裁量労働制、中小企業でも導入できる?

裁量労働制、中小企業でも導入できる? 労務管理
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「うちのエンジニア、『もっと自由に働きたい、副業もしたい』と言い出して……正直、手放したくないんですよね」。そんな相談が、中小企業の経営者から増えています。優秀な人材ほど、働き方への要求水準が高い。かといって、なんでも認めたら法的に問題が起きないか不安――。この記事では、裁量労働制の法的要件と導入手続きを中心に、中小企業が「個人事業主的な働き方」の要望にどこまで応えられるかを、実務的に整理します。

裁量労働制とは何か、どの職種に使えるか

裁量労働制とは、実際の労働時間にかかわらず、あらかじめ決めた「みなし労働時間」を働いたものとみなす制度です。ただし適用できる職種は法令で厳しく限定されており、「自由に働かせたい社員全員に使える」制度ではありません。

専門業務型裁量労働制

対象業務は省令で列挙された19業務(令和6年時点)に限られます。情報処理システムの設計・プログラミング、コピーライター、弁護士、研究開発、デザイナー(一部)などが含まれます。自社のエンジニアやデザイナーが該当するかどうかは、業務の実態で判断します。たとえば「システムの設計・分析」は対象ですが、単純なデータ入力作業は対象外です。

手続きとしては、労使協定の締結と労働基準監督署への届出が必要です。また2024年4月施行の改正労働基準法により、本人同意の取得と同意撤回の機会確保が義務化されました。本人が「やっぱり通常の労働時間管理に戻りたい」と言えば、会社は拒否できません。

企画業務型裁量労働制

「事業の運営に関する企画・立案・調査・分析」を担う社員が対象で、管理職に準じる立場を想定しています。一般の営業担当や事務職には適用できません。手続き面では、労使委員会の設置・5分の4以上の議決・労働基準監督署への届出と、専門業務型より要件が重く、20~50名規模の中小企業では運用負担が大きいのが実情です。

裁量労働制を適用しても残る義務

よくある誤解が「裁量労働制を入れれば残業代ゼロにできる」というものです。深夜労働(22時~5時)と休日労働の割増賃金は、裁量労働制を適用していても必ず支払わなければなりません。また、みなし時間が実態よりも著しく短い設定になっている場合は未払い賃金リスクが生じます。健康管理義務・過重労働対策義務も免除されません。

中小企業が裁量労働制を導入するための手続き

裁量労働制の導入は、手続きを正しく踏めば中小企業でも可能です。ただし「社員と口頭で合意した」だけでは法的に無効であり、書面・届出が必須です。

専門業務型を導入する場合の流れ

まず、対象社員の業務が省令の19業務に該当するかを確認します。次に、労働者の過半数代表(労働組合がなければ従業員から選ばれた代表者)と労使協定を締結します。協定には「対象業務」「みなし労働時間数」「健康・福祉確保措置」「苦情処理措置」「本人同意に関する事項」を盛り込む必要があります。その後、所轄の労働基準監督署に届け出て、対象者から個別に同意を取得して初めて制度が動き出します。

就業規則との整合確認

現行の就業規則に裁量労働制に関する規定がない場合は、就業規則の改定も必要です。10人以上の事業場では就業規則の届出義務があります。就業規則と労使協定の内容が矛盾していると、紛争の原因になります。制度を入れる前に、専門家に確認してもらうことを強くおすすめします。

フレックスタイム・リモートワークとの組み合わせ

すでにフレックスタイム制やリモートワークを導入している企業では、「何をさらに追加すれば良いのか」と混乱することがあります。フレックスタイム制は始業・終業時刻を本人に委ねる制度で、総労働時間の管理は続きます。裁量労働制は労働時間の管理そのものを「みなし」に置き換えるため、性格が異なります。両制度を同時に適用することはできません。リモートワークはどちらの制度とも併用可能です。

「業務委託に切り替えれば良い」が危険な理由

雇用契約を業務委託契約に切り替えることで柔軟な働き方を実現しようとするケースがありますが、実態が雇用であれば契約の名称にかかわらず「労働者」と判断されます。この判断を甘く見ると、深刻な法的リスクを招きます。

「労働者性」の判断基準

厚生労働省の通達(労働基準法研究会報告・昭和60年)では、以下の観点から労働者性を判断します。

判断要素 労働者と判断されやすい実態
仕事の諾否の自由 断ると関係が悪化する、事実上断れない
指揮命令の有無 上司の指示・管理を受けている
場所・時間の拘束 出社時間・勤務場所が決まっている
報酬の性格 時間給的・固定給的な報酬
機材・費用の負担 会社がPCや備品を支給している

これらが複数当てはまる場合、業務委託契約を結んでいても「偽装請負」と判断される可能性があります。過去の残業代・社会保険料の遡及支払いが命じられたケースもあります。

フリーランス保護新法への対応

特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(フリーランス保護新法)が2024年11月に施行されました。社員を業務委託に切り替えた場合、発注側の企業には契約条件の書面明示、報酬の60日以内支払い、ハラスメント対応措置などの義務が発生します。「社員より管理が楽になる」という期待は誤りで、むしろ新たな義務が加わります。

社会保険・インボイス制度の影響

業務委託に切り替えると会社側の社会保険料負担はなくなりますが、相手方は国民健康保険・国民年金の自己負担が増加します。また相手方がインボイス登録していない免税事業者の場合、消費税の仕入税額控除が受けられない問題も生じます。双方にとってデメリットが大きくなるケースは少なくありません。

副業・兼業を認める場合の整理

副業・兼業を認めることで、社員の「外で稼ぎたい・スキルを試したい」という欲求に応えながら雇用を継続することは可能です。ただし無制限に認めるのではなく、就業規則に明確なルールを設けることが前提です。

副業解禁に必要な就業規則の整備

厚生労働省のモデル就業規則(2018年改定)では副業・兼業を原則容認する方向が示されています。自社の就業規則に「競業避止義務」「情報漏洩禁止」「本業への支障が生じた場合の対応」を明記したうえで、届出制(事前に会社へ報告する)を設けるのが現実的な運用です。

労働時間の通算管理という見えないリスク

労働基準法第38条では、複数の事業場で働く場合、労働時間は通算されます。つまり本業で7時間・副業先で4時間働いた日は、合計11時間として扱われ、残業代の問題が生じる可能性があります。副業を解禁する際は、この「労働時間の通算」ルールを理解し、副業先の雇用形態(雇用か業務委託か)も確認しておく必要があります。副業先が業務委託であれば通算の問題は生じません。

評価制度が整っていないと制度が形骸化する

裁量を与えても、成果の測定指標(KPIや業務目標)が不明確なままでは、本人も上司も何をもって「良い仕事をした」と判断すべきかわかりません。「成果で評価する」と言葉で約束するだけでは、不満や不公平感の原因になります。裁量労働制や副業解禁と同時に、評価基準の言語化・共有が欠かせません。

自社の状況別・現実的な選択肢

中小企業がとれる選択肢は一つではありません。従業員の職種・規模・現状の制度によって、最適な対応は異なります。以下を参考に、自社のケースを整理してください。

対象職種が省令の19業務に該当する場合

専門業務型裁量労働制の導入を検討できます。エンジニア・研究職・コピーライターなどが中心です。手続きは労使協定の締結と監督署への届出が必要ですが、企画業務型よりも要件がシンプルです。就業規則の整備と本人同意の取得を忘れずに行いましょう。

職種は当てはまらないが、自由な働き方を認めたい場合

裁量労働制を適用しなくても、フレックスタイム制の精算期間を最大3か月に設定することで相当の柔軟性を確保できます。リモートワーク・副業解禁と組み合わせることで、「裁量労働制的な働き方」に近い環境を合法的につくれます。

業務委託への切り替えを検討している場合

まず「労働者性の判断基準」に照らして実態を確認してください。指揮命令・時間拘束・固定報酬が続くなら、業務委託への切り替えは偽装請負リスクが高く、おすすめできません。本当に独立した業務を委託するかどうかを冷静に判断することが先決です。

制度選択で迷ったら早めに相談を
複数の選択肢がある中で「どれが自社に合っているか」判断が難しい場合、手続きの漏れを防ぐためにも、実績のある人事の専門家に一度相談することをお勧めします。

まとめ

裁量労働制は、対象職種の限定・労使協定の締結・監督署への届出という正規の手続きを踏めば、中小企業でも導入できます。ただし「誰にでも使える自由な働き方の制度」ではなく、適用できる職種は法令で厳しく定められています。安易な業務委託への切り替えは偽装請負リスクを招き、フリーランス保護新法への対応義務も発生します。副業解禁・フレックスタイム制・リモートワークとの組み合わせも含め、自社の実態に合った設計が必要です。

「うちの場合、どの制度が使えるのか」「就業規則をどう整えればいいか」「業務委託への切り替えで大丈夫か」といった判断に迷う場合は、ウェルセンス株式会社にご相談ください。中小企業の人事実務に精通したスタッフが、貴社の状況に合わせた現実的な対応策を一緒に考えます。初回のご相談は無料です。一人で抱え込まず、まず話してみてください。

よくある質問

Q. 従業員数が20名以下の小規模企業でも、裁量労働制を導入できますか?

A. 従業員数の下限は法律上定められていないため、規模にかかわらず導入は可能です。ただし、労働者の過半数代表との労使協定締結、所轄の労働基準監督署への届出、本人同意の取得は必須です。従業員が少ない企業ほど、過半数代表の選出手続きや就業規則の整備で戸惑うケースがあります。手続きの漏れがないよう、社労士などの専門家に確認しながら進めることをおすすめします。

Q. 営業職に裁量労働制を適用することはできますか?

A. 一般的な営業職は、専門業務型・企画業務型のいずれの対象業務にも該当しないため、裁量労働制を適用できません。ただし、事業全体の営業戦略の企画・立案・調査・分析を担うような上位ポジションの社員であれば、企画業務型の検討余地があります。通常の営業職には、フレックスタイム制の活用や事業場外みなし労働時間制(直行直帰が多い場合)といった別の制度が現実的です。

Q. 裁量労働制を導入すれば、残業代をゼロにできますか?

A. できません。裁量労働制を導入しても、深夜労働(午後10時~午前5時)と法定休日労働に対する割増賃金の支払い義務は残ります。また、みなし労働時間を実態より大幅に短く設定すると、未払い賃金として遡及請求されるリスクがあります。「残業代削減のための裁量労働制導入」は法的リスクが高く、目的として適切ではありません。

Q. 社員を退職させて業務委託契約を結ぶ場合、何に気をつければいいですか?

A. 最大の注意点は「労働者性」の判断です。業務委託に切り替えた後も、会社の指示に従って働き続ける・勤務場所・時間が固定されている・報酬が実質的に固定給という実態があれば、「偽装請負」と認定されるリスクがあります。その場合、過去の残業代・社会保険料の遡及支払いを求められることがあります。また2024年11月に施行されたフリーランス保護新法により、発注企業側に契約条件の書面明示・報酬の60日以内支払い等の義務も発生します。切り替え前に専門家への相談を強くおすすめします。

Q. 副業を解禁する際に、就業規則に必ず入れておくべき項目はありますか?

A. 最低限、以下の項目を明記することをおすすめします。副業・兼業を行う場合の事前届出(または事前承認)の義務、競業他社での就業禁止・競業避止義務、会社の機密情報・顧客情報の利用禁止、本業に支障をきたした場合の対応(届出取り消し・懲戒等)。特に「届出なしで副業していた」「競合他社で仕事していた」といったトラブルは実際に起きています。厚生労働省の副業・兼業に関するガイドラインも参考にしながら整備を進めてください。

【監修】ウェルセンス株式会社
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