育休の早期復職を申し出られて困ったら読む対応ガイド

育休の早期復職を申し出られて困ったら読む対応ガイド コンプライアンス
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「来月から戻れそうなので、予定より早く復職したいのですが」——育休中の社員からこんな連絡が入ったとき、あなたはどう対応しますか。「受け入れなければならないのか」「元のポジションがもう空いていないけれどどうするのか」「業務を変えたら問題になるのか」。専任人事がいない職場では、こうした問いに即座に答えを出すことが難しく、対応を誤ると法的なトラブルに発展するリスクもあります。この記事では、育休の早期復職申し出が来たときに会社がとるべき対応を、法的根拠と実務の両面から整理します。

会社は育休の早期復職申し出を断れるのか

育休の早期復職申し出に対して「受け入れるかどうか」という判断は、実は法律で大部分が決まっています。結論から言えば、一定の要件を満たした申し出を会社は原則として拒否できません。ただし「急すぎる申し出」については、就業規則の定め方次第で調整の余地があります。

法律が定める「繰り上げ申し出」のルール

育児・介護休業法(以下、育介法)第7条は、育児休業の終了予定日を繰り上げる(早める)申し出について定めています。原則として、育休開始日から起算して1か月前までに申し出れば、会社は変更を受け入れなければなりません。また、この繰り上げ変更は原則1回に限られています。

つまり、「来月15日から戻りたい」という申し出が今日届いた場合、それが1か月以上前のタイミングであれば、会社として断る法的根拠はありません。一方、「来週から戻りたい」といった急な申し出については、就業規則や労使協定で申し出期間を定めている場合、その規定に基づいて「準備のための調整期間をください」と会社側が応じることが現実的に可能です。

「断れない」と「受け入れ準備が整わない」は別の問題

法的に断れないとしても、受け入れ体制が整っていないことは現実問題としてあります。代替で入っている派遣スタッフや業務委託との契約、引き継ぎのスケジュール、部署内の人員配置など、整理しなければならないことは山積みです。この場合、「できる限り希望に沿いたいが、会社側の準備として最低でも○週間いただきたい」と誠実に交渉することが、トラブルを防ぐうえで有効です。本人の申し出を「なかったこと」にするのではなく、復職時期について双方が合意できる落としどころを探る姿勢が重要です。

育休中に席がなくなった場合の「原職復帰」の考え方

育休後の復職では「原職または原職相当職への復帰」が原則です。元のポジションがなくなっていても、実質的に同等の待遇を保障できる配置であれば、違法にはなりません。この点を理解することが、育休復職トラブルの予防につながります。

「原職相当職」とは何を指すのか

厚生労働省の解釈によると、原職相当職とは職務内容・責任・賃金・勤務場所等において原職と実質的に同等とみなせるポジションを指します。たとえば、部署名が変わっていても、担当する仕事の内容・難易度・責任の範囲・賃金が変わらなければ「原職相当職」とみなされます。逆に、部署は同じでも担当業務が大幅に縮小され、賃金も下がっていれば「原職相当ではない」と判断される可能性があります。

合理的な理由のある配置転換は認められる

育休中に組織再編があり、元の部署や役割がなくなってしまった場合でも、業務上の合理的な理由がある配置転換は違法ではありません。ポイントは「育休を取ったことが理由ではないこと」を説明できるかどうかです。たとえば「育休取得の有無にかかわらず、部署全体の業務が縮小した結果として配置転換が必要になった」という経緯であれば、合理性を主張できます。一方、「育休を取る前から見込んでいたが、本人が戻るタイミングで不利なポジションに動かした」という実態があると、育介法第10条が定める不利益取扱いと判断されるリスクが高まります。

代替人材を本採用している場合の処理

育休中に採用した代替スタッフが現場に不可欠な戦力になっているケースは珍しくありません。この場合、元の社員が戻ることで人員が過剰になるように見えても、それは会社側の採用判断によるものです。「席を埋めてしまったから戻れない」を理由に復職を阻むことは認められません。業務を分担できる形を探ることが会社の責任であり、それが難しい場合でも賃金・役職を変えずに異動先を検討するのが基本姿勢となります。

業務変更・役職変更・給与変更をするときの判断基準

復職にあたって業務内容や給与を変更する場合、「本人の希望や体調への配慮が目的であること」と「本人の自由な意思による真の同意があること」の両方を確認・記録することが不可欠です。ここで判断を誤ると、育介法違反のリスクが生まれます。

不利益取扱いになる変更・ならない変更の線引き

変更の種類 不利益取扱いになる可能性が高いケース 違法性が低いケース
業務変更 育休取得を理由に、明らかに格下げと見なせる業務に異動させる 組織再編により原職そのものが消滅し、同等職への異動がやむを得ない
役職・降格 「育休中に実績がないから」という理由で降格させる 本人が育児との両立のために役職を外してほしいと真に希望し、書面で同意している
給与変更 育休分を「休んでいた期間」として評価を下げ、賃金を引き下げる 所定労働時間の短縮(時短勤務)に伴う実労働時間分の調整

「本人が同意した」だけでは不十分な理由

広島中央保健生活協同組合事件(最高裁平成26年10月23日判決)では、育休取得後の降格が不利益取扱いにあたるかどうかについて、最高裁が重要な判断枠組みを示しました。その核心は「本人の自由な意思に基づく真の同意があったか」という点です。会社から提示された選択肢に事実上の強制があったり、断ることで不利益が生じると示唆されていたりした場合、たとえ書類上の同意があっても「自由な意思による同意」とは認められません。「本人が了承したから大丈夫」という認識は非常に危険で、同意の経緯と背景まで記録しておく必要があります。

体調配慮を名目にした業務軽減も要注意

育休明けの社員に対して「無理をさせないよう」との配慮から業務量を減らしたり、責任の軽いポジションに異動させたりするケースもあります。配慮の気持ち自体は問題ありませんが、本人の意向確認なしに会社側が一方的に業務を変更すると、それが不利益取扱いと捉えられる余地があります。まず本人と面談を行い、「どのような働き方を希望するか」を確認したうえで、変更する場合は書面で合意内容を残しておきましょう。

早期復職を受け入れるときの実務手順

早期復職が決まったら、社会保険・雇用保険の手続きと社内調整を同時並行で進める必要があります。手続き漏れは後から発覚しやすく、本人への給付に影響が出るケースもあるため、確実に対応しましょう。

社会保険・雇用保険の手続き

育休期間が変更になると、以下の手続きが必要になります。

  • 育児休業給付金の終了手続き:ハローワークへの給付金支給申請の修正・終了手続きが必要です。復職日が確定したら速やかに手続きしましょう。
  • 社会保険料免除の終了届:育休中は社会保険料が免除されますが、復職した月の翌月から徴収が再開されます。年金事務所または健康保険組合への育休終了届の提出が必要です。
  • 育児休業等終了時報酬月額変更届:時短勤務などで復職後の賃金が育休前より下がった場合、標準報酬月額を低い実態に合わせて改定できる特例があります。この手続きによって社会保険料の負担を軽減できる場合があります。

社内調整と記録の残し方

復職にあたって会社が行うべき社内調整は、大きく3つあります。まず最初に、本人との面談を設定し、復職後の業務内容・勤務時間・処遇について双方の認識を一致させます。次に、その内容を「復職確認書」や「業務変更合意書」などの書面に落とし込み、双方が署名します。最後に、代替スタッフ(派遣・業務委託)への対応を復職日に合わせてスケジュールします。「言った言わない」トラブルを防ぐために、面談はできる限りメールや書面でのやり取りを残しておくことが鉄則です。口頭のみのやりとりで済ませると、後日トラブルになったときに会社側の立証が難しくなります。

就業規則・育児休業規程の確認を忘れずに

就業規則や育児休業規程に「復職前の申し出期限」「復職時の手続き」「業務変更に関する定め」が記載されているかを確認してください。規程がない、または古い場合、育介法の改正内容(2022年以降の段階的改正)に対応できていない可能性があります。特に従業員数が増えてきた段階や、育休取得者が複数出始めたタイミングで規程を見直すことをお勧めします。

まとめ

育休の早期復職申し出への対応は、「受け入れるかどうか」の判断だけでなく、「どのような条件で受け入れるか」の設計が非常に重要です。法的には一定要件を満たした申し出を会社は断れませんが、業務配置・処遇変更・手続き対応は誤ると育介法違反や労使トラブルに直結します。元のポジションがない場合でも、育休取得を理由にした不利益変更は厳禁。変更が必要な場合は、本人の真の意思確認と書面による合意が前提です。社会保険・雇用保険の手続きも忘れずに進めましょう。

よくある質問

Q. 育休中の社員から「来週から復職したい」と急に連絡がありました。すぐに受け入れなければなりませんか?

A. 育介法上、繰り上げ申し出は原則として育休開始から1か月前までに行うことが定められています。就業規則に申し出期間の定めがある場合、それを根拠に「準備のため○週間いただきたい」と交渉することが可能です。ただし、申し出を完全に拒否する法的根拠はないため、できる限り本人の希望に沿う形で調整する姿勢が重要です。

Q. 育休中に部署を再編したため、元のポジションがありません。別のポジションに配置することは違法ですか?

A. 業務上の合理的な理由による配置転換は、違法にはなりません。ただし、原職または原職相当職(職務内容・責任・賃金等が同等)への復帰が原則です。育休取得を理由とした不利益な配置は育介法第10条の不利益取扱い禁止に抵触するため、「なぜその配置になったか」の経緯と理由を明確にしておくことが重要です。

Q. 本人が「役職を外してほしい」と自ら希望しています。降格させても問題ありませんか?

A. 本人の自由な意思による真の同意がある場合、一概に違法とはなりません。しかし、広島中央保健生活協同組合事件の最高裁判決が示すように、「自由な意思」かどうかは厳しく判断されます。会社から事実上強制された状況での同意は無効とみなされる可能性があります。面談の経緯と本人の希望を書面で記録し、署名を取ることを強くお勧めします。

Q. 早期復職が決まった場合、社会保険や雇用保険の手続きはどうすればよいですか?

A. 主に3つの手続きが必要です。ハローワークへの育児休業給付金の終了手続き、年金事務所または健康保険組合への育休終了届(社会保険料免除終了)、そして時短勤務など復職後の賃金が下がる場合は「育児休業等終了時報酬月額変更届」の提出です。手続き漏れは本人への給付に影響するため、復職日が確定したら速やかに着手してください。

Q. 育休復職のトラブルを防ぐために、事前に何を準備しておくべきですか?

A. 育休取得前の段階で、復職時の業務・処遇の見通しについて本人と話し合い、メールや書面で記録を残しておくことが有効です。また、就業規則・育児休業規程に申し出期限や復職手続きが明記されているか確認し、育介法の最新改正に対応した内容になっているかも見直しておきましょう。復職直前にも面談を設定し、業務内容・勤務時間・処遇を書面で合意することで「言った言わない」のトラブルを大幅に減らせます。

育休復職の対応は、会社と従業員の双方にとって重要な局面です。「本当にこの対応で大丈夫か」と不安になったときや、自社のケースでは何が正しい判断なのかわからないという場合は、ウェルセンス株式会社にお気軽にご相談ください。専任人事がいない成長企業の経営者・兼務担当者が直面する育休復職対応・人事労務の課題について、実務に即した形でサポートさせていただきます。

【監修】ウェルセンス株式会社
ウェルセンスは、メンタル不調者対応・休職復職支援に強い職場メンタルケアサービスです。産業医・保健師・心理士・社労士などの専門家ネットワークが、人事・管理職だけでは判断しづらいケースの初動対応、専門家連携、再発防止まで支援します。

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