「売上が落ちてきたので、来週からパートさんのシフトを減らしたい」——その判断、実は会社に休業手当の支払い義務が発生するケースがほとんどです。「うちは固定シフトじゃないから大丈夫」「有給で処理すればいい」と思っていると、後から未払い請求やトラブルに発展することもあります。この記事では、固定シフトパートを会社都合で休ませた場合の支払い義務の判断基準、手当の計算方法、そして雇用調整助成金を使って会社負担を軽くする方法まで、実務の流れに沿って解説します。
会社都合の休業とは何か、まず押さえておくこと
会社都合の休業とは、使用者側の理由によって労働者を働かせられない状態のことです。売上減少・受注減・コスト削減などを理由にシフトを削るケースは、ほぼすべてこれに当たります。
労働基準法第26条が定める「使用者の責に帰すべき事由」
労働基準法第26条は、「使用者の責に帰すべき事由」による休業の場合、平均賃金の60%以上の休業手当を支払わなければならないと定めています。ここで重要なのは、「使用者の責に帰すべき事由」の範囲が非常に広く解釈されている点です。売上の落ち込み、受注の減少、経費削減のためのシフト圧縮といった経営判断はすべてここに含まれます。行政解釈や判例の流れ(ノース・ウエスト航空事件等)でも、経営上の都合による休業は原則として使用者責任とされています。
「不可抗力だから払わなくていい」は成立しにくい
「外的な要因だから仕方ない」という考えで支払いを免れようとするケースがありますが、法的な「不可抗力」の要件は非常に厳しいです。認められるのは、行政による法的強制力を持つ休業命令(感染症法上の就業制限命令など)や、自然災害による事業所の物理的損壊など、使用者がどうすることもできない状況に限られます。単なる行政の「要請」や「指導」、あるいは売上不振は不可抗力に当たらないと厚生労働省の通達でも明確にされています。
民法第536条第2項との関係
労働基準法第26条に加え、民法第536条第2項も根拠になります。これは「債権者(使用者)の責めに帰すべき事由によって債務(労働提供)が履行できなくなった場合、労働者は賃金請求権を失わない」という規定です。つまり民法上でも、会社都合で働けなくした場合には賃金相当額を請求できる権利が労働者に残ります。休業手当は最低限60%ですが、民法上は100%の請求が可能になるため、二重の根拠から支払い義務が生じることを理解しておく必要があります。
固定シフトか変動シフトかで判断が分かれる「休業日の認定」
休業手当が発生するかどうかは、「その日が労働義務のある日だったか」によって決まります。固定シフトか変動シフトかによって、この認定方法が異なります。
固定シフトの場合:雇用契約書の記載が決め手
雇用契約書や労働条件通知書に「毎週火・水・木曜日、9時〜15時勤務」のように曜日と時間が明示されている場合、その日は最初から労働義務が確定しています。したがって、会社都合でその日を休ませれば、そのまま休業手当の対象日となります。「シフト表に入っていなかったから義務はない」という反論は通りません。契約書の内容が優先されます。
変動シフトの場合:シフト確定のタイミングが基準
「毎週金曜日にシフト表を出して翌週分を決める」といった運用の場合、労働義務が確定するのはシフト表が提示された時点です。この場合、シフトに組み込まれた日を会社都合で外した(または組み込まなかった)場合は休業手当が必要です。一方、シフト表で最初から入れていない日については、そもそも労働義務が生じていないと解釈される余地があります。ただし、「いつもなら入れていたのに今回だけ意図的に外した」という状況は実態として会社都合の休業と判断されるリスクがあります。
雇用契約書の記載内容を今すぐ確認すること
多くの中小企業では、古いひな型をそのまま使っていたり、口頭合意のままシフトを組んでいたりするケースが散見されます。「うちは変動シフトだから大丈夫」と思っていても、契約書に固定曜日が記載されていれば固定シフトとして扱われます。逆に実態は固定的に勤務させていても契約書に明示がなければ変動扱いとなることもあります。今すぐ手元の雇用契約書を確認し、シフトの記載がどうなっているかを把握してください。
休業手当の計算方法と給与処理の手順
支払い義務があると判断したら、次は正確な金額の算出です。計算の基礎は「平均賃金」であり、これを誤ると未払いリスクが残ります。
平均賃金の原則的な計算式
平均賃金は、労働基準法第12条に基づいて計算します。原則的な計算式は次のとおりです。休業開始日の直前3ヶ月間に支払われた賃金の総額を、その期間の総暦日数(実働日数ではなくカレンダー上の日数)で割った額が1日の平均賃金となります。休業手当として支払うべき金額は、この平均賃金に0.6(60%)を掛けた額以上です。
| 計算ステップ | 内容 |
|---|---|
| 賃金総額の集計 | 休業開始日以前3ヶ月間の賃金合計(残業代・通勤手当等含む) |
| 総暦日数の確認 | その3ヶ月間のカレンダー上の日数(例:90日や91日) |
| 1日の平均賃金 | 賃金総額 ÷ 総暦日数 |
| 休業手当の最低額 | 1日の平均賃金 × 0.6 × 休業日数 |
パート・変動シフトに適用される最低保障額との比較
日雇い労働者や変動シフトのパートなど、暦日計算では実態と乖離が生じやすいケースには「最低保障額」の制度があります。最低保障額は「賃金総額 ÷ 実労働日数 × 0.6」で算出します。原則計算による金額と最低保障額を比較し、高い方を採用するのがルールです。固定シフトで週3日勤務のパートであれば、この最低保障額が実際の休業手当額になることも多いため、必ず両方を計算して比較してください。
給与明細・帳票上の処理方法
休業手当は「賃金」として扱われるため、通常の給与と同じく所得税・社会保険料(標準報酬月額に影響する)の計算対象になります。給与明細には「休業手当」として別項目で記載するのが実務上わかりやすく、後からトラブルになった際の証跡としても有効です。また、雇用調整助成金の申請を想定するなら、休業日数・休業手当額を正確に記録した「休業実績一覧」を別途管理しておくことを強くお勧めします。
計算や給与処理に不安があれば、実務的なアドバイスをもらうことで後々のトラブルを防げます。
「有給処理すればOK」は原則NG:よくある誤解への対処
「本人に有給を使ってもらえば休業手当を払わなくて済む」という対応は、法的に原則として認められません。この誤解は現場での労使トラブルを招く典型例の一つです。
有給休暇の時季指定権は労働者にある
年次有給休暇は、労働基準法第39条に基づき労働者が自ら請求して使うものです。使用者が「この日は有給にしておいて」と一方的に指定することは、労働者の時季指定権を侵害する行為となります。仮に従業員が渋々同意した形をとっていても、後から「強制されて有給を消化させられた」と申告した場合には、会社側が不利になります。
「使用者の時季変更権」との混同に注意
使用者には「事業の正常な運営を妨げる場合」に限り、有給の時季を変更する権限(時季変更権)があります。しかしこれは「別の日に有給を取るよう変更する」権限であり、「休ませる日を有給扱いにする」ことを認めるものではありません。会社都合の休業日を有給で処理することとは、まったく別の話です。
本人が「有給で良い」と言った場合はどう扱うか
労働者が自ら「休業手当より有給の方がいい(100%もらえるから)」と申し出て有給取得を選ぶケースは、実務上あり得ます。この場合、本人の自発的な意思に基づく有給取得であれば問題は生じにくいです。ただし、会社側から積極的に有給取得を促したり、「有給にしないと来週のシフトが入れられない」などの事実上の強制があった場合はトラブルのリスクが残ります。意思確認を書面(メールでも可)で残しておくことが実務上の安全策です。
雇用調整助成金で会社負担を軽減する方法
休業手当の支払い義務がある場合でも、雇用調整助成金(雇調金)を活用することで会社の実質負担を大幅に減らせます。コロナ特例は終了しましたが、通常ルールでも中小企業には手厚い助成率が設定されています。
雇用調整助成金の基本的な仕組み
雇用調整助成金は、経済的な事由により事業活動の縮小を余儀なくされた事業主が、雇用を維持しながら一時的に休業・教育訓練を実施した場合に、支払った休業手当の一部を国が助成する制度です。中小企業の場合、助成率は休業手当相当額の3分の2(上限額は毎年度改定)です。たとえば1日の休業手当が6,000円のパートが10人、月20日休業した場合、支払い総額は120万円ですが、そのうち80万円が助成対象になり得ます(上限の範囲内であれば)。
申請の流れと必要な書類
申請は、まず「休業等実施計画届」を事前に管轄の労働局またはハローワークへ提出することから始まります。その後、実際に休業を実施し、休業実績と手当の支払い記録をもとに「支給申請書」を提出します。必要書類には、賃金台帳・出勤簿・休業協定書(労使間で締結)などが含まれます。社労士なしでは難しいと思われがちですが、厚生労働省の公式サイトや各都道府県労働局にはチェックリストや記載例が整備されており、規模の小さい企業でも対応実績があります。ただし書類の記載ミスや手続き遅延はよく起こるため、初回申請は専門家に確認してもらうと安心です。
申請で見落としやすい要件と注意点
雇調金を受けるには、雇用保険の適用事業所であることが前提です。パートが雇用保険に加入しているかどうかを事前に確認してください(週20時間以上勤務かつ31日以上の雇用見込みがある場合は加入義務あり)。また、生産指標(売上・生産量等)が直近3ヶ月または1ヶ月で一定割合以上減少していることも要件の一つです。加えて、計画届を提出した日より前に実施した休業は原則として助成対象外となるため、「先に休業させてから後で申請しよう」というタイミングには注意が必要です。
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複数パートへの対応で生じる不均等リスクへの備え
「Aさんはシフトを維持してBさんだけ休業させた」場合、合理的な理由がなければ差別的取り扱いとして問題になる可能性があります。対応の一貫性と記録が重要です。
誰をどの基準で休業対象にするかを事前に決める
シフト削減の対象者を選ぶ際には、「業務上の必要性(スキル・担当業務)」「雇用契約上の条件(週あたり勤務日数)」「本人の希望」など、客観的な基準を設けることが大切です。場当たり的に「なんとなくBさんを減らした」では、後から不満を持ったBさんに「自分だけ選ばれたのはなぜか」と問われたときに答えられません。
対応内容を書面・メールで残しておく
休業の理由、対象者の選定基準、本人への通知内容、本人からの確認応答——これらをメールや書面で記録に残しておくことが、後々のトラブル防止に直結します。特に「本人も了承した」という事実は、口頭だけでは証明が難しいため、書面化を徹底してください。
不均等対応が深刻化するケース
特に同じ部署・同じ業務を担当する複数のパートのうち一部だけを継続的に休業させた場合、「実質的な雇い止めや不当な差別的取り扱いではないか」という主張につながることがあります。労働局への相談や労働審判に発展した事案もあるため、選定基準の合理性と記録の整備は手を抜けないポイントです。
複数の従業員に対する判断に迷ったら、判断基準の妥当性を第三者に確認してもらうことが安心です。
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まとめ
固定シフトパートを会社都合で休ませた場合、売上減少や受注減を理由とするシフト削減は「使用者の責に帰すべき事由」として休業手当(平均賃金の60%以上)の支払い義務が生じます。まず雇用契約書でシフトの記載を確認し、休業日の認定を正確に行うことが出発点です。次に平均賃金を正しく計算し、給与明細に「休業手当」として記録を残します。そのうえで、雇用調整助成金の事前届出を速やかに行い、会社の実質負担を軽減することを検討してください。有給で代替しようとする対応は原則NGです。また、複数パートへの対応では選定基準の合理性と書面記録が不可欠です。
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よくある質問
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