「契約社員が体調を崩して長期欠勤になった。休職制度を使わせてあげたいけど、うちの規定は正社員向けで…」。そんな悩みを抱える経営者・人事担当者は少なくありません。非正規社員への休職制度の適用は、法律・リスク・公平性が絡み合う複雑なテーマです。この記事では、契約社員・パートへの休職対応を実務目線で整理します。
休職制度は「会社が自由に設計できる任意制度」
法律には規定がない
まず大前提として、休職制度は労働基準法に定められた義務ではありません。産前産後休業や育児休業は法律上の権利ですが、私傷病(業務外の病気・けが)による休職制度は、会社が就業規則で任意に設ける制度です。つまり、「誰に適用するか」「期間をどう設けるか」は、原則として会社が自由に決めることができます。
「就業規則に書いていない=即解雇できる」ではない
「うちの就業規則には休職のことが書いていないから、欠勤が続いたら辞めてもらうしかない」と考えている方もいますが、これは危険な誤解です。就業規則に休職制度の規定がなくても、体調不良を理由に即座に解雇できるわけではありません。労働契約法第16条の解雇権濫用法理は雇用形態を問わず適用され、解雇が有効と認められるには客観的合理的な理由と社会通念上の相当性が必要です。制度がないからこそ、対応方針を明確にしておく必要があります。
「休業」と「休職」の違いを押さえる
実務上、この2つを混同するケースがよくあります。「休業」は会社都合または法律上の権利として認められるもの(産休・育休など)を指し、「休職」は私傷病などを理由に会社が解雇を猶予する制度です。非正規社員に正式な休職「制度」を適用しない場合でも、欠勤・休業として処理しながら解雇を猶予する運用は可能です。ただしその場合も、対応ルールを社内で明文化しておくことが、後のトラブル防止につながります。
非正規社員に休職制度を適用しないと「違法」になる場合がある
パートタイム・有期雇用労働法の「不合理な待遇差の禁止」
2021年4月(中小企業への適用開始)から、パートタイム・有期雇用労働法により、正社員と非正規労働者の間の「不合理な待遇差」が禁止されています。休職制度もこの対象になりえます。「正社員だけに休職を認め、契約社員・パートには一切認めない」という運用が、職務内容や責任の範囲から見て合理的な理由のない差別であれば、違法と判断されるリスクがあります。
日本郵便事件(最高裁2020年判決)が示した教訓
2020年10月に最高裁判所が下した日本郵便事件の判決では、有給の病気休暇について、正社員と契約社員の間の格差が「不合理」と判断されました。この判決は休職・病気休暇の設計に直接影響する重要な先例です。すべての待遇を正社員と揃える必要はありませんが、「正社員だから」というだけでは差をつける合理的理由にはなりません。職務内容・責任・配置転換の範囲などを踏まえた合理的な線引きが求められます。
待遇差の「説明義務」も忘れずに
パートタイム・有期雇用労働法第14条では、事業主は非正規労働者から待遇差の理由を求められた場合、説明する義務があります。「なぜ正社員には休職があって、自分にはないのか」と聞かれたとき、合理的に説明できる状態にしておく必要があります。この準備ができていない企業ほど、トラブルが発生したときに対応が後手に回りがちです。
有期契約社員特有の「契約期間満了と休職の重なり」問題
「契約期間満了=雇い止め自由」ではない
たとえば、3ヶ月更新の契約社員が2ヶ月目でうつ病を発症したケース。「あと1ヶ月で契約満了だから、更新しなければいい」と考えたくなりますが、これは必ずしも許されません。労働契約法第19条(雇い止め法理)により、有期契約を繰り返し更新してきた社員を、実質的に正社員と同様の状況にある場合は、正当な理由なく雇い止めすることが制限されます。「何度も更新してきたパートを、体調不良を理由に更新拒否した」というケースで会社が敗訴した事例は複数あります。
通算5年を超えた有期契約者は特に注意
労働契約法第18条(無期転換ルール)により、同一使用者のもとで通算5年を超えて有期契約を更新した労働者は、無期労働契約への転換を申し込む権利を持ちます。この権利を持つ社員を休職中に雇い止めにすることは、さらにリスクが高まります。在籍年数の長いパートや契約社員については、雇用の実態を確認した上で対応を判断することが重要です。
休職期間中に契約満了が来た場合の現実的な対処
原則として、契約期間満了による雇用終了は可能です。ただし、傷病を理由とした雇い止めに見える場合は紛争リスクが高まります。実務上は、まず「本人の状態・回復見通し」「契約更新の経緯」「代替業務の有無」を確認し、必要に応じて社労士や弁護士に相談した上で対応方針を決めることを強くお勧めします。その場の判断で動くより、専門家の助言を得てから動く方が、長期的なリスクを大幅に下げられます。
雇用形態別に考える「現実的な休職・欠勤対応」
正社員との対応差をどこで線引きするか
パートタイム・有期雇用労働法が求めているのは「完全に同じ待遇」ではなく、「不合理な格差をなくすこと」です。たとえば、正社員には最大6ヶ月の休職期間を認め、週3日勤務のパートには最大3ヶ月を認めるといった設計は、職務内容・勤務日数・責任の範囲の差として合理的に説明できる場合があります。一方で、「正社員には給与保障あり・パートは無給」という差については、業務の内容や責任範囲が類似する場合に不合理と判断されるリスクがあります。
「一人に認めたら全員に認めなければいけないのか」という疑問
この疑問はよく出ますが、答えは「就業規則・雇用形態・職務内容に基づいた一貫したルールがあれば、個別対応でなくなる」です。問題が起きるのは、ルールがなく「この人だけ特例」という属人的な対応をしてしまうケース。就業規則にパート・契約社員への対応方針を明記しておけば、「ルールに従った運用」として説明できます。逆にルールなしの個別対応を続けると、「あの人だけ」という不満と法的リスクが同時に高まります。
就業規則の整備は「正社員規定に一文追記」でも始められる
別途パート・契約社員用の就業規則を作ることが理想ですが、まずは正社員の就業規則に「パートタイム・契約社員については、職務内容・勤務形態を考慮した上で、別途定める基準に従い対応する」と一文入れるだけでも、運用の根拠が生まれます。その上で、具体的な対応フロー(休職申請→診断書提出→期間の目安→復職判断の基準)をメモ書きレベルでもドキュメント化しておくことが、実務上のリスクを大きく下げます。
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トラブルを防ぐ「休職・欠勤対応フロー」の作り方
欠勤が続いたら早めに「状況確認」を行う
非正規社員が体調不良で欠勤し始めたとき、多くの企業は「様子を見よう」と放置しがちです。しかし放置期間が長引くほど、対応の選択肢が狭まります。欠勤3日目以降は本人または家族に状況を確認し、「いつ頃復帰できそうか」「医療機関を受診しているか」を把握するだけで、その後の対応が大きく変わります。この段階で診断書の提出を求めることも、後の判断に役立ちます。
「休職を認める・認めない」の判断基準を決めておく
雇用形態ごとに、どのような場合に休職を認め、期間はどのくらいまでとするかを事前に決めておくことが大切です。たとえば「週30時間以上勤務の契約社員は最大2ヶ月・週20時間未満のパートは最大1ヶ月」のように、勤務実態に基づいた基準を設けておけば、個別判断のブレが減り、社員への説明も明確になります。
復職判断も「基準」があるかどうかで現場の負担が変わる
休職させた後、「いつ・どんな条件で復職を認めるか」の基準がないと、担当者が毎回悩むことになります。最低限、「主治医の診断書で復職可と判断されること」「復職前に上長と面談を行うこと」の2点を定めるだけで、現場の混乱が格段に減ります。メンタル不調による休職の場合は、産業医や外部の専門家を交えた復職判断フローを設けることが、本人にとっても会社にとっても安全です。
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まとめ
契約社員・パートへの休職制度の適用は、「義務ではないが、対応しないとリスクがある」という複雑なテーマです。パートタイム・有期雇用労働法による不合理な待遇差の禁止、雇い止め法理による契約更新制限、解雇権濫用法理の非正規への適用——これらを踏まえると、「非正規だから何もしなくていい」という発想は通用しません。一方で、すべての待遇を正社員と揃える必要もなく、合理的な理由に基づいた設計であれば差をつけることは認められています。
まず取り組むべきは、就業規則への対応方針の明記と、雇用形態別の欠勤・休職フローのドキュメント化です。「いざ問題が起きてから考える」では対応が後手に回り、トラブルに発展しやすくなります。ウェルセンス株式会社では、専任人事のいない中小企業の経営者・人事担当者が直面する、こうした休職・復職対応の整備をサポートしています。「自社の状況をまず相談したい」という段階でも、お気軽にご連絡ください。
よくある質問
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