育休中に契約満了を迎えた有期社員、雇い止めできる?

育休中に契約満了を迎えた有期社員、雇い止めできる? 労務管理
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「育休に入ったまま契約満了日を迎えてしまった。このまま更新しなければ違法になるのか?」——採用担当を兼務している経営者や総務担当者から、こうした相談が増えています。有期社員の育休をめぐる法律は2022年に大きく改正されており、以前の知識のまま対応すると思わぬトラブルにつながりかねません。この記事では、育休中に契約満了を迎えた有期社員の雇い止めが法的に許されるかどうか、実務上どう判断すればよいかを、具体的なケースを交えながら整理します。

有期社員は育休を取れるのか——2022年改正後の取得要件

結論から言えば、2022年4月以降は「雇用期間1年以上の有期社員」は原則として育休を取得できます。労使協定の有無は関係ありません。まずこの前提を押さえておくことが、以降の判断すべてに関わります。

改正前と改正後で何が変わったのか

改正育児・介護休業法が2022年4月1日に施行される前は、有期社員が育休を取得するためには2つの要件を満たす必要がありました。ひとつは「同一事業主に引き続き1年以上雇用されていること」、もうひとつは「子が1歳6か月に達する日までに労働契約が満了することが明らかでないこと」です。この2つ目の要件があったため、契約期間が短い有期社員は育休を取得しにくい状況でした。

改正後は、2つ目の要件(契約満了が明らかでないこと)が撤廃されました。雇用期間が1年以上であれば、たとえ次の契約更新日が育休期間中に来るとしても、育休の取得自体を拒否することはできません。

労使協定がない場合はどう対応するか

改正後も、雇用期間が1年未満の有期社員については、労使協定を締結することで育休取得の対象から除外できます。しかし労使協定がない場合は、たとえ雇用期間が1年未満であっても除外できません。つまり労使協定がなければ、雇用期間の長短にかかわらず育休申請を断れないのが現状です。

「うちは労使協定を結んでいないから有期社員の育休を断れると思っていた」という認識は、2022年以降は完全に誤りです。この誤解が残ったまま運用していると、育休申請を拒否した時点で法違反になるリスクがあります。

雇用期間の起算点に注意する

「引き続き1年以上雇用」の計算は、育休申請日ではなく、育休を開始する予定日の時点で判断します。たとえばパートや契約社員として細かく契約を更新してきた場合でも、通算の雇用期間が1年以上であれば要件を満たします。過去の契約書をさかのぼって雇用開始日を確認することが重要です。

育休中の契約満了は「雇い止め可能」か——雇い止め法理との関係

育休中に契約が満了した場合でも、すべてのケースで雇い止めが違法になるわけではありません。ただし、雇い止め法理(労働契約法第19条)が適用される場合は、客観的に合理的な理由と社会通念上の相当性がなければ、雇い止めは無効となります。

雇い止め法理が適用される2つのパターン

労働契約法第19条では、雇い止めが無効となるケースとして2つのパターンを定めています。

パターン 内容
第1号 契約が反復更新されており、実質的に期間の定めのない契約と同視できる場合
第2号 雇用継続への合理的な期待が認められる場合(1回の更新でも適用の可能性あり)

たとえば、3年間にわたって毎年契約を更新してきた有期社員が育休中に契約満了を迎えた場合、第1号または第2号に該当する可能性が高く、更新しないためには「客観的に合理的な理由」が必要になります。一方で、最初の1年契約で「更新なし」と明示されていた社員であれば、雇い止め法理が適用されないケースもあり得ます。

合理的な期待があるかどうかの判断材料

「雇用継続への合理的な期待」があるかどうかは、契約書の記載だけでなく、実際の運用も考慮されます。たとえば以下のような事実は、合理的な期待を認める方向に働きます。

  • 過去に複数回、特に理由を示さずに更新してきた
  • 「長く働いてほしい」「戦力として期待している」などの発言が会社側からあった
  • 他の有期社員はほぼ全員が更新されている
  • 業務の引き継ぎや次年度の予定に組み込まれていた

契約書に「更新する場合がある」と書かれているだけでも、合理的な期待を認める判断材料になることがあります。自社の契約書と過去の更新実績を照合しながら判断することが求められます。

育休中の有期社員への対応に迷った場合は、判断を一人で進めず早めに専門家に相談することで、後のトラブルを防ぐことができます。

「育休が理由の雇い止め」と「そうでない雇い止め」の境界線

法的な判断の核心はここにあります。育休の取得を理由として更新しなかった場合は、育児・介護休業法第10条(不利益取扱いの禁止)に違反します。一方で、育休とは無関係に、もともと「この契約で終了」という取り決めや事業上の合理的な理由があった場合は、雇い止め自体は適法になりえます。

問題になりやすいのは、育休申請後に会社の態度が変わったケースです。「育休の申請があるまでは更新の話をしていたのに、申請後に突然不更新を告げた」という状況は、不利益取扱いとみなされる可能性が非常に高くなります。

育児・介護休業法第10条「不利益取扱いの禁止」で何が禁じられているか

育休を取得したこと、または取得しようとしたことを理由に不利益な取扱いをすることは、育児・介護休業法第10条で明確に禁止されています。「雇い止めは解雇じゃないから大丈夫」という認識は誤りです。

不利益取扱いに該当する行為の具体例

厚生労働省の指針をもとに整理すると、以下のような行為が不利益取扱いに該当する可能性があります。

  • 育休申請を受けた後に、それを理由として契約を更新しないと告げる
  • 育休中であることを理由に賃金や評価に不利な変更を加える
  • 「育休を取るなら次の更新はない」と示唆する
  • 育休取得者を復帰後に別のポジション(降格に相当)へ異動させる

重要なのは「理由として」という部分です。育休があったことと、不更新の決定が時系列で近い場合、会社側は「育休とは無関係だった」と立証する必要に迫られます。文書で残っていない口頭のやり取りが証拠になることもあるため、日頃からの言動に注意が必要です。

本人への伝え方で気をつけるべき点

合法的な雇い止めであっても、伝え方を誤ると不利益取扱いと受け取られるリスクがあります。「育休中だから更新できない」「妊娠しているから難しい」といった言い方は絶対に避けてください。

不更新を伝える場合は、契約書に記載された「更新なし」の条件、または事業上の理由(業務量の変化、プロジェクト終了など)を具体的に示し、育休とは切り離した説明をすることが重要です。可能であれば、社労士や弁護士に事前に相談の上、説明内容と記録の残し方を整えておくことをおすすめします。

実務的な判断フロー——自社のケースに当てはめる

育休中の有期社員の契約満了にどう対応すべきか、状況によって判断が分かれます。以下のフローで自社のケースを確認してください。

雇用期間と更新実績の確認から始める

まず確認すべきは、対象社員の通算雇用期間と過去の更新実績です。雇用期間が1年未満の場合、労使協定がなければ育休の取得自体を止めることはできません。1年以上であれば育休取得は認める前提で、契約更新の判断に移ります。

次に、過去の更新回数と、契約書に更新の有無がどう記載されているかを確認します。「更新しない」と明記されていた1回限りの契約であれば、雇い止め法理の適用可能性は低くなります。一方で複数回更新されている場合は、第2号(合理的な期待)の適用を前提に対応を検討する必要があります。

「育休と無関係であること」を証明できるか問う

雇い止めを検討する場合、社内で「なぜこの社員を更新しないのか」を文書化できるかどうかを確認してください。業績不振による人員整理、業務そのものの縮小や廃止、予算制約による人員計画の変更——これらが具体的に説明できる場合は、育休とは切り離した合理的な理由として成立しやすくなります。

逆に、他の有期社員は更新しているのにこの社員だけ更新しない、という状況は危険です。「育休が理由ではないか」と疑われる余地を与えてしまいます。

不明なときは「更新する」を基本姿勢にする

法的グレーゾーンにある場合、雇い止めを強行するよりも更新した上で復帰後に評価・業務調整を行う方が、会社のリスクは低くなります。育休終了後に「戦力として合わない」「業務量が変わった」という判断が明確になってから対応策を検討する余地もあります。判断に迷ったときの基本姿勢は「更新する」ことです。

まとめ

育休中の有期社員に対する雇い止めは、「育休が理由でなく、もともと更新の予定がなかった」「雇い止め法理が適用されない状況にある」という2つの条件が揃って初めて適法になりえます。2022年の法改正以降、労使協定の有無にかかわらず育休取得を幅広く認めなければならなくなっており、以前の知識のまま対応するとリスクが高まります。対象社員の雇用期間・更新実績・契約書の記載内容を確認し、育休との因果関係が疑われない形で説明できるかどうかを慎重に検討することが重要です。

有期社員の育休対応や雇い止めの判断は、経営判断と法的リスク評価を両立させる難しい決断です。個別の事情によって結論が大きく変わるため、社内判断に不安がある場合は、実務に精通した専門家に相談することをおすすめします。ウェルセンス株式会社では、人事労務の実務対応をサポートしています。

よくある質問

Q. 育休中に契約満了を迎えた有期社員を、そのまま雇い止めにすることは違法ですか?

A. 一概に違法とは言えませんが、条件次第では無効になります。雇い止め法理(労働契約法第19条)が適用される場合は客観的な合理的理由が必要です。また、育休取得を理由とした不更新は育児・介護休業法第10条違反となります。「育休とは無関係の理由があるか」「合理的な期待が生じていないか」を慎重に確認してください。

Q. 労使協定を結んでいなくても、有期社員の育休申請を断れますか?

A. 断れません。2022年4月の改正育児・介護休業法により、雇用期間1年未満の有期社員を除外できるのは労使協定を締結している場合のみです。労使協定がなければ、雇用期間の長短を問わず育休申請を拒否することはできません。1年以上継続雇用されている有期社員については、労使協定の有無に関わらず取得を認める義務があります。

Q. 契約書に「更新なし」と明記していれば、育休中でも雇い止めは問題ありませんか?

A. 「更新なし」の明記は重要な判断材料ですが、それだけで安全とは言えません。実際の運用として過去に繰り返し更新していた場合や、「長く働いてほしい」といった言動があった場合は、契約書の記載にかかわらず合理的な期待が認められることがあります。契約書の記載と実際の運用が一致しているかどうかを確認することが大切です。

Q. 育休中の有期社員に「契約を更新しない」と伝えるとき、何に気をつければいいですか?

A. 育休や妊娠に関連する言葉を理由として使わないことが大原則です。不更新の理由は、業務量の変化・事業縮小・プロジェクト終了など、育休と無関係の事実に基づいて具体的に伝えてください。また、伝えた内容と日時を記録として残しておくことが、後のトラブル防止につながります。不安な場合は事前に社労士や弁護士に相談することをおすすめします。

Q. 育休中に契約満了となった社員を更新した場合、育休はそのまま継続できますか?

A. はい、契約を更新した場合、育休はそのまま継続できます。育休の取得と契約の更新は別の手続きであり、更新後も育休期間中は育休が継続されます。なお、育休給付金(雇用保険から支給)の取り扱いについてはハローワークへの確認が必要な場合もあるため、早めに確認しておくと安心です。

【監修】ウェルセンス株式会社
ウェルセンスは、メンタル不調者対応・休職復職支援に強い職場メンタルケアサービスです。産業医・保健師・心理士・社労士などの専門家ネットワークが、人事・管理職だけでは判断しづらいケースの初動対応、専門家連携、再発防止まで支援します。

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