口頭だけで休む社員に困ったら読む書面対応の手順

口頭だけで休む社員に困ったら読む書面対応の手順 メンタルヘルス対応
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「体調が悪いので、しばらく休みます」——そのLINEを最後に、もう2週間が経つ。診断書もなく、休職申請書もなく、有給なのか欠勤なのかも曖昧なまま、給与の締め日だけが近づいてくる。「強く言って傷つけたら」「ハラスメントと言われたら」と頭をよぎるたびに、手が止まってしまう。口頭だけで休む社員への対応は、実務上どう進めるべきか——法的な整理と実務の手順を順を追って解説します。

口頭だけの休職申し出は「休職」として成立しているのか

結論から言えば、口頭だけの申し出は原則として「休職」ではなく「欠勤」の継続です。ただし対応を誤ると「黙示の休職発令」とみなされるリスクがあるため、早期に状態を整理する必要があります。

休職は法律ではなく就業規則で決まる

労働基準法には「休職制度を設けなければならない」という規定が存在しません。休職の発令条件・申請手続き・必要書類・期間・復職要件はすべて会社の就業規則によって定められます。つまり「就業規則に書面提出を要件として記載している場合」、会社はその書面の提出を求める正当な根拠があります。逆に言えば、就業規則に手続き規定がなければ会社の立場が弱くなります。まず自社の就業規則を確認することが最初のステップです。

口頭申し出のまま放置すると起きること

会社が何も手続きをとらないまま社員を事実上休ませ続けた場合、後日「会社が黙示的に休職を発令した」と判断されるリスクがあります。これは給与・復職・解雇の局面で会社に不利に働きます。たとえば「休職期間満了による自動退職」の規定を適用しようとしても、発令日が曖昧では期間の起算点が争われます。早期に書面で状態を確認し、「欠勤なのか、休職手続きに入るのか」を明確にすることが会社を守ることにもつながります。

自社の状況を確認する3つのポイント

50名未満の企業では就業規則の作成義務はありませんが(労働基準法第89条は常時10名以上の事業場に義務付け)、実務上は就業規則がない場合でも個別の労働契約や慣行が判断材料になります。規則が未整備であれば、対応と並行して整備を進めることを強く推奨します。

書面提出を求めることはハラスメントにならない

診断書や休職申請書の提出を求めることは、就業規則に根拠がある以上、業務上の合理的な指示です。それ自体がパワーハラスメントになることはありません。問題になるのは内容ではなく、伝え方です。

書面提出の依頼文に盛り込むべき要素

口頭や口頭に準じる連絡ではなく、必ずメールや書面(郵便)で依頼し、記録を残してください。依頼文には次の要素を含めます。

  • 体調を気遣う一文で始める
  • 書面が必要な理由(休職手続き・給与・保険の処理のため)を事務的に説明する
  • 提出の期限を明記する(例:通知から2週間以内)
  • 不明点があれば連絡してほしい旨と担当者の連絡先を記載する

「出せなければ解雇」「今すぐ出せ」のような圧迫的な表現は避け、あくまで手続き上の必要性として伝えることが重要です。

「病院に行けていない」と言われたときの対応

診断書の提出が難しい理由として「病院に行けていない」「お金がない」と言われるケースがあります。この場合、まず傷病手当金(健康保険の給付)を案内することが実務上の安全策です。

傷病手当金は、業務外の病気やけがで休業した場合に標準報酬日額の約3分の2が最大1年6カ月支給される制度です。申請は本人が主体ですが、申請書の事業主欄への記入は会社の役割です。「申請できる制度があります」と案内するだけでも、本人が通院・診断書取得に動くきっかけになることがあります。案内した事実はメールで残しておきましょう。

連絡が途絶えた場合の対応方針

LINEやメールへの返信が途絶えた場合は、手紙(特定記録郵便または簡易書留)を自宅に送ることを検討します。内容は「体調を心配している」「手続きのために連絡が必要」という事務的なものにとどめ、脅迫的・威圧的な表現は一切使わないでください。

家族への連絡は、本人から事前に家族を緊急連絡先として届け出ている場合に限り、「本人の居場所確認・安否確認」の範囲で行うことが現実的です。家族への連絡を個人情報の観点からためらう声もありますが、安全配慮義務(労働契約法第5条)の観点から「放置」が最もリスクの高い選択です。

書面なしのまま続く場合の給与・社会保険の処理

書面の有無と賃金・社会保険の処理は別軸で整理する必要があります。「書類が来ないから何も手続きできない」という状態を放置することが、後の紛争リスクを高めます。

給与の処理:ノーワーク・ノーペイの原則と注意点

労働の提供がない日数については、ノーワーク・ノーペイの原則(民法第624条)により給与を支払わないことが基本です。ただし「欠勤」として給与を控除するか、「休職」として無給期間に入るかは、就業規則の規定と実際の処理状況によります。

有給休暇の残日数があれば、本人の申請(または会社の計画付与など)によって有給消化が可能です。有給が尽きた段階で欠勤扱いとなり、給与を控除することは適法ですが、その旨を本人に書面で通知しておくことが重要です。事後的に「知らなかった」「聞いていない」という主張を防ぐためです。

社会保険料の扱いと立替の問題

休職中(無給期間)も健康保険・厚生年金の社会保険料は発生し続けます。給与がゼロの場合、会社が社員負担分を一時立替し、復職後に精算するか、本人から直接徴収する方法が一般的です。立替の合意と返済方法について書面を交わしておかないと、退職時に回収できないケースがあります。

また、住民税の特別徴収(給与天引き)も無給期間は徴収できなくなるため、本人への普通徴収への切り替え案内が必要です。これらの手続きは書類の有無に関わらず進める必要があります。

書面未提出でもできる手続きの全体像

項目 書面なしでもできること 書面がないとできないこと
給与控除 欠勤扱いでの控除(就業規則に基づく) 休職発令・無給期間の正式開始
傷病手当金 案内・事業主欄の記入(本人申請前提) 診断書なしでは申請が完結しないことが多い
社会保険料 立替の対応・普通徴収への切り替え案内 休職期間の正式な起算・免除申請
連絡・状態把握 メール・郵便での定期連絡 主治医面談・産業医面談(同意書が必要)

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診断書の提出を拒否されたとき、会社はどこまで動けるか

診断書の提出を求めても拒否された場合でも、会社が一方的に不利益を負う必要はありません。ただし、拙速な懲戒・解雇は非常にリスクが高く、段階的な対応と記録の積み上げが必要です。

「提出しない」ことへの対応の段階的な手順

対応は次の流れで進めます。

  • 第1段階:書面で提出依頼と期限(2週間程度)を通知する
  • 第2段階:期限を過ぎても提出がない場合、督促の書面を送り、改めて期限を設定する
  • 第3段階:それでも提出がなければ、就業規則の懲戒規定(業務命令違反)に基づく対応の可能性を通知する
  • 第4段階:欠勤が規程上の休職期間上限に達しているなら、初めて自動退職・解雇を検討する

いずれのステップでも、通知の記録(送付日・内容・手段)を残しておくことが裁判や労働審判での証拠になります。

メンタルヘルス不調が疑われる場合の特別な配慮

うつ病などのメンタルヘルス不調が背景にある場合、診断書の取得や意思疎通自体が症状の一部として困難になっていることがあります。この状態で強行的に解雇すると、複数の判例(東京地裁や大阪地裁におけるメンタル不調社員への手続き不備を理由とした解雇無効事例など)と同様のリスクを招きます。

50名未満で産業医が選任されていない場合でも、地域産業保健センター(無料)や外部のEAP(従業員支援プログラム)を活用し、専門職の助言を得ることが現実的な選択肢です。

休職規程が未整備の場合は今が整備のタイミング

休職申請書・診断書の提出要件・欠勤と休職の区分・休職期間と満了後の扱い・復職判断の基準——これらが就業規則に明記されていない場合、書面を求める根拠そのものが曖昧になります。今起きているケースへの対応と並行して、就業規則の整備に着手してください。

整備後の規則は既存社員にも周知することで(就業規則の作成・変更は労働基準法第89条・第90条に基づき届出・周知が必要)、以降の対応の根拠になります。

まとめ

口頭だけで休んでいる社員への対応は、「放置」がもっともリスクの高い選択です。書面提出の依頼は就業規則に根拠があればハラスメントにはなりません。給与・社会保険の処理は書類の有無に関わらず進め、傷病手当金の案内も早めに行いましょう。診断書が出てこない場合でも、段階的な通知・督促と記録の積み上げが会社を守ります。そしてこのケースを機に、休職規程の整備を進めることが次の問題を防ぐ最善策です。

「うちの会社のケースはどうすればいい?」と思ったとき、ウェルセンス株式会社では20〜50名規模の企業の休職・復職対応を実務レベルでサポートしています。就業規則が未整備でも、専任人事がいない状況でも、現状を整理するところから一緒に考えます。まずはお気軽にご相談ください。

よくある質問

Q. 口頭で「休みます」と言われただけで、会社は休職を認めなければならないのですか?

A. 休職は法律上の義務ではなく就業規則上の制度です。就業規則に書面提出を要件として定めている場合、口頭申し出のみでは正式な休職発令とはなりません。ただし事実上休ませ続けると「黙示の休職発令」とみなされるリスクがあるため、早めに書面で状態を確認し、欠勤か休職手続きかを明確にすることが必要です。

Q. 書面や診断書の提出を求めるとハラスメントになりますか?

A. 就業規則に根拠がある限り、書面・診断書の提出を求めること自体はパワーハラスメントになりません。問題となるのは依頼の内容ではなく伝え方です。体調への配慮を示しつつ、手続き上の必要性を理由として書面で依頼し、記録を残してください。脅迫的・威圧的な表現は避けることが重要です。

Q. 診断書がないと傷病手当金の手続きはできませんか?

A. 傷病手当金の申請は本人が主体となって行うものですが、申請書に医師の証明欄があり、診断書に準じる記載が必要となります。会社は申請書の事業主記載欄に記入する役割を担います。診断書が用意できていない段階でも、「傷病手当金という制度があること」を案内するだけは行っておきましょう。案内した事実をメールで記録しておくと後のトラブル防止になります。

Q. 書面を出さないまま欠勤が続く社員を解雇できますか?

A. 書類未提出を理由に即時解雇することは非常にリスクが高く、特にメンタルヘルス不調が背景にある場合は解雇無効とされた判例が複数あります。書面での提出依頼、期限設定、督促というステップを踏み、記録を残した上で、就業規則上の休職期間満了後に初めて自動退職・解雇を検討するという段階的な手順が必要です。

Q. 休職規程が就業規則に整備されていない場合、どうすればいいですか?

A. 規程がなければ書面提出を求める根拠も曖昧になります。目の前のケースへの対応と並行して、休職申請の手続き・必要書類・欠勤との区分・無給期間・復職基準などを就業規則に明記する整備を急ぐ必要があります。整備した就業規則は労働基準監督署への届出と社員への周知(労働基準法第89条・第90条)が必要です。専門家に相談しながら進めることをお勧めします。

【監修】ウェルセンス株式会社
ウェルセンスは、メンタル不調者対応・休職復職支援に強い職場メンタルケアサービスです。産業医・保健師・心理士・社労士などの専門家ネットワークが、人事・管理職だけでは判断しづらいケースの初動対応、専門家連携、再発防止まで支援します。

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