社員が複数休職したら業務委託で穴埋めする前に確認すべき労務リスク

社員が複数休職したら業務委託で穴埋めする前に確認すべき労務リスク メンタルヘルス対応
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「来週から3人が同時に休職することになった。とりあえず外部のフリーランスに頼んで回すしかない」——追い詰められた状況でそう判断するのは当然のことです。しかし、業務委託という選択肢には、契約の実態次第で偽装請負の認定や安全配慮義務の問題など、見落とされがちな労務リスクが潜んでいます。人員の穴を埋める前に、最低限確認しておくべきポイントを整理しました。

業務委託で穴埋めすること自体は違法ではない

結論から言えば、休職者の業務を業務委託で補うこと自体は法律違反ではありません。問題になるのは「契約の名称が業務委託でも、実態が雇用に近い」場合です。

契約の名称より「実態」で判断される

厚生労働省が定める「労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準」(昭和61年労働省告示第37号)は、業務委託(請負・準委任)と労働者派遣・雇用の区別を、契約書の名称ではなく業務遂行の実態によって判断すると定めています。つまり、「業務委託契約」と書いた紙を交わしていても、現場の実態が雇用と変わらなければ法的には雇用として扱われるリスクがあるということです。

中小企業でよく起きる「実態のズレ」

専任人事がいない会社ほど、このズレが起きやすい傾向があります。休職した社員がやっていた仕事をそのまま引き継いでもらうため、「毎朝9時にSlackでチェックインしてください」「週次の社内会議に出てください」「この社内ツールを使って進捗を報告してください」といった指示が自然に発生します。このような状態が続くと、業務委託のつもりが実態は偽装請負という判定を受けかねません。

偽装請負と認定されると何が起きるか

偽装請負が認定された場合、最も深刻な結果は「労働契約申込みみなし制度」が適用されることです。発注元(自社)が直接雇用を申し込んだとみなされ、相手方が承諾すれば雇用関係が成立してしまいます。

労働契約申込みみなし制度の概要

労働者派遣法第40条の6は、違法な労働者派遣(偽装請負を含む)が行われた場合、派遣先(発注元)が派遣労働者に対して直接雇用の申込みをしたものとみなすと規定しています。業務委託として発注したフリーランスや外注先の担当者が、この制度を根拠に「雇用してほしい」と主張できる状態になるということです。採用するつもりのなかった人材を突然雇用しなければならなくなるリスクは、会社の規模が小さいほど経営に与える影響が大きくなります。

偽装請負と判断されやすい具体的な行為

以下に該当する行為が重なるほど、偽装請負のリスクは高まります。自社の現状と照らし合わせてください。

  • 発注元の担当者が業務委託先に直接・具体的な作業指示を出している
  • 就業時間や出勤日を発注元が指定・管理している
  • 社内会議・朝礼・定例ミーティングへの参加を義務づけている
  • 発注元の社内システム・ツールのアカウントを社員と同じ形で付与している
  • 業務委託先が自分の判断で再委託や作業方法の変更をできない状態になっている

一つ該当しただけで即アウトとはなりませんが、複数重なる場合は契約の見直しを検討すべきサインです。

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業務委託先への安全配慮義務は「ゼロ」ではない

「うちの社員じゃないから安全配慮義務は関係ない」と考えている方が多いですが、これは正確ではありません。一定の条件下では、発注先のフリーランスや外注担当者に対しても、安全配慮に準じた義務が認められる可能性があります。

安全配慮義務の基本と判例の広がり

安全配慮義務は労働契約法第5条に明記された、使用者が労働者の生命・身体・健康を守るための義務です。最高裁判所は川義事件(昭和59年4月10日判決)において、この義務は雇用契約の有無にかかわらず「一定の法律関係に基づいて特別な社会的接触関係に入った者」に対しても認められると判断しました。

業務委託先の担当者に不調が出たとき

発注元の施設内で常駐作業をしている、発注元の管理下で社員と実質的に同じ環境・量の業務をこなしているといった状況で業務委託先の担当者がメンタル不調になった場合、民法415条(債務不履行)または709条(不法行為)を根拠に、発注元である自社が責任を問われるリスクがあります。「自社社員ではないから」という理由だけで完全に免責されるわけではないことを、経営者・人事担当者は認識しておく必要があります。

フリーランス新法で加わった新たな義務

令和5年11月に施行された「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」(通称:フリーランス新法)により、発注者にはフリーランスへのハラスメント行為の防止措置義務が課されました。また、業務内容・報酬額・支払期日などを書面または電子的方法で明示する義務、継続的業務委託(6か月以上)の中途解除時には30日前の予告義務も適用されます。社員向けの対応だけでなく、業務委託先への対応も整備が必要な時代になっています。

契約書で最低限押さえるべきポイント

労務リスクを減らすために最も効果的なのは、契約書の段階でリスクの種を摘んでおくことです。ただし、契約書の文言と現場の実態が乖離していては意味がありません。書面と実態を一致させることが前提です。

契約書に盛り込むべき主な項目

項目 記載の方向性 リスク回避の理由
業務範囲 成果物・納期・具体的な業務範囲を明記する 追加指示が発生しにくい設計にすることで、指揮命令の実態を防ぐ
指揮命令の排除 発注元は成果物の検収のみ行い、業務遂行方法の指示は行わない旨を明記する 偽装請負認定の主な要因を契約上も排除する
就業場所・就業時間 受託者が自由に決める旨を明記し、実態も合致させる 時間・場所の管理が労働者性の判断基準になるため
再委託の可否 受託者が自身の判断で再委託できる旨を明記する 自律性の証明になり、労働者性の否定につながる
契約解除条件 中途解除の場合の予告期間(継続委託は30日前)・精算方法を明記する フリーランス新法への対応、トラブル防止
ハラスメント防止 発注元のハラスメント防止方針の適用範囲に業務委託先も含める旨を明記する フリーランス新法の防止措置義務への対応

契約書だけでなく「現場の運用」を合わせる

どれほど丁寧な契約書を作成しても、現場で直接指示を出し続けていれば意味がありません。特に、休職者の業務をそのまま引き継いでもらう形の外注は、「仕事の中身は同じ、やる人が外部になった」というだけの状態になりやすく、指示系統が変わらないまま継続するリスクが高いです。社内の担当者に対して「成果物の確認はするが、進め方の細かい指示は出さない」という運用ルールを徹底することが不可欠です。

現在の対応が正しい契約形態かどうか確信が持てない場合は、契約成立前に一度専門家の目で確認してもらうことで、後々のトラブルを大きく減らせます。

復職時のトラブルを防ぐための事前設計

業務委託で穴埋めをする際、見落とされがちなのが「休職社員が復職したとき」の出口設計です。復職と業務委託契約の終了タイミングが重なると、さまざまな問題が同時に発生します。

「戻る席がない」状態を作らないために

休職社員が担っていた業務を業務委託先が長期間担当すると、復職時に「あなたの業務は今、外部の方がやっています」という状態が生まれます。これは復職支援の観点でも問題があり、復職した社員が業務に戻れない場合、休職の原因が解消されていないとみなされかねません。また、業務委託先の業務を突然終了させようとすると、フリーランス新法上の中途解除予告義務(継続委託の場合は30日前)が発生し、引き継ぎ期間も含めると最低1〜2か月のリードタイムが必要になります。

会社の規模別・状況別の判断軸

従業員20〜30名規模の会社と40〜50名規模の会社では、業務委託の活用戦略も異なります。産業医が選任されていない(常時50人未満の事業場では義務なし)、就業規則が整備されていない、という会社は特に以下の点を意識してください。まず、休職期間の終了見込みを医師の意見書等で確認し、業務委託の契約期間をそれよりやや短く設定しておくことで、復職とのズレを最小化できます。次に、業務委託先への引き継ぎ内容を文書化しておくことで、復職時の業務移管がスムーズになります。就業規則に休職・復職のルールが明記されていない場合は、この機会に整備することも併せて検討してください。

まとめ

複数の社員が同時に休職した際に業務委託で対応すること自体は違法ではありませんが、指揮命令の実態・安全配慮の範囲・フリーランス新法への対応・復職時の出口設計という4つの観点で、事前に確認すべきリスクが存在します。特に専任人事のいない中小企業では、現場の実態と契約の乖離が気づかないうちに積み重なりやすい環境にあります。

こうした人事労務の判断は、経営者や兼務人事が一人で抱え込むほど判断ミスが増えやすいもの。困ったときやモヤモヤが残るときは、第三者の視点を入れることで、リスクの見落としを防ぎ、現実的な対応策を見つけやすくなります。

ウェルセンス株式会社では、メンタル不調による休職・復職支援だけでなく、その過程で生じる人事労務の実務的な課題についても、経営者・兼務人事担当者の方々と一緒に整理するサポートを行っています。「今の対応が正しいのか確認したい」「どこから手をつければいいかわからない」という段階からでも、お気軽にご相談ください。

よくある質問

Q. 知人のフリーランスに頼んでいます。友人関係なので口頭で合意しているだけですが、問題ありますか?

A. 問題があります。フリーランス新法(令和5年11月施行)により、フリーランスへの業務委託には業務内容・報酬額・支払期日などを書面または電子的方法で明示することが義務づけられています。口頭合意のみでは法令違反になるだけでなく、トラブル発生時に契約内容の立証ができず、発注者側が不利になります。たとえ知人であっても、最低限の書面を交わすことを強くお勧めします。

Q. 業務委託先の担当者をオフィスに来てもらって作業してもらうのは問題ですか?

A. 常駐自体が即違法というわけではありませんが、リスクは高まります。オフィスで作業させる場合、就業時間の管理・業務指示・社内システムの共用などが重なりやすく、偽装請負と判断される可能性が上がります。また、常駐作業の場合は発注元の施設内での安全配慮に準じた義務も問われやすくなります。常駐が必要な場合は、指揮命令を発注元が行わないよう運用ルールを明確にしたうえで、作業環境の安全確保も行ってください。

Q. 休職社員が復職するタイミングで業務委託契約を終了したいのですが、すぐに解除できますか?

A. 継続的な業務委託(6か月以上)の場合、フリーランス新法により中途解除には原則30日前の予告が必要です。また、契約書に解除条件や予告期間が定められている場合はそれに従う必要があります。業務委託開始時から「いつ頃終了する可能性があるか」を相手方に伝えておくこと、契約書に終了条件を明記しておくことが、後々のトラブル防止につながります。

Q. 業務委託先の担当者がメンタル不調になったと連絡がきました。どう対応すべきですか?

A. まず、業務量や作業環境に無理がなかったかを発注元として確認してください。常駐や過重な業務負荷があった場合、安全配慮に準じた義務違反を問われるリスクがあります。次に、業務委託の継続可否について相手方と誠実に協議し、業務の一時停止や量の調整を検討してください。「自社の社員ではないから」と対応を放置すると、後日、民法上の不法行為・債務不履行責任を問われる可能性があります。

Q. 今の業務委託の実態が偽装請負かもしれません。今からでも修正できますか?

A. 早期に修正するほど、リスクを低減できます。具体的には、指揮命令の実態を見直して成果物ベースの管理に切り替えること、就業時間・場所の指定をやめること、契約書を実態に合った内容に更新することが出発点になります。ただし、すでに長期間・深く業務に関わっている担当者がいる場合、突然の変更は混乱を招く可能性もあるため、専門家に現状を確認してもらいながら段階的に是正することをお勧めします。

【監修】ウェルセンス株式会社
ウェルセンスは、メンタル不調者対応・休職復職支援に強い職場メンタルケアサービスです。産業医・保健師・心理士・社労士などの専門家ネットワークが、人事・管理職だけでは判断しづらいケースの初動対応、専門家連携、再発防止まで支援します。

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