経歴詐称が発覚したら解雇できる?対応の判断基準

経歴詐称が発覚したら解雇できる?対応の判断基準 コンプライアンス
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「入社後に経歴詐称が発覚した。でも、これって解雇できるのだろうか?」——そんな判断に迫られた経験のある経営者・人事担当者は少なくありません。専任人事がいない中小企業ほど、対応の順序や法的な判断基準がわからないまま、焦って動いてしまいがちです。この記事では、経歴詐称が発覚した際に「解雇できるかどうかを判断する基準」と「実務上の対応ステップ」をわかりやすく解説します。

経歴詐称はすべて解雇できるわけではない

「詐称の重大性」が判断の核心

経歴詐称が発覚したからといって、すべてのケースで解雇が認められるわけではありません。裁判例を見ると、解雇の有効性は「その詐称が採用の意思決定に影響を与える重要な事項であったかどうか」によって大きく左右されます。たとえば、趣味・特技欄の多少の誇張と、必須資格の偽装では、法的評価がまったく異なります。

判断に使う3つの軸

実務上、経歴詐称の重大性を判断する際には、次の3つの軸で整理するとわかりやすくなります。

まず「業務適性への影響」です。詐称された内容が、採否の判断に直結するものかどうかを確認します。資格・免許・職歴年数などは業務遂行の前提となるため、重大性が高いと判断されやすいです。

次に「会社への信頼毀損の程度」です。採用・配置・処遇の根拠となった情報が偽られていた場合、使用者と従業員の信頼関係を根本から損なうものとして評価されます。

最後に「故意性・悪質性」です。単純な記載ミスや記憶違いと、意図的な虚偽申告とでは、処分の相当性の判断が変わります。本人がどの程度意図的に情報を偽ったかが問われます。

重大性が低いと判断されたケースの例

アルバイト経験を「正社員」と記載した、在職期間を数ヶ月誇張した、担当業務の範囲を少し広く書いたといったケースでは、懲戒解雇が無効と判断された裁判例もあります。「解雇できる詐称」と「できない詐称」の間には明確な線引きがあり、感情的に対応すると後で法的トラブルを招きます。

懲戒解雇が認められやすい経歴詐称の類型

資格・免許・学歴の偽装

採用の前提条件として明示されていた資格や免許を偽った場合、懲戒解雇が認められやすいです。たとえば、看護師・社会福祉士・公認会計士・危険物取扱者などの国家資格は、その業務に従事するための法的要件です。「資格保有者として採用した」という事実が覆るため、採用の意思決定への影響が明確で、解雇の有効性が認められやすくなります。最終学歴についても、求人票に「大卒以上」と記載していたにもかかわらず虚偽の学歴を申告していた場合は、重大な詐称と評価されます。

職歴・在籍期間・役職の大幅な偽装

職歴の年数や役職を大幅に誇張するケースも、懲戒解雇が認められる類型のひとつです。「マネージャー経験5年」と申告していたが実際には一般社員で1年しか在籍していなかった、といったケースでは、採用判断・処遇・配置の根拠が崩れます。また、在職中に別会社で就業していた事実を隠蔽していた場合も、信頼関係の破壊として重く評価されます。

犯罪歴・懲戒歴の隠蔽

業務上のリスクに直結する犯罪歴や、前職での懲戒処分歴を隠蔽していた場合も、懲戒解雇の対象となり得ます。たとえば、金融機関や保育施設での採用において、横領や児童への不適切行為による前職の懲戒解雇歴を隠していたケースでは、会社が採用判断を誤らせられたとして有効な懲戒解雇と判断された例があります。ただし、プライバシーに関わる情報(犯罪歴など)の収集には、個人情報保護法上の制約もあるため注意が必要です。

発覚後に最初にやるべきこと

焦って口頭で解雇を告げてはいけない

経歴詐称が発覚した直後、感情的になって「即日解雇」を口頭で告げてしまう経営者・担当者は少なくありません。しかしこれは大きなリスクを招きます。口頭での解雇通知は証拠として残りづらく、後から「そんなことは言われていない」と争われる可能性があります。また、懲戒解雇には適正な手続きが必要であり、手続きを経ずに行われた解雇は、詐称の有無にかかわらず「手続き上の瑕疵(かし)」として無効になりかねません。

証拠の確保と保全を最優先する

発覚後にまず優先すべきは、証拠の確保です。採用時の履歴書・職務経歴書・エントリーシート・面接メモ・内定通知書などを確認し、保管状況を確認します。すでに廃棄している場合でも、メールや社内システムに残っているデータから復元できる場合があります。また、詐称の内容を最初に知った経緯(同僚からの指摘、前職からの連絡など)も、いつ・誰から・どのような形で情報を得たのかを書面で記録しておくことが重要です。

本人への事実確認は書面で行う

事実確認のための本人ヒアリングは、できる限り書面(回答書の提出依頼)で行うことを推奨します。口頭だけでは「言った・言わない」の水掛け論になりかねないからです。「履歴書の記載内容について確認したい事項があるため、以下の点についてご回答ください」という形で書面を交付し、回答を書面で求めます。本人が「記憶違いだった」「勘違いだった」と否定する場合でも、その回答自体が記録として残ります。

懲戒解雇を有効にするための実務チェックリスト

就業規則への明記は必須条件

懲戒解雇を有効に行うためには、就業規則に「経歴詐称は懲戒事由にあたる」旨が明記されていることが前提条件です。規定がない、または規定が曖昧な状態で懲戒処分を行うと、「懲戒権の濫用」として解雇が無効になるリスクがあります。自社の就業規則を今すぐ確認し、経歴詐称に関する懲戒規定の有無と内容を確認してください。

弁明の機会と懲戒手続きの履行

就業規則に懲戒委員会の設置や弁明の機会の付与が規定されている場合、それを省略した懲戒処分は手続き違反として無効になる可能性があります。本人に対して「懲戒処分を検討している理由」を書面で告知し、弁明の機会を設けることが必要です。この手続きを経ることで、「適正な手続きを経た上での処分である」という記録が残り、後のトラブル予防につながります。

懲戒解雇でも即時解雇には注意が必要

懲戒解雇であっても、原則として30日前の解雇予告か、30日分以上の平均賃金に相当する解雇予告手当の支払いが必要です(労働基準法第20条)。例外として「労働者の責に帰すべき事由」がある場合、所轄の労働基準監督署に「解雇予告除外認定申請」を行い、認定を受ければ即時解雇が可能になります。ただし、この認定は「横領」「暴力」など重大な事由に限られており、経歴詐称のケースで必ず認定されるわけではないため、事前に専門家に確認することを強く推奨します。

証拠が残っていない場合の対応方法

採用書類を廃棄してしまっていたケース

「履歴書をすでに捨ててしまった」というケースは中小企業では珍しくありません。この場合でも、採用時のメールのやり取り、求人票の写し、内定通知書などが補完的な証拠になります。また、「採用時にどのような条件・資格を前提として採用したか」を証明できる書類(雇用契約書・労働条件通知書)があれば、それも有効な証拠になります。採用時の書類は、少なくとも在職期間中は保管しておく運用ルールを今後設けることをお勧めします。

前職への在籍確認と個人情報保護のバランス

前職への在籍確認(リファレンスチェック)は、本人の同意を得た上で行うのが原則です。本人の同意なく前職に問い合わせることは、個人情報保護法やプライバシー権の観点から問題になる場合があります。実務上は、事実確認の書面を本人に提示する際に「前職への確認調査を行う可能性がある」旨を明記し、同意の意思を確認した上で進めることが望ましいです。信用調査会社の利用は、業種や役職によって許容範囲が異なるため、利用前に専門家に相談することをお勧めします。

本人が認めない場合の記録の重要性

本人が詐称を認めない場合でも、事実確認の過程を丁寧に記録しておくことが重要です。「いつ、誰が、何を確認し、本人はどのように回答したか」をすべて書面で残しておくことで、後の労働審判やあっせんにおいて「誠実な調査プロセスを経た上での処分である」ことを示せます。記録が不十分なまま処分を行うと、「一方的な解雇だった」と判断されるリスクが高まります。

解雇後のトラブルに備えるために

不当解雇の主張に備えた記録の整備

懲戒解雇・普通解雇を行った後、本人から「不当解雇だ」と主張されるリスクはゼロではありません。特に労働審判(申し立てから約3ヶ月で決定が出る簡易な紛争解決手続き)は、費用・時間ともに会社側にとって大きな負担です。備えとして有効なのは、「解雇に至るまでの経緯を時系列でまとめた記録」「本人との書面のやり取り」「懲戒手続きの議事録」などを解雇通知とともに保管しておくことです。

解雇通知は必ず書面で交付する

解雇通知は口頭で行わず、必ず書面(解雇通知書)で交付します。解雇通知書には、解雇の理由を具体的に明記することが重要です。「経歴詐称という就業規則第○条に該当する行為が認められたため」のように、就業規則の根拠条文を明示することで、処分の正当性を記録に残せます。また、解雇通知書の写しは会社側でも保管し、受け取りのサインをもらうことを徹底してください。

まとめ

経歴詐称が発覚しても、すべてのケースで解雇が認められるわけではありません。解雇の有効性は「詐称の重大性(業務適性・信頼毀損・故意性)」「就業規則への規定の有無」「適正な手続きの履行」「証拠の確保」の4点によって大きく左右されます。発覚後は感情的に動かず、まず証拠を保全し、本人への確認を書面で行い、就業規則に照らして処分方針を決定するという順序で対応することが重要です。

「この詐称は解雇できるのか判断がつかない」「就業規則に経歴詐称の規定がそもそもない」「発覚後の初動をどうすればいいかわからない」——そうした悩みを一人で抱え込まないでください。ウェルセンス株式会社では、専任人事のいない中小企業の経営者・兼務担当者の方が直面するこうした人事労務の判断を、個別の状況に寄り添いながら一緒に整理するサポートを行っています。「まず事案の内容を整理したい」という段階からお気軽にご相談ください。

よくある質問

Q. 採用時の履歴書をすでに捨ててしまっています。証拠なしで経歴詐称を理由に解雇できますか?

A. 履歴書がなくても、採用時のメールや内定通知書、労働条件通知書などが補完的な証拠になります。また、前職への在籍確認(本人同意のもと)や本人との書面でのやり取りを積み重ねることで事実を立証できる場合があります。ただし、証拠が乏しい状態での解雇は法的リスクが高まるため、専門家に相談した上で進めることをお勧めします。

Q. 就業規則に「経歴詐称は懲戒事由」と書いていません。この場合、懲戒解雇はできないのでしょうか?

A. 就業規則に懲戒事由として明記されていない場合、懲戒解雇を行うのは法的に難しくなります。ただし、普通解雇(解雇予告手当あり)の形で対応できる可能性はあります。いずれにせよ、まず就業規則を整備し、経歴詐称を懲戒事由として規定しておくことが将来のリスク管理として非常に重要です。

Q. 本人が「記憶違いだった」と経歴詐称を認めません。どのように対応すればよいですか?

A. 本人が認めない場合でも、書面による事実確認のやり取りを積み重ね、第三者(前職の在籍確認など、本人同意のもと)からの情報と照合することが有効です。「記憶違い」という主張自体も書面に残し、調査プロセスを丁寧に記録しておくことで、後の紛争において誠実な手続きを経たことを示せます。

Q. 経歴詐称をした従業員を懲戒解雇した後、損害賠償を請求することはできますか?

A. 理論上は可能ですが、実務的には「詐称によって会社が被った具体的な損害」を立証することが難しく、認められるケースは限られます。たとえば、資格のない人物に資格保有者として業務をさせたことで会社が受けた行政処分やクレーム対応費用などは損害として主張できる余地があります。個別の状況に応じて専門家と検討することをお勧めします。

Q. 採用選考の段階で経歴詐称を防ぐためにできることはありますか?

A. 採用段階では、入社時に「記載内容に虚偽があった場合は懲戒処分の対象となる」旨を明記した誓約書を取得することが有効です。また、採用要件として必要な資格・学歴については、原本確認(卒業証明書・資格証明書の提出)を義務化することで詐称のリスクを大幅に減らせます。採用書類は在職期間中は保管するルールを設けることも重要です。

【監修】ウェルセンス株式会社
ウェルセンスは、メンタル不調者対応・休職復職支援に強い職場メンタルケアサービスです。産業医・保健師・心理士・社労士などの専門家ネットワークが、人事・管理職だけでは判断しづらいケースの初動対応、専門家連携、再発防止まで支援します。

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