従業員が副業で会社名を公表したら?就業規則での対処法

従業員が副業で会社名を公表したら?就業規則での対処法 コンプライアンス
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「うちの社員、Instagramに会社名を書いてインフルエンサー活動してるんですけど、これって問題ですか?」——最近、こうした相談が中小企業の経営者から増えています。副業が社会的に広まるなか、SNSで氏名や勤務先を公開しながら情報発信する従業員が出てきた場合、会社としてどう対応すればいいのか。注意できるのか、懲戒にできるのか、就業規則に何も書いていなければどうなるのか。本記事では、法的根拠をおさえながら、実務対応とルール整備の両面を整理します。

「副業禁止規定があれば会社名公表も禁止できる」は誤解

まず結論から述べます。副業禁止規定は「副業行為そのもの」を制限するものであり、「SNS上での会社名・勤務情報の公表」を自動的に禁止する根拠にはなりません。この二つは別の問題として整理する必要があります。

副業禁止規定が禁じているのは「副業行為」だけ

就業規則に「会社の許可なく他の事業に従事してはならない」と書いてあったとしても、その条文が対象にしているのはあくまでも「副業として別の仕事をすること」です。「SNSに会社名を書くこと」は、副業そのものとは切り離して考えなければなりません。たとえば副業を一切していない従業員が「〇〇社勤務」と自己紹介してSNS発信しているケースでは、副業禁止規定はまったく機能しません。

「会社名の公表」は別の義務違反として構成する必要がある

会社名・勤務情報のSNS公表を制限するには、「名誉・信用保持義務」「秘密保持義務」「会社の許可なく会社情報を開示してはならない」といった義務に基づく条文が必要です。これらが就業規則に存在しなければ、注意・指導はできても、懲戒処分の根拠としては脆弱になります。「副業禁止規定で兼ねられる」と思い込んで対応すると、後から労使トラブルに発展するリスクがあります。

副業を「許可制」にしている場合の注意点

「副業は会社の事前許可制」とする規定を設けている場合は、無許可でのSNSインフルエンサー活動そのものを問題とすることが可能です。ただし、その場合でも「会社名を書いたこと」と「無許可だったこと」は懲戒理由として区別して整理しておくべきです。複数の問題を混在させると、後の手続きで論点がぶれやすくなります。

会社名の公表を制限できる法的根拠

会社は、従業員が業務時間外にSNSで会社名を公表することを、一定の範囲で合法的に制限できます。その根拠は主に労働契約上の付随義務にあります。

名誉・信用保持義務

労働契約には、明示されていなくても「会社の名誉・信用を傷つけてはならない」という付随義務が含まれると解されています。SNSで会社名を公表し、炎上・批判が会社に波及した場合、この義務違反を根拠に対応することができます。ただし、炎上していない段階では「名誉毀損に当たるか」の判断が難しく、事前規制として機能させるには就業規則への明文化が不可欠です。

秘密保持義務

「自分がどこに勤めているか」は必ずしも企業秘密には当たりませんが、たとえばSNS投稿の中で業務上の情報・顧客情報・取引先名・内部の雰囲気などが含まれていれば、秘密保持義務違反として問題にできます。インフルエンサー活動の中で「仕事中にこんなことがあった」「お客さんから〇〇と言われた」といった投稿は、秘密保持の観点から問題になり得ます。

会社名を利用した集客・営業活動の制限

「〇〇社のマーケター」「〇〇勤務の管理栄養士」といったプロフィールで商品紹介やアフィリエイト活動をしている場合、会社の肩書きを実質的に営業ツールとして使用していることになります。これは競業避止に準ずる問題として就業規則で制限することが可能です。会社の信用・ブランドを無断で利用して個人が利益を得る行為は、誠実義務・忠実義務の観点からも問題があります。

今すでに事案が発生している場合の対応フロー

従業員のSNS投稿を偶然発見した場合、まず冷静に「証拠保全→事実確認→規則の確認→対応方針の決定」という順序で動くことが重要です。初動を間違えると、対応が後手に回るだけでなく、法的にも不利な状況を自ら作り出すことになります。

証拠保全と事実確認

まず、問題のある投稿のスクリーンショットを日時情報ごと保全してください。SNSの投稿は本人が削除することがあるため、証拠として残しておくことが必須です。その後、本人に対して「SNSでの会社名の記載について確認したいことがある」と伝え、事実確認の場を設けます。この段階では「懲戒」を前提とせず、あくまでも事実関係の確認として進めることがポイントです。

就業規則の根拠条文を確認する

事実確認と並行して、現在の就業規則に以下の条文が存在するかを確認してください。

確認すべき条文の種類 なければどうなるか
副業・兼業の許可制規定 無許可副業を問題にする根拠が薄くなる
SNS・情報発信に関する規定 会社名公表を直接制限できない
名誉・信用保持に関する規定 懲戒の根拠として使いにくい
秘密保持義務規定 情報漏洩リスクへの対応が難しくなる
懲戒事由・懲戒手続きの規定 懲戒処分自体が無効になるリスクがある

根拠条文がない、または曖昧な場合でも、注意・指導という形での対応は可能です。ただし、懲戒処分(戒告・減給・出勤停止など)を行うには、労働契約法第15条・第16条に照らして就業規則上の明確な根拠が必要です。根拠なき懲戒は無効とされるリスクが高いため、根拠条文がない段階での懲戒処分は避けてください。

対応の段階と記録化

対応は段階的に行うことが原則です。「会社名を書いた」という一事をもって懲戒解雇とするのは、懲戒の「相当性原則」(労働契約法第15条)に照らして過重とされる可能性が高く、権利濫用として無効になりかねません。口頭注意→書面による指導→戒告→より重い処分という段階を踏み、各段階で記録を残すことが重要です。特に書面での指導を行った際は、従業員に受領確認のサインをもらうか、メールで指導内容を送付して記録を残してください。

事案が発生してから対応しようとすると、法的リスクと時間的負担が大きくなります。既存の就業規則で対応できるのか、どのレベルの対応が適切なのか、判断に迷ったら早めに相談することが重要です。

就業規則への落とし穴——見落とされがちな3つのポイント

副業・SNS関連の就業規則整備で多くの企業が見落としているのは、「禁止・制限の根拠」だけでなく「手続き規定」と「周知」の問題です。この三つがそろって初めて、就業規則は機能します。

懲戒手続き規定が形骸化している

「懲戒事由」は書いてあるが、「懲戒を行うための手続き(事実確認の方法、本人への弁明機会付与、決定プロセスなど)」が曖昧な就業規則は少なくありません。懲戒処分は手続きの適正性も問われるため、懲戒事由の条文だけでなく手続き条文も整備しておく必要があります。

就業規則の「周知」が行われていない

労働基準法第106条は、就業規則を従業員に周知することを使用者に義務付けています。就業規則に条文があっても、従業員が内容を知り得る状態になっていなければ、その条文を根拠に懲戒処分を行うことは難しくなります。副業・SNSに関する新たなルールを追加した際は、全従業員への周知(説明会・書面配付・イントラネット掲載など)と、受領確認の取得を行ってください。

「副業を許可しつつ会社名公表だけを制限する」設計は可能

「副業は認めたいが、SNSで会社名を出すことは禁止したい」という精緻なルール設計も、就業規則上は可能です。副業許可の要件として「会社名・勤務情報をSNS等で開示しないこと」を条件に加える方法や、別途「SNS利用ガイドライン」を規程として整備して就業規則に紐付ける方法が実務的です。この設計を行う際は、社会保険労務士や弁護士に相談しながら条文化することを強くお勧めします。

企業規模・状況別の対応判断

対応の優先度や整備の方向性は、会社の状況によって異なります。自社のケースに当てはめて、現在地を確認してください。

就業規則がそもそも存在しない・更新が10年以上前

常時10人以上の従業員を使用する事業場では、就業規則の作成・届出が労働基準法第89条により義務付けられています。就業規則がない、または長年更新されていない場合は、副業・SNS対応の前に就業規則全体の見直しが急務です。この状態でSNS関連の問題が発生しても、会社が従業員を適切に指導・処分できる根拠がほとんど存在しないことになります。

就業規則はあるが副業・SNSの規定がない

現時点で事案が発生していなければ、まず注意・指導の根拠となる条文(名誉信用保持、情報管理など)が既存の就業規則にあるかを確認し、なければ追加改定を検討してください。現在進行中の事案がある場合は、既存の根拠条文の範囲内で注意・指導を行いつつ、並行して就業規則の整備を進めることが現実的な対応です。

副業を解禁予定・検討中の段階

これから副業解禁を検討している会社にとっては、今がルール整備の最適なタイミングです。「副業許可の申請手続き」「許可基準(競業禁止・労務提供への影響・会社名公表の可否など)」「SNS利用に関するガイドライン」を同時に整備することで、解禁後のトラブルリスクを大幅に減らすことができます。厚生労働省の「副業・兼業の促進に関するガイドライン」も参考にしながら設計することをお勧めします。

まとめ

従業員がSNSで会社名を公表することへの対応は、「副業禁止規定があれば解決できる」という思い込みを外すことから始まります。会社名の公表制限には、名誉・信用保持義務や秘密保持義務、SNSに関する独立した規定が必要であり、懲戒処分を行うには就業規則上の明確な根拠と適正な手続きが不可欠です。事案が発生したときに初めて気づくのではなく、事前のルール整備が最大のリスク対策になります。「うちの就業規則、副業やSNSのことが書かれていない」「事案が起きたけれど、どう対応すればいいかわからない」——そうした状況を一人で抱え込んでいる経営者・人事担当者の方は、ぜひウェルセンス株式会社にご相談ください。人事の専門知識がなくても、現状の整理から就業規則整備の方向性まで、一緒に考えます。

よくある質問

Q. 就業規則に副業禁止と書いてあれば、SNSでの会社名公表も禁止できますか?

A. いいえ、自動的には禁止できません。副業禁止規定は「副業行為そのもの」を対象にしており、「SNSで会社名を書くこと」への制限根拠にはなりません。会社名の公表を制限するには、名誉・信用保持義務やSNS利用に関する独立した条文が必要です。

Q. 就業規則に根拠がない場合、従業員を注意・指導することはできますか?

A. 注意・指導にとどまる場合は、就業規則の根拠条文が曖昧でも対応できるケースがあります。ただし、戒告・減給・出勤停止などの懲戒処分を行うには、労働契約法第15条・第16条に照らして就業規則上の明確な根拠が必要です。根拠なき懲戒は無効になるリスクが高いため、処分を視野に入れるなら先に就業規則を整備することを優先してください。

Q. 副業を認めながら、会社名の公表だけを禁止することはできますか?

A. はい、可能です。副業許可の条件として「会社名・勤務情報をSNS等で開示しないこと」を定める方法や、「SNS利用ガイドライン」を別途規程化して就業規則に紐付ける方法があります。精緻なルール設計になるため、社会保険労務士や弁護士に相談しながら条文化することをお勧めします。

Q. 従業員が「プライベートの活動なので会社には関係ない」と反論してきた場合はどう対応すればよいですか?

A. 「プライベートの活動」であっても、会社名を公表することで会社の名誉・信用に影響を与える行為は、労働契約上の付随義務(名誉・信用保持義務)の対象になり得ます。ただし、この論理を使って指導・処分を行うには就業規則に根拠条文があることが重要です。まず条文の有無を確認し、なければ整備を優先してください。根拠条文があれば、「就業規則〇条に基づき、会社名の公表には会社の許可が必要です」と明確に伝えることができます。

Q. 就業規則を新たに改定・追加した場合、既存の従業員にも適用できますか?

A. 就業規則の変更が従業員に不利益をもたらす場合(例:これまで自由だった副業を許可制にする)は、労働契約法第10条に基づき、変更の合理性と従業員への周知が必要です。一方、新たなSNSガイドラインの制定など合理的な業務ルールの追加であれば、適切な周知を行うことで既存従業員にも適用できます。いずれの場合も、変更内容を従業員に丁寧に説明し、受領確認を取ることが重要です。

【監修】ウェルセンス株式会社
ウェルセンスは、メンタル不調者対応・休職復職支援に強い職場メンタルケアサービスです。産業医・保健師・心理士・社労士などの専門家ネットワークが、人事・管理職だけでは判断しづらいケースの初動対応、専門家連携、再発防止まで支援します。

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