任意でストレスチェックを実施してみたところ、高ストレス者が数名出てしまった。「義務じゃないんだから、特に何もしなくていいのでは?」と思いつつも、何かあったときに責任を問われないか不安でもある——そんな板挟みの状態にいる経営者・人事担当者の方は少なくありません。
結論から言えば、「義務外だから放置してもよい」という考え方は、法的に通用しません。実施した以上、高ストレス者の存在を「知り得た」状態になるからです。この記事では、50人未満の企業が任意実施後に取るべき対応の範囲と、判断の基準を実務目線で整理します。
「義務外だから関係ない」が通じない理由
ストレスチェックを任意で実施した企業は、高ストレス者の存在を認識した時点で、安全配慮義務の具体的な履行が求められます。これは義務対象企業かどうかに関係なく適用されるルールです。
努力義務と安全配慮義務は別物
ストレスチェックの実施義務は、労働安全衛生法第66条の10に定められており、常時50人以上の労働者を使用する事業場が対象です。50人未満は同法附則第4条により「当分の間、努力義務」とされています。つまり「やらなくてもよい」ではなく、「努力することが求められている」という位置づけです。
一方、安全配慮義務は労働契約法第5条に根拠を持つ別の法律上の義務であり、雇用関係がある限りすべての企業に適用されます。ストレスチェックを実施した結果として高ストレス者の存在を把握した場合、使用者は「知り得た」状態になるため、安全配慮義務の観点からは放置・無対応はリスクになります。
「やらなければよかった」は通じない
「任意だったから実施前の状態に戻したい」という発想は現実的ではありません。一度実施してしまった以上、その結果は存在します。むしろ、実施した事実と対応の記録をきちんと残すことが、万一のトラブル時の防御になります。「実施したが何も対応しなかった」という状態が最もリスクの高い状態です。
高ストレス者が出たとき、最低限やるべきこと
産業医が不在の50人未満企業であっても、高ストレス者への対応として最低限押さえるべきポイントがあります。義務対象企業と全く同じ手順は求められませんが、「何もしなかった」という状態は避ける必要があります。
本人への結果通知と相談窓口の案内
まず取り組むべきは、高ストレス者本人に対して結果を通知し、相談できる窓口を案内することです。義務対象企業では医師による面接指導を申し出られる仕組みが法定されていますが(労働安全衛生法第66条の10第3項)、義務外企業ではその条文の直接適用はありません。ただし安全配慮義務の履行として、「相談の機会を提供した」という記録を残すことが重要です。
案内先として活用できるのが、地域産業保健センター(産業保健総合支援センター)です。50人未満の事業場を対象に、産業医へのアクセスや健康相談の支援を無料で行っています。「社内に専門家がいないので相談先を紹介します」という形で本人に案内することが、実務上の対応として適切です。
本人の意向確認と記録の作成
通知後は、本人が相談や面談を希望するかどうかを確認し、その回答も記録として残します。本人が「特に希望しない」と答えた場合でも、その旨を記録することが大切です。「案内したが本人が辞退した」という事実の記録は、安全配慮義務を果たした証拠になります。
なお、ストレスチェックの結果は要配慮個人情報(個人情報保護法第2条第3項)に該当する可能性が高く、本人同意なしに上司や第三者に結果を開示することは避けてください。「高ストレス者だから上司に情報を共有する」という対応は、プライバシー侵害のリスクがあります。
対応が必要な状態の見極め
結果の数値だけでなく、本人の日常の様子も合わせて確認することが重要です。欠勤が増えた、業務のミスが目立つ、コミュニケーションが減ったといった行動面の変化が見られる場合は、より積極的な対応(面談の実施、業務量の調整など)を検討してください。ストレスチェックの結果はあくまで一つの情報であり、日常観察と組み合わせて判断するのが実務上の基本です。
人事だけで判断が難しい場合は、外部の産業医や人事専門家に相談するのも有効です。数人の意見があれば、判断の根拠がより明確になります。
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医師面接・集団分析は義務外企業もやるべきか
医師面接と集団分析について、義務外企業が全く同じ水準で実施する法的義務はありません。ただし、それぞれに実務上の判断基準があります。
医師面接は「つなぐ」ことが現実的な対応
50人未満の企業には産業医の選任義務がないため、社内に医師面接の窓口がありません。この場合、義務対象企業と同じ手順を踏むのではなく、「外部の相談窓口に本人をつなぐ」という対応が現実的です。地域産業保健センターのほか、本人のかかりつけ医への受診促進、EAP(従業員支援プログラム)サービスの活用などが選択肢になります。
「専門家につなぐ機会を提供した」という事実の記録が、安全配慮義務の観点では重要です。企業として医師を雇用する義務はありませんが、「何も案内しなかった」という状態は避けるべきです。
集団分析は「最小人数」の設定が先決
集団分析は、義務対象企業でも努力義務(必須ではない)とされています。義務外企業が実施する場合も同様の考え方が適用されますが、より注意が必要なのは個人特定のリスクです。
分析結果を部署単位で集計すると、人数が少ない部署では個人が特定されてしまう場合があります。一般的には10人未満の集団への結果開示は個人特定リスクがあるとされており、実施前に「何人以上の集団を分析対象とするか」を決めておく必要があります。人数が少なく集団として成立しない場合は、集団分析は行わないという判断も合理的です。
記録はどう残すか、何年保管するか
義務外企業には法令上の保管義務が直接定められていませんが、安全配慮義務の履行証明として、義務対象企業と同水準(少なくとも5年)の保管が実務上推奨されます。
保管すべき記録の種類
義務対象企業では調査票・結果・医師面接記録等の5年間保存が労働安全衛生規則第52条の13で定められています。義務外企業にこの条文の直接適用はありませんが、万一のトラブル(労働審判・訴訟など)の際に「対応した事実」を証明するためには、記録の存在が不可欠です。
- ストレスチェックの実施記録(実施日・対象者数・実施方法など)
- 高ストレス者への通知・案内文書(写しまたは送付記録)
- 本人からの回答・意向確認の記録
- 面談を実施した場合の実施記録(日時・対応者・主な内容)
- 対応を検討した内部メモ・会議記録
記録の形式と保管場所
形式は紙・電子どちらでも構いませんが、改ざんが難しい形で保管することが重要です。個人情報・要配慮個人情報に該当する可能性があるため、アクセス権限を限定し、人事担当者や経営者のみが閲覧できる状態にしておいてください。クラウドストレージを使う場合はアクセスログが残る設定を確認しておくことをお勧めします。
自社の状況に応じた対応範囲の判断基準
どこまで対応すべきかは、自社の規模・体制・実施内容によって変わります。以下の表を参考に、自社の状況に当てはめて判断してください。
| 状況 | 最低限の対応 | 推奨する追加対応 |
|---|---|---|
| 産業医なし・嘱託医なし | 本人への結果通知・相談窓口の案内(地域産業保健センター等)・記録の保管 | 外部EAPの導入、かかりつけ医への受診促進の案内文書作成 |
| 嘱託産業医あり(月1〜2回) | 本人への結果通知・産業医への情報共有(本人同意を得た上で)・記録の保管 | 産業医による面談機会の案内・就業上の配慮の検討 |
| 高ストレス者が複数人出た | 個別対応に加え、職場環境の振り返り・管理職への研修検討 | 集団分析(最小単位10人以上)・業務量・人間関係の見直し |
| 本人がすでに体調不良を訴えている | 早急に医療機関受診を勧奨・業務量の一時的な軽減・記録の作成 | 休職制度の案内・産業医または外部専門家への相談 |
「対応した」と言える状態の目安
「対応した」と説明できる状態は、次の三点が揃っている状態です。まず本人に結果を通知していること。次に相談や面談の機会を案内していること(本人が辞退した場合はその記録があること)。そして一連の対応を記録として保管していること。この三点があれば、安全配慮義務の観点から最低限の対応は行ったと説明できます。
実施前の設計が後の対応を左右する
今回初めてストレスチェックを実施した企業の多くが、実施前の設計(同意書の取得・結果の取り扱い方針・対応フロー)を十分に整えないまま走り始めています。次回実施前には、「高ストレス者が出たらどう対応するか」を事前に決めておくことが、実務上の混乱を大幅に減らします。実施計画書や対応手順書を一枚でも作っておくと、担当者が変わった場合にも対応が引き継げます。
まとめ
50人未満の企業がストレスチェックを任意実施した場合でも、高ストレス者への対応は安全配慮義務(労働契約法第5条)の観点から必要です。「義務外だから放置してよい」という判断は法的に通用しません。最低限の対応として、本人への結果通知・相談窓口の案内・対応記録の保管(少なくとも5年)を行ってください。医師面接は外部機関への橋渡しで代替でき、集団分析は10人未満の集団では実施しないという判断も合理的です。大切なのは「対応した事実と記録」を残すことです。
実施計画から対応実行まで、一連のプロセスに自信がないのであれば、ウェルセンス株式会社に相談するのも一つの方法です。50人未満の企業に寄り添った対応設計をサポートしています。
よくある質問
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