メンタル不調社員の雇用継続か退職かを判断する基準

メンタル不調社員の雇用継続か退職かを判断する基準 メンタルヘルス対応
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「休職期間がもうすぐ終わる。でも、本人から連絡はほとんどない。復職できるとも思えないし、かといって退職を迫って訴えられるのも怖い——」。そんな状況で判断を先送りにしている経営者・人事担当者は少なくありません。メンタル不調を抱える社員への対応は、「解雇は難しい」という知識だけが先走り、何をどこまでやればよいのか見えにくいのが実情です。この記事では、雇用継続か退職かを判断するための法的・実務的な基準を、20〜50名規模の企業の現場に即して整理します。

解雇・退職勧奨・合意退職——それぞれの法的な位置づけ

まず確認しておきたいのは、「解雇」「退職勧奨」「合意退職」は法的にまったく異なるものであり、メンタル不調社員への対応リスクの大きさも違うという点です。この区別を正しく理解しておくことが、適切な判断の出発点になります。

解雇は最もリスクが高い

解雇とは、使用者が一方的に雇用契約を終了させる行為です。労働契約法第16条は、「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当でない解雇は無効」と定めており、これを「解雇権濫用法理」といいます。メンタル不調を理由に解雇する場合、就業規則上の解雇事由との整合性・休職制度を利用させたかどうか・復職可能性を本当に検討したかどうかが厳しく問われます。休職制度がある会社では、それを使わせずに解雇することはほぼ認められません。

退職勧奨は違法ではないが「強要」になると不法行為

退職勧奨とは、会社が社員に対して退職を求める申し入れです。それ自体は違法ではありません。ただし、繰り返し行う・拒否できない雰囲気を作る・精神的に追い詰めるような言動をともなうと、「退職強要」として不法行為(民法709条)に問われる可能性があります。特にメンタル不調中の社員は精神的に脆弱な状態にあるため、通常以上に慎重な対応が求められます。

合意退職は「真意に基づく合意」が絶対条件

合意退職は、会社と社員の双方が合意して雇用契約を終了するものです。法的には最もリスクが低い形ですが、メンタル不調中の社員との合意については「意思能力があったのか」「強要されたのではないか」と後から争われるケースがあります。合意のプロセスと内容を書面・記録でしっかり残すことが、後日のトラブル防止に直結します。退職合意書には「互いに債権債務がないことを確認する」旨の清算条項を盛り込むことが一般的です。

「退職を提案してよい段階」かどうかを見極める判断基準

メンタル不調社員の雇用継続か退職かの判断を進める前に、いくつかの前提条件が整っているかどうかを確認する必要があります。この確認が不十分なまま進めると、後から「手続きが不当だった」と主張される根拠を与えてしまいます。

休職期間と就業規則の規定を確認する

まず確認すべきは、就業規則に「休職期間満了時に復職できない場合は退職とする」旨の規定があるかどうかです。このような規定があれば、その規定に基づく雇用終了は「自動退職(雇用終了)」として扱われ、解雇にはなりません。就業規則を開き、休職期間の長さと満了時の取り扱いを確認してください。規定がない・あいまいな場合は、判断を進める前に規定の整備を検討する必要があります。

復職可能性を「検討した記録」があるか

休職期間が満了して雇用を終了する場合でも、「復職の可能性を真剣に検討したか」が後から問われます。特に確認すべき点は、軽減業務・時短勤務・配置転換の検討です。20〜50名規模の会社では選択肢が限定的なことは事実ですが、「検討したが現実的に難しかった」という記録があるかどうかで、対応の正当性が大きく変わります。選択肢を検討するプロセスを記録に残しておくことが重要です。

主治医の診断書だけで判断しない

主治医が「復職可能」と記載した診断書を提出してきた場合でも、会社は独自に復職の可否を判断できます。就業規則に根拠があれば、会社指定医(産業医・会社が依頼した医師)の受診を求めることも可能です。産業医が選任されていない50人未満の会社の場合は、地域産業保健センター(産業保健総合支援センターが運営)を活用して産業医への相談窓口を利用する方法もあります。主治医の見解はあくまで一つの情報として扱い、会社として判断したプロセスを記録に残してください。

厚生労働省「職場復帰支援の手引き」を実務に活かす

復職可否の判断に迷ったとき、参照できる実務的な基準があります。厚生労働省が公表している「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」です。法的拘束力はありませんが、裁判例でも参照されるなど、実質的な業界標準として機能しています。

手引きが示す復職支援の5つのステップ

手引きでは、職場復帰支援を次の5段階で整理しています。

  1. 病気休業の開始と休業中のケア
  2. 主治医による職場復帰可能の判断
  3. 職場復帰の可否の判断と復帰支援プランの作成
  4. 最終的な職場復帰の決定
  5. 職場復帰後のフォローアップ

この流れに沿って対応していれば、「適切なプロセスを踏んだ」という記録が自然に積み重なっていきます。

小規模企業での現実的な運用

20〜50名規模では、産業医・保健師・人事専任者が揃っているケースは多くありません。その場合でも、「主治医との情報共有の記録」「本人との面談記録」「業務調整の検討内容の記録」を残すことが現実的な対応です。完璧な体制がなくても、「手引きの考え方を参考に誠実に対応した」という事実の積み重ねが、後から会社を守ることになります。

合意退職を進めるときの注意点——「強要」と判断されないために

本人が「辞めてもいい」という雰囲気を示しているとしても、合意退職の手続きが適切でなければ後から覆るリスクがあります。メンタル不調中の社員との退職合意には、通常より慎重な対応が必要です。

面談のやり方と記録の残し方

退職について話し合う面談は、一対一で圧迫的にならないよう配慮し、複数回に分けて行うことが望ましいです。面談のたびに「日時・出席者・話した内容・本人の反応」を記録してください。メールでやり取りする場合は、そのまま記録として機能します。「次回の面談までに考えてきてください」という猶予を与え、本人が自分の意思で決めた形を残すことが重要です。

退職合意書に盛り込むべき内容

退職合意書には、退職日・退職理由(合意退職)・清算条項に加えて、守秘義務条項(必要に応じて)を含めることが一般的です。清算条項は「本合意をもって、会社と社員の間には一切の債権債務が存在しないことを確認する」という趣旨の文言で、後日の紛争を防ぐ効果があります。合意書は本人の署名・捺印(または自筆の署名)をもらい、会社控えと本人控えの2通を作成してください。

精神障害と「合理的配慮」の確認

うつ病などの精神疾患は、障害者雇用促進法における「精神障害者」に該当し得ます。同法は事業主に合理的配慮の提供を義務付けており(2016年改正以降)、配慮の検討をしないまま退職を進めると、後から問題になる可能性があります。「配慮措置を検討したが、業務上の対応が難しかった」という記録があることが、会社としての誠実な対応を示すことになります。

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社労士・弁護士に相談する前に整理しておくこと

専門家への相談は、情報が整理されているほど短時間で的確なアドバイスを受けられます。相談前に以下の情報を手元に揃えておくと、相談の質が上がり、結果的にコストも抑えられます。

相談前に確認・準備すべき情報リスト

確認項目 確認のポイント
就業規則の休職・復職規定 休職期間の長さ・満了時の扱いの記載があるか
休職開始日・満了予定日 残りの休職期間はどのくらいか
主治医の診断書・意見書 最新の診断書の日付と記載内容
本人との面談・連絡の記録 休職期間中のやり取りの記録(メール・メモ含む)
業務調整・配慮措置の検討状況 軽減業務・配置転換を検討したかどうかの記録
本人の意向(確認できている範囲) 本人が復職を希望しているか、退職の意向はあるか

社労士と弁護士、どちらに相談すべきか

就業規則の確認・休職運用の整備・復職支援プロセスの構築については社会保険労務士(社労士)が専門です。一方、「退職合意が後から無効と主張されるリスクの評価」「訴訟リスクのある事案への対応」については弁護士への相談が適しています。状況が複雑でない段階では社労士への相談から始め、法的リスクが高い局面になったら弁護士に引き継ぐ、という流れが現実的です。

まとめ

メンタル不調社員の雇用継続か退職かを判断するには、「解雇・退職勧奨・合意退職の違いを正しく理解すること」「就業規則の規定と休職期間の状況を確認すること」「復職可能性を検討した記録を残すこと」「合意退職であれば本人の真意に基づく手続きを踏むこと」の4点が基本的な軸になります。専任人事がいない企業では、こうした判断を一人で抱えることになりがちですが、一つひとつの記録の積み重ねが、会社と社員の両方を守ることにつながります。

ウェルセンス株式会社では、20〜50名規模の企業を対象に、メンタル不調社員への対応・休職復職支援・人事労務上の判断整理をサポートしています。「今の状況をどう整理したらいいかわからない」という段階からでも気軽にご相談ください。

よくある質問

Q. 休職期間満了での雇用終了は「解雇」にあたりますか?

A. 就業規則に「休職期間満了時に復職できない場合は退職とする」という規定があり、その規定に基づいて雇用を終了する場合は、一般的に「自動退職(雇用終了)」として扱われ、解雇とは区別されます。ただし、規定の存在だけでなく、復職可能性を誠実に検討した記録があることが重要です。規定がない場合や手続きに不備がある場合は解雇と判断されるリスクがあるため、就業規則の整備を先に確認してください。

Q. 主治医が「復職可能」と言っているのに、会社が復職を認めないことはできますか?

A. できます。主治医の診断書は参考情報の一つであり、最終的な復職の可否は会社が判断する権限を持っています。ただし、主治医の判断を否定する場合は、会社側の根拠(業務遂行上の懸念点・会社指定医の意見など)を記録に残しておくことが必要です。就業規則に根拠があれば、会社指定医への受診を求めることも可能です。

Q. 本人が「退職してもいい」と口頭で言っています。書面は必要ですか?

A. 書面は必ず作成してください。口頭の合意だけでは、後から「そんなことを言ったつもりはない」「精神的に不安定な状態だったので意思能力がなかった」と主張されるリスクがあります。退職合意書に退職日・退職理由・清算条項を明記し、本人の署名をもらうことが後日の紛争防止につながります。

Q. 一度復職した社員が再び休職になった場合、退職を提案してもよいですか?

A. 就業規則の規定と、それまでの対応の履歴によります。再休職の場合でも、休職期間の残日数・配慮措置の検討有無・本人との面談記録が揃っていれば、退職について話し合う素地はあります。ただし「再発したからすぐ退職」という進め方は強引と判断されやすいため、まず今後の方針を社労士または弁護士に確認してから進めることをおすすめします。

Q. 産業医がいない会社でも、メンタル不調社員の復職支援プロセスを整えることはできますか?

A. できます。50人未満の事業所では産業医の選任義務はありませんが、地域産業保健センター(産業保健総合支援センターが運営)を通じて産業医への無料相談を利用できます。産業医がいなくても、主治医との情報共有・本人との面談記録・業務調整の検討記録を丁寧に積み重ねることで、適切な復職支援プロセスを踏んだと説明できる状態を作ることは十分可能です。

【監修】ウェルセンス株式会社
ウェルセンスは、メンタル不調者対応・休職復職支援に強い職場メンタルケアサービスです。産業医・保健師・心理士・社労士などの専門家ネットワークが、人事・管理職だけでは判断しづらいケースの初動対応、専門家連携、再発防止まで支援します。

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