定年再雇用の給与、法的に下げていい3つの基準とは

定年再雇用の給与、法的に下げていい3つの基準とは 採用・定着
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「定年になったら給与を下げようと思っているが、どこまで下げていいのか正直わからない」——再雇用の時期が近づいた社員を前に、そう頭を抱える経営者・人事担当者は少なくありません。「下げすぎると違法になるのでは」「本人が納得しなければ訴えられる?」という不安がある一方、業績や人件費の都合上、定年前と同じ給与を払い続けるのも現実的でないケースも多いはずです。この記事では、定年後再雇用の給与を法的に引き下げるための3つの判断基準を整理し、実務でトラブルが起きないよう具体的な設計の考え方まで解説します。

「何割まで下げてよいか」という一律の数字は法律に存在しない

結論からいうと、再雇用後の給与を「定年前の何割まで下げてよいか」を定めた法律上の数字は存在しません。重要なのは下げ幅の大きさではなく、「その差に合理的な理由があるかどうか」です。定年再雇用の給与設定にあたっては、法的な根拠に基づく判断が欠かせません。

再雇用後の雇用形態と適用される法律

定年後に再雇用された社員は、多くの場合「有期雇用労働者」として新たに雇用契約を結びます。有期雇用労働者にはパートタイム・有期雇用労働法(以下「パート有期法」)が適用されます。同法の第8条は「不合理な待遇差の禁止」、第9条は「同一の仕事・責任がある場合の差別的取り扱い禁止」を定めています。つまり、「再雇用だから給与を下げる」という理由だけでは法的に通用しません。

「不合理な待遇差」とは何か

待遇差の合理性は、次の3つの要素を総合的に比較して判断されます。まず「職務内容(業務の内容と責任の程度)」、次に「職務内容・配置の変更範囲」、そして「その他の事情」です。この3要素を踏まえた判断を求めているのがパート有期法第8条であり、一つの数字で線引きできる性質のものではありません。「気持ちとして大幅に下げたい」という経営判断は理解できますが、それだけでは法的根拠になりません。

定年再雇用の給与が法的に下げられる3つの判断基準

再雇用後の給与引き下げが法的に認められるためには、大きく3つの基準を満たす必要があります。これらは最高裁判例や厚生労働省の指針をもとに整理したものです。定年再雇用の給与設定では、これらの基準を個別に検討することが重要です。

職務内容・責任の範囲が実質的に変わっているか

最も重要な基準が、定年前と再雇用後で「仕事の内容」と「責任の重さ」が変化しているかどうかです。たとえば、定年前は部門マネージャーとして部下を持ち、予算管理や採用面接にも関与していたが、再雇用後は特定業務のみを担当するプレイヤーになった——こうしたケースでは、責任範囲の縮小に応じた給与引き下げに合理性が認められやすくなります。逆に、業務内容も指揮命令系統も変わらないまま形式的に再雇用しただけで大幅に減給すると、不合理な待遇差として訴訟リスクが高まります

配置転換・人事異動の範囲が変わっているか

正社員時代は全国転勤・部署異動の対象だったが、再雇用後は特定の事業所・職種に限定される——こうした「配置変更の範囲の縮小」も、待遇差の合理的理由として考慮されます。長澤運輸事件(最高裁・2018年)でも、「定年後再雇用者が正社員と同じ業務に就いていても、配置転換の可能性がないことなどを総合的に考慮すれば、一定の賃金差は不合理でない」と判断されています。ただし、これはあくまで考慮要素の一つであり、賃金差が大きすぎる場合は否定される可能性があります。

在職老齢年金・高年齢雇用継続給付との関係

「その他の事情」として、再雇用者が在職老齢年金や高年齢雇用継続給付を受給している事実も考慮されます。長澤運輸事件では、年金受給が見込まれることを理由の一つとして、賃金引き下げの不合理性が否定されました。ただしこれは「年金があるから何割下げても構わない」という意味ではありません。あくまで合理性判断の補助的な材料であることに注意が必要です。また、高年齢雇用継続給付は段階的な縮小が予定されているため、制度内容は最新の法令動向を随時確認してください。

手当ごとの個別検討が必須——日本郵便事件から学ぶ

給与の「総額」だけを比較するのではなく、各手当の性質・目的ごとに合理性を検討しなければなりません。この点を明確にしたのが、最高裁・2020年の日本郵便事件です。定年再雇用の給与設定では、手当ごとの検討が法的リスク軽減の鍵になります。

手当ごとに判断が異なる理由

日本郵便事件では、同じ会社の有期雇用労働者に対する複数の手当について、それぞれ支給の合理性が個別に判断されました。扶養手当・年末年始勤務手当・病気休暇等については有期雇用者への不支給が不合理と判断された一方、住居手当については合理的と判断されるなど、手当の性格によって結論が分かれています。

再雇用設計で注意が必要な手当の例

実務上、再雇用者の待遇設計で特に注意が必要な手当を整理すると以下のとおりです。

手当の種類 主な性格・目的 再雇用者への不支給リスク
扶養手当・家族手当 家族の生計を支えるための補助 高い(生活費補助の性格が強く、雇用形態で区別しにくい)
賞与(業績連動型) 業績貢献への報酬・将来への動機付け 中程度(支給しない合理的理由の説明が必要)
住居手当 転勤・異動に伴う住居費補助 低い(転勤がなければ支給しない合理性がある)
皆勤手当・通勤手当 出勤確保・実費補填 通勤手当は高い(実費性が強く差別しにくい)

「総額で合理的ならOK」ではない

「基本給を下げた分、別手当でカバーしているから問題ない」という考え方は通用しません。裁判所は総額ではなく、各手当の趣旨・目的に照らして個別に判断します。制度を整備する際は、手当ごとに「なぜ正社員に支給し、再雇用者には支給しないのか」を論理的に説明できるかどうかを確認してください。

高年齢者雇用安定法の義務と「断れる条件」

給与設計の前提として、そもそも企業はどのような義務を負っているのかを正確に押さえておく必要があります。高年齢者雇用安定法(高年法)は、定年後の継続雇用について具体的な義務を課しています。定年再雇用の給与条件を決める前に、法的義務の範囲を理解することが重要です。

65歳までの雇用確保は「義務」

定年を65歳未満(多くは60歳)に設定している企業は、次のいずれかの措置を取ることが法律上の義務です。「定年年齢の65歳以上への引き上げ」「継続雇用制度(再雇用・勤務延長)の導入」「定年制の廃止」の3つです。これを「高年齢者雇用確保措置」といいます。なお、2021年4月からは70歳までの就業機会確保が努力義務として追加されましたが、こちらは義務ではありません。

「希望者全員」が原則——例外はあるか

継続雇用制度を導入する場合、原則として希望する社員全員を対象とする必要があります。かつては労使協定で対象者を限定できましたが、この仕組みは廃止されています。ただし、就業規則や再雇用規程に定めた「解雇・退職事由に相当する事由」がある場合は、継続雇用を拒否できると厚生労働省の指針は示しています。問題行動や重大な就業規則違反がある社員については、その根拠を就業規則に明記し、書面で記録を残しておくことが重要です。

就業規則・再雇用規程が整備されていない場合のリスク

再雇用に関する規定が就業規則に存在しない場合、退職時期が近づくたびにその場しのぎの対応になりがちです。規定がないこと自体が「合理的な制度がない」と判断されるリスクになり、紛争時に企業側が不利になります。従業員数にかかわらず、再雇用規程と雇用契約書の整備は早期に進めることをお勧めします。

実務で使える再雇用条件の設計フロー

法的リスクを抑えながら再雇用条件を設計するには、職務の変化の明確化から契約書の整備まで、順を追って進めることが重要です。定年再雇用の給与設定では、以下のステップに沿った検討が不可欠です。

職務内容の変化を書面で記録する

まず最初に行うべきは、定年前と再雇用後の職務内容・責任・配置転換の範囲の違いを明文化することです。「なんとなく業務が変わる」では法的根拠になりません。具体的には「定年前:営業部長として部下8名を管理、全社プロジェクトの意思決定に参加」「再雇用後:特定顧客の担当営業として個人業務のみ、管理職対象外」のように差異を書き出し、労使双方が確認できる形で残してください。

各手当の支給根拠を整理し、再雇用者への適用ルールを決める

次に、現在支給している手当を一覧化し、各手当の趣旨・目的を確認します。「なぜこの手当を支給しているのか」が明確でない手当は、この機会に整理しておきましょう。再雇用者に対して支給しない手当については、「支給しない合理的理由」を就業規則または再雇用規程に記載しておくことが、将来の紛争予防につながります。

在職老齢年金を含めた「実収入」ベースで本人に説明する

再雇用後の給与を提示する際は、給与単体ではなく「給与+在職老齢年金(見込み額)」の合計として説明することで、本人の納得感が高まるケースがあります。給与が定年前の60〜70%に下がっても、年金を含めた総収入では大きく変わらないと感じてもらえる場合もあります。ただし年金額は個人差があるため、あくまで参考情報として提示し、断定的な説明は避けてください。また、契約更新上限や勤務時間・日数・試用期間の有無なども雇用契約書に明記し、口頭合意のみの運用は避けましょう。

まとめ

定年後再雇用の給与引き下げは、「何割まで下げてよいか」という一律の基準は法律上存在しません。法的に認められるためには、「職務内容・責任の変化」「配置転換範囲の縮小」「その他の事情(年金受給等)」という3つの基準を満たし、さらに手当ごとに個別の合理性を説明できることが必要です。パート有期法・高年齢者雇用安定法・最高裁判例(長澤運輸事件・日本郵便事件)を踏まえた制度設計が求められます。就業規則・再雇用規程・雇用契約書が整備されていない企業は、退職が近づく前に整備しておくことがトラブル防止の基本です。

「うちの会社の再雇用条件、これで大丈夫?」と感じたら、ウェルセンス株式会社にご相談ください。人事の専門担当者がいない中小企業の経営者・兼務担当者の方からのご相談を多くお受けしており、就業規則の整備から再雇用条件の設計まで、実務に即したサポートをご提供しています。まずはお気軽にお問い合わせください。

よくある質問

Q. 再雇用後の給与を定年前の50%に設定しても問題ありませんか?

A. 一律に「50%はOK・NGどちら」とは言えません。重要なのは下げ幅の大きさではなく、その差に合理的な根拠があるかどうかです。職務内容・責任・配置転換範囲が大幅に縮小されている場合は認められやすいですが、業務がほぼ変わらないまま半減させると不合理な待遇差として問題になるリスクがあります。

Q. 問題のある社員を再雇用しないことは法的に可能ですか?

A. 就業規則等に定めた「解雇・退職事由に相当する事由」がある場合には、再雇用を拒否できると厚生労働省の指針は示しています。ただし、その事由が就業規則に明文化されていること、かつその事実が書面で記録されていることが前提です。口頭での判断や感情的な理由では拒否できません。

Q. 賞与(ボーナス)を再雇用者に支給しないことは問題ありませんか?

A. 賞与を支給しないこと自体が直ちに違法ではありませんが、支給しない合理的な理由を説明できる必要があります。業績連動型賞与であれば「再雇用者は業績責任を負わない職務設計である」などの根拠が必要です。単に「有期雇用だから不支給」という理由は認められない可能性があります。

Q. 再雇用規程がない場合、まず何から手をつければよいですか?

A. まず現在の就業規則に「再雇用の対象者・条件・賃金の考え方」が明記されているか確認してください。記載がない場合は、再雇用規程の新設または就業規則への追記が必要です。再雇用が発生する前に整備しておくことが重要で、退職が近づいてから急いで作成すると、内容が不十分になりがちです。ウェルセンス株式会社を含む専門家への相談を早めに行うことをお勧めします。

Q. 70歳までの雇用も義務になっていますか?

A. 70歳までの就業機会確保は、2021年4月施行の改正高年齢者雇用安定法により「努力義務」とされています。現時点では法的な義務ではありませんが、今後義務化される可能性もあるため、早めに対応を検討しておくことが望ましいでしょう。65歳までの雇用確保は現在も義務であることと混同しないよう注意してください。

【監修】ウェルセンス株式会社
ウェルセンスは、メンタル不調者対応・休職復職支援に強い職場メンタルケアサービスです。産業医・保健師・心理士・社労士などの専門家ネットワークが、人事・管理職だけでは判断しづらいケースの初動対応、専門家連携、再発防止まで支援します。

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