健康診断の結果で不採用にしていいか迷ったら

健康診断の結果で不採用にしていいか迷ったら 労務管理
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「内定を出した後の健康診断で、重い持病があることがわかった。このまま採用を進めてもいいのか、正直不安だ」——中小企業の経営者や兼務人事担当者から、こうした相談が後を絶ちません。一人欠けただけで業務が回らない規模の会社では、長期休職リスクへの懸念は切実です。しかし、感覚で判断してしまうと、採用差別として法的リスクが生じる可能性があります。この記事では、採用時の健康診断結果をどこまで判断材料にできるのか、内定取り消しや試用期間中の本採用拒否はどんな条件で認められるのか、実務の基準をわかりやすく整理します。

採用時の健康診断で何が「違法」になるのか

健康診断の結果を採用判断に使うこと自体が、状況によっては違法な差別と判断されるリスクを持ちます。まず、採用選考と健康診断の関係を正確に理解しておきましょう。

「雇入れ時健康診断」は採用前に実施するものではない

労働安全衛生規則第43条が定める「雇入れ時健康診断」は、採用後・就業開始前に実施が義務付けられているものです。採用選考の段階で健康診断を実施することは法令で定められておらず、採用企業に義務も権利もありません。

採用選考段階での健康診断実施を明文で禁止した規定はありませんが、その結果を採用可否の判断材料として使うことは、別の法令によって制限されます。「内定者に健康診断を受けさせることは違法ではないが、その結果をもとに一方的に採用を拒否することは違法に該当する可能性がある」——このニュアンスを理解しておくことが重要です。

厚生労働省が示す「公正な採用選考の基本」

厚生労働省は「公正な採用選考の基本」の中で、本人の適性・能力と関係のない事項——病歴・健康状態など——を採用選考の判断材料とすることは不適切であるとしています。これは罰則付きの禁止規定ではありませんが、行政指導の根拠となり、企業の社会的信頼にも直結します。

「健康上の理由で採用を見送った」という事実が後から表面化した場合、採用差別として問題化するリスクがあります。特に離職した応募者が労働局に相談に来た場合、企業に説明責任が生じます。

障害者雇用促進法・障害者差別解消法による制約

身体・精神・知的の障害を有する求職者に対して、障害を理由とした不合理な差別的取扱いをすることは、障害者雇用促進法および障害者差別解消法によって禁止されています。2024年4月の改正により、民間企業にも「合理的配慮の提供」が義務化されました。

障害者手帳の有無にかかわらず、精神疾患の既往を理由に一律に不採用とすることは、この法律に抵触するリスクが高くなります。また、「重い持病がある」と理由付けて採用を見送った場合でも、その判断が客観的な根拠を欠いていれば、同様の問題が生じ得ます。

内定後に健康診断で既往症が判明した場合の対応

内定後に既往症が判明しても、それだけを理由に内定を取り消すことは原則として認められません。内定の法的性質を正しく理解することが、適切な対応の第一歩です。

内定とは「解約権留保付き労働契約」が成立した状態

内定の通知は、始期付き・解約権留保付きの労働契約の成立と解釈されます(最高裁・大日本印刷事件など)。つまり内定の段階で雇用関係はすでに始まっており、内定取り消しは「解雇」に準じた扱いを受けます。

「内定取り消しはいつでもできる」という感覚で動くと、後日紛争になるリスクがあります。内定者側が内定取り消しで損害賠償請求をした際、裁判所は内定取り消しの正当性を厳格に審査する傾向にあります。

内定取り消しが認められる限定的な条件

内定取り消しが適法と認められるのは、以下の2つの要件を満たす場合に限られます。

  • 内定時点では知ることができなかった重大な事由が判明したこと
  • 採用継続が客観的に困難と判断できること

健康状態がその「重大な事由」にあたるかどうかは、担当する業務の具体的な内容と、その健康状態が業務遂行に与える影響の程度によります。「なんとなく不安」「長期休職になるかもしれない」という懸念だけでは、合理的な理由とは認められません。

例えば「全国転勤が必須な営業職なのに、移動に医学的な制限があることが判明した」という場合と、「事務職なのに何らかの疾患がある」という場合では、評価が大きく異なります。業務との関連性が希薄であれば、内定取り消しの正当性は認められません。

健康情報は「要配慮個人情報」として厳格に管理する

個人情報保護法第2条第3項は、病歴・健康状態などの情報を「要配慮個人情報」と定めています。取得する際は利用目的を明示し、本人の同意を得ることが必須です。

健康診断の結果を採用担当者以外の者が閲覧できる状態にしていたり、目的外の用途(例:他の従業員への情報共有)に使ったりすることは、個人情報保護法違反となります。取得した健康情報の管理ルールを事前に社内で整備しておくことが重要です。

試用期間中の本採用拒否、健康を理由にできるか

試用期間中であっても雇用契約はすでに成立しており、健康状態のみを理由とした本採用拒否は「合理的な理由がある」と認められる場面は極めて限定的です。

三菱樹脂事件が示す判例法理

最高裁昭和48年の三菱樹脂事件は、試用期間は「解約権留保付き雇用契約」であり、本採用拒否には「客観的に合理的な理由」と「社会通念上の相当性」が必要であると判示しました。この法理は現在も生きており、労働契約法第16条の解雇権濫用法理が試用期間終了時の本採用拒否にも類推適用されます。

「試用期間=お試し期間だから自由に断れる」という理解は誤りです。試用期間終了時に本採用を拒否する場合も、解雇と同じレベルの正当性が求められます。

「業務に支障がある」ことを客観的に示せるか

試用期間中に健康上の問題が判明したとしても、本採用拒否が認められるためには、その健康状態が担当業務の遂行に具体的かつ重大な支障をきたすことを、客観的な資料で示す必要があります。必要な資料は以下の通りです。

  • 主治医や産業医の意見書
  • 業務内容との比較検討資料
  • 実際の就業状況の記録(出勤日数、休んだ日数、業務遂行状況など)

「重い持病があるから不安」「休むかもしれないから」という抽象的な懸念では、法的には不十分です。「実際に試用期間中に何度も休んだ」「業務が明らかに進まなかった」といった事実に基づく判断が必要です。

本採用拒否を検討する前に確認すべきこと

本採用拒否を検討する前に、まず以下の配慮が可能かどうかを検討してください。

  • 配置転換(別の部門・職種への異動)
  • 労働時間の短縮や勤務パターンの変更
  • 業務内容の調整(負荷軽減や業務の組み換え)
  • 在宅勤務やテレワークの導入

この検討を経ずに本採用拒否に踏み切ると、解雇権濫用として無効と判断されるリスクが高まります。特に「合理的配慮の検討を一切せず、一方的に拒否した」という事実が明かになると、企業の信頼性が大きく損なわれます。

産業医がいる会社であれば、産業医の意見を書面で取得しておくことが後のトラブル防止につながります。産業医がいない場合は、地域産業保健センターや主治医の意見書を活用してください。

採用面接で健康状態を聞いてもよいか

採用面接で健康状態や病歴を聞くことは、業務遂行に直接関係する事項に限定すべきであり、漫然と質問することは差別リスクを高めます。

「業務遂行能力の確認」に絞った質問設計が原則

採用面接で聞けるのは、あくまで当該業務を遂行できるかどうかに関係する範囲です。例えば以下のような質問は許容されます。

  • 「夜間対応が必要なポジションで、勤務時間に関して何か配慮が必要なことはありますか」
  • 「重い荷物を持つ業務が多いのですが、体力面で問題ありませんか」
  • 「出張が月に数回あるのですが、対応できますか」

一方で以下のような質問は不適切です。業務遂行と直接関係のない病歴・家族歴への質問は、差別的な採用選考として問題になり得ます。

  • 「過去に精神科に通ったことはありますか」
  • 「家族に遺伝性の疾患はありますか」
  • 「持病はありませんか」(漫然とした質問)
  • 「何か病気をしたことはありますか」

質問を設計する際は、「この質問は本当に業務要件と関係があるか」という視点で一度立ち止まることが大切です。

応募者が自発的に開示した場合の対応

応募者が面接中に自発的に持病や障害を開示した場合は、その情報を採用可否の判断に直接使うのではなく、「どのような配慮があれば業務を遂行できるか」という視点で対話を進めることが重要です。

例えば「実は以前うつ病で療養していましたが、今は回復して復職を考えています。どのような配慮があれば安心して働けるでしょうか」という開示があった場合、企業側がすべきことは以下の通りです。

  • 「回復状況について、詳しく教えていただけますか」と、前向きに対話を続ける
  • 「現在通院中ですか」「主治医からはどのような指示を受けていますか」と、事実を確認する
  • 「入社後、どのような配慮があると働き続けられると思いますか」と、本人のニーズを確認する
  • 「当社はこのような配慮が可能です」と、会社側の対応可能範囲を伝える

開示された情報は要配慮個人情報として厳重に管理し、採用担当者以外には原則共有しないルールを設けてください。採用後、人事・管理者以外が知る必要のない情報は、アクセス権を制限した形で保管することが望ましいです。

採用後に配慮が必要な持病が判明したときの対応フロー

採用後に持病や障害が判明した場合、事業者は就業上の措置を検討する義務を負います。対応の流れを整理しておくことで、「やりすぎ」も「やらなさすぎ」も防げます。

「就業上の措置」として何をすべきか

労働安全衛生法第66条の5は、健康診断の結果に基づき、医師の意見を踏まえて事業者が必要な就業上の措置をとることを義務付けています。措置の内容は「就業区分」に基づいて判断します。

就業区分 状態の目安 対応例
通常勤務 健康状態に問題なし 特段の措置なし
条件付き勤務 一定の配慮があれば就業可能 労働時間短縮・作業転換・深夜業制限など
要休業 療養が必要な状態 休職・勤務制限の指示

健康診断で「条件付き勤務」と判断された場合、会社はその条件の内容を確認し、実装する計画を立てる必要があります。計画なく、従業員に丸投げしてしまうと、後々「配慮をしてもらえなかった」というトラブルが生じます。

本人との対話プロセスを省略しない

合理的配慮の内容は画一的に決まるものではなく、本人の状態・業務内容・職場環境を踏まえて個別に検討する必要があります。会社側が一方的に判断して配置変更を命じるだけでなく、本人と面談し「どのような配慮があれば働けるか」を一緒に考えるプロセスが重要です。

対話のステップは以下の通りです。

  • 本人の状態を詳しく聞く(症状、通院状況、主治医の指示など)
  • 現在の業務内容を整理する(具体的な業務、労働時間、環境など)
  • 本人が「働き続けるために必要な配慮」を聞く
  • 会社が対応できる配慮を提示する
  • 具体的な配慮内容を決定し、書面に残す
  • 一定期間後に、配慮が機能しているか再評価する

このプロセスを記録しておくことが、後日トラブルになった際の根拠にもなります。「配慮を検討した形跡がない」という状況は、トラブル時に企業側に不利に働きます。

会社規模・産業医の有無による対応の違い

従業員50名以上の事業場は産業医の選任が義務付けられており、就業区分の判断に産業医の意見を活用できます。産業医がいる場合、健康診断結果について産業医に相談し、具体的な配慮内容を指示してもらうことが標準的な対応です。

一方、50名未満の事業場では産業医が必置ではないため、以下の選択肢が現実的です。

  • 主治医から意見書を取得する(本人の同意のもと)
  • 地域産業保健センター(都道府県ごとに設置)に相談する
  • 必要に応じて産業医を外部委託する

就業規則に「就業上の配慮に関する条項」がない場合は、対応の根拠が不明確になりますので、早めに整備することをお勧めします。例えば「健康診断結果に基づく就業区分が『条件付き勤務』と判断された従業員に対して、医師の意見を参考に必要な措置を講じる」といった条項があると、対応がスムーズになります。

「精神疾患の既往がある応募者」にどう向き合うか

精神疾患の既往があることを理由に一律に不採用とすることは、合理的とは認められません。感情的な判断ではなく、業務適性と配慮可能性を軸に考えることが法的にも実務的にも正しいアプローチです。

「精神疾患=リスク」という一律判断の危険性

精神疾患の既往があっても、現在は回復して安定した就労が可能な人は少なくありません。過去にうつ病で療養していたが、治療を経て仕事に戻った人、統合失調症と向き合いながら定期的に通院して働き続けている人——こうした人たちを一律に「雇えない」という判断は、企業にとって貴重な人材を失うことにもなります。

精神疾患の既往を理由に一律に不採用とすることは、障害者雇用促進法が禁じる差別的取扱いに該当するリスクがあります。また、障害者手帳を持たない人であっても、精神疾患を理由とした不採用が「合理的な理由のない差別」と判断された場合、同様の問題が生じ得ます。

「前の職場を精神疾患で退職した応募者」という情報だけで判断するのではなく、「現在の状態で、この業務ができるか」を個別に見ていく必要があります。

「現在の就労能力」を確認する方法

採用判断において合理的に確認できるのは、「現在の状態で当該業務を遂行できるか」という点です。面接の中で「現在の体調・通院状況」について本人が自発的に開示した情報をもとに、必要な配慮を具体的に確認することは許容されます。

例えば、応募者が「実は以前メンタルヘルスの課題がありましたが、今は回復しています」と述べた場合、以下のような確認は適切です。

  • 「回復状況について、詳しく聞かせていただけますか」
  • 「現在、医療機関に通っていますか」
  • 「入社後、業務を続けるために特に配慮してほしいことはありますか」

一方で、以下のような直接的な質問は不適切です。

  • 「精神科の受診歴はありますか」(応募者が開示していない場合)
  • 「メンタルヘルスの問題で職場を離れたことはありますか」(本人からの言及なく聞くこと)
  • 「再発するリスクはないですか」(医学的な判断を応募者に求める質問)

採用後に配慮の方針を一緒に決める前提で面接設計をすることが、双方にとって合理的です。「採用する前から配慮を約束した上で採用する」という姿勢が、応募者側の信頼にもつながります。

まとめ

健康診断の結果を採用判断に使うことは、障害者雇用促進法・障害者差別解消法・厚生労働省の採用選考基準などによって厳しく制限されています。内定後の既往症発覚も、試用期間中の健康上の問題も、それだけを理由に採用を取り消したり本採用を拒否したりすることは、法的に認められる場面は極めて限定的です。

重要なのは、「この健康状態が業務遂行にどのような具体的影響をもたらすか」を客観的に評価し、合理的配慮の可能性を検討したうえで判断することです。会社規模が小さく、産業医がいない場合でも、主治医の意見書や地域産業保健センターの活用によって、適切な判断基準を構築することは十分可能です。

「自社のケースがどちらに該当するのかわからない」「就業規則に配慮の規定がなく、何かあったときが不安」という場合、ウェルセンス株式会社では個別の状況に応じた相談対応を行っています。専任人事がいない中小企業の実情を踏まえたサポートを提供していますので、一度お気軽にご相談ください。

よくある質問

Q. 採用前に健康診断を受けさせることは違法ですか?

A. 採用前に健康診断を実施すること自体を禁止した明文規定はありません。ただし、雇入れ時健康診断(労働安全衛生規則第43条)は採用後・就業前に実施するものです。採用選考段階で実施した健康診断の結果を採用可否の判断材料とすることは、差別的取扱いとして問題になるリスクが高いため注意が必要です。

Q. 試用期間中なら、健康状態を理由に本採用を断れますか?

A. 試用期間中であっても雇用契約はすでに成立しており、本採用拒否には「客観的に合理的な理由」と「社会通念上の相当性」が必要です(最高裁・三菱樹脂事件)。健康状態のみを理由とした本採用拒否が合理的と認められる場面は極めて限定的であり、まず配置転換や業務調整などの合理的配慮が可能かを検討する必要があります。

Q. 採用面接で「持病はありますか」と聞くことはできますか?

A. 業務遂行能力と直接関係のない病歴・健康状態を漫然と質問することは不適切です。質問する場合は「この職務を行ううえで、勤務時間や業務内容について配慮が必要なことはありますか」のように、業務要件を起点とした形で確認することが適切です。精神科への通院歴や家族の疾患歴などを直接聞くことは避けてください。

Q. 採用後に持病が判明した場合、どのような対応が必要ですか?

A. 労働安全衛生法第66条の5に基づき、医師(産業医または主治医)の意見を踏まえて就業上の措置を検討することが事業者の義務です。本人と面談し、どのような配慮があれば業務を続けられるかを確認したうえで、労働時間の短縮・作業転換・勤務形態の変更などを検討してください。この対話のプロセスと検討記録を残しておくことが、後のトラブル防止に不可欠です。

Q. 産業医がいない小規模企業では、健康上の問題への対応はどうすればよいですか?

A. 従業員50名未満の事業場では産業医の選任義務がありませんが、主治医から意見書を取得する、都道府県の地域産業保健センター(無料)に相談する、という方法が現実的です。また、就業規則に就業上の配慮に関する条項がない場合は、対応の根拠が不明確になるため、早めに整備することをお勧めします。対応方針に迷う場合は、メンタルヘルスや人事労務の専門家への相談も有効です。

【監修】ウェルセンス株式会社
ウェルセンスは、メンタル不調者対応・休職復職支援に強い職場メンタルケアサービスです。産業医・保健師・心理士・社労士などの専門家ネットワークが、人事・管理職だけでは判断しづらいケースの初動対応、専門家連携、再発防止まで支援します。

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