミュニケーション不足があります。この問題は事後の対処だけでなく、事前の仕組みづくりで大きく改善できます。

休職開始時に取り決めを明確にする

休職を認める際に「休職期間・定期連絡のルール・復職に必要な書類・期間満了時の取り扱い」を書面で社員に渡しておくことが重要です。口頭だけでは認識のズレが生じやすく、後になって「そんな話は聞いていない」となるケースが少なくありません。休職通知書や確認書のフォーマットを用意しておくだけでも、その後の対応が大きく変わります。

定期的な状況確認の仕組みを持つ

月1回程度のメール連絡や、3ヶ月ごとの診断書提出ルールを就業規則または運用ルールとして定めておくと、「連絡が途絶えた」という事態を防ぎやすくなります。定期連絡は社員の孤立感を防ぐ意味でも有効で、復職への橋渡し役にもなります。

就業規則の定期的な見直し

「休職規定が古い」「実態と合っていない」という会社では、まず就業規則の整備が優先課題です。休職期間の上限・延長の条件・満了時の取り扱い・復職判断の手続きが明文化されていることが、すべての対応の土台になります。常時10名以上の従業員がいる場合は就業規則の届出が義務(労働基準法第89条)ですが、それ以下の規模でも内部ルールとして整備しておくことが会社を守ることにつながります。

まとめ

傷病手当金の終了と休職期間の満了は別の出来事であり、「手当が切れた=会社が動けるタイミング」ではありません。会社として雇用終了に向けて動けるのは、就業規則に定めた休職期間の満了が近づいたときです。その際も、書面による事前通知・医師との連携・記録の保持という手続きの合理性が問われます。

「今の状態がどの段階なのかわからない」「就業規則に休職の規定がなくて不安」「社員と連絡が取れていない」——こうした課題を一つずつ整理するところから始める必要があります。ウェルセンス株式会社では、メンタルヘルスや休職・復職に関する人事労務の相談を、専任人事のいない中小企業の経営者・担当者向けにご支援しています。「何から手をつければよいかわからない」という段階からでも、ぜひお気軽にご相談ください。

よくある質問

Q. 傷病手当金が切れた後も社員が無断で出勤しない場合、そのまま解雇できますか?

A. 傷病手当金の終了は解雇の理由にはなりません。就業規則に休職規定がある場合は、まず休職期間の満了まで待つことが原則です。規定がない場合に雇用終了を行えば解雇と評価され、解雇権濫用法理の適用を受けます。まず就業規則を確認し、社員への書面連絡から始めてください。

Q. 社員が電話にも出ず、郵便も受け取らない場合はどうすればいいですか?

A. 「連絡を試みた記録」を残すことが重要です。簡易書留や配達証明付き郵便で書面を送付し、その記録を保管してください。それでも応答がない場合は、社員の緊急連絡先(家族など)への連絡も検討します。ただし個人情報の扱いには注意が必要です。一定期間応答がなく休職期間満了が迫っている場合は、社会保険労務士や弁護士に相談することをお勧めします。

Q. 就業規則に休職規定がない場合、今から追加することはできますか?

A. 追加は可能ですが、変更した就業規則をすでに休職中の社員に遡って適用することには慎重を要します。就業規則の不利益変更(労働契約法第10条)の問題が生じる可能性があるためです。整備はできる限り早期に行い、休職中の社員への適用については専門家に相談してから判断することをお勧めします。

Q. 主治医が「復職可能」と言っているのに、会社側が復職させなくてもよいですか?

A. 主治医の診断書は参考資料の一つですが、会社はその内容に無条件で従う必要はありません。主治医は業務内容を詳しく把握していないことも多く、「復職可能」の意味が「日常生活は送れる」レベルに留まることもあります。産業医や外部専門家による就業上の意見を踏まえたうえで、会社として復職可否を判断することが適切です。ただし、合理的な理由なく復職を拒否し続けることは問題になりえるため、判断の根拠を記録しておくことが重要です。

Q. 退職勧奨を行う場合、どんな言い方・進め方であれば問題になりませんか?

A. 退職勧奨は「会社として退職を希望している旨を伝え、社員が自由意思で判断できる状況をつくること」が基本です。「退職しないと解雇する」「今すぐ決めろ」など、脅迫・強要と受け取られる言動は避けてください。面談は原則1回で済ませるか、複数回行う場合は社員の同意を得たうえで行います。面談の日時・内容・社員の反応はすべて記録に残しておくことが重要です。

【監修】ウェルセンス株式会社
ウェルセンスは、メンタル不調者対応・休職復職支援に強い職場メンタルケアサービスです。産業医・保健師・心理士・社労士などの専門家ネットワークが、人事・管理職だけでは判断しづらいケースの初動対応、専門家連携、再発防止まで支援します。

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