中小企業の早期退職制度の作り方と規程整備の手順

中小企業の早期退職制度の作り方と規程整備の手順 労務管理
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「リストラという言葉は使いたくない。でも、このままの人件費では会社が持たない」——そう感じながらも、どこから手をつければいいかわからず、踏み出せずにいる経営者・人事担当者は少なくありません。早期退職制度は大企業だけのものではなく、中小企業でも適切な手順を踏めば実施できます。この記事では、制度設計から規程整備、退職合意書の作成まで、実務の流れを一つひとつ丁寧に解説します。

早期退職制度は中小企業でも作れる

結論から言えば、早期退職制度に必要な従業員数の下限は法律上存在しません。従業員20名規模の会社でも、適切な手順を踏めば実施できます。

早期退職制度の法的な位置づけ

早期退職制度(希望退職募集)は、法律上「合意退職(合意解約)」に分類されます。会社が条件を提示し、労働者が自らの意思で応募・合意するという形式をとるため、労働契約法16条の解雇規制は適用されません。解雇と異なり、「客観的に合理的な理由」の立証も不要です。ただし、あくまで「自由意思による応募」が前提であるため、特定の社員に対して執拗に退職を迫る行為は退職強要(不法行為・民法709条)として問題になります。

大企業の制度と何が違うのか

ニュースで見かける大企業の希望退職募集と本質的な仕組みは同じです。異なるのは規模と運用の手間です。中小企業では「常設制度」として就業規則に組み込む方法よりも、「都度実施型(スポット型)」として個別に運営するほうが現実的なケースが多いです。制度を毎年使うわけではなく、事業縮小や特定部門の廃止といった特定の事情に応じて実施するイメージです。

退職金制度がない会社はどうする

中小企業では退職金制度自体がない場合も珍しくありません。その場合、早期退職制度の実施にあわせて「今回限りの割増退職金」を設定することは可能です。ただし、退職金規程を新たに整備するか、または退職合意書の中で「一時金」として位置づけるかを明確にしておく必要があります。中小企業退職金共済(中退共)に加入している場合は、共済からの給付と会社独自の上乗せ金の関係も整理しておきましょう。

制度設計で決めておくべき項目

制度を動かす前に、対象者・条件・人数目標・期間の四つを社内で決定しておくことが不可欠です。これらが曖昧なまま告知すると、後から「あの人は対象なのに自分は除外された」といったトラブルが発生します。

対象者の要件を設定する

対象者の範囲は「全従業員」とする場合と「特定の部門・雇用形態・勤続年数」に絞る場合があります。たとえば「正社員のみ・勤続3年以上・45歳以上」のように絞ることも法律上は可能です。ただし、対象から外すことで特定の人物を狙い撃ちしていると見なされないよう、設定の根拠を文書化しておくことが重要です。

割増退職金の水準をどう決めるか

割増退職金(加算金)の水準には法定の基準がありません。実務上は「基本給の○ヶ月分を上乗せ」という形が一般的です。応募を促す合理的な水準として月給の3〜6ヶ月分程度が設定されることが多いですが、会社の財務状況や削減したい人件費の総額から逆算して決めることが現実的です。なお、割増退職金は「退職所得」として課税されるため、退職所得控除(勤続年数に応じて計算)が適用され、通常の給与よりも税務上の負担が軽くなります。本人から「退職所得の受給に関する申告書」を受け取り、適切に源泉徴収する手続きを忘れないようにしましょう。

実務的なポイント:割増退職金の金額決定は財務状況と人事課題の両面から検討する必要があるため、一人で判断するのが難しい場合は専門家に相談することをお勧めします。

募集期間と人数目標を設定する

募集期間は2〜4週間程度が一般的です。短すぎると従業員が検討する時間を確保できず、応募を急かしたと受け取られるリスクがあります。また、「何名削減したいのか」という人数目標もあらかじめ設定し、上限(応募者が多すぎた場合の上限人数)も検討しておきましょう。応募者が上限を超えた場合に会社が選考することは可能ですが、その基準も事前に定めておく必要があります。

規程整備と就業規則の対応

早期退職制度を実施するにあたり、就業規則や退職金規程の整備が必要になる場合があります。常時10人以上の従業員を使用する事業場では、就業規則を変更した際に労働基準監督署への届出義務が生じます。

常設制度か都度実施か、どちらを選ぶか

常設制度として就業規則に盛り込む場合、「第○条 早期退職優遇制度」として条文化し、対象要件・加算金の算出方法・応募手続きを明記します。一方、都度実施型の場合は就業規則に「会社は必要に応じて早期退職優遇措置を実施することができる」という根拠条文だけを設け、詳細はその都度「実施要領」として別途定める方法があります。専任人事のいない中小企業では、都度実施型のほうが規程整備の負担が少なく現実的です。

労働基準監督署への届出手続き

常時10人以上の従業員を使用する事業場が就業規則を変更する場合、労働基準法89条・90条に基づき、労働者代表(従業員の過半数を代表する者)の意見を聴取し、意見書を添付して所轄の労働基準監督署へ届け出る義務があります。意見書は「同意書」ではなく「意見を聴いた証明」なので、労働者代表が反対意見であっても提出・届出は可能です。9人以下の事業場では届出義務はありませんが、制度の透明性のために文書化しておくことを推奨します。

制度設計・規程整備の主な作業一覧

作業項目 内容 注意点
目的・対象・条件の決定 削減人数目標、対象者要件、加算金の算出方法、募集期間 根拠を文書で残す
就業規則・退職金規程の改定 制度の根拠条文を追加・修正 10人以上なら監督署届出が必要
労働者代表の意見聴取 意見書の作成・署名 同意でなく意見聴取で足りる
社内告知文書の作成 実施要領・募集案内を全対象者に配布 応募が任意であることを明記
個別面談の設定 希望者からの質問対応・制度説明 勧奨・強要にならないよう注意
退職合意書の締結 応募者全員と個別に合意書を締結 清算条項・撤回不可条項を含める
離職票・ハローワーク手続き 離職区分の確認・記載 会社都合相当の場合がある

退職合意書の作成と必須記載事項

早期退職に応募した従業員との合意退職は、必ず書面で退職合意書を締結します。口頭での合意は後のトラブルのもとになるため、書面化は必須です。

退職合意書に盛り込むべき項目

退職合意書には以下の内容を必ず含めましょう。退職日・退職理由(「合意退職」と明記)・割増退職金の金額と支払日・秘密保持義務(制度内容や個人情報の口外禁止)・清算条項(「本合意書に定めるほか、甲乙間に債権債務は存在しない」旨)・撤回不可の確認(本人の自由意思による応募であることの確認)。清算条項は、合意後に元従業員から「未払い残業代の請求」などが来た場合の防御として機能する重要な条項です。ただし、清算条項があっても違法行為(例:未払い賃金)そのものを免除する効力はないため、日頃からの労務管理が前提となります。

面談での注意点——退職強要との境界線

個別面談は「制度の内容を説明し、質問に答える場」であるべきです。「あなたに応募してほしい」「応募しないと評価に影響する」といった発言は退職強要(不法行為・民法709条)と認定されるリスクがあります。特定の人物を繰り返し呼び出して退職を促す行為も同様です。面談の記録(日時・参加者・話した内容)を残しておくことで、万一紛争になった際の証拠になります。

雇用保険の離職区分に注意する

合意退職であっても、会社都合に基づく希望退職募集への応募は、雇用保険上「特定受給資格者(会社都合相当)」と認定される場合があります。この場合、離職者は自己都合退職より早く・長く失業給付を受けられます。ハローワークへ提出する離職票の離職区分の記載を慎重に行い、実態に即した区分を選択してください。不適切な区分での記載は後からハローワークの調査で訂正を求められることがあります。

応募者が想定外に多かった・少なかった場合の対応

早期退職募集は結果をコントロールしにくい施策です。応募が多すぎた場合も少なすぎた場合も、あらかじめ対応方針を考えておくことがトラブルを防ぐ鍵になります。

応募者が多すぎた場合——辞めてほしくない人材への対応

上限人数を超えた場合、または「この人には辞めてほしくない」という人材が応募してきた場合、会社は応募を拒否できる場合があります。ただし、募集要領に「会社は応募者の中から退職者を選考する場合がある」という旨を事前に明記していることが条件です。事前に何も明示せず、一方的に特定の人物の応募を拒否すると、不公平な扱いとして紛争になりかねません。

応募者が少なすぎた場合——次の手段を考える

早期退職募集を実施しても目標人数に届かなかった場合、整理解雇(いわゆるリストラ解雇)を検討する段階に進むことになります。判例上確立した「整理解雇の4要素」(人員削減の必要性・解雇回避努力・人選の合理性・手続の相当性)をすべて満たす必要があり、早期退職募集の実施はこのうち「解雇回避努力」の一環として評価されます。整理解雇は法的リスクが高いため、この段階では必ず社会保険労務士や弁護士への相談を検討してください。

まとめ

早期退職制度は、中小企業でも適切な手順を踏めば実施できる合法的な人員調整手段です。まず目的・対象・条件・人数目標を明確に設定し、次に就業規則や退職金規程の整備(必要に応じて労働基準監督署への届出)を行います。そして社内告知・面談・退職合意書の締結という流れで進めていきます。特に「退職勧奨との境界線」と「退職合意書の清算条項」は法的リスクに直結するため、慎重な対応が必要です。

ウェルセンス株式会社では、専任人事のいない中小企業の経営者・人事担当者が一人で抱え込まなくて済むよう、制度設計段階から個別対応まで、人事労務課題の伴走型サポートを提供しています。「制度の進め方が本当に合っているか不安」「トラブルを防ぐために相談したい」という段階からでも、まずはお気軽にご相談ください。

よくある質問

Q. 従業員が20名以下でも早期退職制度を実施できますか?

A. はい、実施できます。早期退職制度(希望退職募集)は合意退職の仕組みであり、従業員数の下限は法律上設けられていません。ただし、常時10人以上の従業員を使用する事業場では、就業規則を改定した場合に労働基準監督署への届出義務が生じます。9人以下の場合も、制度の透明性のために書面で内容を整備しておくことを推奨します。

Q. 特定の社員に「ぜひ応募してほしい」と個別に声をかけることはできますか?

A. 一度制度の説明として伝えることは許容される場合がありますが、繰り返し勧めたり、「応募しないと評価が下がる」などの不利益を示唆したりすることは退職強要(不法行為・民法709条)となるリスクがあります。個別面談はあくまで「制度の説明と質問対応の場」にとどめ、面談の記録を残しておくことが重要です。

Q. 退職金制度がない会社でも割増退職金を支払えますか?

A. 支払えます。退職金規程がない会社でも、早期退職の実施にあわせて「今回限りの一時金(割増退職金)」として退職合意書に金額・支払日を明記する形で支払うことが可能です。ただし、税務上「退職所得」として適切に源泉徴収する必要があるため、本人から「退職所得の受給に関する申告書」を事前に受け取ってください。

Q. 辞めてほしくない従業員が応募してきた場合、断れますか?

A. 事前に募集要領へ「会社は応募者の中から退職者を選考する場合がある」と明記していれば、応募を拒否または保留することが可能です。ただし、この記載が事前になければ、特定の応募者だけを拒否することはトラブルの原因になります。募集要領の文言は制度設計の段階で慎重に検討してください。

Q. 早期退職募集をしても応募者が集まらなかった場合、次に何ができますか?

A. 早期退職募集の実施は、整理解雇(いわゆるリストラ解雇)の「解雇回避努力」として評価されます。目標人数を確保できなかった場合は整理解雇の検討が次の選択肢になりますが、判例上確立した整理解雇の4要素(人員削減の必要性・解雇回避努力・人選の合理性・手続の相当性)をすべて満たす必要があり、法的リスクが高まります。この段階では社会保険労務士や弁護士に相談することを強く推奨します。

【監修】ウェルセンス株式会社
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