メンタル不調のリーダーを外すとき、どう伝えれば傷つけずに済むか

メンタルヘルス対応

「外すと決めたのに、どう伝えればいいかわからなくて、もう3週間が経ってしまった」——そんな状況に追い込まれている経営者・人事担当者の方は、少なくありません。メンタル不調を抱えるリーダーを役割から外す判断は、組織として必要な場合があります。しかし「傷つけないか」「パワハラと言われないか」「症状が悪化しないか」という不安が重なり、なかなか動けない。この記事では、メンタル不調のリーダーを外すときの伝え方・タイミング・法的な注意点を、実務的に整理します。

外す判断の前に整理すべきこと

降任・役割変更を本人に伝える前に、「なぜ外すのか」の根拠を3つの層に整理しておくことが不可欠です。根拠が曖昧なまま面談に臨むと、本人からの「なぜ?」に答えられず、かえって不信感や対立を生む原因になります。

事実として何が起きているかを言語化する

まず最初に確認すべきは、「リーダー職の継続が難しい」と判断できる具体的な事実があるかどうかです。たとえば「チームメンバーへの指示が週単位で止まっている」「ミスの件数が増加し、他のメンバーが補完に追われている」「1on1や朝礼を本人主導で実施できなくなっている」といった、業務上の実態を記録として持っておく必要があります。感覚や印象ではなく、日時・内容を具体的に記録したものが、後々のメンタル不調のリーダーを外すときの根拠になります。

「メンタル不調だから外す」では法的に問題になる

重要なのは、降任理由を「メンタル不調(疾病)そのもの」に置かないことです。疾病を直接の理由とした不利益取扱いは、障害者差別解消法や労働契約法の趣旨に照らして問題になり得ます。実務上は「現在の業務遂行能力・職務実態に基づく判断」として構成することが基本です。「病気だから外す」ではなく「現時点でリーダー職に求められる業務が安定して遂行できない状態にある」という構成が、法的にも本人への説明としても適切です。

安全配慮義務との関係を押さえておく

むしろ「配慮として外す」という側面を持つことが重要です。メンタル不調の状態でリーダー職を継続させ、症状が悪化した場合、会社は労働契約法第5条に定める安全配慮義務違反を問われる可能性があります。「本人の回復と安定のために、現時点では責任範囲を縮小することが望ましい」という判断は、合理的な根拠を持ちます。この視点を面談時に言語化できると、降任を「罰」ではなく「配慮」として伝える枠組みが成立します。

タイミングの選び方——状況別の判断基準

「いつ伝えるか」は、本人が休職中か在職中か、診断書の有無、産業医の関与の有無によって対応が変わります。メンタル不調のリーダーを外すタイミングは、状況を確認せずに動くと、かえってリスクが高まります。

在職中(出社している)の場合

本人がまだ出社している段階では、主治医または産業医の意見を先に確認することが望ましいです。「この時期に役割変更の話を本人に伝えることが、症状に影響を与えないか」を医療の観点から確認しておくと、「配慮ある判断」として記録に残せます。産業医が選任されている(原則として従業員50名以上で義務)場合は、産業医意見を面談の場で引用できるよう事前に書面化してもらうと有効です。産業医がいない場合も、主治医への情報提供書の送付と回答確認を検討してください。

休職中の場合

休職中の降任は有効か、という点はよく問われます。就業規則に「役職は役職者としての職務遂行を前提とする」旨の規定があれば、休職中に役職を解く措置には一定の合理性が認められます。ただし、休職中の本人への重要な通知は、文書(書面)で行い、受領確認を取ることが基本です。面談を行う場合は、本人の体調・意向を確認したうえで、無理に呼び出さず、可能であれば書面説明と意見聴取の機会を組み合わせます。また、「休職期間中の降任は復職後の処遇を左右する」ため、復職後の役割・待遇についても合わせて説明しておくことが紛争予防になります。

状況別の対応の整理

状況 優先確認事項 伝え方の基本
在職中・診断書あり 産業医または主治医の意見 対面面談+書面フォロー
在職中・診断書なし 業務実態の記録、受診勧奨の経緯 対面面談・意見聴取を先行
休職中 就業規則の休職・復職規定 書面通知+意見聴取の機会を別途設ける

面談の設計——伝え方の5つの原則

降任を伝える面談は、「一方的な通告の場」ではなく「説明と意見聴取の場」として設計することが鉄則です。この区別が、後のハラスメント認定リスクを大きく左右します。

場の設計と同席者の選び方

面談は一対一を避け、上長または経営者とHR担当(または社労士など)の2名体制で実施します。これは証人機能と本人へのサポート機能を兼ねます。面談の日時は「大事な確認をしたいことがある」と事前予告し、心理的な準備を促すことが重要です。いきなり「今日話がある」と呼び出すと、サプライズ性がストレス反応を高めます。また、面談記録(議事録)は必ず作成し、発言内容・本人の反応・合意した事項を書き残しておきます。後のトラブル時に会社側の行動の正当性を示す根拠になります。

言葉の選び方——「責める」のではなく「支える」枠組みで

伝える言葉の構造として、まず「現在の状況についての事実(業務の実態)」を述べ、次に「その状況を踏まえた会社としての判断」を説明し、最後に「本人の回復と安定を支えるための措置として」という配慮の文脈でまとめる流れが有効です。たとえば「最近、チームへの指示が止まっていることや、ご自身も体調が優れない日が続いていることは、私たちも把握しています。このまま無理をさせることが、あなたにとってもチームにとっても良くないと判断し、当面の間、リーダーとしての役割を一旦休んでもらえないかと考えています」という伝え方が一例です。「降格」「外す」といった断定的な表現より「役割を変える」「担当範囲を調整する」という言葉選びが、受け取る側の心理的負荷を下げます。

感情的になったとき・拒否されたときの対処

「不当だ」「弁護士に相談する」と言われた場合、その場で反論したり説得しようとするのは逆効果です。「おっしゃる気持ちはわかります。ご意見はきちんと記録します。今日の説明内容を書面でもお渡ししますので、一度持ち帰って考えていただけますか」と一歩引く対応が適切です。面談はあくまで「説明と意見聴取の場」と定義しておくことで、その場での合意を無理に求めなくて済みます。なお、強く拒否された場合は、その後の対応方針を社労士や弁護士に相談することを検討してください。

役職手当の扱いと給与への影響

リーダー職を外すことで役職手当が減額される場合、賃金の不利益変更として労働契約法の規定が適用されます。ここを曖昧にするとメンタル不調のリーダーを外すときのトラブルが大きくなる可能性があります。

就業規則の記載内容を先に確認する

就業規則に「役職手当は当該役職に在る間支給し、役職変更に伴い変動する」と明記されていれば、役職変更に伴う手当変更は就業規則上の根拠を持ちます。この場合は、面談の場でその旨を説明し、変更後の給与額を書面で提示することが基本です。一方、就業規則にそのような規定がない場合や、手当減額幅が大きい場合は、本人の個別同意が必要です(労働契約法第8条・第9条・第10条)。同意なく一方的に減額すると、賃金不払いや不当な労働条件変更として争われるリスクがあります。

減額する場合の合意の取り方

本人の同意が必要な場合は、変更内容・変更後の金額・適用開始日を明記した書面を作成し、署名または記名押印をもらいます。口頭での合意は後で「言った言わない」になりやすいため避けてください。また、状況によっては「段階的な減額」を設計することも合理的な配慮として機能します。たとえば、変更後3か月は現行手当を維持し、その後段階的に移行するという方法です。これにより本人の経済的な不安を一定程度軽減しながら、合意を取りやすくなります。

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チームへの説明——守秘義務と業務継続のバランス

リーダーが交代する事実はチームに伝える必要がありますが、理由(メンタル不調)を開示することは本人のプライバシー・健康情報の漏えいにあたります。「何を言うか」ではなく「何を言わないか」の設計が重要です。

チームへの伝え方の基本ライン

チームへの説明は「本人の了承を得た範囲」に限定するのが原則です。本人が「体調不良であること」を開示することに同意している場合は「体調を考慮して、当面の間、担当を変更します」と説明できます。同意がない場合は「組織上の理由により、担当体制を変更します」という中立的な表現にとどめ、理由の詳細には立ち入らないことが守秘義務の観点から適切です。「なぜ変わったのか」とメンバーから質問が来た場合も、「詳細はお伝えできませんが、チームの運営に影響が出ないよう対応します」と答える一言を準備しておきましょう。

新しいリーダーへの引き継ぎと心理的安全性の確保

リーダー交代のタイミングは、チームの不安を高めやすい局面です。後任リーダーの選定と引き継ぎ計画を面談前に準備しておくことで、「体制変更後も業務が滞らない」という見通しをチームに示せます。また、交代直後は経営者や上長が普段より意識的にチームと接点を持ち、不安の声を拾う機会を作ることが、組織全体の安定につながります。

まとめ

メンタル不調のリーダーを役割から外す判断は、正しく設計すれば「配慮ある措置」として伝えることができます。大切なのは、事実に基づく根拠の整理、医療的見解の活用、面談の場の丁寧な設計、そして給与・チームへの説明まで一連の流れを事前に準備しておくことです。「どう伝えるか」を後回しにするほど、組織への影響とリスクは積み重なります。

ウェルセンス株式会社では、専任人事がいない中小企業の経営者・兼務担当者の方からの、このような「判断に迷う人事対応」のご相談をお受けしています。「うちのケースではどうすればいいか」という具体的な状況を整理するところから、一緒に考えます。まずは気軽にお問い合わせください。

よくある質問

Q. 就業規則にリーダー職の任免規定がない場合、降任は無効になりますか?

A. 就業規則に明確な規定がなくても、降任・役割変更それ自体が直ちに無効になるわけではありません。使用者には業務命令権(人員配置・役割の変更を行う権限)があり、労働契約法第3条・第16条の趣旨に照らして、合理的な理由と適正な手続き(説明・意見聴取)があれば有効と判断される場合があります。ただし、規定がないほど「合理的な理由の説明」と「手続きの丁寧さ」が重要になります。今後のリスク管理のためにも、就業規則の整備を検討することをお勧めします。

Q. 本人がメンタル不調を認めていない場合、どう話を進めればよいですか?

A. 本人が「病識」を持っていない場合でも、役割変更の理由を「病気だから」ではなく「現在の業務実態として、これこれの状況が続いている」という事実ベースで伝えることが有効です。「病気かどうかの判断は医師がすること」と位置づけ、「現時点の業務遂行の実態」と「会社の安全配慮上の判断」として説明します。あわせて、受診を勧奨する機会を設けることも重要です。

Q. 降任を伝える面談がパワハラと認定されないようにするには?

A. 労働施策総合推進法(パワハラ防止法)の観点から、面談の場・言葉・態度が「優越的な関係を背景にした不適切な言動」にならないよう設計することが必要です。具体的には、2名体制で実施する、一方的な通告にせず意見聴取の場とする、感情的な表現や侮辱的な言葉を使わない、面談記録を残す、の4点が基本です。「説明と意見聴取の場」という位置づけを徹底することが、ハラスメントリスクの最大の予防策です。

Q. 産業医がいない規模の会社でも、医師の意見を活用できますか?

A. 産業医の選任義務は従業員50名以上の事業場に生じますが、それ以下の規模でも主治医への情報提供書の送付・回答確認という形で医療的見解を取得できます。また、地域の産業保健総合支援センター(産業保健センター)では、小規模事業場向けに産業医相談を無料で受け付けているケースもあります。医師の意見を記録として残すことは、「会社の恣意的判断ではない」ことを示すうえで会社規模に関わらず有効です。

Q. 降任後、本人が回復した場合は元の役職に戻す必要がありますか?

A. 法律上、「回復したら必ず元に戻す義務がある」という規定は一般的にはありません。ただし、降任を伝える際に「体調が回復した際には、改めて役割を検討する」と説明していた場合は、その約束が後の判断に影響することがあります。面談時の説明内容を記録しておくとともに、「復帰後の役割をどう設計するか」を事前に方針として持っておくことが、本人の回復意欲の維持にもつながります。復職後の役割設計については、復職支援のプロセスと合わせて検討することをお勧めします。

【監修】ウェルセンス株式会社
ウェルセンスは、メンタル不調者対応・休職復職支援に強い職場メンタルケアサービスです。産業医・保健師・心理士・社労士などの専門家ネットワークが、人事・管理職だけでは判断しづらいケースの初動対応、専門家連携、再発防止まで支援します。

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