メンタル不調で復職した社員がリモートを希望したら

メンタル不調で復職した社員がリモートを希望したら メンタルヘルス対応
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「復職したいが、しばらくリモートで働かせてほしい」——復職面談でそう告げられた経営者や人事担当者から、こんな声を聞くことがあります。「断ったら違法になるのか」「認めたらずっとリモートになるのか」「他の社員への説明はどうすればいいのか」。答えを誰にも聞けないまま、曖昧な対応を続けてしまっているケースは少なくありません。

この記事では、メンタル不調からの復職後にリモートワークを希望された場合の会社の判断基準と、実務上の対応手順を整理します。法的義務の正確な理解と、トラブルを防ぐための手続きを身につけることで、会社と社員双方にとって最適な復職支援が実現できます。

「合理的配慮」として、リモートワークを必ず認めなければならないのか

結論から言えば、リモートワークを合理的配慮として検討する義務はあるが、必ず認めなければならない絶対的な義務ではありません。会社の規模・業務内容・受け入れ体制を踏まえたうえで、過重な負担にならない範囲で対応を検討することが求められます。

合理的配慮とは何か

合理的配慮とは、障害者雇用促進法(第36条の3)に基づく概念で、障害のある労働者が職場で働き続けるために、会社が「過重な負担にならない範囲で」行う調整・変更のことです。2016年の法改正により、民間企業にも義務として適用されています。

うつ病・適応障害などの精神疾患は、障害者手帳の有無にかかわらず、症状が継続し就労に影響している場合、この配慮の対象となり得ます。メンタル不調で休職した社員が復職する際、リモートワークの要望も、この「合理的配慮」の枠組みの中で検討されることになります。

「検討する義務」と「認める義務」は違う

重要なのは、合理的配慮は「申し出を無視してはいけない」という義務であって、「すべての希望を叶える義務」ではないという点です。厚生労働省の指針でも、リモートワークが合理的配慮の具体例として挙げられていますが、同時に「事業主に過重な負担を及ぼすこととなる場合はこの限りでない」とも示されています。

つまり、以下のような合理的な理由があれば、リモートワークを断ること自体は許容されます:

  • テレワーク規程がない、または整備が十分でない
  • 情報セキュリティが担保できない
  • 業務の性質上リモートが困難(対面顧客対応が中心、機密書類の取り扱いなど)
  • 必要なIT環境やシステムが整備されていない

安全配慮義務との関係

もう一つ重要な法的根拠が、労働契約法第5条に定める安全配慮義務です。会社は、労働者の生命・身体・精神の安全に配慮する義務を負っており、回復途上の社員に無理な就労環境を強いることはこの義務違反になり得ます。

ただしこれも「安全に配慮する義務」であり、「すべての要望に応じる義務」とは異なります。安全配慮義務と合理的配慮義務は、どちらも「過重でない範囲で」という限定のもとで課される義務なのです。

主治医の意見書が曖昧なとき、会社はどう判断すればよいか

「通勤困難」「対人ストレス回避が望ましい」といった記載だけでは、会社として具体的な対応を決めにくいのが実情です。主治医の意見書は参考情報であり、会社の就労可否・就労条件の判断を拘束するものではありません

主治医と産業医の役割の違いを理解する

主治医は患者(社員)の回復・治療を最優先する立場から意見を書きます。一方、産業医は「その職場でその業務を行えるか」という就労適性を評価する立場にあります。

主治医が「リモートが望ましい」と書いていても、産業医が「段階的な出社訓練が回復に有効」と判断した場合、会社は産業医の意見を踏まえて独自に就労条件を決定することができます。会社は両者の意見を総合的に判断し、最終的な就労条件を決める権限と責任を有しています。

産業医がいない場合の対応

従業員50名未満の会社には産業医の選任義務がありませんが、以下の方法で専門家の意見を得ることができます:

  • 地域産業保健センター:各都道府県の産業保健総合支援センターが運営する窓口で、嘱託産業医への相談が無料で利用できます
  • 外部の産業保健サービス:民間企業による産業保健コンサルティングで、費用は比較的低額です
  • 専門支援機関:メンタルヘルス対応や人事労務支援を専門とする機関への相談

小規模企業だからこそ、こうした外部リソースを活用することが重要です。産業医の意見なしに会社単独で判断を下すことは、事後的なトラブル時に「会社が恣意的に判断した」と見なされるリスクがあります。

意見書の追記・確認依頼という選択肢

主治医の意見書の記載が曖昧な場合、社員本人の同意を得たうえで、主治医に追加の確認事項を送付することも可能です。以下のような具体的な問いを添えることで、より実務に使える情報を得られます:

  • リモートワークが必要な期間の見通しはどのくらいか
  • 週何日程度の出社なら医学的に問題ないか
  • どのような状態になれば通常勤務に戻れるか
  • 段階的な出社増加は医学的に可能か

出社を求めるとき、会社はどのような手順を踏むべきか

出社指示は、合理的な理由と段階的なプロセスを踏めば、正当な業務上の指示として成立します。「みんな出社しているから」ではなく、業務上の必要性を具体的に示すことが重要です

復職支援プランを文書化する

リモートワークを認める場合でも認めない場合でも、復職時に「就労条件・評価基準・移行スケジュール」を文書化して双方で確認することが不可欠です。口頭だけの運用は、後に「そんな約束はしていない」「ずっとリモートでいいと言われた」といったトラブルの原因になります。

復職支援プランには、少なくとも以下の項目を盛り込むことを推奨します:

  • 復職後の就労形態(出社・リモート・混在)と期間の見通し
  • 出社移行の条件と判断タイミング
  • 業務内容・業務量の制限事項
  • 定期的な面談・状況確認の頻度
  • 体調悪化時の連絡方法と対応フロー
  • リモート期間が「暫定措置・期間限定」であることの明記

出社要請に必要な合理的理由

出社を求める際には、「なぜ出社が必要か」を業務上の観点から説明できなければなりません。以下のような理由であれば、合理性が認められます:

  • 機密書類の取り扱いがある
  • 対面での顧客対応が業務の中心
  • チームの連携上、一定の対面が不可欠
  • 特定の業務システムやツールがオンサイトでのみ利用可能
  • 新しい業務の習得時には対面サポートが必要

こうした理由を明示したうえで、産業医や主治医にも事前に相談・記録しておくことで、指示の正当性が担保されます。

段階的な移行を設計する

「明日から毎日フルタイム出社」という一律の指示は、回復途上の社員にとって過大な要求となり得ます。厚生労働省の「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」でも、段階的な職場復帰プログラムが推奨されています。

例えば、以下のような段階的な移行が考えられます:

  • 第1段階:週1〜2日の出社、業務量50%
  • 第2段階:週3日の出社、業務量75%
  • 第3段階:週5日の出社、業務量100%

各段階を2〜4週間継続し、本人と産業医に状態の安定を確認してから進めることで、配慮と業務上の必要性の両立が図れます。

一度リモートを認めたら、出社に戻せなくなるのか

「一度認めたら取り消せない」という思い込みは誤りです。復職支援の一環として期間・条件を明示して認めたリモートワークは、条件が変わった時点で変更の交渉・協議が可能です

「暫定措置」であることを最初に明確にする

復職時にリモートワークを認める場合、それが「回復を支援するための暫定的な配慮」であることを文書に明記しておくことが重要です。具体的には、以下のような表現が有効です:

「本リモートワークの措置は、回復支援のための暫定的な対応です。〇ヶ月後に見直しを行い、状況によっては出社頻度を増やす、または完全出社への変更を求める可能性があります。」

期間・条件の記載があれば、後から変更を求めることは正当な手続きとして受け入れられやすくなります。逆に、期間・条件の記載なしに「OK」とだけ伝えた場合、変更に際して紛争リスクが高まります。

出社移行の見直しタイミングと判断基準

見直しのタイミング 確認すべき事項 判断の根拠
復職後1〜2ヶ月 業務遂行状況・体調の安定 産業医面談・本人申告
主治医の通院間隔が延びたとき 回復の進捗確認 主治医意見書の更新
業務上の必要性が生じたとき 出社の合理的理由の有無 業務内容の変化・チーム状況
プランで定めた見直し期日 条件変更の合意 復職支援プランの記載

「外出はできるのに職場だけ来ない」ケースの扱い方

職場への出社のみを拒否しているが、外出や他の活動は行えているというケースは、判断が難しい場面のひとつです。この場合も、安易に「仮病では」と決めつけることは禁物です。

職場という特定の環境や人間関係に特有のストレスが残存している可能性があり、それ自体が治療が必要な症状である場合があります。「対人恐怖」「職場不安」といった症状は、医学的には重要な治療対象です。

一方で、状態が長期化している場合は、産業医や専門家に相談しながら、以下の点を改めて評価する必要があります:

  • 就労継続が医学的に可能か
  • 現在の職務が適切か、配置転換の検討余地があるか
  • 再休職の必要性はないか
  • 就労継続が不可能な場合、退職・傷病手当等の手続きが必要か

決して一方的に判断するのではなく、専門家を交えた慎重な検討が重要です。

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他の社員への公平性と社内への説明

リモートワークを認めた際に生じる「あの人だけ特別扱い」という社内の不満は、制度の透明性と説明の仕方で相当程度抑えることができます。個人の病状は開示しなくても、「会社として合理的な配慮を行う方針がある」という枠組みを示すことが有効です

個人情報の保護と説明の範囲

社員の健康情報・病名は個人情報であり、本人の同意なく他の社員に開示することは適切ではありません。他の社員への説明は「就業規則や会社方針に基づく措置」という枠組みで行い、病名や症状の詳細には触れないことが基本です。

「就業上の配慮が必要な社員については、個別に対応することがある」という方針を就業規則や社内ルールに明記しておくことで、「なぜあの人だけ」という疑問に対して制度的な根拠を示せるようになります。

テレワーク規程がない場合の対処

自社にテレワーク規程がない場合、特定の社員だけのための個別運用を始めることには慎重であるべきです。理由は以下の通りです:

  • 他の社員から「なぜ私には適用されないのか」という問いへの回答が難しい
  • 将来的なトラブル発生時に「個別対応は恣意的」と指摘される可能性
  • 公平性・透明性の観点から、制度化していない措置は説明責任が重い

この機会にテレワーク規程を整備することで、今後の適用における公平性・透明性が担保されます。規程の整備は、社労士や専門家のサポートを受けながら進めることをお勧めします。

まとめ

メンタル不調からの復職後にリモートワークを求められた場合、会社には「検討する義務」はあっても「無条件に認める義務」はありません。重要なのは、以下のプロセスです:

  • 主治医・産業医の意見を踏まえた判断
  • 復職支援プランの文書化
  • 段階的な移行設計
  • 社内への適切な説明

「断ったら違法か」「認めたら戻せないか」という二者択一ではなく、条件と期間を明示しながら柔軟に対応することが、会社と社員双方にとっての最善策になります。

「自社の場合はどう判断すればいいのか」「産業医がいない状態でどこまで対応できるか」「復職プランの具体的な文書作成が難しい」といった個別の疑問は、一般的な情報だけでは答えが出しにくいケースも多くあります。ウェルセンス株式会社では、中小企業の人事担当者・経営者の方からの復職・メンタルヘルス対応に関するご相談をお受けしています。人事対応に不安がある場合は、お気軽にお問い合わせください。

よくある質問

Q. 主治医が「リモートワークを継続してください」と書いた意見書を提出されました。会社はそれに従わなければなりませんか?

A. 主治医の意見書は会社の判断を拘束するものではありません。主治医は治療の観点から意見を書きますが、就労条件の最終判断は会社が行います。産業医(または外部の産業保健専門家)の意見を踏まえ、業務上の必要性や自社の環境整備状況を総合的に勘案したうえで判断することができます。ただし、意見書を完全に無視して対応することはトラブルの原因になるため、理由を明示したうえで対応方針を文書化することが重要です。

Q. テレワーク規程がない会社でも、復職者だけリモートを認めることはできますか?

A. 規程がない状態での個別対応は可能ですが、リスクを伴います。他の社員との公平性の問題や、後から「自分にも適用してほしい」という要求への対応が難しくなる可能性があります。合理的配慮の一環として行う旨を明記した個別の同意書・覚書を作成するとともに、この機会にテレワーク規程を整備することをお勧めします。規程の整備は社労士に依頼することで比較的短期間で対応できます。

Q. 復職後のリモートワークを認めたあと、「やはり出社してほしい」と伝えたらハラスメントになりますか?

A. 最初から「暫定措置・期間限定」と明示していた場合、条件の変更を求めること自体はハラスメントにはなりません。ただし、出社を求める際には業務上の合理的な理由を明示し、いきなりフルタイム出社を求めるのではなく段階的な移行プランを提示することが重要です。変更の前に産業医・主治医に相談し、その記録を残しておくことで、会社の対応の正当性を担保できます。

Q. 従業員が30名ほどの会社です。産業医がいないのですが、どうすれば専門的な意見を得られますか?

A. 従業員50名未満の会社には産業医の選任義務はありませんが、都道府県の産業保健総合支援センターが運営する「地域産業保健センター」では、嘱託産業医への相談サービスを無料で提供しています。また、外部の産業保健サービス会社や、メンタルヘルス・人事労務の専門支援機関を活用することも有効です。専門家の意見を得て記録に残すことで、事後的なトラブル時の会社の対応の合理性が担保されます。

Q. 職場への出社は拒否しているのに、プライベートでの外出はできているようです。これは「仮病」なのでしょうか?

A. 職場という特定の環境や人間関係に対するストレス反応が残存している可能性があり、一般的な外出ができることと職場への出社可否は必ずしも一致しません。医学的には「職場不安」「対人恐怖」といった症状は重要な治療対象であり、「仮病では」という判断は避けるべきです。産業医や専門家に現状を伝えたうえで、就労継続の可否を改めて評価することを優先してください。状況が長期化する場合は、復職プランの見直しや、場合によっては再休職の必要性についても専門家と協議することが適切です。

【監修】ウェルセンス株式会社
ウェルセンスは、メンタル不調者対応・休職復職支援に強い職場メンタルケアサービスです。産業医・保健師・心理士・社労士などの専門家ネットワークが、人事・管理職だけでは判断しづらいケースの初動対応、専門家連携、再発防止まで支援します。

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