休職中の副業発覚時の就業規則に基づく対応のポイント

休職中の副業発覚時の就業規則に基づく対応のポイント 休職・復職対応
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「休職中のはずの社員が、SNSでアルバイトをしていることが判明した」——ある日突然、そんな情報が耳に入ってきたとき、経営者や人事担当者はどう動けばよいでしょうか。「対応したいが、就業規則に明確な規定がない」「メンタル不調の社員に連絡して問題にならないか」と二の足を踏むケースは少なくありません。この記事では、休職中の副業が発覚した際に就業規則を根拠として適切に対応するためのポイントを、法的な考え方から実務上の手順まで体系的に解説します。

休職中の副業は法律で禁止されているか

結論から述べると、労働基準法など現行の法令には「休職中の副業を禁止する」規定は存在しません。ただし、就業規則や労働契約の内容、および判例上の考え方によって、会社が副業を制限・禁止することは正当化されます。

法令に直接的な根拠はない

厚生労働省が2018年に策定した「副業・兼業の促進に関するガイドライン」は、副業・兼業を原則として認める方向を示しています。しかしこれはあくまで通常の就労状態にある労働者を前提としたものです。休職中という特殊な状態についての直接的な規定は設けられておらず、対応の根拠は会社ごとの就業規則・労働契約の内容に委ねられています。

療養専念義務という考え方

判例・実務上では、私傷病による休職は「療養のために就労を免除する制度」として設計されているという解釈が一般的です。そのため、療養に専念する義務(療養専念義務)が労働契約上の信義則(民法1条2項)から黙示的に生じると考えられています。就労を伴う副業はこの義務に反するとして、服務規律違反として処分の対象にできる場合があります。

休職事由の消滅という論点

就業規則の休職条項が「就労できない状態にある者を対象とする」という設計になっていれば、副業(就労)が可能な状態にあることは、休職事由そのものが消滅したことを意味する可能性があります。この場合、休職終了・復職命令・休職期間満了扱いを検討できる余地が生まれます。ただし、この解釈の運用には主治医や産業医の意見が必要不可欠であり、後述するように慎重な手順が求められます。

就業規則のどの条文が根拠になるか

休職中の副業に対応する際、単一の条文だけで処分根拠を構成しようとするのは危険です。複数の条文を組み合わせて根拠を重ね、処分の正当性を確保することが実務上の鉄則です。

活用できる条文の種類

条文の種類 記載例 処分への活用
副業・兼業禁止条項 会社の許可なく他の会社の業務に従事してはならない 就労を伴う副業に有効
休職中の遵守事項 休職中は療養に専念しなければならない 就労的な副業への直接的根拠
服務規律・誠実義務条項 会社の秩序・信用を害する行為をしてはならない 補助的な根拠として活用
懲戒事由条項 服務規律に違反した場合は懲戒に処する 上記違反を受けての処分根拠

「休職中」を特定した条文がない場合

多くの中小企業の就業規則では、「副業・兼業の禁止」は記載されていても、「休職中の副業」を特定した条文がないケースが見受けられます。この場合でも、副業・兼業禁止条項・服務規律条項・休職規定の趣旨を組み合わせることで一定の処分根拠を構成できる場合があります。ただし条文の明確性が低い分、処分の有効性を争われるリスクは上がります。今後のためにも、就業規則の整備は早期に着手すべきです。

就業規則が整備されていない会社のケース

常時10人以上の労働者を使用する事業場は就業規則の作成・届出が義務付けられています(労働基準法第89条)。それ未満の規模であっても、就業規則がない場合は懲戒処分自体の根拠が存在しないため、処分は事実上困難です。まず労働契約書や雇用通知書の内容を確認し、それでも根拠が乏しい場合は弁護士や社会保険労務士への相談を先行させることをお勧めします。

副業の種類によって対応の重さを変える

「副業」と一言でいっても、フリマアプリでの不用品販売とアルバイト就労では、療養への影響や会社への不利益がまったく異なります。処分の相当性(違反行為と処分の重さが釣り合っているか)は判例上も厳しく問われるため、副業の実態に応じた段階的な対応が不可欠です。

軽微な収益活動への対応

投資(株式・FXなど)・不用品のフリマ販売・少額のブログ収益などは、労働提供を伴わず療養への影響も限定的です。これらを直ちに懲戒処分の対象とすることは、処分の相当性を欠くと判断されるリスクがあります。まずは事実確認と注意・指導にとどめ、状況を記録しておくことが現実的な対応です。

労働提供を伴う副業への対応

アルバイト・フリーランス業務・継続的なコンサルティングなど、労働の提供を伴う副業は、療養専念義務違反の議論が成立しやすい類型です。就業規則に療養専念義務・副業禁止条項が整備されていれば、戒告・訓戒・減給等の懲戒処分を検討できる段階に進めます。処分を行う前に、必ず本人からの事情聴取と弁明の機会の付与を行ってください(この手続きを欠くと処分が無効になるリスクがあります)。

競業・情報漏洩を伴う副業への対応

同業他社への就労・顧客への個人的なサービス提供・社内情報を活用した業務受託などは、競業避止義務・秘密保持義務違反が加わります。この場合は服務規律違反に加えて損害賠償請求の可能性も視野に入れながら、より重い懲戒処分(出勤停止・降格・諭旨解雇・懲戒解雇)の検討が可能となります。重大な案件は、着手前に必ず弁護士に相談することを強くお勧めします。

発覚後の対応手順——初動から処分まで

副業が発覚した場合、感情的に動いたり放置したりするのが最も避けるべき対応です。事実確認→本人対応→処分の検討という流れを踏みながら、記録を残しながら進めることが重要です。

事実の把握と証拠の確保

SNS上の投稿・他の社員からの情報・外部からの連絡など、どのような形で発覚したにしても、まずその情報を記録・保全します。スクリーンショットの日付付き保存・報告者からのヒアリング記録など、後から「そういう事実はなかった」と言われたときに対抗できる証跡を整えておきましょう。この段階では本人への連絡はまだ不要です。

本人への確認とメンタル不調者への配慮

うつ病等のメンタルヘルス不調による休職中の場合、副業の確認のための連絡が症状を悪化させるリスクがあります。主治医や産業医と連携したうえで、書面(郵送)による確認が最も安全な方法です。電話や突然の訪問は避けてください。確認の内容は「副業の有無・内容・頻度・収益規模」に絞り、詰問的な表現を使わないことが重要です。本人には弁明の機会を必ず付与し、その内容を記録に残します。

処分の判断と今後の規則整備

事実確認が完了したら、副業の種類・程度・就業規則の整備状況を踏まえて処分の軽重を判断します。処分を行う場合は、懲戒委員会などの内部手続きを経て、処分通知書を書面で交付します。また今回の事案を機に、就業規則に「休職中の療養専念義務」「休職中の副業の取り扱い」を明文化することを強くお勧めします。同じ問題の再発を防ぐためには、事後的な規則整備が最大の予防策です。

傷病手当金と副業の関係を整理する

休職中の副業について、会社が「傷病手当金の不正受給になるのではないか」と不安を感じるケースがあります。傷病手当金は健康保険の給付であり、会社が直接管理する制度ではありませんが、基本的な仕組みは把握しておく必要があります。

傷病手当金と「労務不能」の要件

傷病手当金は「療養のために労務に服することができない状態(労務不能)」にある期間を対象として支給されます(健康保険法第99条)。副業で労働を提供している事実は、この「労務不能」要件に抵触する可能性があります。ただし、判断するのは健康保険組合や協会けんぽであり、会社ではありません。

会社の役割と報告義務の範囲

会社は傷病手当金の申請において「事業主証明欄」への記載を行いますが、副業の事実を健康保険組合に自主的に報告する義務は制度上規定されていません。一方で、虚偽の証明を行うことは問題となります。副業が発覚した場合に「傷病手当金の不正受給ではないか」と感じたときは、社会保険労務士や健康保険組合の担当窓口に相談することが適切な対応です。会社が独断で判断・行動することは避けてください。

まとめ

休職中の副業発覚への対応は、就業規則の整備状況・副業の種類・当該社員の状態という三つの軸で判断が変わります。法令に直接の禁止規定はないものの、療養専念義務・副業禁止条項・服務規律条項を組み合わせることで、一定の対応根拠を構成することが可能です。重要なのは、感情的に動いたり放置したりせず、事実確認→弁明機会の付与→処分の判断という手順を記録とともに踏むことです。また、今回の事案を機に就業規則の「休職中の副業に関する規定」を明文化することが、次の問題への最善の備えになります。

ウェルセンス株式会社では、休職・復職支援に加え、メンタルヘルス不調者への対応が絡む就業規則の運用相談にも対応しています。「就業規則に何を追加すればよいかわからない」「発覚した今どう動くべきか判断に迷っている」という場合は、お気軽にご相談ください。専任人事がいない体制でも、実務に即したサポートをご提供します。

よくある質問

Q. 就業規則に「休職中の副業禁止」の明記がなくても処分できますか?

A. 一定の対応は可能ですが、処分の有効性を争われるリスクは高まります。副業・兼業禁止条項・服務規律条項・休職規定の趣旨を組み合わせて根拠を構成することはできますが、条文の明確性が低い分、重い処分ほど無効とされる可能性があります。今後のためにも「休職中は療養に専念しなければならない」旨の条文を早急に追加することをお勧めします。

Q. うつ病で休職中の社員への確認連絡は問題になりますか?

A. 連絡方法によってはリスクがあります。電話や突然の訪問は症状を悪化させる可能性があるため避けてください。書面(郵送)による確認が最も安全です。主治医や産業医と事前に連絡方法を相談したうえで進めることが理想的です。確認の内容も詰問的にならないよう配慮し、弁明の機会を必ず付与してください。

Q. フリマアプリでの不用品販売も懲戒処分の対象になりますか?

A. 原則として、フリマアプリでの不用品販売のような労働提供を伴わない軽微な収益活動に対して直ちに懲戒処分を行うことは、処分の相当性を欠くと判断されるリスクが高いです。まずは事実確認と注意・指導にとどめることが現実的な対応です。ただし、大規模な転売業として継続的に行っているなど実態によっては判断が変わる場合があります。

Q. 副業が発覚した場合、そのまま休職を打ち切ることはできますか?

A. 就業規則に「就労できる状態になった場合は休職事由が消滅する」旨の条文があれば、休職終了・復職命令を検討できる余地はあります。しかし、副業の事実だけで一方的に休職を打ち切ることは法的リスクが高く、必ず主治医・産業医の意見を踏まえた慎重な判断が必要です。弁護士や社会保険労務士への相談を先に行ってください。

Q. 副業を理由に懲戒解雇することはできますか?

A. 副業の内容・程度によっては検討できますが、懲戒解雇は最も重い処分であり、「客観的に合理的な理由」と「社会通念上の相当性」の両方が求められます(労働契約法第15条)。競業他社への就労・重大な情報漏洩などを伴う場合を除き、副業のみを理由とした懲戒解雇は有効性を争われるリスクが極めて高いです。必ず弁護士に相談のうえで判断してください。

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【監修】ウェルセンス株式会社
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