「お母さんの介護で疲れ果てて、もう限界です」——そう打ち明けてきた社員に、あなたはどう答えますか。診断書には「うつ病」と書いてあるのに、話を聞けば介護が原因らしい。介護休業を案内すべきか、休職を取らせるべきか、それとも両方使えるのか。介護とメンタル不調が重なったケースは、制度の使い分けが複雑で、専任人事のいない職場では判断に迷うことが少なくありません。この記事では、介護休業と休職の違いと使い分けの考え方、会社として担える支援の範囲、そして対応を誤ったときのリスクを、実務に即して解説します。
介護休業と休職は「目的が違う別の制度」である
結論から言えば、介護休業と休職(私傷病休職)は目的がまったく異なる別制度であり、要件を満たせば連続・並行して使うことができます。「どちらか一方しか使えない」という誤解が、担当者の判断を迷わせる最大の原因です。
介護休業は「介護体制を整えるための休業」
育児・介護休業法に基づく介護休業は、要介護状態にある家族(配偶者・父母・子・配偶者の父母など)を介護するために取得できる制度です。対象家族1人につき通算93日、3回まで分割して取得できます。取得中は雇用保険から介護休業給付金(賃金日額の67%相当)が支給されます(受給要件あり)。
重要なのは、この93日という期間の意味です。育児・介護休業法の立法趣旨は「介護が終わるまでの長期休業を保障すること」ではなく、「介護サービスや家族内の役割分担など、介護の体制が整うまでの移行期間を確保すること」です。介護が長期化・重度化しても93日で制度上の権利は終わります。その後の継続的な就業調整には、短時間勤務(所定労働時間の短縮等の措置)や残業免除といった別の仕組みを組み合わせる必要があります。
休職(私傷病休職)は「療養のための制度」
一方、休職(私傷病休職)は法律上の義務規定ではなく、就業規則に基づく会社独自の制度です。うつ病や適応障害などのメンタル不調によって就労が困難な状態にある社員に、療養期間を与えることを目的としています。介護休業が「介護をするための休み」であるのに対し、休職は「本人が治療・療養するための休み」です。この目的の違いを押さえておくことが、使い分けの出発点になります。
2つの制度は「排他的ではない」
介護が背景にあってもメンタル不調の診断が出ているなら、休職の要件を満たします。また、休職終了後も介護が継続している場合は、介護休業や短時間勤務への移行が可能です。制度は「どちらか一方しか使えない」ではなく、状況に応じて連続・組み合わせて活用できます。ただし、使う順番と判断の根拠を誤ると、本人も会社も行き詰まります。次のセクションで具体的な使い分けの考え方を整理します。
「介護なのか、メンタル不調なのか」切り分けの考え方
担当者が最も悩むのは、「介護が原因でメンタルが壊れている」という複合状態の社員に、どちらの制度を先に案内すべきかという点です。実務上の安全策は、まず医療的な判断を先行させることです。
診断書の内容を起点にする
担当者が医療的判断をする必要はありません。主治医が「就労困難」と判断した診断書が出ているなら、その時点で休職(私傷病休職)の対象となります。介護が原因であろうとなかろうと、就労不能という医療的事実が先に立ちます。「介護が主因なのかメンタルが主因なのか」を会社側が判定しようとすると、判断を誤るリスクが高まります。まず「本人は今、就労できる状態か」という一点だけを確認してください。
就労できる状態であれば介護休業を検討する
本人のメンタル状態は維持されており、介護のために物理的に職場を離れる必要がある場合は、介護休業が適切です。たとえば「親が突然入院し、退院後の介護体制が整うまで職場を離れたい」という状況がこれにあたります。この場合、申請は原則として休業開始日の2週間前までに書面等で行う必要があります。
判断軸を整理する
| 社員の状況 | 優先する制度 |
|---|---|
| 介護のために勤務できないが、本人の体調は維持されている | 介護休業 |
| 介護疲れ等でメンタル不調となり、就労不能と診断されている | 休職(私傷病休職) |
| 介護しながらメンタルも不調(複合状態) | まず休職を先に使うのが実務上の安全策 |
| 休職終了後も介護が継続している | 介護休業・短時間勤務等へ移行を検討 |
会社はどこまで踏み込んでよいか——支援の「線引き」
「介護はプライベートな問題なのに、どこまで聞いていいのか」という不安を持つ担当者は多いです。結論として、会社が担うべきは「制度の案内と就業上の配慮」であり、介護の内容や家族関係への介入は必要ありません。
会社の役割は「制度の入口を整えること」
担当者がやるべきことは、社員が使える制度(介護休業・休職・短時間勤務・残業免除など)を正確に伝え、申請できる環境を整えることです。「何の制度が使えるか知らないまま欠勤が続く」という状態が、最もリスクの高い状況です。制度の存在を案内することは、プライバシーへの介入ではなく、会社の義務的な情報提供です。
本人が「知られたくない」と言ったときの対応
介護休業の申請を嫌がる社員は珍しくありません。「職場に介護していることを知られたくない」という心理は自然なことです。この場合、申請に必要な情報を最小限にとどめること、担当者以外には情報を共有しないことを明確に伝えると、心理的なハードルが下がることがあります。それでも本人が拒む場合、無理に申請させることはできません。ただし、欠勤が続く状態を曖昧なまま放置することも会社として問題があります。「制度を使わないなら、現状をどう整理するか」を本人と率直に話し合う場を設けることが重要です。
踏み込んではいけない領域
家族の病状の詳細、介護の具体的な内容、家族間の関係性——これらは就業上の配慮に直接必要でない限り、確認する必要はありません。「要介護状態にある家族がいる」という事実と「本人の就労状態」の2点が把握できれば、制度の案内は十分にできます。過度に踏み込むことで、ハラスメントと受け取られるリスクもあります。
対応を誤ったときのリスクと最低限やるべきこと
制度の案内を怠ったり、不適切な対応をとったりした場合、会社は法的リスクと人的損失の両方を負うことになります。最低限押さえておくべき知識を整理します。
育児・介護休業法と労働契約法が定める保護
介護休業の申出・取得を理由とした解雇・降格・不利益な配置転換等は、育児・介護休業法で明示的に禁止されています。また、メンタル不調を理由とした解雇には、労働契約法第16条に基づく「解雇権濫用法理」が適用されます。療養中の社員を「治らないから」という理由で解雇すると、不当解雇として争われるリスクが高くなります。
復職判断を誤ると再発リスクが高まる
休職から「体調が回復した」と言って復職を希望する社員が、介護状況が何も変わっていない場合、復職後に短期間で再不調に陥るケースは実務上よく見られます。復職の可否を判断する際には、主治医の復職可能の意見書だけでなく、「職場環境(業務量・勤務時間)が本人の現在の状態に合っているか」「介護との両立ができる条件が整っているか」を合わせて確認することが重要です。産業医が選任されている場合(従業員50名以上で義務)は、産業医の意見も取り入れてください。50名未満で産業医がいない場合は、地域産業保健センターの無料相談や、外部の専門家との連携を検討する価値があります。
担当者が一人で抱え込まないための体制づくり
20~50名規模の企業では、EAP(従業員支援プログラム)や産業医が未導入のケースが多く、担当者が医療・福祉・法律にまたがる問題を一人で対応することになりがちです。しかし、個別の事案に正確に対応しようとするほど、担当者自身が疲弊します。「制度の案内と就業上の配慮」は会社が担い、「医療的判断」は主治医・産業医が担い、「介護サービスの調整」は地域包括支援センター等の福祉専門職が担う——という役割の分担を意識するだけで、担当者の負担は大きく変わります。
🔗 社員のメンタル不調に、精神科・心療内科医によるスポット産業医サービス →
93日が終わった後——長期化する介護への対応設計
介護休業の93日を消化した後に何も手が打てていないと、社員は「もう制度がない」という状態になり、退職か無断欠勤かという二択に追い込まれます。93日はゴールではなく、次の体制を整えるための期間です。
介護休業終了後に使える制度
育児・介護休業法は、介護休業とは別に、連続する3年以上の期間にわたって所定労働時間の短縮等の措置(短時間勤務など)を講じることを事業主に義務付けています(2回以上の利用が可能)。また、介護を行う社員には残業免除を申し出る権利も認められています。これらの制度を組み合わせることで、介護と就業の両立を継続的に支援できます。
休職・介護休業・短時間勤務の「つなぎ方」を事前に設計する
複合事案(メンタル不調と介護が重なるケース)では、「休職→回復→介護休業→短時間勤務」という段階的な移行パスを、本人・会社・主治医で共有しておくことが重要です。次のステップが見えている社員と、見えていない社員とでは、回復のスピードも、会社への信頼度も大きく異なります。
就業規則に介護関連の規定があるか確認する
法定の介護休業制度は育児・介護休業法で定められていますが、休職制度は就業規則次第です。就業規則に「私傷病休職」の規定があるかどうか、休職期間の上限がどう設定されているかを事前に確認してください。規定がない・曖昧な場合は、今後のトラブル予防のために専門家へ相談して整備することをお勧めします。
🔗 人事だけで抱えない。メンタル不調者面談や休職・復職対応を、1件からスポットでご相談 →
まとめ
介護休業と休職は、目的が異なる別制度です。「介護のために離れる」のが介護休業、「メンタル不調で療養する」のが休職であり、要件を満たせば連続・組み合わせて使えます。複合状態の社員には、まず医療的判断(就労可能かどうか)を先行させ、就労不能であれば休職を優先するのが実務上の安全策です。会社が担うのは「制度の案内と就業上の配慮」であり、介護内容への過度な介入は不要です。介護休業の93日は「体制整備のための期間」であることを忘れず、終了後の短時間勤務や残業免除といった継続的な支援策も合わせて設計しておきましょう。
こうした複合事案は、担当者一人で判断するには難しいケースが多くあります。ウェルセンス株式会社では、20~50名規模の企業における休職・復職支援やメンタルヘルス対応について、人事の専門知識がなくても相談できる体制を整えています。介護休業と休職の使い分けに迷ったときや、社員の復職判断について確認したいときなど、「まず話を聞いてほしい」という段階からご相談いただけます。一人で抱え込む前に、お気軽にお声がけください。
よくある質問
ウェルセンスは、メンタル不調者対応・休職復職支援に強い職場メンタルケアサービスです。産業医・保健師・心理士・社労士などの専門家ネットワークが、人事・管理職だけでは判断しづらいケースの初動対応、専門家連携、再発防止まで支援します。
不調者対応を、人事だけで抱えない。
メンタル不調者面談や休職・復職対応を、1件からスポットでご相談いただけます。


