「休職していた社員が退職することになったが、離職票の書き方がわからない」「傷病手当金を受け取っている社員に、失業給付の手続きをどう案内すればいいのか」――専任人事がいない中小企業では、こうした疑問を抱えたまま手続きを進めてしまうケースが少なくありません。休職からの退職は、通常の退職と比べて雇用保険の手続きが複雑になります。誤った対応は従業員の不利益につながるため、4つの注意点をしっかり押さえておきましょう。
離職理由コードの選択が従業員の給付内容を左右する
休職後退職で関係する主な離職コード
雇用保険の失業給付を受ける際、最初に提出する「離職票(離職票-2)」には、退職理由を示す「離職理由コード」を記載します。通常の自己都合退職であれば「4A」を選べばよいのですが、休職後の退職では状況に応じてコードが変わります。代表的なものを整理すると、次のように分類できます。
- 2C(特定理由離職者 Ⅰ):体力の不足・心身の障害などで離職。メンタルヘルス不調による退職はここに該当する可能性が高い
- 3B(特定受給資格者):会社側からの退職勧奨による退職
- 4D(特定理由離職者 Ⅱ):正当な理由のある自己都合退職
- 4A(一般の自己都合):通常の自己都合退職
離職理由コードの選択を誤ると、従業員が受け取れる失業給付の日数が減ったり、給付開始まで3か月の給付制限期間が発生したりする場合があります。
「特定理由離職者(Ⅰ)」に該当すると給付制限が免除される
メンタルヘルス不調による退職で「2C」が適用されると、通常の自己都合退職に課される3か月の給付制限期間が免除されます。つまり、ハローワークで手続きを行った後、7日間の待期期間が終われば失業給付が始まります。給付日数も一般受給資格者より手厚くなるケースがあるため、担当者が正しいコードを選ぶことは従業員の生活保障に直結します。
ハローワークから離職理由の確認が入ることもあるため、退職時の経緯や診断書の有無など、事実を正確に把握したうえで記載するようにしましょう。
退職勧奨・合意退職のケースはとくに慎重な判断が必要
休職が長引いた結果、会社側から退職を促した(退職勧奨)場合や、双方が話し合って合意退職した場合は、「自己都合」「会社都合」「正当な理由のある自己都合」のどれに当たるかの判断が難しくなります。ハローワークが離職理由の確認をおこなった結果、離職票の訂正指導が入るケースもあります。判断に迷う場合は、あらかじめハローワークに相談するか、社会保険労務士に確認することをおすすめします。
傷病手当金と失業給付は同時に受け取れない
二つの給付の「前提条件」が根本的に異なる
休職中に健康保険の傷病手当金を受け取っていた社員が退職した場合、「退職後も傷病手当金を受け取りながら、失業給付ももらえるのでは」と考えるケースがあります。しかし、この二つの給付は原則として同時に受け取ることができません。
理由はシンプルです。傷病手当金は「労務不能の状態にある」ことを条件として支給されます。一方、失業給付(基本手当)は「働ける状態にあり、就職の意思と能力がある」ことが支給の前提です。この前提が矛盾するため、両方を同時に受け取ることはできない仕組みになっています。
退職後の傷病手当金継続受給の条件
退職後も傷病手当金を受け取り続けるには、次の条件をすべて満たす必要があります。
- 退職日までに健康保険の被保険者期間が継続して1年以上あること
- 退職時に傷病手当金を受給中、または受給できる状態にあること
- 退職後も引き続き労務不能の状態が続いていること
これらを満たせば、退職後も最初に傷病手当金の支給が始まった日から通算1年6か月を限度として受け取れます(2022年1月改正後は通算制に変更)。担当者は退職前にこの条件を確認し、社員に正確な情報を伝えることが重要です。
給付の切り替えタイミングをあらかじめ伝えておく
傷病手当金を受給中の退職者が「働ける状態になった」段階で、初めて失業給付の手続きができるようになります。この切り替えのタイミングを事前に伝えておかないと、社員が何もしないまま受給期間が過ぎてしまうことがあります。退職手続きの際に「体調が回復したらハローワークへ」という案内を一言添えるだけでも、社員の混乱を防ぐことができます。
受給期間の延長制度と申請期限を把握しておく
働けない期間が続く場合は「受給期間延長」が使える
雇用保険の基本手当(失業給付)は、離職翌日から1年以内に受け取らなければなりません。病気やけがで働けない状態が続くと、この1年があっという間に過ぎてしまい、給付を一切受け取れなかった、というケースが起こり得ます。
そこで活用したいのが「受給期間延長」の制度(雇用保険法第20条)です。病気・けが・妊娠・出産・介護など正当な理由により30日以上働けない状態が続く場合、受給期間を最長3年間延長(合計最大4年)することができます。
申請期限に注意が必要(2023年改正後)
この制度には申請期限があります。2022年・2023年の雇用保険法改正により、申請ルールが以下のように変更されています。
- 改正前:離職後30日を経過した翌日から1か月以内に申請が必要
- 改正後:延長事由が終了した後、速やかにハローワークへ申請(離職から2年以内が目安)
従来よりも申請猶予は広がりましたが、体調が回復して就職活動を始めようとした時点で期限切れにならないよう、退職時の案内の中に受給期間延長の制度を盛り込んでおくことが重要です。ただし、改正の細部はハローワークごとに確認が必要ですので、最新の手引きで確認したうえで案内するようにしましょう。
担当者がすべき「一言の案内」
退職する社員に対して、担当者から「体調が優れずすぐに働けない場合は、ハローワークで受給期間の延長申請ができます」と伝えるだけで、社員が手続きを逃すリスクを大きく減らせます。離職票と一緒に、ハローワークの案内チラシや申請書類の存在を伝えるひと手間を加えることをおすすめします。
🔗 社員のメンタル不調に、精神科・心療内科医によるスポット産業医サービス →
離職票の記載ミスを防ぐための実務ポイント
休職中の賃金0円月の扱いに注意する
離職票(離職票-2)には、直近6か月分の賃金支払状況を記載します。休職中は無給または大幅減額になっていることが多く、記載が通常より複雑になります。
雇用保険の被保険者期間の算定には、賃金支払基礎日数が「11日以上」の月が原則必要です。ただし、2020年の改正以降、賃金支払基礎日数が11日未満であっても、その月の労働時間が80時間以上であれば被保険者期間にカウントできるようになっています。休職前に働いていた月や部分的に出勤していた月については、労働時間の記録を確認したうえで正確に記載しましょう。
傷病手当金を「賃金」として誤記載しない
傷病手当金は健康保険から支払われる給付金であり、会社が支払う「賃金」ではありません。そのため、離職票の賃金支払状況欄に傷病手当金の金額を記載してはいけません。傷病手当金を賃金として誤記載してしまうと、基本手当の日額計算に狂いが生じ、後日訂正が必要になります。給与明細と傷病手当金の支給通知書を混同しないよう、担当者はあらかじめ確認しておきましょう。
退職日と離職理由は事実に基づいて記載する
「早く手続きを終わらせたい」という気持ちから、退職日や離職理由を実態と異なる内容で記載してしまうケースがあります。たとえば、会社都合に近い状況なのに「自己都合」と記載したり、実際の退職日より早い日付を書いたりすることは、後に社員からのクレームやハローワークからの訂正指導につながります。事実を正確に記載することが、担当者自身のリスク管理にもなります。離職票を発行する前に、退職届・合意書・辞令などの書類と照合して確認する習慣をつけましょう。
🔗 人事だけで抱えない。メンタル不調者面談や休職・復職対応を、1件からスポットでご相談 →
まとめ
休職から退職に至った場合の雇用保険・離職票の手続きは、通常の退職対応とは異なる注意点が多くあります。離職理由コードの選択を誤ると従業員が受け取れる失業給付が減る可能性があり、傷病手当金と失業給付の関係や受給期間延長の申請期限を知らないまま案内すると、社員が不利益を被ることになりかねません。また、離職票への傷病手当金の誤記載や、事実と異なる退職日の記載は後日トラブルの原因になります。
専任人事がいない環境では、一つひとつの手続きを正確に進めることが難しいこともあります。判断に迷ったケース、初めて対応する状況であれば、ハローワークや社会保険労務士に相談するのはもちろん、ウェルセンス株式会社のような休職・復職支援の専門家に相談することも有効です。「うちのケースではどのコードになるのか」「傷病手当金と失業給付の手続きが複雑で困っている」といった具体的な疑問も、お気軽にご相談ください。
よくある質問
ウェルセンスは、メンタル不調者対応・休職復職支援に強い職場メンタルケアサービスです。産業医・保健師・心理士・社労士などの専門家ネットワークが、人事・管理職だけでは判断しづらいケースの初動対応、専門家連携、再発防止まで支援します。
不調者対応を、人事だけで抱えない。
メンタル不調者面談や休職・復職対応を、1件からスポットでご相談いただけます。


