慢性的遅刻で解雇できる?指導記録の積み方と注意点

慢性的遅刻で解雇できる?指導記録の積み方と注意点 労務管理
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「もう10回以上注意してきた。それでも毎週遅刻してくる。正直、もう解雇したい」——そう感じている経営者・人事担当者の方は少なくありません。しかし「記録はある」「注意もした」という自負があっても、それが法的に通用する証拠になっているかどうかは別の話です。遅刻を理由とした解雇は、正しい手順を踏まなければ不当解雇として争われるリスクがあります。この記事では、指導記録の積み方・解雇の有効要件・よくある落とし穴を実務視点で整理します。

遅刻だけで解雇できるのか

結論から言えば、慢性的な遅刻を理由とした解雇は法的に可能ですが、「一定の条件を満たした場合に限り有効」というのが正確な答えです。単に「何度も遅刻した」という事実だけでは、解雇の根拠として不十分なケースがほとんどです。

解雇権濫用法理という大前提

日本では労働契約法第16条により、解雇は「客観的に合理的な理由」があり、かつ「社会通念上相当」と認められなければ、権利の濫用として無効になります。遅刻を理由とした解雇が有効とされるためには、この二つの要件を同時に満たす必要があります。特に「社会通念上相当か」という部分では、会社が段階的な指導・改善機会の付与を行ったかどうかが厳しく問われます。

普通解雇と懲戒解雇、どちらで処理するか

遅刻を理由とした解雇には、大きく二つの類型があります。一つは「普通解雇」で、就業規則に定める解雇事由(勤務態度不良など)に該当するとして行うもの。もう一つは「懲戒解雇」で、規律違反に対する懲戒処分の最終手段として行うものです。両者は手続きや有効性の判断基準が異なり、特に懲戒解雇で即時解雇する場合は労働基準監督署長の認定(労働基準法第20条第1項但書・第3項)が必要です。まず自社の就業規則を確認し、どちらの枠組みで対応するかを最初に整理してください。

就業規則の整備が解雇の前提条件

遅刻の回数・態様が解雇事由として就業規則に定められていることが大前提です。「5回以上の遅刻で懲戒処分の対象とする」といった規定がなければ、解雇の法的根拠そのものが曖昧になります。就業規則が未整備、あるいは作成から10年以上更新されていない場合は、解雇を検討する前に規則の見直しを優先してください。

解雇が有効になるための段階的指導のプロセス

裁判・労働審判で解雇の有効性が認められるためには、「会社は改善の機会を十分に与えた」と判断される段階的な対応が必要です。口頭注意から始まり、書面警告・懲戒処分・最終警告を経て解雇に至る、以下のような流れが実務の基本です。

段階 内容 記録の形式
口頭注意 事実・改善要求・期限を明確に口頭で伝える 注意記録(日時・内容・本人の反応)
書面警告・始末書 書面で事実・指導内容・改善目標を明示 本人署名・受領確認
懲戒処分(減給・出勤停止等) 就業規則に基づく正式処分 処分通知書・就業規則との対応確認
最終警告書 「次回は解雇を含む重大な処分を検討する」旨を明示 本人への交付記録・受領確認
解雇 解雇予告(原則30日前)または解雇予告手当の支払い 解雇通知書

口頭注意の段階でやるべきこと

口頭注意は「言った・言わない」になりやすい段階です。注意した後は必ず社内メモとして記録を残してください。記録には「いつ・誰が・どのような遅刻について・どのように注意したか・本人はどう反応したか」の5点を書き留めておきます。この時点での記録は、後の書面警告・懲戒処分の根拠資料になります。

書面警告で抑えるべきポイント

書面警告では、遅刻の具体的な日付・回数・時間を明示し、「〇月末までに遅刻ゼロを達成すること」のように改善目標と期限を明確に記載します。重要なのは本人の署名または受領確認を得ることです。「受け取っていない」という主張を防ぐため、書面を手渡した際に受領確認書にサインをもらうか、やむを得ない場合は証拠が残る形(配達記録郵便など)で交付してください。

最終警告書で必ず伝えること

最終警告書は「これ以上遅刻が続いた場合、解雇を含む重大な処分を検討する」という旨を明確に記載した文書です。この段階を踏むことで、「会社は最終局面であることを本人に認識させた」という事実が記録に残ります。最終警告を出す際は口頭説明も行い、本人が内容を理解したことを確認した上で交付記録を残してください。

指導記録の「質」が解雇の可否を分ける

「記録の量」ではなく「記録の質」が問われます。裁判・労働審判では、「本人が改善すべき基準・目標・期限を明確に認識できる形で通知されたか」という点が繰り返し確認されます。50回メモを残していても、この要件を満たさなければ証拠として弱くなります。

有効な記録に必要な要素

指導記録として法的に機能するためには、次の要素が含まれている必要があります。まず「遅刻の日時・時間・回数」という具体的な事実。次に「どのような改善を求めたか」という改善要求の内容。そして「いつまでに改善するか」という期限の明示。最後に「本人がどう応答したか」という反応の記録です。これらが欠けていると、「指導した」という事実があっても、改善機会を適切に与えたとは認められないリスクがあります。

本人署名がない記録の弱点

口頭注意の記録や書面で本人の署名・受領確認がない場合、「交付した証拠」として弱い評価を受けます。特に書面警告・最終警告書については、本人が「受け取っていない」「そんな話は聞いていない」と主張した際に反論が難しくなります。本人が署名を拒否した場合でも、その事実自体を記録に残しておくことが重要です。

記録を保管する際の注意点

指導記録・警告書・始末書のコピーは、人事ファイルとして整理し、誰でも参照できる状態で保管してください。メモ帳への手書きや個人のメールフォルダへの保存だけでは、担当者が変わった際に証拠が散逸するリスクがあります。また、指導記録は解雇の検討を始めてから作成するのではなく、問題行動が発生した都度リアルタイムで作成することが鉄則です。後から遡って記録を作成することは、証拠の信頼性を著しく損ないます。

不当解雇リスクを高める典型的な失敗パターン

解雇後に労働審判や訴訟に発展した事例の多くには、共通した対応上の問題があります。「うちはちゃんと指導してきた」という認識があっても、以下のパターンに当てはまっていれば不当解雇と判断されるリスクが高まります。

指導期間が短すぎる・改善機会が不十分

解雇が有効と認められるためには、「改善の機会を十分与えた」という実績が必要です。たとえば1〜2ヶ月の指導期間で複数回注意しただけでは、期間・回数ともに不十分と判断されることがあります。遅刻の態様(毎日か週1回かなど)や勤続年数によっても必要な指導期間は変わりますが、少なくとも複数の段階を経て数ヶ月単位の指導実績を積むことが目安となります。

解雇予告を怠るリスク

解雇する場合、原則として30日前に予告するか、30日分以上の平均賃金(解雇予告手当)を支払う必要があります(労働基準法第20条)。この手続きを踏まずに即時解雇した場合、懲戒解雇として労働基準監督署長の認定を受けていない限り、手続き上の違法となり解雇の効力が争われます。手続きの不備は、実体的な指導記録がしっかりしていても解雇を無効に導く要因になります。

他の従業員との処分の均衡が取れていない

同様の遅刻を繰り返していた別の従業員に対して軽微な処分しかしていない場合、「特定の従業員だけを狙い打ちにした解雇」として不当解雇の主張を招くリスクがあります。処分の基準を就業規則に明記し、同様の違反には同様の対応をとることが、解雇の相当性を支える根拠になります。

遅刻の背景にメンタル・体調の問題がある場合の対応

遅刻の原因が不明瞭な場合、単純な「規律違反」として処理してよいかどうかを慎重に見極める必要があります。体調不良やメンタルヘルスの問題が背景にある可能性があれば、対応の枠組み自体が変わります。

遅刻の原因を確認するヒアリングを行う

指導の早い段階で、遅刻の理由について本人からヒアリングを行ってください。「最近体調はどうですか」「眠れていますか」といった問いかけから、睡眠障害・うつ症状・家庭環境の変化など、業務外の問題が浮かり上がることがあります。この段階を飛ばして指導・処分を進めると、後から「体調不良を把握しながら対応しなかった」と会社側の配慮義務違反を問われるリスクがあります。

産業医・専門家への相談が必要な場面

従業員数50人以上の事業場では産業医の選任が義務づけられていますが(労働安全衛生法第13条)、50人未満の中小企業でも産業医との顧問契約や外部EAP(従業員支援プログラム)の活用は可能です。遅刻の背景にメンタルの問題が疑われる場合、人事担当者が一人で判断するのではなく、医療・専門職の見立てを得た上で対応方針を決めることが、法的リスクの低減にもつながります。

休職対応が必要なケースとの切り分け

遅刻が疾病を原因とする欠務の一形態である可能性がある場合、解雇よりも休職命令(就業規則上の休職制度)を先に検討することが求められます。疾病による欠務を理由に解雇した場合、「傷病を理由とした不当な解雇」として争われるリスクがあります。遅刻の態様・ヒアリング結果・本人の言動を総合的に判断し、純粋な規律違反か健康問題かを見極めた上で対応方針を決定してください。

判断に迷う場面だからこそ、専門家の視点が有効です。解雇の前に、人事労務の専門家に現状を整理してもらうことで、法的リスクを最小限に抑えられます。

まとめ

慢性的な遅刻を理由とした解雇は、正しい手順を踏めば法的に有効となる余地がありますが、「注意した」「記録を残した」という事実だけでは不十分です。就業規則の整備、口頭注意から最終警告書に至る段階的な指導、本人署名付きの記録、解雇予告手続きの遵守——これらすべてが揃って初めて、解雇の有効性が法的に支えられます。また、遅刻の背景にメンタルや体調の問題がある場合は、解雇ではなく休職対応が先になるケースもあります。

「自社の対応が正しかったか確認したい」「これから指導記録を積み直したい」「解雇に踏み切る前に人事労務の専門家の意見を聞きたい」——そのような場面では、ウェルセンス株式会社にご相談ください。メンタルヘルス対応・休職復職支援・人事労務の課題を専門とする私たちが、中小企業の経営者・人事担当者の実情に合わせた対応方針の整理をサポートします。

よくある質問

Q. 何回遅刻したら解雇できますか?法的な基準はありますか?

A. 「何回で解雇できる」という法的な回数基準はありません。解雇の有効性は、遅刻の回数だけでなく「段階的な指導を経たか」「改善の機会を与えたか」「就業規則に解雇事由が明記されているか」などを総合的に判断されます。回数よりも、指導プロセスの質と記録の充実度が重要です。

Q. 口頭注意しかしていませんが、今から書面指導に切り替えることはできますか?

A. できます。口頭注意を繰り返してきた経緯を踏まえ、今後は書面警告・始末書徴求・懲戒処分と段階を踏んでください。ただし、過去の口頭注意について記録が残っていない場合は、現時点から記録を積み直すことになります。「今日から書面で管理する」と決めたタイミングで記録を整備し直すことは決して遅くありません。

Q. 本人が始末書・警告書へのサインを拒否した場合はどうすればよいですか?

A. サインを拒否された事実そのものを記録に残してください。「〇年〇月〇日、書面を手渡したが本人が署名を拒否した」という記録は、後の手続きにおいて「交付した」という事実の証拠になります。また、配達記録郵便や内容証明郵便で書面を送付する方法も有効です。

Q. 遅刻の背景に鬱(うつ)が疑われます。それでも解雇できますか?

A. 慎重な対応が必要です。疾病が原因と考えられる欠務を理由に解雇した場合、不当解雇として争われるリスクが高くなります。まず就業規則上の休職制度の適用を検討し、必要に応じて主治医・産業医の意見を求めてください。解雇の前に「会社として配慮すべきことを尽くしたか」が問われます。

Q. 就業規則に遅刻の回数や解雇事由が明記されていません。今から追加できますか?

A. 追加・改定は可能ですが、就業規則の変更は労働者に不利益な変更となる場合、労働者の同意または合理的な理由が必要です(労働契約法第10条)。また、改定後に起きた遅刻には改定後の規定を適用できますが、改定前の遅刻には遡及適用できません。早めに就業規則を見直し、今後の指導・処分の根拠を整備することをお勧めします。

【監修】ウェルセンス株式会社
ウェルセンスは、メンタル不調者対応・休職復職支援に強い職場メンタルケアサービスです。産業医・保健師・心理士・社労士などの専門家ネットワークが、人事・管理職だけでは判断しづらいケースの初動対応、専門家連携、再発防止まで支援します。

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