減給制裁の上限を3分で理解|複数事案の分割処分は適法か

減給制裁の上限を3分で理解|複数事案の分割処分は適法か コンプライアンス
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「月給30万円の社員に5万円の減給をしようと思っているが、本当に問題ないだろうか」——処分を決めようとしたとき、ふとそんな疑問が浮かんだ経験はないでしょうか。労働基準法には減給の上限が明確に定められており、就業規則で金額を定めていても、その枠を超えた処分は無効になります。複数の問題行為が重なったケースでは、処分設計の誤りが後から深刻なリスクに発展することもあります。この記事では、減給制裁の上限計算・複数事案への対応・処分設計の注意点を、専任人事のいない中小企業の方でも3分で把握できるよう整理します。

労働基準法第91条が定める減給制裁の上限

減給制裁には、労働基準法第91条により「1回の額」と「1賃金支払期の合計額」という2つの上限が設けられています。どちらか一方でも超えると違法になります。懲戒処分 減給の上限を正確に理解することは、人事担当者として最も重要な基礎知識の1つです。

減給制裁の2つの上限

労働基準法第91条は、懲戒処分としての減給について次の2段階の上限を定めています。

区分 上限
1回の減給額 平均賃金の1日分の半額以下
1賃金支払期における減給の合計額 その賃金支払期の賃金総額の10分の1以下

「1回の額」とは、1つの問題行為(懲戒事由)につき課せられる減給額の上限です。「1賃金支払期の合計額」とは、月給制であれば当月の給与から控除できる減給の合計の上限を指します。

平均賃金の計算方法と具体例

「平均賃金」は、労働基準法第12条に基づき、算定事由発生日以前3カ月間の賃金総額をその期間の総暦日数で割って算出します。「月額÷30」という簡便計算とは厳密には異なる点に注意が必要です。

月給30万円・月30日勤務の社員を例に概算すると、3カ月の賃金合計は90万円、暦日数は90日となり、平均賃金は1万円/日です。この場合の減給制裁の上限は次のとおりです。

  • 1回の減給上限:5,000円(1万円の半額)
  • 1賃金支払期の減給合計上限:3万円(30万円×1/10)

「5万円を減給しよう」と考えていた場合、1回あたりの上限である5,000円を大きく超えてしまうことがわかります。直感と制度の乖離が大きく、ここで多くの経営者・人事担当者が驚かれます。

法定上限は強行規定——就業規則では上回れない

労働基準法第91条は強行規定です。就業規則や個別の労働契約で「減給5万円」と定めても、法定上限を超える部分は無効になります。「就業規則に書いてあるから問題ない」という判断は誤りです。処分前に必ず法定上限と照らし合わせてください。

複数の問題行為がある場合、分割処分で上限を増やせるか

同一賃金支払期内で複数の問題行為に対して別々に減給処分を重ねた場合、合計額が賃金総額の10分の1を超えることは認められません。「事案ごとに別の日に通知すれば上限が増える」という解釈は通用しません。

行政解釈の立場

旧労働省(現在の厚生労働省)の行政解釈では、同一の賃金支払期において複数の事案を理由に複数回の減給処分を行った場合も、その合計額が「当該賃金支払期の賃金総額の10分の1」を超えてはならないとされています(昭和63年3月14日 基発第150号等)。

つまり、ハラスメントと無断欠勤という2つの事案が同一月内に発生していた場合、それぞれ別の処分通知書を発行しても、同一賃金支払期内であれば減給の合計は賃金総額の10分の1が上限です。処分を2回に分けても、上限額が2倍になるわけではありません。

賃金支払期をまたぐ場合の扱い

複数の事案に対して、異なる賃金支払期にまたがって懲戒処分を行う場合は、実務上解釈が分かれる論点です。事案が時間的に明確に分離しており、各期の処分が独立していると評価できる場合は、それぞれの賃金支払期ごとに10分の1の上限が適用されると考えられます。ただし、「意図的に月をまたがせて上限を回避しようとした」と評価されると問題になる可能性があるため、処分時期の設定には慎重な判断が求められます。

実務での注意点——重い処分には他の選択肢も検討

複数事案が重なったとき、「重い処分をしたい」という経営判断は理解できます。しかし減給制裁だけで重さを表現しようとすると、法定上限という壁に必ずぶつかります。この場合、降格・出勤停止・けん責などほかの懲戒処分との組み合わせを検討することが現実的な対応です。処分の組み合わせ方については後述します。

就業規則の規定と労働基準法の優先関係

就業規則に減給の規定があることは懲戒処分の前提条件ですが、就業規則の内容が労働基準法第91条の上限を上回ることはできません。両者の関係を正しく理解しておくことが重要です。

就業規則に懲戒規定が必要な理由

懲戒処分を行うためには、就業規則に懲戒の種類と事由が明記されていることが必要です(労働契約法第15条)。就業規則の根拠なく懲戒処分を行った場合、その処分自体が無効になるリスクがあります。「情状に応じて減給に処する」という記載だけでは、具体性が不十分と判断される可能性があります。

法定上限を超える就業規則は自動無効

就業規則の記載が労働基準法第91条の上限を超えている場合、超える部分は自動的に無効になります。たとえば「減給は1回につき基本給の5%」と就業規則に定めていても、その5%が平均賃金の1日分の半額を超えていれば、超過分の減給は法的に無効です。就業規則の整備と同時に、記載内容が法定上限の範囲内に収まっているかを確認してください。

規定が曖昧な場合の対処

就業規則に「情状に応じて減給」とだけ書かれている場合、処分のたびに適法性の判断に迷うことになります。理想的には、減給の計算基準(平均賃金の1日分の半額以内)を就業規則に明記し、処分選択の基準を社内で統一しておくことが望ましいです。就業規則の整備は、従業員10名以上の事業場では法的義務(労働基準法第89条)でもあります。

減給以外の懲戒処分との組み合わせ方

減給制裁だけでは対応が難しい重大事案には、ほかの懲戒処分を組み合わせることで、法定上限を守りながら適切な対応が可能になります。

懲戒処分の種類と使い分け

懲戒処分には一般的に以下の種類があります。

  • 戒告・けん責:口頭または文書で注意・反省を促す。最も軽い処分。
  • 減給:賃金から一定額を控除する。労働基準法第91条の制限あり。
  • 出勤停止:一定期間の就労を禁じ、その間の賃金を支払わない。
  • 降格:役職・職位を引き下げる。賃金への影響は降格後の賃金設計による。
  • 懲戒解雇:最も重い処分。客観的に合理的な理由が必要。

「減給5,000円では職場への示しがつかない」と感じる場合は、減給と出勤停止・降格を組み合わせることで、全体として重みのある処分設計が可能です。

「損害賠償請求」と「制裁としての減給」は別物

従業員が故意または重過失により会社に損害を与えた場合、民法第709条に基づく損害賠償を求めることは可能であり、これは労働基準法第91条の制裁としての減給とは別の法的根拠に基づきます。ただし、同一の行為に対して「制裁としての減給」と「損害賠償」を両方課すと、二重処分として問題になる可能性があります。どちらの性質の請求なのかを明確にしたうえで対応してください。

処分の適法性を担保する4つの確認事項

どの種類の懲戒処分を選択する場合でも、次の4点を事前に確認することが実務上の基本です。

  • 就業規則に処分の根拠規定があること
  • 問題行為の事実確認と証拠の保全が行われていること
  • 処分内容が問題行為の重大性に対して均衡していること(相当性)
  • 本人への弁明の機会が与えられていること

処分後のリスク管理と記録の重要性

減給処分を行った後、従業員から不服申立てや労働基準監督署への申告がなされるケースがあります。そのときに会社が適法性を説明できるかどうかは、処分前後の記録の質によって大きく左右されます。

懲戒処分に関して保管すべき記録

懲戒処分を行った場合、以下の記録を書面として保管しておくことを強くお勧めします。

  • 問題行為の事実を示す資料(報告書・タイムカード・メールなど)
  • 本人への事実確認・弁明の記録(日時・出席者・発言内容)
  • 処分決定の経緯と根拠(平均賃金の計算根拠を含む)
  • 処分通知書(交付日・受領確認を含む)

労働基準監督署への申告があった場合

従業員が「減給が違法だ」として労働基準監督署に申告した場合、監督署は使用者に対して調査を行います。このとき、計算根拠の書面・弁明の機会を設けた記録・就業規則の根拠条項が揃っていれば、会社側の説明は大幅に容易になります。逆に記録がなければ、適法な処分であっても立証が困難になります。

20~50名規模の企業が特に注意すべき点

専任人事が不在の場合、処分の都度「なんとなく」判断していることが多く、計算根拠の記録が残っていないケースが少なくありません。処分件数が少ないからこそ、1件ごとの記録の完成度が後のリスクに直結します。処分の手順を社内ルール化しておくことが、長期的なリスク管理になります。

まとめ

労働基準法第91条が定める減給制裁の上限は、1回あたり「平均賃金の1日分の半額」、1賃金支払期あたり「賃金総額の10分の1」です。月給30万円の社員であれば、1回の処分でできる減給は概算で5,000円にとどまります。複数の問題行為があっても、同一賃金支払期内の減給合計はこの枠を超えられません。就業規則にどのような金額を定めていても、法定上限を超える部分は無効です。重い処分が必要な場合は、出勤停止や降格などほかの懲戒処分との組み合わせを検討し、処分前後の記録を確実に残すことが不可欠です。

「うちのケースではどう対応すればよいか」「就業規則の記載内容を確認したい」「懲戒処分を検討しているが法的リスクが心配」という場合、ウェルセンス株式会社では中小企業の人事労務課題に関する相談をお受けしています。専任人事がいない環境でも、具体的な状況に合わせたアドバイスが可能です。人事対応のモヤモヤを解決する第一歩として、まずはお気軽にご相談ください。

よくある質問

Q. 月給30万円の社員に1回の懲戒で5万円を減給することはできますか?

A. できません。月給30万円の場合、平均賃金は概算で1万円/日となり、1回の減給上限は5,000円(1日分の半額)です。5万円の減給は法定上限を大幅に超えるため、超過部分は無効になります。重い制裁が必要な場合は、出勤停止や降格など他の懲戒処分との組み合わせを検討してください。

Q. 同じ月に2つの問題行為があった場合、それぞれ別の日に処分通知を出せば上限が2倍になりますか?

A. なりません。行政解釈では、同一の賃金支払期内に複数回の減給処分を行った場合、その合計額が賃金総額の10分の1を超えてはならないとされています。処分通知を分けても、同一賃金支払期内であれば合計額の上限は変わりません。

Q. 就業規則に「減給○万円」と明記してあれば、労働基準法の制限は適用されませんか?

A. 適用されます。労働基準法第91条は強行規定であり、就業規則や労働契約で上限を超える内容を定めても、超過部分は無効です。就業規則の記載内容が法定上限の範囲に収まっているか、一度確認することをお勧めします。

Q. 従業員が会社の備品を壊した場合、減給は法定上限の制限を受けますか?

A. 「制裁としての減給」には労働基準法第91条の上限が適用されます。一方、故意または重過失による損害については、民法第709条に基づく損害賠償請求は別の法的根拠であり、制限の扱いが異なります。ただし、同一行為に対して制裁と損害賠償を重複して課すと二重処分の問題が生じる可能性があるため、対応方針については社会保険労務士などの専門家に相談することが安全です。

Q. 減給処分を行った後、従業員から「違法だ」と言われた場合はどう対応すればよいですか?

A. 処分の適法性を説明できる根拠を書面で示すことが基本です。平均賃金の計算根拠・処分通知書・弁明の機会を設けた記録・就業規則の根拠条項が揃っていれば、対応は大幅に容易になります。記録が不十分な場合や対応に自信がない場合は、社会保険労務士や人事労務の専門家に早めに相談することをお勧めします。ウェルセンス株式会社でも、既に生じたトラブルへの対応方針について相談をお受けしています。

【監修】ウェルセンス株式会社
ウェルセンスは、メンタル不調者対応・休職復職支援に強い職場メンタルケアサービスです。産業医・保健師・心理士・社労士などの専門家ネットワークが、人事・管理職だけでは判断しづらいケースの初動対応、専門家連携、再発防止まで支援します。

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