フレックスのコアタイム外会議は残業扱いになる?

労務管理

「コアタイム外に会議を入れたんだけど、これって残業代を払わないといけないの?」——フレックスタイム制を導入している会社でよく聞かれる質問です。「フレックスだから、コアタイム外は社員が自由に使える時間でしょ」と思っていた経営者・人事担当者が、社員からの指摘を受けてはじめてフレックスタイム制の仕組みを調べ始める、というケースは少なくありません。結論から言えば、コアタイム外の会議でも業務命令であれば労働時間に該当します。ただし「即・残業代が発生するか」はフレックスタイム特有の計算ルールによって決まります。本記事では、その判断基準と就業規則・労使協定の整備ポイントをわかりやすく解説します。

「コアタイム外=自由時間」という誤解が労務リスクを招く

フレックスタイム制においてコアタイム外は「使用者が命令できない時間」でも「労働時間ではない時間」でもありません。この誤解こそが、残業代トラブルの温床になっています。

フレックスタイム制の本来の意味

フレックスタイム制(労働基準法第32条の3)とは、清算期間(最長3ヶ月)の総労働時間を労使協定であらかじめ定め、その範囲内で「いつ出社・退社するか」を労働者自身が決められる制度です。コアタイムは「必ず働かなければならない時間帯」、コアタイム外のフレキシブルタイムは「労働者が自分の裁量で働く・働かないを決められる時間帯」という位置付けです。

重要なのは、フレキシブルタイムは「労働者の裁量に委ねた時間帯」であって、「使用者が自由に命令を出せる時間帯」ではないという点です。

業務命令を出した瞬間、その時間は「労働時間」になる

最高裁判所は三菱重工業長崎造船所事件(1994年)において、労働時間とは「使用者の指揮命令下に置かれている時間」であり、就業規則の文言や名目ではなく実態で客観的に判断されると示しています。コアタイム外であっても、上司が「この時間に会議に出てほしい」と命じた場合、その時間は使用者の指揮命令下に置かれた時間として、確実に労働時間にカウントされます。

「任意参加」という案内も形式だけでは通用しない

「一応『任意参加』と伝えてあるから問題ない」という運用も危険です。断った場合に評価が下がる・業務に支障が出るといった状況であれば、実態として強制参加とみなされます。形式ではなく「本当に参加しなくても不利益がない状態か」が判断基準になります。

「残業代が発生するか」はフレックス特有の計算方法で決まる

コアタイム外の会議が労働時間に該当するとしても、「即・残業代(割増賃金)が発生する」とは限りません。フレックスタイム制では、時間外労働の判定は日単位ではなく清算期間トータルで行います。

フレックス制の時間外労働は「清算期間の合計」で判定する

通常の残業計算(1日8時間を超えたら残業代)とは異なり、フレックスタイム制では清算期間(多くの会社で1ヶ月)に定められた総所定労働時間を実労働時間が超えた場合に、はじめて時間外割増賃金が発生します。たとえば、ある月の総所定労働時間が160時間と定められている場合、その月の実労働時間合計が170時間であれば、超過した10時間分が時間外労働として割増賃金の対象になります。

「今日9時間働いたから1時間残業代が出るはず」は間違い

フレックス制のよくある誤解として、「1日の実働が法定労働時間(8時間)を超えたから、その日の超過分に割増賃金が出る」と考えてしまうケースがあります。しかしフレックスタイム制では、特段の定めがない限りこの日単位の計算は適用されません。ある日に10時間働いた場合でも、別の日に6時間しか働かなければ、清算期間トータルで所定時間内に収まる限り残業代は発生しません。

清算期間が1ヶ月を超える場合はさらに注意が必要

2019年の労働基準法改正により、清算期間が1ヶ月を超える場合(最長3ヶ月)は、各月の労働時間が「週平均50時間」を超えた部分についても、清算期間終了を待たずにその月の時間外労働として割増賃金を支払う義務があります(労働基準法第32条の3の2)。清算期間を長く設定している会社は、この中間精算のルールも押さえておく必要があります。

社員からの「残業代が出ていない」という指摘が相次いでいるなら、就業規則の記載と実際の運用が乖離している可能性があります。人事の専門知識がない中では判断が難しい領域だからこそ、早期に専門家に相談することで、余計なトラブルを防げます。

コアタイム外の会議を「残業扱い」にするかどうかの判断基準

現場での判断に迷いやすい「コアタイム外の業務命令」について、残業時間への算入可否を整理します。判断の軸は「使用者の指揮命令下にあったか」と「清算期間の総労働時間を超えたか」の二段階です。

まず「その時間が労働時間に該当するか」を確認する

以下の状況に当てはまる場合、コアタイム外であっても労働時間として算入しなければなりません。

  • 上司・会社から特定の時間に会議・研修への参加を求められた
  • 参加しないことで業務上の不利益が生じる状況にある
  • 業務に直接関係する内容(報告会・案件の打ち合わせ・必須研修など)である

逆に、参加の判断が本当に労働者の裁量に委ねられており、欠席しても不利益が一切ない自由参加の勉強会などは、労働時間に該当しない場合もあります。

次に「清算期間の総労働時間を超えているか」で割増賃金の要否を判断する

労働時間に該当すると確定した時間を含めて、清算期間の実労働時間合計を計算します。その合計が協定で定めた総所定労働時間を超えていれば、超過分に対して割増賃金(25%以上)を支払う義務が生じます。コアタイム外の会議が月に数回あっても、清算期間全体で所定時間内に収まるのであれば、割増賃金は不要です。ただし、労働時間としてのカウントと記録は必須です。

判断基準を表で整理する

状況 労働時間への算入 割増賃金の発生
コアタイム外に業務命令で会議に参加させた(清算期間内の総実労働時間が所定時間以内) 必要 不要
コアタイム外に業務命令で会議に参加させた(清算期間の総実労働時間が所定時間を超過) 必要 超過分に対して必要
コアタイム外に完全任意(不参加でも不利益なし)の勉強会を開催 原則不要 不要

フレックスタイム制でも36協定の締結・届出は必須

フレックスタイム制を導入していても、36協定(時間外・休日労働に関する労使協定)の締結と労働基準監督署への届出は省略できません。

36協定なしに時間外労働をさせると法令違反になる

「フレックスだから残業が発生しにくい」という認識は正しい部分もありますが、清算期間を超えた時間外労働が発生し得る以上、36協定は必要です。協定なしに時間外労働をさせた場合は労働基準法違反となり、罰則の対象になります。フレックスタイム制の導入に際して36協定を締結していない、または内容が古くなっているという会社は、速やかに見直しが必要です。

労使協定に盛り込むべき事項を確認する

フレックスタイム制の労使協定(労働基準法第32条の3に基づく協定)には、清算期間・総所定労働時間・コアタイムの時間帯・フレキシブルタイムの範囲を明記する必要があります。これらが曖昧なまま運用していると、残業時間の計算根拠が不明確になり、社員とのトラブル時に会社が不利になります。

就業規則・労使協定に整備すべき具体的な記載事項

トラブルを未然に防ぐには、実態に合った規定の整備が不可欠です。「制度導入時に社労士に作ってもらったまま」という会社は、以下の観点で見直しを行いましょう。

業務命令でコアタイム外に就労を求める場合の手続きを明文化する

「コアタイム外に使用者が特定の時間の就労を命じることができる場合の条件と手続き」を就業規則または労使協定に明記します。たとえば「会社が業務上必要と認める会議・研修については、コアタイム外であっても参加を求めることがある。この場合の労働時間は実労働時間として清算期間の総労働時間に算入する」といった記載が有効です。あわせて、業務命令であることを事前に明確に伝えるプロセス(事前通知のタイミングや方法)も定めておくと運用がスムーズになります。

時間外労働の算定方法を明示する

「清算期間の実労働時間合計が総所定労働時間を超えた時間を時間外労働とし、割増賃金を支払う」という計算方法を就業規則に明記します。日単位で計算するかのような誤解を社員が持つと、毎月のように「残業代が出ていない」という指摘につながります。計算の仕組みをわかりやすく規定し、必要に応じて給与明細にも内訳を示すことで、不信感を防ぎます。

出退勤記録の管理方法も規定に落とし込む

フレックスタイム制では始業・終業が日によって異なるため、正確な実労働時間の把握が特に重要です。タイムカード・ICカード・勤怠管理システムなど、どの方法で記録・保存するかを就業規則に定め、労働時間の証跡が残る運用を徹底します。記録がなければ、万が一の労働紛争でも会社側が不利になります。

まとめ

コアタイム外の会議であっても、業務命令として参加させた場合はその時間が労働時間に算入されます。ただし、フレックスタイム制では残業代(割増賃金)の発生は清算期間の総労働時間との比較で判定するため、「コアタイム外に会議をした=即・残業代が発生する」とは限りません。重要なのは、労働時間としての記録は必ず行い、清算期間トータルで適切に計算・精算することです。また「コアタイム外=自由時間=残業代ゼロ」という誤解に基づいた運用は、社員の不信感や法令違反リスクを高めます。就業規則・労使協定に業務命令の取り扱い・時間外労働の計算方法・記録方法を明記し、実態に合ったルール整備を行うことが、中長期的なトラブル防止につながります。

フレックスタイム制の運用に関する法的判断は、経営者や兼務人事だけで判断するには複雑です。社員からの指摘に対応する際は、人事労務の専門家に一度相談してみることをお勧めします。ウェルセンス株式会社では、中小企業の実情を踏まえた労務相談・就業規則の見直しをサポートしています。

よくある質問

Q. コアタイム外に「任意参加」と案内した会議でも、残業代を払わないといけませんか?

A. 「任意参加」と案内していても、欠席することで評価に影響する・業務上参加せざるを得ない雰囲気がある場合は、実態として強制参加とみなされ、労働時間に該当します。その上で清算期間の総所定労働時間を超えていれば、割増賃金の支払い義務が生じます。形式よりも「本当に参加しなくても不利益がない状況か」が判断の基準になります。

Q. フレックスタイム制で1日10時間働いた場合、2時間分の残業代は発生しますか?

A. フレックスタイム制では、原則として日単位ではなく清算期間トータルで時間外労働を判定します。1日10時間働いても、別の日に6時間しか働かず清算期間全体で総所定労働時間内に収まっていれば、割増賃金は発生しません。「今日は8時間を超えたから残業代が出るはず」というのはフレックス制では適用されない計算方式です。

Q. フレックスタイム制でも36協定の締結は必要ですか?

A. 必要です。フレックスタイム制を導入していても、清算期間の総所定労働時間を超える時間外労働が発生し得る限り、36協定(時間外・休日労働に関する協定)の締結と労働基準監督署への届出は省略できません。協定なしに時間外労働をさせると労働基準法違反になります。

Q. 清算期間を3ヶ月に設定しています。何か追加で注意すべきことはありますか?

A. 清算期間が1ヶ月を超える場合、2019年の労働基準法改正(第32条の3の2)により、各月の労働時間が「週平均50時間」を超えた部分については、清算期間終了を待たずにその月の時間外労働として割増賃金を支払う義務があります。清算期間終了時の精算だけを意識していると、この中間精算を見落とすリスクがあるため注意が必要です。

Q. 就業規則のフレックス関連の条項を見直したい場合、どこに相談すればよいですか?

A. 就業規則の改定は社会保険労務士(社労士)が専門ですが、「現状の運用との乖離がどこにあるか」「社員からの指摘にどう対応すべきか」といった実務上の整理が必要な場合は、人事労務の実務支援を行う専門家への相談も有効です。ウェルセンス株式会社では、専任人事のいない中小企業向けに、就業規則の見直し支援や労務運用の実務アドバイスを行っています。まずはお気軽にご相談ください。

【監修】ウェルセンス株式会社
ウェルセンスは、メンタル不調者対応・休職復職支援に強い職場メンタルケアサービスです。産業医・保健師・心理士・社労士などの専門家ネットワークが、人事・管理職だけでは判断しづらいケースの初動対応、専門家連携、再発防止まで支援します。

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