「面談中、スマートフォンをテーブルに置いたまま話していた……もしかして録音されていた?」復職面談の後、そんな不安を感じた経験はありませんか。あるいは、後から従業員に「あのとき〇〇と言いましたよね」と主張され、言った・言わないの水かけ論になってしまったケースもあるかもしれません。復職面談は、休職者の職場復帰を支援する大切な場である一方、発言内容が後の労使トラブルの火種になることがあります。本記事では、復職面談での録音リスクへの正しい理解と、会社側が取るべき実務的な対策を5つにまとめて解説します。
録音されること自体は違法ではない――まず前提を正しく理解する
復職面談で従業員が録音することは、現行の日本の法律上、原則として違法にはなりません。この前提を知らないまま対応すると、誤った判断でかえってトラブルを招くことがあります。
一方当事者による録音は適法
面談の参加者自身が行う録音は、不正競争防止法や盗聴を禁じる法律(有線電気通信の秘密を保護する規定等)の適用外となるのが一般的です。つまり、面談に参加している従業員が自分のスマートフォンで会話を録音することは、現時点の日本法では「違法」とは言えません。「録音禁止」と掲示しても、それに強制力はなく、録音した事実だけを理由に懲戒処分を下すことも、就業規則の根拠と合理性がなければリスクが高い対応です。
録音物が「証拠」になるリスク
問題は録音行為そのものではなく、録音された内容が後の労使紛争で証拠として使われる点です。面談担当者が不用意に「まあ、復職は難しいかもしれないね」「正直、今の体では戦力にならない」などと発言していれば、それがそのまま解雇の根拠や、ハラスメントの証拠として提出される可能性があります。復職面談の録音リスクを「録音させないこと」で解決しようとするのではなく、「録音されても問題ない面談を行うこと」が本質的な対策です。
録音物の外部漏洩は別問題
一方、録音した内容をSNSに投稿したり、第三者に無断で公開したりする行為は、プライバシー侵害や名誉毀損として別途問題になりえます。就業規則に秘密保持義務の規定がある場合は、その違反として対処することも考えられます。録音行為と録音物の取り扱いは、法的に切り分けて考えることが重要です。
対策1:会社側も記録を残す――面談記録・議事録の整備
復職面談での録音リスクへの最も効果的な対抗策は、会社側が正確な面談記録を持つことです。記録があれば、後から「言った・言わない」の争いになっても、会社側の主張を客観的に示せます。
面談記録に盛り込むべき項目
面談記録は、最低限以下の項目を含む形で作成しましょう。口頭で「なんとなく確認した」だけでは、紛争時に記録として機能しません。
| 記録項目 | 記載例・ポイント |
|---|---|
| 日時・場所 | ○年○月○日 14:00〜15:00 / 会議室A |
| 参加者 | 氏名・役職を全員分記録 |
| 確認した就労状況・体調 | 「睡眠は取れている」「通勤は問題ない」など本人の発言ベースで記録 |
| 主治医意見・産業医意見の確認 | 診断書の内容と、面談で補足した内容を区別して記載 |
| 合意した復職条件 | 勤務時間・業務内容・残業の可否・フォローアップ面談の日程など |
| 次回確認予定 | 「1か月後に状況確認の面談を実施」など |
本人に確認・署名を求める
面談後、記録をメールで本人に送付し「内容に相違がなければご確認ください」と一言添えるだけでも、後の「話が違う」という主張を大幅に抑制できます。可能であれば、復職合意書として書面を作成し、双方が署名・押印する形を取ることが最も確実です。専任人事がいない企業でも、Wordテンプレートを一度作っておけば運用は難しくありません。
会社側の録音・記録という選択肢
従業員が復職面談を録音できるなら、会社側も同様に記録を残す権利があります。面談冒頭に「この面談の内容は記録いたします」と一言伝えたうえで音声やビデオで記録する方法は、透明性の観点からも望ましい対応です。ただし、録音データそのものは要配慮個人情報を含むため、保管・アクセス権限の管理を適切に行う必要があります(個人情報保護法第2条第3項)。
対策2:言ってはいけないこと――発言リスクを下げる面談の作法
復職面談での不適切な発言は、それ自体がハラスメントや差別的取り扱いの証拠になりえます。「何を聞いてよいか」の基準を事前に整理しておくことが、発言リスクを下げる最善策です。
避けるべき発言・質問の具体例
以下のような発言は、意図がなくとも後から問題視されるリスクがあります。特に精神疾患による休職の場合、病状・治療内容・家庭環境に踏み込みすぎた質問は、要配慮個人情報への過剰な収集とみなされる可能性があります。
- 「正直、また休まれると困る」「同じことを繰り返さないで欲しい」
- 「薬は何を飲んでいるの?いつ治るの?」(治療の詳細を深掘りする)
- 「家族にも問題があるんじゃないか」(家庭環境への立ち入り)
- 「今の状態では戦力にならない」「復職しても居場所はない」
- 「やめることも考えてみては」(退職を誘導する発言)
聞いてよいこと・確認すべきこと
業務遂行に必要な情報を確認することは、使用者として正当な行為です。「通勤は問題なくできますか」「医師から就労に際して何か制限はありましたか」「希望する業務や配慮事項はありますか」といった、業務との接点が明確な質問は問題ありません。聞く目的が「適切な復職支援のため」であると一貫させることが、発言の合理性を担保します。
産業医の有無による対応の違い
産業医が選任されている企業(従業員50人以上が義務)では、産業医が面談に同席するか、産業医意見書を取得してから面談に臨む体制が取りやすくなります。一方、産業医がいない規模の企業では、主治医の診断書を確認したうえで、面談で聞く内容をあらかじめ書面化(アジェンダ化)しておくことで、発言のぶれを防ぐことができます。
対策3:復職条件の書面化――口約束をなくす仕組みをつくる
「復職時に短時間勤務を認める」「しばらく残業はなし」という口頭の約束は、後の条件変更時に必ずといってよいほど争点になります。復職条件は必ず書面に落とし、双方が確認する仕組みを作ることが不可欠です。
復職支援プランに盛り込む内容
復職支援プランは、試し出勤の有無・勤務時間の段階的な回復スケジュール・担当業務の範囲・残業や出張の制限・フォローアップ面談の頻度などを記載します。期間の定め(「3か月後に条件を見直す」など)も明記することで、「ずっとこの条件のはず」という誤解を防げます。
合意書の署名取得が最大の防御
復職合意書として書面を作り、従業員と会社の双方が署名することで、後から「そんな約束はしていない」という主張を封じることができます。署名を求める際は「お互いの認識を合わせるための確認書類です」と説明すれば、従業員の抵抗感も生まれにくくなります。
会社が復職可否を独自判断できる根拠を残す
主治医が「復職可」の診断書を出した場合でも、使用者は労務提供の適正を独自に判断できます(参考:最高裁 片山組事件 平成10年4月9日)。ただし、その判断の根拠を記録しておかないと、後の紛争で合理性を説明できなくなります。「なぜ復職をさらに延期したか」「なぜ元の業務に戻せないと判断したか」を面談記録に明示しておくことが、安全配慮義務(労働契約法第5条)を果たした証拠にもなります。
対策4:面談を「型化」する――属人化させない運営の仕組み
復職面談のリスクの多くは、面談が担当者個人の経験や感覚に依存していることから生じます。復職面談の進め方を型化・標準化することで、発言のぶれと記録漏れを同時に防ぐことができます。
事前アジェンダの準備
面談前に「何を確認するか」のリストを作成し、面談担当者が手元に持って進行します。アジェンダがあると、担当者が変わっても同じ水準の面談ができるようになります。また、面談後に「アジェンダの全項目を確認できたか」をチェックリストとして活用すれば、確認漏れも防げます。
複数人で面談に臨む体制
可能であれば、復職面談には2名以上が参加することを基本にしてください。1名が質問・対話を担当し、もう1名が記録を担当する分担が理想的です。1対1の面談は「言った・言わない」が生じやすく、後から双方の主張が食い違うリスクが高まります。小規模企業であれば、経営者と管理職の2名、あるいは外部の専門家(社会保険労務士など)を同席させる方法も有効です。
フォローアップ面談のスケジュールを復職時に決める
復職後の状態確認を「なんとなく様子を見る」で済ませると、再発のサインを見逃すリスクが高まります。復職面談の時点で「1か月後・3か月後に状況確認の面談を行う」とスケジュールを書面に明記しておくことで、フォローアップが属人的な判断に左右されなくなります。これは安全配慮義務を果たす観点からも重要な実務です。
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対策5:実施後の対応――記録保管と再発時の体制
復職面談を実施したら、その後の記録管理と再発時の対応準備も重要な実務です。復職後のトラブルに備えて、適切に記録を保管し、フォローアップの仕組みを機能させることが、復職面談での録音リスク対策の最後の砦になります。
面談記録の適切な保管と保持期間
復職面談の記録は、紙またはデジタルデータで保管します。法令上、面談記録そのものに明確な保管期間の規定はありませんが、労働関係の書類は一般的に3〜5年間の保管が実務上の目安とされています。労働基準法上、賃金台帳等の重要書類は5年間(当面は3年間)の保存が義務づけられており、復職面談記録もそれに準じた管理が望ましいです。退職後も一定期間は保管し、紛争が生じた際にすぐ参照できる状態を維持してください。
再発時の対応フローをあらかじめ定める
復職後に再発した場合、迅速で適切な対応が求められます。再度の休職判断、復職面談の再実施、場合によっては配置転換など――対応が属人的になると、新たなトラブルが生じます。あらかじめ「再発時の対応フロー」を社内で定めておくことで、判断の一貫性を保ちつつ、従業員の二次被害を防ぐことができます。
産業保健スタッフ・専門家との連携体制
再発防止やその後の復職支援は、会社単独では難しい判断が多くあります。事前に産業医・産業保健総合支援センター・社会保険労務士などの外部専門家と連携体制を築いておくことで、トラブル発生時の対応スピードが変わります。
まとめ
復職面談における録音リスクへの対策は、「録音を禁止する」ことではなく、「録音されても問題ない面談を行うこと」です。具体的には以下の5つが柱になります。
- 会社側も正確な面談記録を残すこと
- 発言内容の基準をあらかじめ整理すること
- 復職条件を書面化すること
- 面談そのものを型化・標準化すること
- 記録保管と再発時の対応体制を整備すること
これらは特別な設備や専任人事がいなくても取り組める実務対策です。
とはいえ、「自社の就業規則に復職関連の規定がない」「産業医との連携をどう取ればいいかわからない」「すでにトラブルの兆候がある」という状況では、個別の判断が必要になります。ウェルセンス株式会社では、復職支援の進め方から面談記録の整備、トラブル予防の仕組みづくりまで、中小企業の実態に合わせた支援を行っています。復職面談での対応に迷ったときは、一人で抱え込まず、まずは現状をお聞かせください。
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