休職を拒否する社員にどう対応すればいい?

休職を拒否する社員にどう対応すればいい? 休職・復職対応
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「誰が見ても限界なのに、本人だけが『大丈夫』と言い張る」——そんな状況を前に、どう動けばよいかわからず、手をこまねいていませんか。本人の意思を尊重したい気持ちと、このまま働かせ続けるリスクへの不安。その板挟みで判断を先送りにすることは、会社にとっても社員にとっても最悪の結果を招きかねません。この記事では、本人が休職を拒否する場合の会社の対応と法的根拠を、実務の流れに沿って解説します。

「本人が大丈夫」は信用していい?病識の欠如という落とし穴

うつ病・適応障害では「自覚がない」が症状のひとつ

遅刻が増えた、些細なミスを繰り返す、表情が暗く言動が不安定——周囲から見れば明らかに限界のサインでも、本人は「自分はまだ大丈夫」と主張することがあります。これは意地を張っているのではなく、医学的に説明できる状態です。うつ病や適応障害では、自分が病気であることを認識できない「病識の欠如」が症状として現れることがあります。本人の言葉を額面どおり受け取ることは、むしろ危険です。

「本人が拒否したから」は法的免責にならない

多くの経営者・人事担当者が陥りがちな思い込みが、「本人が休まなくていいと言ったから、会社は何もしなかった」という論理です。しかし、労働契約法第5条が定める安全配慮義務(会社が労働者の健康や安全を守る法的責任)は、本人が拒否しても会社側の義務を免除しません。1999年の電通事件最高裁判決でも示されているように、会社は労働者の健康状態を把握し、必要な措置を講じる義務を負います。「本人の意思を尊重した」という姿勢が、法的には「義務を怠った」と判断されるケースがあるのです。

不調のサインを記録することが第一歩

まず最初に取り組むべきことは、不調のサインを客観的に記録することです。「○月○日、遅刻3回・業務ミス2件・面談で本人は『問題ない』と発言」のように、日時・事実・本人の発言を具体的に記録します。これは後述する休職命令の根拠にもなり、万が一訴訟になった際に「会社は適切に対応していた」という証拠として機能します。感情的な判断ではなく、事実の積み重ねが会社を守ります。

会社命令で休職させることは法的に可能か

職務命令休職の法的根拠

結論から言えば、一定の条件を満たせば、本人の同意なく休職を命じることは法的に可能です。根拠となるのは、労働契約法第5条(安全配慮義務)と、就業規則の合理的な規定の組み合わせです。就業規則に「心身の故障・疾病により業務に堪えられないと会社が判断したとき、休職を命じることができる」という条項があれば、会社は休職命令を出す法的な根拠を持つことができます。

就業規則の整備が急務——規定がない会社はまず確認を

中小企業でよく見られる問題が、就業規則に休職規定そのものがない、あるいは規定はあっても「会社命令で休職させる」条項が曖昧というケースです。就業規則の作成義務は常時10人以上の従業員を雇用する事業場に生じますが(労働基準法第89条)、20~50名規模の企業でも休職に関する条項が不十分なことは珍しくありません。規定がなければ命令休職は難しく、まず就業規則を整備することが急務です。

医師の意見書が実務上の要

法的根拠と並んで重要なのが、医師による「就業不能」の意見です。労働安全衛生法第66条の5は、医師の意見に基づいて就業上の措置を取る義務を会社に課しています。主治医・産業医・嘱託医のいずれかが「現状での就業は困難」と判断した意見書は、休職命令の実務的な根拠として非常に強力です。特に50人未満で産業医の選任義務がない企業でも、嘱託産業医や地域の産業保健センターを活用することで医学的な判断を得ることができます。

受診を拒否している社員への対応フロー

受診命令の法的位置づけ

就業規則に「会社が指定する医師の受診を命じることができる」旨の規定があれば、受診命令は業務命令として有効です。合理的な理由がある業務命令に従わないことは、懲戒処分の対象にもなりえます。ただし、この規定がない場合は命令としての効力は弱まります。その場合でも、受診の必要性を文書で伝え、面談の記録を残すという対応は必ず行ってください。

受診を「勧奨する」ための実践的な方法

受診を強制できない状況でも、以下のような段階的なアプローチが効果的です。

  • まず最初に、上司や人事が1対1の面談を設定し、「心配している」という姿勢で具体的な事実(遅刻の回数、ミスの件数など)を伝える
  • 次に、「会社として業務を継続させることが難しい状態にある」と伝え、受診の必要性を文書で手渡す
  • この文書は「命令」ではなく「案内・依頼」の形式でも構いませんが、交付した事実を記録に残すことが大切
  • かかりつけ医への相談から始めるよう伝えると、心理的ハードルが下がることがある

受診拒否が続く場合の暫定措置

受診拒否が続く場合、すぐに休職命令を出せなくても、業務量の軽減・重要業務からの一時的な外れ・在宅勤務への切り替えといった暫定措置を講じることが重要です。これは安全配慮義務の観点から「会社としてできる対応を取った」という証拠になります。また、本人が医療機関を受診するまでの間も、面談記録・業務指示の記録・本人の反応などをすべて文書化し続けてください。この積み重ねが、後の判断を支える基盤になります。

休職命令はパワハラにならないか

パワハラとの違いを整理する

「休職を強制したらパワハラと言われないか」という不安はよく聞かれます。労働施策総合推進法が定めるパワーハラスメントの定義は、「優越的な関係を背景に、業務上必要かつ相当な範囲を超えて、労働者の就業環境を害する行為」です。安全配慮義務を果たすために医師の意見に基づいて休職命令を出すことは、この定義には該当しません。むしろ、不調を抱えた社員を無理に働かせ続けることの方が、安全配慮義務違反として問題になりえます。

「会社のために体を壊せ」と「体のために休め」は真逆

パワハラが問題になるのは、会社の利益のために労働者に過度な負担を強いるケースです。一方、休職命令は社員の健康を守るための措置です。この目的の違いが、法的判断においても重要な意味を持ちます。命令を出す際には、「あなたの健康状態を心配しているから」という視点を明確に伝え、記録にも残してください。「業務効率が落ちているから休め」という言い方ではなく、「健康上の理由から就業が困難と判断した」という表現が適切です。

手続きの透明性が信頼を守る

休職命令をめぐるトラブルの多くは、プロセスの不透明さから生じます。面談の記録、医師の意見書の取得、就業規則の規定の確認、命令書の交付——これらの手続きを丁寧に踏むことで、本人との信頼関係を維持しながら、法的リスクも最小化できます。「会社が勝手に決めた」という感情的な反発を防ぐためにも、なぜこの判断に至ったかを本人に丁寧に説明する姿勢が大切です。

判断が遅れると何が起きるか——会社リスクの実態

安全配慮義務違反が問われる条件

会社が不調の社員を認識しながら適切な措置を取らなかった場合、安全配慮義務違反として損害賠償を求められるリスクがあります。裁判例では、「会社は不調のサインを把握できた、または把握すべきだった」という判断のもと、会社側に数百万円から数千万円規模の賠償が命じられたケースもあります。「本人が大丈夫と言っていた」「専任の人事がいなかった」という事情は、裁判所では免責の理由としてほとんど認められません。

チームへの二次的影響を見落とさない

不調を抱えた社員を無理に働かせ続けることは、当事者だけでなく周囲のチームにも影響を与えます。業務のカバーによる過重労働、ミスへの対応コスト、「なぜあの人は特別扱いなのか」という不公平感——これらが積み重なることで、チーム全体の士気低下や離職につながるケースがあります。一人の社員への対応が、組織全体のリスク管理の問題であることを認識してください。

傷病手当金の案内も会社の重要な役割

休職命令を出した後、本人の生活への不安が拒否の一因になっていることも少なくありません。私傷病による休職中は、健康保険から傷病手当金(標準報酬日額の3分の2を最長1年6ヵ月)が支給されます。この制度を会社側から丁寧に案内することは、安全配慮の一環であるとともに、本人の不安を取り除いて円滑な休職につなげる実務的な効果もあります。「休んだら収入がなくなる」という誤解を解くことが、対話の突破口になることもあります。

まとめ

休職を拒否する社員への対応は、「本人が嫌だと言っているから何もできない」という話ではありません。労働契約法第5条の安全配慮義務は、本人の拒否があっても会社側の義務を免除しません。就業規則に休職命令の根拠規定があること、医師の意見書を取得すること、対応の経緯をすべて記録すること——この三つが法的リスクを回避しながら社員を守るための基本的な柱です。

とはいえ、専任の人事がいない中で、就業規則の整備・医療機関との連携・面談記録の管理・本人への対話をすべて同時に進めることは容易ではありません。ウェルセンス株式会社では、このような状況での初動対応から就業規則の確認・整備、受診勧奨のサポート、休職中のフォローまでを一貫して支援しています。判断に迷う段階からでも、お気軽にご相談ください。

よくある質問

Q. 就業規則に休職規定がない場合、会社命令で休職させることはできませんか?

A. 就業規則に「会社が休職を命じることができる」旨の規定がない場合、命令休職を行うことは法的に難しくなります。まず就業規則を整備することが最優先です。ただし、規定がない状態でも業務軽減・配置転換などの暫定措置を取ることは可能ですし、医師の意見書と組み合わせることで一定の対応ができる場合もあります。専門家に相談のうえで判断することをお勧めします。

Q. 産業医がいない会社でも、医師の意見書は取れますか?

A. 産業医の選任義務は常時50人以上の従業員を抱える事業場に発生しますが、それ未満の企業でも嘱託産業医の活用や、地域の産業保健センター(産業保健総合支援センター)の無料相談を利用することができます。また、本人が受診している主治医から意見書を取得することも実務上有効です。いずれの場合も、医師に「就業の可否」について書面で意見をもらうことが重要です。

Q. 社員の不調をチームにどこまで伝えてよいですか?

A. 健康情報は要配慮個人情報(個人情報保護法)にあたり、本人の同意なく第三者に開示することは原則できません。チームへの説明は「体調不良による休養」などにとどめ、診断名や具体的な症状を伝えることは避けてください。業務分担の再調整が必要な場合は「しばらく業務を外れることになった」という事実のみを伝え、詳細については「個人的な事情がある」と説明するのが一般的な対応です。

Q. 休職中の給与はどのように扱うのが一般的ですか?

A. 私傷病による休職の場合、休職中の給与については就業規則の定めによります。無給・有給・一部支給のいずれも就業規則で定めれば違法ではありません。ただし、無給となる場合は健康保険の傷病手当金(標準報酬日額の3分の2、最長1年6ヵ月)を利用できるため、必ず本人に案内してください。会社が支払義務を負う休業手当(平均賃金の60%)は、会社都合の休業に適用されるものであり、私傷病の場合は原則対象外です。

Q. 休職を拒否し続ける社員に対して解雇は検討できますか?

A. 解雇は最後の手段であり、安易に検討することは労働契約法第16条の解雇権濫用法理に抵触するリスクがあります。まず就業規則に基づく休職命令、業務上の配慮措置、受診勧奨などを段階的に取り、それでも就業が困難な状態が続く場合は、休職期間満了後の自然退職という形が法的に取りやすい対応です。解雇を視野に入れる場合は必ず事前に社労士または弁護士に相談してください。

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【監修】ウェルセンス株式会社
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