メンタル不調社員の業務軽減でチームが荒れたら

メンタル不調社員の業務軽減でチームが荒れたら メンタルヘルス対応
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「あの人だけ楽してずるい」——ある日、信頼していたベテラン社員からそんな言葉を聞かされたとき、あなたはどう答えましたか。メンタル不調の社員を守るために業務を減らした判断は間違っていない。でも、チームが荒れているのも事実。この板挟みの状況に、正解があるとしたら知りたいはずです。この記事では、業務軽減を行ったあとにチームの不満が噴き出したとき、経営者・兼務人事担当者がとるべき具体的な対処の考え方と手順を整理します。

業務軽減の判断は間違っていない

メンタル不調社員の業務を減らすことは、法的義務に基づく正当な配慮であり、経営者や管理職の裁量による「えこひいき」ではありません。この前提を正確に理解することが、チームの混乱を収めるための出発点になります。

安全配慮義務という法的根拠

労働契約法第5条は、「使用者は、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする」と定めています。これを「安全配慮義務」といいます。メンタル不調を抱える社員が無理をして業務を続けた結果、症状が悪化した場合、会社は義務違反を問われるリスクがあります。業務軽減は、この義務を果たすための行為です。「特別扱い」ではなく、「義務の履行」なのだという認識を、まず担当者自身がしっかり持っておく必要があります。

「不公平」と「不平等」は違う

チームメンバーが感じる「不公平感」は、実は「同じ扱いを受けていない=不平等だ」という感覚から来ていることがほとんどです。しかし、公平とは「同じ対応をすること」ではなく、「その人の状況に応じた適切な対応をすること」です。たとえば、骨折した社員がギプスをつけて重い荷物を運ばなくてよいことを「ずるい」とは言わないはずです。メンタル不調も同様に、目に見えないだけで「状況が異なる」ことには変わりありません。この考え方は、チームへの説明でも使える論点です。

なぜチームが荒れるのか——構造的な原因を理解する

チームの不満は、メンタル不調社員への「感情的な反感」から生じているケースは少なく、多くは「業務のしわ寄せ」と「情報の不透明さ」という二つの構造的な問題から発生しています。

しわ寄せが特定の人に集中する問題

20〜50名規模の企業では、一人が抜けた穴を別の一人が担うことになりがちです。しかも、穴埋めを引き受けるのは往々にして「責任感の強い社員」「几帳面でクオリティを落とせない社員」です。この構造が続くと、「頑張る人が損をする職場」という認識が広がり、当の社員が燃え尽き症候群(バーンアウト)に陥ったり、離職を考え始めるリスクが出てきます。メンタル不調者を守るために、別の社員が追い詰められるという二重の問題が生じている状態です。

「何も説明されない」ことが憶測を生む

チームメンバーは、業務軽減の事実は見えているのに、なぜそうなっているのかが伝えられていません。人は理由がわからないとき、最悪の解釈をしやすくなります。「あの人は特別扱いされている」「経営者と仲がいいから」「大げさに騒いだから楽をさせてもらえている」——こうした憶測が広がることで、不満はさらに大きくなります。情報を開示できない理由があることは理解されていても、「何も言われない」こと自体が不信感の温床になるのです。

開示できる情報・できない情報の線引き

健康に関する詳細情報は開示できませんが、「配慮している事実と根拠の構造」は伝えることができます。この二つを混同しないことが、チームへの説明を設計するうえで最も重要なポイントです。

要配慮個人情報としての健康情報

病名・診断内容・通院状況などの健康情報は、個人情報保護法第2条第3項に定める「要配慮個人情報」に該当します。本人の同意なく、他の社員に開示することは原則として認められません。「なぜ理由を話してくれないのか」とチームメンバーに問われたとき、「法律上、健康に関する個人情報は本人の同意なく他者に伝えることができません」という説明自体が、一定の納得感を生むことがあります。「隠しているのではなく、開示できない」という違いを丁寧に伝えることが大切です。

伝えられる「枠組み」の言葉

詳細は言えなくても、以下のような枠組みの説明は可能です。

  • 「健康上の理由で、医師の指示のもと業務を調整しています」
  • 「会社として法的な義務に基づき、適切に対応しています」
  • 「詳しい内容はお伝えできませんが、会社として責任を持って判断しています」
  • 「この状況がいつまで続くかは、本人の回復状況によりますが、定期的に見直しを行っています」

「理由は言えないが、ちゃんと考えて決めている」という姿勢を、言葉で示すことが信頼維持の核心です。

チームへの対応を3層で設計する

チームが荒れたときの対応は、「全体への一括説明」ではなく、対象者ごとに場を分けた3層構造で設計することが混乱を防ぐ鍵になります。

本人との個別確認

まず最初に取り組むべきは、当事者本人との個別面談です。現在の体調・業務に戻る見通し・チームメンバーにどこまで伝えてよいかの意向を確認します。本人が「同僚に何も話さないでほしい」と望む場合はその意向を尊重しつつ、「会社として対応していることだけは伝える」という方針を共有します。本人が孤立感を抱かないよう、「あなたのことを会社として守っている」というメッセージを伝えることも忘れずに。

チーム全体への管理職説明

次に、管理職(または経営者)からチームメンバーに対して、個人情報に踏み込まない範囲で会社の対応方針を説明します。この場は、個人を責める雰囲気にならないよう、事前に発言内容を整理しておくことが重要です。「チームとして一緒に乗り越えていくために、現状をお伝えします」という導入から始め、「何かあれば個別に話を聞く」という姿勢を示すと、心理的な安全性が保たれやすくなります。

業務を肩代わりしている社員への個別対話

最も見落とされがちなのが、負担を引き受けている社員への個別対応です。業務増加が「見えていない・評価されていない」と感じさせてしまうことが、「頑張り損」という認識につながり、二次的な離職リスクを生みます。具体的に「あなたが引き受けてくれていることは把握しています」「評価にきちんと反映させます」あるいは「一時的な負担を本当に申し訳なく思っています」と、言葉で明確に伝えてください。感謝と見通しをセットで伝えることが大切です。

対話の相手 伝えるべき内容 注意点
本人(不調社員) 現状・見通し・開示範囲の確認 本人の意向を尊重し、孤立させない
チーム全体 会社の対応方針と根拠(個人情報なし) 個人を標的にする雰囲気を作らない
負担を担う社員 感謝・評価・見通しの明示 「見ていない」と思わせない

やってはいけない対応——よくある失敗パターン

チームの不満を収めようとするあまり、本人への配慮を後退させる判断は、問題を解決するどころか新たなリスクを生みます。代表的な失敗パターンを整理します。

「不満を鎮めるために本人に頑張らせる」という誤り

チームの不満が高まると、「本人にもう少し頑張らせれば収まる」「業務制限を早く解除しよう」という判断に走ってしまう経営者・管理職が少なくありません。しかしこれは、医師の指示を無視した形での業務復帰の強要につながり、本人の症状悪化・休職の長期化、最悪の場合はハラスメントとして問題化するリスクがあります。「チームへの不満対応」と「本人の業務軽減の判断」は、切り離して考えることが鉄則です。

「全員に同じ説明をする場」を設定する失敗

全社ミーティングや朝礼の場で、当事者本人も同席したままこの問題を議論しようとするケースもあります。本人がいる場で配慮の話をすることは、本人を傷つける可能性があります。また本人不在で話すと、陰口・さらし者のような構造になりかねません。場の設計は、前述の3層に分けるのが基本です。

「見えない評価」のまま放置する失敗

業務を肩代わりした社員への対応を後回しにすることも、よくある失敗です。「なんとかしてくれているだろう」という曖昧な期待のまま放置すると、その社員が「自分は使い捨てにされている」と感じ、静かに離職活動を始めるケースが実際に起きています。感謝と評価の明示は、早ければ早いほど効果があります。

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会社の規模・体制別に判断を変える

対応の手順は、産業医の有無・就業規則の整備状況・専任人事の有無によって変わります。自社の状況に照らして判断してください。

産業医が選任されている場合

従業員50名以上の事業場では産業医の選任が義務付けられています(労働安全衛生法第13条)。産業医が選任されている場合は、業務軽減の判断を産業医の意見書に基づいて行うことが、チームへの説明においても「医学的・組織的な根拠がある」ことを示す材料になります。「会社が勝手に決めた」ではなく「医師の意見に基づいている」という事実は、チームメンバーへの説明の信頼性を高めます。

産業医がいない・就業規則が未整備の場合

20〜49名規模の企業では産業医の選任義務はありませんが、主治医の診断書・意見書を活用することで、医学的根拠のある対応として位置づけることができます。また、就業規則に休職・復職・業務軽減に関する規定がない場合、今回の事例を機に整備を検討する価値があります。規定があることで、「ルールに基づいた対応」として説明がしやすくなり、次に同様の事例が起きたときの再現性も高まります。

まとめ

メンタル不調社員の業務軽減によってチームが荒れたとき、まず確認すべきことは「業務軽減の判断自体は法的義務に基づく正当な対応である」という前提です。チームの不満の根本には「業務のしわ寄せ」と「情報の不透明さ」という構造的な問題があり、これを「本人への配慮を後退させる」ことで解決しようとすれば、問題はさらに複雑になります。

対応のポイントは、本人・チーム全体・負担を担う社員の3層に分けて個別に対話を設計すること、開示できる情報と開示できない情報の線引きを明確にすること、そして業務を引き受けた社員への感謝と評価を言葉と処遇で示すことです。

こうした対応は、専門知識なしに一人で設計するには難しい部分も多くあります。困ったときは、外部の専門家に頼ることも大切な判断です。ウェルセンス株式会社では、このような「チーム内の不満と本人対応の板挟み」という状況への対応方針整理から実際の対話設計まで、一緒に考えさせていただきます。お気軽にご相談ください。

よくある質問

Q. チームメンバーから「なぜあの人だけ楽をしているのか」と直接聞かれました。どう答えればよいですか?

A. 「健康上の理由で、医師の指示のもと業務を調整しています。詳しい内容はお伝えできませんが、会社として法的な義務に基づき、適切に対応しています」という説明が基本形です。理由を隠しているのではなく、法律上開示できない情報であることを丁寧に伝えることで、不信感をある程度和らげることができます。あわせて、「チームへの負担については会社として責任を持って対応する」という言葉を添えてください。

Q. 業務を肩代わりしている社員が「こんな会社では働けない」と言い始めました。引き止めるにはどうすればよいですか?

A. まず、その社員の負担と貢献を「見ている」ことを具体的な言葉で伝えることが最優先です。「あなたが引き受けてくれていることは把握しています」「この状況は一時的なものであり、評価にきちんと反映します」という二点を、できるだけ早く個別に伝えてください。感情的な不満の背後には、「頑張りが報われない」という認識があることが多く、承認と見通しの提示が引き止めの第一歩になります。

Q. 本人の病名や診断内容をチームに話してはいけないのですか?

A. 健康情報は個人情報保護法上の「要配慮個人情報」にあたり、本人の同意なく他の社員に開示することは原則として認められていません。ただし、本人が「チームに伝えてほしい」と望む場合は、本人と相談のうえで開示範囲を決めることができます。まず本人の意向を確認し、その範囲内で対応するのが基本です。

Q. チームの不満が収まらないので、業務軽減を早く終わらせて復帰させたいと思っています。問題はありますか?

A. チームの不満を理由に業務軽減を早期終了させることには、重大なリスクがあります。本人の症状が悪化した場合、会社は安全配慮義務違反を問われる可能性があります。また、本人が回復していない状態での復帰強要はハラスメントと判断されるケースもあります。業務軽減の判断は、主治医や産業医の意見に基づいて行うことが原則です。チームの不満への対処と、本人の業務軽減の判断は切り離して考えてください。

Q. 産業医がいない中小企業でも、医学的根拠に基づいた対応はできますか?

A. できます。産業医の選任義務がない規模の企業(49名以下)では、主治医の診断書や意見書を活用することで、医学的根拠のある業務調整を行うことができます。「医師の指示に基づいた対応である」ということ自体が、チームへの説明においても一定の客観性を持たせる根拠になります。対応に迷う場合は、外部の専門家(社労士・メンタルヘルス支援機関等)に相談することも有効な選択肢です。

【監修】ウェルセンス株式会社
ウェルセンスは、メンタル不調者対応・休職復職支援に強い職場メンタルケアサービスです。産業医・保健師・心理士・社労士などの専門家ネットワークが、人事・管理職だけでは判断しづらいケースの初動対応、専門家連携、再発防止まで支援します。

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