「来月から職場に戻りたいんですが……」——育休中の社員からそんな連絡が入り、気づけば手元には何の準備もない。誰に何の手続きをすればいいのか、もらった給付金はどうなるのか、ポジションはどう確保すればいいのか。育休の途中終了は、会社側にとって想定外のタイミングで降ってくることが多く、専任人事のいない企業では特に対応が後手に回りがちです。この記事では、育休の途中終了・復職に必要な手続きの全体像を、会社側の視点で整理します。
育休の途中終了とは何か、どんなルールがあるか
育児休業の途中終了とは、当初予定していた育休終了日よりも早く職場復帰することを指します。労働者には育休を途中で切り上げる権利がありますが、会社への申し出には期限と回数のルールが定められています。
申し出の期限と回数の制限
育児・介護休業法の施行規則に基づき、育休終了予定日の繰り上げを申し出る場合は、新しい終了予定日の2週間前までに申し出る必要があります。たとえば「3月31日まで育休を取得予定だったが、3月15日に復職したい」という場合、遅くとも3月1日(15日の2週間前)には申し出が必要です。
また、この繰り上げ申し出は育休取得中に1回しか行えません。一度繰り上げを申し出たあとに「やはりもう少し延ばしたい」「さらに前倒ししたい」という変更は、原則として認められません。会社側は申し出を受けた時点で、社員にこの制限をあらかじめ伝えておくと安心です。
「来週から戻る」は受け入れられるか
就業規則に申し出期限を明記していない会社では、社員が2週間を切ったタイミングで突然連絡してくるケースがあります。法令上の原則は「2週間前まで」ですが、会社が合意すれば短期間での復職を認めることも可能です。ただし、準備が整わないまま受け入れることで現場に混乱が生じるリスクもあります。就業規則に申し出期限を明記しておくことが、こうしたトラブルを防ぐ第一歩になります。
育児休業給付金は返還しなければならないか
結論から言えば、育休を途中終了しても、すでに受け取った育児休業給付金を返還する義務は原則として生じません。ただし、終了後の給付は止まるため、早期復職した分だけ受け取れる給付金の総額は減ります。
給付金の仕組みと途中終了の関係
育児休業給付金(雇用保険)は、「支給単位期間」ごとに支給される仕組みです。支給済みの給付金は、適法に取得した育休期間に対応するものとして扱われるため、途中終了によって遡って返還を求められることはありません。
一方で、育休終了後の期間については支給対象外となります。たとえば当初6か月間の育休を予定していた社員が4か月で復職した場合、残り2か月分の給付金は支給されません。社員への説明はこのポイントを明確に伝えることで、誤解を防げます。
会社がハローワークに行う終了処理
育休が終了したら、会社はハローワーク(公共職業安定所)に対して育児休業給付金の支給終了処理を行います。放置していると支給が継続されてしまい、後から精算が必要になることもあるため、復職後、速やかに手続きを行うことが重要です。手続きは「育児休業給付金支給申請」の終了処理という形で行います。担当窓口がわからない場合は、会社の所在地を管轄するハローワークに問い合わせてください。
社会保険料の免除はいつ終わるか——月末の扱いに注意
育休中の社会保険料免除が終わるタイミングは、育休終了日の翌日が属する月の前月までです。月末時点で育休中かどうかが判定基準になるため、復職日が1日ずれるだけで保険料負担に大きな差が生まれます。
月末復職と月の途中復職の違い
具体例で確認します。育休終了日(復職日)が3月31日の場合、月末時点で育休終了後の状態となるため、3月分の社会保険料は発生します。一方、育休終了日が3月30日で翌3月31日に育休を継続する場合、3月中は育休継続とみなされるため3月分は免除され、4月分から保険料が発生します。
この差は会社・社員双方にとって無視できない金額になりえます。ただし、後述するように「保険料の節約」を目的に復職日を会社都合で操作することは問題があります。あくまで社員の申し出をベースに復職日を決定し、そのうえで保険料の発生タイミングを会社として把握・管理するという姿勢が大切です。
復職後に賃金が変わる場合の追加手続き
育休復職後に時短勤務(短時間勤務)などで賃金が下がる場合、標準報酬月額(社会保険料の算定基礎となる賃金)の見直しが必要になることがあります。この場合は「育児休業等終了時報酬月額変更届」を年金事務所または健康保険組合に提出することで、実態に合った保険料に改定できます。忘れると保険料が実際の賃金と乖離したまま徴収され続けるため、復職後の働き方が変わるときは忘れずに確認してください。
会社が行う手続きの全体像
育休の途中終了に伴い、会社が対応すべき手続きは複数の窓口にまたがっています。提出先・内容・タイミングを一覧で把握し、漏れなく対応することが重要です。
手続き一覧と提出先
| 手続き | 提出先 | タイミング |
|---|---|---|
| 育児休業給付金の支給終了処理 | ハローワーク | 育休終了後、速やかに |
| 健康保険・厚生年金 育児休業等終了届 | 年金事務所または健康保険組合 | 育休終了後、速やかに(翌月末が目安) |
| 育児休業等終了時報酬月額変更届 | 年金事務所または健康保険組合 | 復職後、賃金変動があれば速やかに |
健康保険組合に加入している場合の注意点
全国健康保険協会(協会けんぽ)に加入している会社は年金事務所が窓口になりますが、組合健保(業種別・企業別の健康保険組合)に加入している場合は健康保険組合と年金事務所の双方に届出が必要なケースがあります。自社がどちらに加入しているかを確認し、不明な場合は年金事務所に相談すると案内してもらえます。
手続き漏れが起きやすいポイント
実務でよく起きるのが、「ハローワークには連絡したが、年金事務所への届出を忘れていた」というケースです。社会保険と雇用保険は管轄が異なるため、どちらか一方を失念しがちです。チェックリストを作成し、手続きごとに担当者・期限・提出先を明記しておくと抜け漏れを防げます。
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職場復帰を受け入れる側の社内準備
手続き面が整っても、現場の受け入れ体制が整っていなければ復職は機能しません。育休中の社員には休業前と同等の地位・賃金での職場復帰を保障する義務があり、「ポジションがない」は会社都合の理由として通りません。
「席がない」は不利益取扱いになるリスクがある
育児・介護休業法は、育休取得を理由とした不利益取扱いを明確に禁止しています。後任担当者がいる、業務委託で対応していたなどの事情はあくまで会社側の都合であり、復職する社員の権利を制限する理由にはなりません。復職日が決まったら、できるだけ早い段階で業務分担の整理・引き継ぎ・周囲への説明の準備を進めましょう。
時短勤務・保育園の状況を事前に確認する
復職後に短時間勤務制度(3歳未満の子を持つ社員は1日6時間勤務を選択できる権利があります)を利用する場合、シフトや業務アサインの調整が必要です。社員と事前に「いつから」「何時間勤務にするか」「どの業務からスタートするか」を確認しておくと、現場の混乱を最小限に抑えられます。また、保育園の入所日が復職日に合わせて設定されているケースも多く、保育園側の状況も踏まえたスケジュール調整が求められます。
復職前面談を活用する
正式な復職日が決まったら、復職前に面談の場を設けることを推奨します。育休中の体調変化、復職後の業務量への不安、職場の人間関係への心配など、社員が抱えている懸念を事前に把握することで、スムーズな職場復帰につながります。この面談は人事担当者または直属の上長が行うのが一般的ですが、メンタルヘルス上の配慮が必要と感じた場合は産業医や外部の支援機関を活用することも選択肢です。
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まとめ
育休の途中終了・復職対応は、ハローワーク・年金事務所・社内体制の整備という複数の軸を同時に進める必要があります。申し出期限(原則2週間前・1回限り)を守ること、給付金の終了処理を速やかに行うこと、月末時点の保険料免除の仕組みを理解しておくことが、対応のキーポイントです。そして何より、「戻ってくる社員を安心して迎え入れる体制」を整えることが、不利益取扱いのリスクを避け、社員との信頼関係を守ることにつながります。
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