遅刻早退の給与控除計算を3ステップで解説

遅刻早退の給与控除計算を3ステップで解説 労務管理
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「遅刻した社員の給与、いくら引けばいいんだろう……前任者のやり方をそのまま使っているけど、本当に合っているのか自信がない」。そんな不安を抱えながら給与計算をしている経営者・人事担当者は少なくありません。遅刻・早退の給与控除は、ノーワークノーペイという明確な原則があるにもかかわらず、計算方法・控除できる範囲・給与明細への記載まで、実務では迷いどころが多い領域です。この記事では、遅刻早退の給与控除計算を、控除額の算出から給与明細への反映まで、3つのステップで整理してわかりやすく解説します。

遅刻・早退の給与控除が認められる法的根拠

遅刻・早退分の給与を控除することは、「ノーワークノーペイの原則」に基づく合法的な措置です。ただし、就業規則への明記がなければ、控除の根拠が揺らぎます。

ノーワークノーペイとは何か

ノーワークノーペイとは、「労働を提供しなかった時間に対して、使用者は賃金を支払う義務を負わない」という原則です。民法第624条および労働契約法の趣旨に基づくものであり、遅刻・早退・欠勤による不就労時間の控除は、この原則を根拠とした正当な対応です。罰則・ペナルティとは異なり、あくまで「働いていない時間分を支払わない」という概念であることを押さえておいてください。

就業規則への記載が必要な理由

常時10名以上の労働者を雇用する事業場には、就業規則の作成・届出が義務づけられています(労働基準法第89条)。賃金の計算方法や控除の方法は「絶対的記載事項」にあたり、必ず記載しなければなりません。具体的には、控除の計算単位(1分単位か、15分単位かなど)、端数処理の方法、控除の項目名称まで明記することが求められます。「遅刻・早退した場合は賃金を控除する」という一文だけでは不十分です。9名以下の事業場でも、労働契約書や賃金規程に根拠を明示しておくことがトラブル防止につながります。

欠勤控除と制裁減給の違いを混同しない

実務上、注意が必要なのが「欠勤控除」と「制裁減給」の混同です。欠勤控除はノーワークノーペイに基づくもので、控除額の上限はありません(不就労時間分だけ引く)。一方、懲戒処分として行う「制裁減給」には、労働基準法第91条により上限が設けられています。1回の制裁につき平均賃金の1日分の半額以内、複数回でも1賃金支払期の総額の10分の1以内です。繰り返し遅刻する社員に対して「罰として多めに引こう」と考えると、この上限規制に抵触し、賃金未払いとなるリスクがあります。

時間単価の算出方法

遅刻早退の給与控除計算の第一ステップは、「1時間あたりの賃金(時間単価)」を正しく算出することです。この分母の設定を就業規則で明確にしておくことが、計算のブレをなくす鍵になります。

月給制の場合の時間単価の求め方

月給制における時間単価は、以下の計算式で求めるのが一般的です。

計算方法 計算式 特徴
月の所定労働時間を分母にする方法 月額賃金 ÷ 当月の所定労働時間数 月によって単価が変わる
年間平均を分母にする方法 月額賃金 ÷(年間所定労働時間 ÷ 12) 毎月の単価が一定になる

どちらの方法も適法ですが、就業規則に明記した方法を一貫して使用することが重要です。担当者が変わるたびに計算方法が変わる、という状況は避けてください。

日給月給制・時給制の場合

日給月給制(月給はあるが欠勤した日は控除する方式)の場合は、日額単価を先に算出します。「月額賃金 ÷ 月の所定労働日数」で1日あたりの単価を求め、そこから「日額単価 ÷ 1日の所定労働時間」で時間単価を導きます。時給制のパート・アルバイトは時給がそのまま時間単価となるため計算はシンプルですが、日給月給制の正社員と同一の方法で処理しないよう注意してください。雇用形態ごとに計算ルールを整理しておくことが、20〜50名規模の会社では特に重要です。

端数処理のルール

控除時間の端数処理(例:13分遅刻した場合、15分単位に切り上げるか、1分単位で計算するか)は、必ず就業規則で定めてください。ただし、常に労働者に不利な方向(遅刻時間を実際より多く見積もる方向)での端数処理は禁止されています。行政通達(昭和63年3月14日付 基発第150号)も参考になります。たとえば「15分単位で切り上げ」とする場合、1分の遅刻でも15分分を控除することになり、これは問題となる可能性があります。実務的には1分単位での計算が最もトラブルが少なく、給与ソフトの多くも対応しています。

控除額の計算手順を具体例で確認する

時間単価が決まれば、遅刻早退の給与控除計算は「時間単価 × 不就労時間数」で求められます。ここでは、月給制の正社員を例に、実際の計算の流れを確認しましょう。

具体的な計算例(月給制・正社員)

条件を次のように設定します。月額賃金25万円、月の所定労働時間160時間、当月の遅刻時間が合計45分(0.75時間)の場合です。

【ステップ1】時間単価を求める
250,000円 ÷ 160時間 = 1,562.5円(1時間あたり)

【ステップ2】控除額を計算する
1,562.5円 × 0.75時間 = 1,171.875円

【ステップ3】端数処理を適用する
ルール(例:1円未満切り捨て)に従い、控除額は1,171円となります。

この計算過程を給与ソフトや計算シートに記録として残しておくことで、社員から照会があった際にも説明できる状態になります。

複数回の遅刻・早退が発生した月の処理

同一月に遅刻と早退が複数回発生した場合は、不就労時間を合算して計算します。たとえば、遅刻30分が2回・早退20分が1回であれば、合計80分(1時間20分=1.333時間)を不就労時間として時間単価に掛けます。1回ごとに別々に計算して端数処理をすると、累積誤差が生じる場合があるため、月まとめで計算する方法を就業規則に明記しておくことを推奨します。

欠勤(終日)が発生した場合との比較

終日欠勤の場合は、時間単価ではなく日額単価で計算するか、「月額賃金 ÷ 所定労働時間 × 1日の所定労働時間数」で算出します。遅刻・早退と欠勤が同じ月に混在する場合は、それぞれを別計算して合算する方法が記録として残しやすく、社員への説明もしやすくなります。

給与明細への正しい反映手順

遅刻早退の給与控除計算の最後のステップは、控除額を給与明細に正確に反映させることです。記載が曖昧だと、社員とのトラブルや行政調査時の問題につながります。

給与明細への記載義務と項目名

労働基準法第108条は、賃金台帳の記載を義務づけており、実務上は給与明細にも控除内容を明示することが求められます。控除項目の名称は「欠勤控除」「遅刻・早退控除」などとし、控除金額を明記します。複数回の遅刻・早退を一括して「欠勤控除」としてまとめる場合は、明細の備考欄や別途の計算書に「遅刻3回・計90分、早退1回・計30分、合計2時間分」のように内訳を示せるようにしておくと親切です。

社員への説明責任と記録管理

給与控除について社員から問い合わせがあった場合、「計算根拠を示せる状態」にしておくことは会社の義務です。就業規則の計算方法条文、当月の所定労働時間数・時間単価・控除時間数・控除額、この4点をセットで保管・説明できるようにしてください。タイムカードや打刻データも保存しておきましょう(労働基準法第109条により賃金台帳等の書類は3年間の保存義務があります)。

給与ソフトへの設定と属人化防止

給与計算ソフト(freee人事労務・マネーフォワードクラウド給与など)を使用している場合は、控除の計算ルール(分母の設定・端数処理)をシステムに正しく設定することで、担当者が変わっても同一の計算が維持されます。設定内容を文書化しておき、誰でも確認できるようにしておくことが、中小企業での属人化防止の基本です。

繰り返す遅刻・早退への対応

遅刻・早退が繰り返される場合、給与控除はあくまで賃金の精算にすぎません。その背景に体調不良やメンタル不調が隠れているケースがあり、早期に対応することが会社・社員双方にとって重要です。

繰り返しのサインをどう見るか

月に複数回の遅刻・早退が続く場合、睡眠障害・うつ症状・適応障害などのメンタルヘルス不調が背景にある可能性があります。「単なるマナーの問題」として給与控除だけで対応し続けると、状態が悪化して休職・退職に至るリスクが高まります。上司や人事担当者が面談を行い、本人の状況を確認することが第一歩です。

就業規則に基づく段階的な対応フロー

繰り返す遅刻・早退への対応は、給与控除(ノーワークノーペイ)→ 上長による面談・指導記録 → 必要に応じて産業医・外部専門家への相談、という流れを就業規則や運用規程に明示しておくと、対応の一貫性が保てます。産業医の選任義務がない50人未満の事業場でも、外部の産業保健サービスや専門家に相談できる体制を整えておくことが望ましいです。

制裁を検討する場合の注意点

繰り返す遅刻・早退に対して懲戒処分(譴責・減給など)を検討する場合は、就業規則の懲戒規定に該当条項があること、本人への弁明機会の付与、処分の相当性の確認が必要です。前述のとおり、制裁減給には労働基準法第91条の上限があります。欠勤控除と制裁減給を誤って重ねて運用しないよう注意してください。

まとめ

遅刻早退の給与控除計算は、3つのステップで実行できます。第一ステップは、就業規則に計算方法・単位・端数処理を明記し、時間単価を正確に算出すること。第二ステップは、「時間単価 × 不就労時間数」の式で控除額を求めること。第三ステップは、給与明細に控除項目と金額を明示することです。

欠勤控除はノーワークノーペイに基づく合法的な措置ですが、制裁減給との混同や就業規則の根拠不備は賃金未払いリスクにつながります。また、繰り返す遅刻・早退の背景にメンタル不調が隠れている場合、給与計算の問題だけでなく、産業保健的な対応も同時に検討することが会社を守ることにもなります。

「就業規則の控除規定が曖昧なまま運用している」「繰り返す遅刻への対応方針が定まっていない」「メンタル不調の兆候が見えるが対応方法がわからない」という場合、ウェルセンス株式会社では、人事労務の整備からメンタルヘルス対応まで、中小企業の実情に合わせたご支援を行っています。遅刻早退の給与控除計算だけでなく、その背景にある従業員の状態把握や対応体制の構築について、一度お気軽にご相談ください。

よくある質問

Q. 就業規則に控除計算の根拠がない場合、今すぐ控除することは違法ですか?

A. ノーワークノーペイの原則自体は法律上認められており、根拠規定がなくても直ちに違法にはなりません。ただし、控除の計算方法や単位が就業規則に明記されていないと、社員との間で「どの計算が正しいか」という争いが起きた際に会社側が不利になる場合があります。遅刻早退の給与控除計算を正確に行うためにも、早急に就業規則を整備することをお勧めします。

Q. 遅刻した時間の2倍分を控除するルールを設けることはできますか?

A. できません。不就労時間を超えた控除は、ノーワークノーペイの枠を超え、事実上の制裁減給となります。制裁減給には労働基準法第91条の上限規制があるほか、就業規則の懲戒規定にも明記が必要です。実際に働かなかった時間分を上回る控除は、賃金未払いとして問題になります。遅刻早退の給与控除計算は、実不就労時間分のみに限定してください。

Q. パートタイマーと正社員が混在していますが、計算方法を統一してよいですか?

A. 時給制のパートタイマーは「時給 × 不就労時間」でそのまま計算できるため、月給制の正社員と同じ計算式を使う必要はありません。雇用形態ごとに就業規則・賃金規程に遅刻早退の給与控除計算方法を明記し、それぞれの方法で計算することが適切です。計算方法を無理に統一しようとすると、かえって誤りが生じやすくなります。

Q. 遅刻・早退控除は労使協定(賃金控除協定)が必要ですか?

A. 遅刻・早退の欠勤控除はノーワークノーペイの原則に基づくものであり、法定外控除(労働基準法第24条の賃金控除協定が必要なもの)とは性格が異なります。そのため通常は労使協定は不要と解されています。ただし、社内貸付金の返済や組合費などほかの控除と混在している場合は、それらについて協定が必要になることがありますので、控除の種類ごとに整理しておくことをお勧めします。

Q. メンタル不調が疑われる社員の遅刻が増えています。給与控除以外に何をすべきですか?

A. 給与控除(賃金の精算)は行いつつ、上長または人事担当者が本人と面談を行い、体調・生活状況を確認することが重要です。本人が体調不良を認めている場合は、医療機関の受診勧奨や主治医との情報連携、必要であれば休職手続きへの移行を検討します。産業医が選任されていない50人未満の事業場でも、外部の産業保健サービスや専門家に相談できる体制を整えておくことで、早期対応につながります。ウェルセンス株式会社でも、こうしたメンタルヘルス対応のご相談をお受けしています。

【監修】ウェルセンス株式会社
ウェルセンスは、メンタル不調者対応・休職復職支援に強い職場メンタルケアサービスです。産業医・保健師・心理士・社労士などの専門家ネットワークが、人事・管理職だけでは判断しづらいケースの初動対応、専門家連携、再発防止まで支援します。

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