復職者の謝罪要求、会社はどう対応すべき?

復職者の謝罪要求、会社はどう対応すべき? 休職・復職対応
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「謝ってくれないと、職場に戻れません」——休職中の従業員からこう告げられたとき、あなたはどう動きますか。上司に謝罪させるべきか、断るべきか、判断に迷ったまま時間だけが過ぎていく。そんな状況に陥っている経営者・人事担当者は少なくありません。謝罪要求への対応を誤ると、会社側のリスクが高まるのも事実です。この記事では、法的な整理から実務的な対応手順まで、専任人事のいない会社でも使えるかたちで解説します。

謝罪要求に法的な応じる義務があるのか

結論からいえば、謝罪を強制する法律は存在しません。ただし、背景にある職場環境の問題によっては、会社が何らかの対応を取る義務が生じる場合があります。

民法・労働法に「謝罪義務」の規定はない

民法・労働関係法令のいずれにも、「謝罪しなければならない」と定めた規定はありません。したがって、従業員から謝罪を要求されても、会社や上司がそれに法的に応じる義務は原則として生じません。「謝罪しなければ復職しない」という条件を本人が提示することは自由ですが、会社がその条件をそのまま受け入れる必要もありません。

安全配慮義務・ハラスメント防止義務が絡む場合は別の話

問題になるのは、謝罪要求の背景にパワーハラスメントや職場環境の問題が存在する場合です。労働契約法第5条は、使用者に対して従業員の安全・健康への配慮義務(安全配慮義務)を課しています。また、労働施策総合推進法第30条の2(いわゆるパワハラ防止法)は、2022年4月以降、中小企業にも相談対応・事実確認・再発防止措置を義務付けています。

つまり、謝罪要求そのものに応じる義務はないが、その背景にある問題を放置したまま復職を強行すると、安全配慮義務違反として争われるリスクがあるのです。「謝罪義務はないから何もしなくていい」という判断は危険です。

復職の最終判断は会社にある

主治医が「復職可」の診断書を発行していても、最終的な復職可否の判断は会社側にあります(最高裁判例において確立された考え方)。ただし、正当な理由のない復職拒否は不当な業務命令として争われるリスクもあります。謝罪要求への対応と、復職可否の判断は別の問題として整理して進めることが重要です。

謝罪に応じるリスク・断るリスク、それぞれの落とし穴

謝罪要求への対応では、「応じること」にも「断ること」にも固有のリスクがあります。どちらの判断をするにしても、リスクを把握したうえで動くことが不可欠です。

安易に謝罪した場合のリスク

「本人の気が済めば復職できる」と考え、上司に「とにかく謝っておいて」と指示するケースがあります。しかし、謝罪の内容によっては後の訴訟でハラスメントの事実を認めた証拠として使われる可能性があります。民事上、謝罪は直ちに法的な事実認定につながるわけではありませんが、「ハラスメントをしてしまい申し訳ない」という内容の謝罪は「配慮が不足していた」という趣旨の謝罪とは明確に区別されなければなりません。

また、謝罪後に要求がエスカレートするケースも実務では珍しくありません。「謝罪があれば戻れる」→「部署を変えてほしい」→「あの上司の異動を求める」という流れになると、問題の収束が遠のきます。さらに、謝罪を強いられた上司のモチベーション低下・退職リスクという二次被害も発生します。

謝罪を断るだけで放置した場合のリスク

謝罪に法的義務がないからといって、事実確認や再発防止措置を一切取らずに復職を強行しようとするのも問題です。背景にパワハラ疑義があれば、ハラスメント防止法上の相談対応・事実確認・再発防止の手続きを踏まないまま復職させることは、後に「会社は何も対応しなかった」と判断される根拠になります。また、休職期間の上限が近づいている状況で長期間膠着させることは、本人の精神状態をさらに悪化させるリスクもあります。

謝罪の「種類」を整理する

実務上は、謝罪の内容を明確に分類することが重要です。

謝罪の種類 具体的な文言例 法的リスク
事実を認める謝罪 「ハラスメントをして申し訳ありませんでした」 高い(訴訟で不利な証拠になる可能性あり)
配慮不足を認める謝罪 「フォローが十分でなく、つらい思いをさせてしまいました」 中程度(文脈による)
会社としての再発防止表明 「職場環境の改善に取り組みます」 低い(義務の履行として評価される)

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謝罪要求が出たとき、最初にすべき事実確認

謝罪要求への対応を始める前に、まず「その謝罪要求が何に基づいているのか」を整理することが最優先です。感情的な問題と事実の問題を混同したまま動くと、判断を誤ります。

謝罪要求の背景を見極める

謝罪要求が出る背景は大きく二つに分かれます。一つは、休職前に実際に職場でトラブル(パワーハラ・ハラスメント疑義・コミュニケーション上の問題)があり、その当事者が謝罪を求めているケースです。もう一つは、休職中に本人の認知や感情処理の変化によって、過去の出来事への解釈が変わり、「あのときは謝罪されるべきだった」という要求が生じているケースです。どちらであるかによって、会社の対応方針は変わります。

ハラスメント疑義がある場合の確認手順

謝罪要求の背景にパワーハラ・ハラスメントの疑義がある場合は、まずパワハラ防止法(労働施策総合推進法第30条の2)に定められた手続きに沿って動くことが前提になります。具体的には、相談窓口への相談受理→事実確認(本人・上司・第三者からのヒアリング)→事実認定→措置の決定という流れです。この手続きを経ずに謝罪の有無だけを議論しても、問題の根本は解決しません。

産業医が選任されている場合(従業員50人以上の事業場では選任義務あり)は、産業医に事前相談することも有効です。50人未満の事業場では産業医の選任義務はありませんが、地域の産業保健総合支援センター(さんぽセンター)への相談が活用できます。

就業規則・ハラスメント相談窓口の有無を確認する

自社の就業規則にハラスメント対応に関する規定があるかどうか、また社内・社外に相談窓口があるかどうかを確認してください。これらが整備されていない場合、今後の対応の根拠が曖昧になります。20〜50名規模の会社では、整備が追いついていないことも多いですが、今回のケースを機に最低限の規定整備を検討することを勧めます。

現状の判断基準がない、対応の方針を誰に相談すればいいかわからない——そんなとき、産業医やハラスメント対応の専門家の見立てが大きな判断材料になります。

第三者を活用した復職プロセスの進め方

当事者同士・社内の話し合いだけでは膠着しているケースでは、第三者を介入させることが打開策になります。専任人事不在の会社こそ、外部リソースの活用が有効です。

社内に中立的なファシリテーターがいない問題

専任人事のいない中小企業では、経営者や兼務の人事担当者が当事者双方の板挟みになりやすい構造があります。本人から見れば「会社側の人間」、上司から見れば「自分を責める立場」として受け取られることが多く、社内での合意形成が困難になります。こうした構図を変えるには、外部の専門家が中立的な立場でプロセスを設計することが有効です。

活用できる外部リソース

  • EAP(従業員支援プログラム):復職支援専門のカウンセラーが、本人・職場双方に対してアプローチできる。謝罪要求の背景にある本人の感情整理を支援する役割も担える。
  • 産業医・産業保健スタッフ:復職可否の医学的判断とともに、職場環境調整の提言ができる。50人未満の事業場ではさんぽセンターの産業医への相談を活用する。
  • 社会保険労務士・弁護士:法的リスクの評価と、謝罪・対応内容の文書化を支援できる。特に訴訟リスクが高いケースでは弁護士との連携が必要。
  • 第三者調停(労働局のあっせん等):個別労働紛争解決促進法に基づき、都道府県労働局の紛争調整委員会があっせんを行う制度がある。費用は無料で利用できる。

復職面談に第三者を同席させる

復職前の面談に、産業医・EAPカウンセラー・外部の人事コンサルタントなどを同席させることで、当事者双方が「中立的なプロセスのなかで話し合っている」という認識を持ちやすくなります。面談の内容は記録に残し、合意事項を文書化することが後のトラブル防止につながります。

上司への対応と、板挟みになる担当者のケア

謝罪要求への対応では、復職者本人への対応だけでなく、謝罪を求められている上司と、板挟みになっている担当者のケアも並行して必要です。

謝罪を求められた上司への説明と合意形成

「なぜ自分が謝らなければいけないのか」という上司の反発は、多くのケースで発生します。上司に対して一方的に謝罪を求めることは、上司のモチベーション低下・心理的安全性の破壊、最悪の場合は退職につながります。上司に動いてもらう場合は、まず「何について・どの範囲で・どのような表現で」対応するかを会社が方針として決定し、そのうえで上司に説明・合意を得るプロセスが必要です。上司個人に判断を丸投げしてはいけません。

担当者自身が抱えるストレスへの配慮

専任人事のいない会社では、経営者や兼務担当者が休職者・上司・事業運営のすべてを同時に抱えることになります。このような状況は担当者自身のバーンアウトリスクを高めます。対応が長期化しているケースでは、外部の専門家に一部を委ねることで担当者の負荷を分散することも、組織を守るために重要な判断です。

この問題を人事だけで抱えていると、担当者自身が疲弊します。専門家に一部をアウトソースすることは、コストではなく投資です。

まとめ

復職者からの謝罪要求に対して、会社に法的な謝罪義務はありません。しかし、背景にある職場環境の問題を放置することは、安全配慮義務違反・ハラスメント防止法違反のリスクを生みます。対応の鍵は、謝罪要求そのものへの可否判断より前に、背景にある問題を正確に把握し、適切な手続きを踏むことです。謝罪の内容・範囲を会社が主導して設計し、記録に残す。第三者を活用して中立的なプロセスを作る。上司・担当者双方のケアを並行して行う。これらを同時に進めるのは、専任人事のいない会社には重い負担です。

ウェルセンス株式会社では、中小企業の復職支援・メンタルヘルス対応を専門にサポートしています。謝罪要求への対応方針、ハラスメント調査の進め方、外部リソースの活用まで、具体的なご相談をお受けしています。「どこから手をつければいいかわからない」という段階でのご相談も歓迎しています。まずは現状をお聞かせください。

よくある質問

Q. 復職者から「謝罪がなければ戻らない」と言われています。会社はその条件を飲む必要がありますか?

A. 会社に謝罪を強制する法的義務はないため、本人が提示する「謝罪を復職条件とする」要求をそのまま受け入れる必要はありません。ただし、謝罪要求の背景にパワーハラや職場環境の問題があれば、その対処を取らずに復職を強行することは安全配慮義務違反のリスクになります。謝罪の可否とは別に、背景にある問題の事実確認と対応を先に行うことが重要です。

Q. 上司が「なぜ自分が謝らないといけないのか」と反発しています。どう対応すればいいですか?

A. 上司個人に謝罪を丸投げすることは避けてください。まず会社として「何について・どの範囲で・どのような表現で」対応するかを方針として決定し、その方針を上司に説明・合意を得るプロセスが必要です。上司が謝罪する場合も、「ハラスメントをした」という謝罪ではなく「配慮が足りなかった」という趣旨に限定するなど、内容を会社が主導して設計します。上司のモチベーション・心理的安全性への影響も、並行して配慮してください。

Q. 上司が謝罪してしまった場合、ハラスメントを認めたことになりますか?

A. 民事上、謝罪は直ちに法的な事実認定につながるわけではありません。ただし、謝罪の内容・文脈によっては後の訴訟で不利な証拠として使われる可能性があります。特に「ハラスメントをしてしまい申し訳ない」という内容の謝罪は、事実の承認とみなされるリスクが高まります。謝罪を行う場合は、事前に社会保険労務士や弁護士と相談のうえ、内容・表現を文書で確認・記録しておくことを強く勧めます。

Q. 産業医がいない会社です。第三者を交えた対応はどうすればできますか?

A. 従業員50人未満の事業場では産業医の選任義務はありませんが、各都道府県の産業保健総合支援センター(さんぽセンター)では、産業医への相談を無料で利用できます。また、EAP(従業員支援プログラム)の外部サービスを導入することで、専門カウンセラーによる復職支援・面談同席が可能になります。個別労働紛争が深刻な場合は、都道府県労働局の紛争調整委員会によるあっせん制度(無料)も活用できます。

Q. 謝罪対応の話し合いを記録に残す必要はありますか?

A. 必ず残してください。面談・話し合いの日時・参加者・発言内容・合意事項を書面(議事録)で記録し、双方が確認したことがわかる形で保管することが重要です。口頭のやりとりだけでは、後に「言った・言わない」の争いになるリスクがあります。特に謝罪の内容・範囲・表現を確認した記録は、後のトラブルを防ぐ証拠として機能します。

【監修】ウェルセンス株式会社
ウェルセンスは、メンタル不調者対応・休職復職支援に強い職場メンタルケアサービスです。産業医・保健師・心理士・社労士などの専門家ネットワークが、人事・管理職だけでは判断しづらいケースの初動対応、専門家連携、再発防止まで支援します。

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