採用面接でメンタル素因がある候補者を判断する5つの観点

採用面接でメンタル素因がある候補者を判断する5つの観点 メンタルヘルス対応
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「面接中に、候補者から『以前うつ病で3ヶ月休職していました』と話してくれた。どう対応すればいいんだろう……」。そんな場面に直面したとき、採用担当者として何を聞けて、何を聞いてはいけないのか、判断に迷うのは当然です。

メンタルヘルスに関わる情報は、プライバシーへの配慮と業務適性の確認が交差する難しい領域です。「落としたら差別になるのか」「採用しても入社後に対応できるか」という二重の不安が、冷静な判断を妨げてしまうことも少なくありません。

この記事では、採用面接でメンタルヘルスの素因が浮かび上がった候補者を評価するための5つの実務的な観点を整理します。法的なリスクを避けながら、候補者にとっても会社にとっても公正な採用判断ができるよう、具体的な場面に沿って解説します。

「差別」と「判断」の境界線を正しく理解する

メンタルヘルスに関わる情報を採用判断に使うこと自体が「差別」になるわけではありません。問題になるのは、「業務遂行能力とは無関係な健康情報を理由にした不採用」です。この区別を正しく持つことが、すべての判断の出発点になります。

採用の自由と差別禁止規定の関係

最高裁判例(三菱樹脂事件・1973年)により、企業は原則として採用の自由を持っています。一方、障害者雇用促進法(第35条)は、障害者手帳を保持する求職者に対して、障害を理由とした不採用を禁止しています。手帳を保持していない一般求職者については、現時点で同法が直接的な差別禁止義務を課す対象ではありませんが、今後の法改正・行政指導の動向は注視が必要です。

つまり、「休職歴がある」「メンタルヘルスの不調を経験している」という事実だけを理由に採用を断ることが問題になりやすいのは、主に障害者手帳保持者のケースです。ただし、手帳の有無にかかわらず、健康情報を不適切に収集・利用することは、個人情報保護の観点から問題になりえます。

健康情報の取得には「業務上の必要性」が求められる

厚生労働省「雇用管理分野における個人情報のうち健康情報を取り扱うに当たっての留意事項」(2017年)では、採用選考時に健康情報を取得する場合、業務上の必要性と合理性が求められると明示されています。既往歴や通院歴を網羅的に問うことは、特段の業務上の理由がない限り不適切です。

逆に言えば、「この業務を遂行するうえで、配慮が必要な点があるか」という確認は正当な質問です。健康状態を直接聞くのではなく、業務遂行能力に焦点を当てた質問設計が求められます。

面接でできる質問・できない質問を区別する

面接でのNGは「病名・通院・薬」の直接的な掘り下げです。一方、業務適性に関連した機能的な確認は適切な質問として認められます。質問の設計次第で、必要な情報を合法的に得ることができます。

適切な質問の例

以下のような質問は、業務遂行能力の確認に直結しており、適切な範囲内です。

  • 「業務を進めるうえで、何か配慮が必要な点はありますか?」
  • 「以前の仕事で困難だった状況と、そのときどう対処したか教えてもらえますか?」(行動面接)
  • 「フルタイムでの勤務は問題ありませんか?」
  • 「チームでの業務や締め切りのあるプロジェクトへの対応経験を教えてください」

避けるべき質問の例

以下の質問は、業務と直接関係のない健康状態の掘り下げにあたり、不適切です。

  • 「精神科や心療内科には通っていますか?」
  • 「現在、薬を服用していますか?」
  • 「うつ病の原因は何でしたか?」
  • 「また再発する可能性はありますか?」

病名・治療内容・再発リスクは医療の専門領域であり、面接担当者が判断できる事柄でもありません。これらを聞くことは、プライバシーの侵害にあたるだけでなく、候補者に対して萎縮した印象を与え、採用ブランドにも悪影響を及ぼします。

本人から自己申告があった場合の対応フロー

候補者が自ら「以前うつで休んでいました」などと話してきた場合、以下の流れで対応することを推奨します。

まず、情報を受け取ったことを自然な態度で受け止め、驚いた様子や圧迫的な反応を見せないことが重要です。次に、「業務の遂行に何か影響がありますか?」と機能的な確認へ転換します。そのうえで、配慮が必要な場合はその内容・期間・自社のキャパシティを具体的に確認します。「話してくれてありがとうございます。業務上で何かサポートが必要なことがあれば、一緒に考えられることを確認させてください」という姿勢が、信頼関係の構築にもつながります。

採用面接でメンタルヘルスの質問に迷ったら、「業務に必要な情報か」が判断基準です。実務的な相談が必要な場合は、まずスポット相談からはじめることもできます。

リファレンスなしで判断するための代替アプローチ

前職企業が「在籍確認のみ」しか応じない場合でも、面接設計・書類確認・トライアル活用の組み合わせで判断精度を高めることができます。リファレンスに頼れない環境は多くの中小企業に共通する課題であり、代替手段を持つことが重要です。

行動面接(STAR法)で過去の対処行動を引き出す

STAR法(Situation・Task・Action・Result)を用いた行動面接は、候補者の実際の行動パターンを引き出すのに有効です。「ストレスがかかった状況での対処法」「体調が優れないときの仕事の進め方」など、業務状況に紐づけた質問を行うことで、再現性のある行動特性を把握できます。「過去の行動は将来の行動を予測する」という行動面接の原則は、メンタルヘルス面でも有効に機能します。

職務経歴書・履歴書から確認できること

書類上の空白期間や短期離職の繰り返しは、直接「なぜですか?」と問うのではなく、「この時期にどんなことをされていましたか?」と中立的に確認します。候補者が自発的に説明する内容と、その説明の一貫性・具体性を評価材料とします。

トライアル雇用や試用期間の活用

ハローワーク経由の「トライアル雇用制度」を利用すると、原則3ヶ月の試行就労期間中に双方が適性を確認できます。精神障害者・発達障害者を対象としたトライアル雇用制度(最長3ヶ月・月額最大4万円の助成)もあり、不安が大きい場合の選択肢として有効です。なお、この制度の利用は障害者手帳保持者が対象となる枠があるため、候補者の状況に応じて確認が必要です。

合理的配慮の範囲と自社のキャパシティを照合する

合理的配慮の提供は、「過重な負担にならない範囲」で行うものです。自社の規模・体制と照らし合わせた現実的な配慮範囲を事前に整理しておくことが、採用判断を適切に行ううえで不可欠です。

自社規模別の配慮可否の目安

配慮の内容 産業医なし・20名以下 専任人事なし・20〜50名 産業医あり・50名以上
業務量の一時的な調整 対応しやすい 対応しやすい 対応しやすい
在宅勤務・フレックスの導入 制度整備次第 制度整備次第 対応しやすい
定期的な面談・フォロー 担当者の負荷が大きい 兼務担当者に依存 産業医・EAP活用可
休職・復職制度の運用 就業規則整備が前提 就業規則整備が前提 比較的対応可能

「過重な負担」かどうかの判断基準

障害者雇用促進法における「過重な負担」は、事業規模・財務状況・業務への支障の程度などを総合的に考慮して判断されます。中小企業であることは「過重な負担」の判断材料として考慮される一方、「小規模だから何もしなくていい」という意味ではありません。

重要なのは、「自社がどこまで対応できるか」を面接前に整理しておくことです。候補者に必要な配慮の内容が自社のキャパシティを超える場合は、それが不採用の合理的な理由になりえます。逆に、「不安だから」という漠然とした理由での排除は、優秀な人材を失うだけでなく、将来的なリスクにもなりえます。

就業規則・復職制度の有無を事前確認する

就業規則に休職規定が明記されていない企業は、入社後に不調が再燃した際の対応方針が曖昧になります。採用前に休職・復職に関するルールを整備しておくことは、採用した候補者を守るためでもあり、会社側のリスク管理でもあります。産業医の選任義務は常時50名以上の事業場に生じますが、50名未満でも地域産業保健センターの無料相談などを活用できます。

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不採用判断の根拠を正しく記録する

不採用の理由は「業務遂行能力・スキル・経験の不一致」など、業務に関連した事実ベースで記録することが原則です。「健康状態が不安だったから」という記述は記録に残さず、判断の根拠を業務要件との対比で整理することがリスク管理の基本です。

記録に残すべき内容・残すべきでない内容

不採用理由として記録に適しているのは、「求める業務経験のレベルに達していなかった」「必要なスキルセットとの乖離があった」「勤務条件(シフト・出張等)の要件が合わなかった」といった業務要件に基づく内容です。一方、「メンタルの問題が心配だった」「体調面で不安があった」といった健康状態に直接言及する記述は、後に説明を求められたときに問題になりやすいため、記録への記載は避けます。

「なぜ断ったのか」を問われたときの対応準備

求職者や就労支援機関から不採用理由を問われることがあります。そのときに「業務要件との適合性」を軸にした合理的な説明ができるよう、選考中から評価基準を明確にしておくことが重要です。評価シートや採点基準を書面で残しておくと、後日の説明責任に備えられます。採用判断は「誰が見ても業務要件に基づいている」という透明性が、法的リスク回避の最大の防御になります。

採用面接の判断基準を整備しておくことで、後からの説明トラブルも減ります。人事だけで決めきるのが難しい場合は、専門家への相談も活用できます。

まとめ

採用面接でメンタルヘルスの素因が浮かび上がった場合、重要なのは「病歴を知ること」ではなく「業務遂行能力と必要な配慮を正確に把握すること」です。法的リスクを回避しながら公正な判断を行うために、この記事では5つの観点を整理しました。法律の理解(差別禁止と採用の自由の区別)、質問設計(できる質問・できない質問の区別)、代替評価手段(行動面接・トライアル活用)、配慮の現実的な検討(自社キャパシティとの照合)、そして不採用理由の適切な記録化です。

「漠然とした不安」で優秀な候補者を排除することも、「問題が起きてから考える」ことも、どちらも会社にとって損失です。採用前の段階でメンタルヘルス対応の方針を整理しておくことが、入社後のトラブルを減らす最大の予防策になります。

ウェルセンス株式会社では、専任人事のいない成長企業向けに、採用基準の整備から休職復職対応まで一貫してサポートしています。「うちの会社の規模でどこまで対応すればいいか分からない」「採用後のフォロー体制をゼロから作りたい」という場合は、まずお気軽にご相談ください。

よくある質問

Q. 面接中に候補者が「うつ病で休職していた」と話してきました。その後どう対応すればいいですか?

A. まず、情報を自然に受け止め、圧迫的な反応は避けてください。その後、「業務の遂行に何か影響がありますか?」「配慮が必要な点はありますか?」と業務に関連した確認に切り替えます。病名・治療内容・再発可能性などを掘り下げることは不適切です。候補者が自ら開示した情報は、業務適性の確認に限定して活用するよう心がけてください。

Q. 休職歴を理由に不採用にすると、法的に問題になりますか?

A. 候補者が障害者手帳を保持している場合、障害を理由とした不採用は障害者雇用促進法(第35条)の差別禁止規定に抵触する可能性があります。手帳を保持していない一般求職者については現時点で同法の直接適用は限定的ですが、今後の法改正の動向に注意が必要です。いずれの場合も、不採用の判断根拠は「業務要件との不一致」という事実ベースで記録し、健康状態を直接の理由として記録することは避けてください。

Q. リファレンスチェックに前職企業が応じてくれません。どうすればいいですか?

A. 前職企業が「在籍確認のみ」しか応じないケースは多くあります。その場合は、行動面接(STAR法)を活用して候補者自身から過去の行動パターンを引き出す、職務経歴書の空白期間を中立的に確認する、トライアル雇用制度を活用して試用期間中に適性を見極めるといった代替手段を組み合わせることが有効です。リファレンスがなくても、質問設計と書類確認の精度を上げることで判断の根拠を積み上げることができます。

Q. 産業医がいない小規模企業でも、合理的配慮を提供する義務はありますか?

A. 障害者手帳保持者を採用する場合、企業規模に関わらず合理的配慮の提供が義務となります(障害者雇用促進法。2016年より義務化)。ただし「過重な負担にならない範囲」という条件があり、小規模企業であることは過重な負担の判断材料として考慮されます。産業医の選任義務は常時50名以上の事業場ですが、50名未満でも地域産業保健センターの無料相談を利用することができます。まず「自社でできる配慮」と「対応が難しい配慮」を整理しておくことが重要です。

Q. 採用面接で聞いた健康情報は、入社後のマネジメントに活用できますか?

A. 採用選考時に得た健康情報の入社後活用には、本人の同意が必要です。採用時の健康診断で得た情報と、面接で聞いた情報は法的な位置付けが異なります。入社後に必要な配慮や対応を検討する際には、改めて本人との面談で現在の状況・希望を確認することをおすすめします。過去の開示内容だけに頼らず、「今」の本人の声を聞くことが、信頼関係と適切な対応につながります。

【監修】ウェルセンス株式会社
ウェルセンスは、メンタル不調者対応・休職復職支援に強い職場メンタルケアサービスです。産業医・保健師・心理士・社労士などの専門家ネットワークが、人事・管理職だけでは判断しづらいケースの初動対応、専門家連携、再発防止まで支援します。

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