慶弔休暇の付与日数がバラバラな運用に困ったら

慶弔休暇の付与日数がバラバラな運用に困ったら コンプライアンス
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「配偶者の親が亡くなったとき、A部署は3日休んでいたのに、うちの部署は1日しかもらえなかった」——社員からそんな声が上がったとき、人事担当者はどう答えればいいでしょうか。明文化されたルールがなく、上司の裁量や部署ごとの慣行で慶弔休暇の日数が決まってきた会社では、組織が少し大きくなった段階でこうした不満が表面化しがちです。この記事では、バラバラな運用が招くリスクと、就業規則に特別休暇規程を整備するための具体的な手順を解説します。

慶弔休暇は法律で日数が決まっていない

慶弔休暇の付与日数に「法定の最低基準」は存在しません。付与するかどうか、何日にするかは、すべて会社が自由に決めることができます。ただし、「自由に決めてよい」ことと「決めなくてよい」ことは別の話です。

法定休暇と法定外休暇の違い

労働基準法が付与を義務づけている「法定休暇」には、年次有給休暇・産前産後休業・育児休業などがあります。一方、慶弔休暇(忌引き休暇・結婚休暇など)は「法定外休暇(特別休暇)」に分類され、付与義務そのものがありません。付与日数も業種・会社規模によってまちまちで、「配偶者の死亡で5日」という会社もあれば「3日」という会社もあります。

就業規則への記載義務は別途ある

付与が任意だとしても、常時10人以上の労働者を使用する事業場には、就業規則の作成・届出義務があります(労働基準法第89条)。そして就業規則に「休暇に関する事項」を記載することも同条で義務づけられています。慶弔休暇を「運用上は付与している」にもかかわらず規則に記載していない場合、記載義務を果たしていないと評価されるリスクがあります。

有給か無給かも明記が必要

慶弔休暇を有給とするか無給とするかも、会社が自由に決められます。しかし決めた内容を就業規則に明記しなければ、「給与が出ると思っていた」というトラブルの原因になります。「特別休暇については有給とする」という一文があるかどうか、改めて確認してみてください。

バラバラな運用が引き起こす3つのリスク

部署や上司によって付与日数が違う状態を放置すると、社員の不満だけでなく、法的なリスクも生じます。問題が表面化する前に、リスクの全体像を把握しておくことが重要です。

労働慣行として固定化されるリスク

ある部署で「配偶者の親の葬儀に3日」という運用が続いていた場合、それが繰り返されることで「合理的な労働慣行」として事実上の労働条件になりうることを、最高裁判例は認めています。慣行として定着した後に日数を減らそうとすると、不利益変更の問題が生じます。「ずっとこうしてきた」という慣行は、後になって修正コストが跳ね上がる可能性があります。

不公平感による職場環境の悪化

組織が成長し、部署をまたいだ人間関係が生まれてくると、「あの人は3日もらえたのに」という比較が必ず起きます。慶弔休暇は、家族の死や結婚といった人生の節目に関わるものです。金銭的な待遇差よりも感情的なしこりが残りやすく、職場の信頼関係に影響します。

非正規社員との均衡待遇の問題

正社員に慶弔休暇を付与し、パートタイマーや有期契約社員には付与しないという取り扱いをしている場合、不合理な待遇差としてパートタイム・有期雇用労働法第8条の問題が生じる可能性があります。慶弔休暇の整備と合わせて、雇用形態別の取り扱いも確認が必要です。

特別休暇規程に盛り込むべき項目

就業規則に慶弔休暇の規定を整備するときは、「誰が・どんなときに・何日休めるか」を漏れなく記載することが基本です。よくある記載漏れのポイントを、以下の表で整理します。

整備項目 確認・記載すべき内容
対象となる続柄 配偶者・子・父母・祖父母・兄弟姉妹・義父母など、続柄ごとに日数を明示する
付与日数 続柄・事由(婚姻・死亡・忌引きなど)ごとに具体的な日数を記載する
有給・無給の別 法定外休暇のため、有給とするか無給とするかを会社が選択して明記する
申請手順・証明書類 会葬礼状・続柄確認書類などの提出要否を定める
土日祝の扱い 土日を挟む場合に暦日で数えるか、労働日のみで数えるかを明記する
雇用形態別の取り扱い 正社員・パート・有期契約社員への適用範囲を明確にする

続柄の範囲はどこまで広げるか

「義父母」や「祖父母」まで対象に含めるかは会社の判断ですが、含めないと決めた場合はその旨を明確に記載しておく必要があります。「書いていない続柄は対象外」という運用は、社員に伝わっていないとトラブルになりやすいため、「本規程に定める続柄以外は対象としない」という文言を入れておくと安全です。

土日の扱いは思わぬ混乱を生む

たとえば「忌引き3日」と規定していても、土曜・日曜を挟んだ場合に「暦日で3日」と数えるか「土日を除いた3労働日」と数えるかで、実際に休める期間が変わります。この点が曖昧なまま運用していると、個別に判断するたびにブレが生じます。規程に「暦日による」または「所定労働日による」を明記しておくだけで、管理職の判断負荷が大きく下がります。

日数をそろえるときに注意したい不利益変更のポイント

バラバラな日数を統一するとき、「多い部署に合わせる」方向なら問題は少ない一方、「少ない方に合わせる」場合は不利益変更の手続きが必要になることがあります。

不利益変更とは何か

労働契約法第9条は、使用者が就業規則を変更することによって労働者の労働条件を不利益に変更することを、原則として労働者の同意なく行えないとしています。同第10条では、変更に「合理性」があり、かつ社員に「周知」されていれば、同意なくても効力が生じる余地があるとされていますが、この「合理性」の判断はケースバイケースです。

「上限に統一」するアプローチ

不利益変更のリスクを避けるシンプルな方法は、現在付与されている日数の上限を基準に統一することです。たとえばA部署が3日、B部署が1日であれば、全社で3日に揃える方向です。会社のコストは増えますが、法的リスクが最小化され、社員の不満も生まれにくくなります。付与日数を「減らす」方向での統一は、事前に社労士や弁護士に相談した上で手続きを踏むことを強く推奨します。

整備後の周知と記録の仕組みも作る

規程を整備した後、社員全員に周知しなければ効力が生じません(労働契約法第7条)。紙での配布・社内イントラへの掲載・朝礼での説明など、周知の方法と日時を記録として残しておくことが重要です。また、申請書のフォーマットと承認フローをセットで整備しないと、規程はあっても運用がバラバラという状態が再発します。

ここまで規程整備の流れを解説してきましたが、「実際に自社で進める時間がない」「法的なリスクを確実に回避したい」という場合は、早い段階で専門家に相談することをお勧めします。

整備を進める具体的な手順

就業規則の整備は「現状把握→設計→変更手続き→周知」という順で進めるのが基本です。専任人事がいない会社でも、手順を知っていれば着実に進められます。

現状の棚卸しから始める

まず、現在どんな運用がされているかを各部署の管理職にヒアリングして整理します。「過去に実際に取得した事例」を聞き出すと、暗黙のルールが見えてきます。次に、現行の就業規則を確認し、特別休暇に関する記載の有無と内容を確認します。「別途定める」と書いてあるだけで実態がない場合は、その「別途の規程」を新たに作成することになります。

規程の設計は類似規模の他社事例を参考に

付与日数の相場感として、配偶者の死亡で5日前後、父母・子の死亡で3〜5日、兄弟姉妹・祖父母・義父母で1〜3日という会社が多く見られます。ただし業種・会社規模によってばらつきがあるため、あくまで参考として扱い、自社の実態・コスト・社員構成に合わせて決定してください。

労働基準監督署への届出を忘れない

常時10人以上の事業場は、就業規則を変更した場合、労働基準監督署への届出が必要です(労働基準法第89条・第90条)。届出の際は、過半数労働者の代表者(労働組合がない場合は社員の過半数を代表する者)の意見書を添付します。意見書は「同意書」ではなく「意見を聴いた証明」であるため、反対意見が出ても届出は可能ですが、真摯に対応姿勢を示すことが重要です。

まとめ

慶弔休暇の付与日数に法定の基準はなく、会社が自由に設計できます。しかし「自由に決めてよい」ことは「決めなくてよい」ことではありません。部署ごとにバラバラな運用を放置すると、労働慣行として固定化されるリスク、社員の不公平感による職場環境の悪化、非正規社員との均衡待遇の問題という3つのリスクが重なります。整備の手順としては、現状の棚卸し・規程の設計・変更手続き・周知という流れで進めることが基本です。とくに付与日数を「減らす方向」で統一する場合は、不利益変更の手続きが必要になるケースがあるため、着手前に専門家への確認を強くお勧めします。

「ルールを決めたいけど、どこまでが法的に問題ないか判断できない」「現在の運用に不利益変更の訴訟リスクがないか心配」——そうした場合は、人事のプロに一度相談する選択肢も有効です。ウェルセンス株式会社では、専任人事がいない中小企業の経営者・兼務担当者からの就業規則整備に関するご相談をお受けしています。

よくある質問

Q. 従業員が10人未満でも、慶弔休暇の規程は整備すべきですか?

A. 常時10人未満の事業場は就業規則の作成・届出義務がありませんが、慶弔休暇の運用ルールを明文化しておくことは強く推奨します。口頭ルールのまま運用していると、担当者が変わったときや社員が増えたときに判断がブレやすく、不満やトラブルの原因になります。簡単な社内規程書として整理しておくだけでも効果があります。

Q. 慶弔休暇を無給にしている会社は問題がありますか?

A. 法律上の問題はありません。慶弔休暇は法定外休暇であるため、有給とするか無給とするかは会社が自由に決められます。ただし、就業規則に「無給とする」と明記しておかないと、社員が「当然有給だ」と思って休んだ後に給与控除でトラブルになるケースがあります。有給・無給の別を必ず規程に記載しておきましょう。

Q. 会葬礼状などの証明書類を必ず提出させる必要がありますか?

A. 法律上の提出義務はなく、提出を求めるかどうかは会社が決められます。証明書類の提出を求める場合は、その旨を就業規則に明記しておく必要があります。書類提出を必須にすると社員の負担になる面もありますが、虚偽申請のリスクを防ぐ観点から、続柄が確認できる書類(住民票の写しなど)の提出を求める会社も多くあります。自社の信頼関係や実務負荷を踏まえて判断してください。

Q. パートタイマーに慶弔休暇を付与しない運用は違法ですか?

A. 直ちに違法とはなりませんが、パートタイム・有期雇用労働法第8条が定める「不合理な待遇差の禁止」に抵触するリスクがあります。正社員と同じ職場で働くパートタイマーや有期契約社員に対して、合理的な理由なく慶弔休暇を付与しないことは、不合理な待遇差と判断される可能性があります。慶弔休暇の整備と同時に、雇用形態別の取り扱いを見直すことを推奨します。

Q. 就業規則の変更は社労士に頼まないとできませんか?

A. 就業規則の作成・変更は会社が自ら行うことも可能です。ただし、不利益変更の手続き・労働基準監督署への届出・意見書の取り付けなど、法的に正しい手順を踏む必要があります。特に「付与日数を減らす方向で統一する」ケースや「非正規社員の取り扱いを変える」ケースでは、手続きの誤りが後のトラブルにつながるため、社会保険労務士などの専門家に相談しながら進めることを強くお勧めします。

【監修】ウェルセンス株式会社
ウェルセンスは、メンタル不調者対応・休職復職支援に強い職場メンタルケアサービスです。産業医・保健師・心理士・社労士などの専門家ネットワークが、人事・管理職だけでは判断しづらいケースの初動対応、専門家連携、再発防止まで支援します。

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