勤務中の喫煙時間は労働時間に含まれる?

勤務中の喫煙時間は労働時間に含まれる? コンプライアンス
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「あの社員、今日もまた喫煙所に行っている……」。そんな場面を目にするたびに、非喫煙者の社員からの視線が気になる。あるいは、「喫煙で席を外した時間分の給与は払わなくていいのか?」と疑問を持ちながらも、法的な根拠がわからず曖昧なまま放置している——。中小企業の人事担当者からよく聞かれるこの悩みは、実は「労働時間の定義」「就業規則の整備」「公平性の担保」という三つの論点がからみ合った、シンプルに見えて奥の深いテーマです。この記事では、法的な整理から実務対応まで、順を追って解説します。

勤務中の喫煙時間は「労働時間」に含まれるか

結論から言うと、喫煙のための自発的な席外しは、原則として労働時間には該当しません。ただし、会社側の対応や慣行によっては「労働時間とみなされるリスク」が生じるため、要注意です。

労働時間の法的な定義

労働基準法第32条が定める「労働時間」とは、使用者の指揮命令下に置かれている時間を指します。最高裁判所は1999年の三菱重工業長崎造船所事件において、この「指揮命令下」という概念を基準として労働時間を判断するという考え方を示しました。喫煙のために自発的に業務を離れる行為は、使用者の指揮命令から外れた自主的な行動ですから、基本的には労働時間に含まれないと解釈されます。

「黙認」が積み重なると危うくなる理由

問題は、「うちは昔からみんな好きに喫煙所へ行っているし、上司も一緒に吸いに行く」というケースです。このような状態が長期間続いている場合、会社が黙示的に喫煙休憩を承認していたと判断される可能性があります。黙示の承認とは、明確な許可はなくても、慣行として認めてきたとみなされることです。万が一この状態で「喫煙分の賃金は払わない」と宣言すると、労働条件の不利益変更として問題になる場合もあります。まず自社の現状を客観的に確認することが先決です。

所定の休憩時間内の喫煙との違い

労働基準法第34条により、労働時間が6時間を超える場合は少なくとも45分、8時間を超える場合は少なくとも60分の休憩を付与する義務があります。この所定の休憩時間中に喫煙を行う分には、もともと「労働時間外」ですから問題はありません。論点となるのは、休憩時間以外に繰り返し席を外す行為です。この時間帯の取り扱いを就業規則で明確にしていないことが、多くの職場でのトラブルの根本原因になっています。

喫煙休憩を「無給」にするために必要なこと

喫煙のための席外しを無給扱いにすること自体は法的に可能ですが、就業規則への明記と全社員への周知が大前提です。根拠なく「払わない」と言うだけでは、かえってトラブルを招きます。

就業規則がない・古いままの会社は特に注意

常時10人以上の労働者を使用する事業場には、労働基準法第89条により就業規則の作成と労働基準監督署への届出が義務付けられています。20~50名規模の企業はすべてこの対象です。就業規則に喫煙に関する規定がない状態では、喫煙で席を外す社員を注意・指導しようとしても法的な根拠が存在しないため、対応が後手に回ります。まず「うちの就業規則に喫煙について何か書いてあるか」を確認することがスタートです。

喫煙時間を「無給」とする場合の具体的な設計

喫煙休憩を無給にするには、タイムレコーダーや出退勤管理システムで「私用外出」として記録させ、その時間を賃金から控除する方法が考えられます。ただし実務上、数分単位の控除を正確に管理するのは難しい場合もあります。現実的な選択肢として多くの企業が採用しているのが、「喫煙休憩は所定休憩時間の中でのみ認める」というルールの明文化です。休憩時間以外の喫煙のための離席を服務規律違反として扱う旨を就業規則に記載することで、管理しやすくなります。

健康増進法との関係も忘れずに

令和2年4月に全面施行された改正健康増進法(健康増進法第29条以降)では、事業所を含む多数の者が利用する施設での屋内原則禁煙が定められています。喫煙専用室の設置要件を満たさない場合、社内に喫煙場所を設けること自体が法令違反になりえます。「喫煙時間をどう扱うか」という労務管理の問題と、「どこで喫煙を認めるか」という施設管理の問題はセットで整理する必要があります。

就業規則に喫煙ルールをどう明記するか

就業規則への明記は、「会社のルールを守ってもらうための根拠づくり」であると同時に、「社員の納得感を高めるための透明性の確保」でもあります。記載すべき項目は大きく三つに整理できます。

服務規律条項への追記が基本

最もシンプルな方法は、就業規則の「服務規律」の章に喫煙に関する規定を追加することです。記載例としては以下のような文言が考えられます。

  • 「所定の休憩時間以外における喫煙のための離席は禁止する」
  • 「喫煙は会社が指定した場所および時間帯に限り行うことができる」
  • 「上記に違反した場合は、服務規律違反として指導・懲戒の対象となる場合がある」

文言は自社の実態に合わせて調整してください。重要なのは「禁止する行為」「認める条件」「違反した場合の対応」の三点を明確にしておくことです。

休憩・私用外出に関する条項との整合性を確認する

就業規則にすでに「休憩時間の利用」や「私用外出の届出」に関する規定がある場合は、喫煙ルールをそれらと矛盾しないよう整合させる必要があります。たとえば「私用外出は上長の許可を得ること」と書いてあるのに喫煙で自由に外出できる慣行があれば、規定と実態が乖離していることになります。就業規則は「作って終わり」ではなく、実態と合っているかどうかの定期的な見直しが不可欠です。

変更・新設には「不利益変更」への配慮が必要

これまで喫煙で自由に席を外すことを会社が暗黙的に認めていた場合、新たに制限を設けることは労働条件の不利益変更に当たる可能性があります。労働契約法第10条では、就業規則の不利益変更には「合理的な理由」と「労働者への適切な説明・周知」が必要とされています。突然の一方的な制限ではなく、説明会の実施や一定の移行期間の設定などを行いながら段階的に導入することをお勧めします。

非喫煙者との不公平感をどう解消するか

職場の不公平感は放置すれば離職やモチベーション低下に直結します。喫煙者と非喫煙者のルールを「対称的に」設計することが、不満を最小化する最も有効な方法です。

「非喫煙者にも同等のリフレッシュ休憩を認める」アプローチ

「喫煙者だけ休憩が多い」という不満の核心は、「自分だけ損をしている」という感覚です。これを解消するには、喫煙者の行動を制限するだけでなく、非喫煙者にも同等の短時間休憩を認める設計が有効です。たとえば「1日に2回まで、5分程度のリフレッシュ休憩(席外し)を全員に認める」というルールを設ければ、喫煙・非喫煙を問わず平等に扱えます。この場合、その短時間休憩を「労働時間外」として扱うかどうかも含めてルールを明確にしておく必要があります。

喫煙休憩分を労働時間に算入する代わりに業務延長する方法

一部の企業では、喫煙休憩の時間を記録して、その分を業務終了時間に加算する制度を設けています。たとえば喫煙で20分離席した日は20分遅く退社するという仕組みです。公平性の観点からは理解しやすいですが、運用の透明性と全員への丁寧な説明が不可欠です。管理の手間が増えること、喫煙者が心理的に「監視されている」と感じるリスクもあるため、導入前に社内でよく話し合うことをお勧めします。

ルールを「制限」ではなく「公平な基準」として伝える

社員への周知の仕方も重要です。「喫煙を禁止する」というトーンではなく、「全員が公平に休憩を取れる仕組みを整える」という文脈で伝えることで、喫煙者・非喫煙者双方の納得感が高まります。口頭だけの説明では「聞いていない」「そんな話は知らない」というトラブルのもとになりますので、必ず文書(書面または社内イントラ等)で全員に周知するようにしてください。

自社の状況に応じた対応の優先順位

対応の優先順位は、自社の現状によって異なります。以下の表を参考に、まず自分の会社がどのフェーズにあるかを確認してください。

自社の状況 優先して取り組むこと
就業規則に喫煙の規定がまったくない 服務規律条項への喫煙ルールの追記・届出
口頭では禁止を伝えているが文書化していない 就業規則への明文化と全社周知
非喫煙者から不満の声が出ている 全員への平等な休憩ルール設計と説明会の実施
繰り返す違反者への対応に困っている 就業規則の懲戒規定との連動確認・個別指導の記録
屋内喫煙場所の法令適合性が不明 健康増進法に基づく喫煙室の設置要件の確認

なお、常時10人以上50人未満の事業場では産業医の選任が義務ではありませんが、50人以上になると産業医の選任が必要になります(労働安全衛生法第13条)。産業医が選任されている場合は、受動喫煙防止や健康管理の観点からも意見を求めることができます。産業医がいない規模の企業では、外部の社労士や専門家に相談しながら整備を進めることをお勧めします。

まとめ

勤務中の喫煙時間は、喫煙が自発的な席外しである場合、原則として労働時間には含まれません。ただし、会社が長年黙認してきた慣行がある場合は注意が必要です。喫煙休憩の扱いを明確にするには、就業規則への明記・全社への周知・非喫煙者も含めた公平なルール設計の三つがセットで必要です。

「就業規則をどう変えればいいかわからない」「非喫煙者からの不満にどう対処すればいいか」とお悩みの場合、ウェルセンス株式会社では人事・労務ルールの整備から社員への周知サポートまで、中小企業の実態に合わせた相談対応を行っています。複雑な労務管理の問題だからこそ、専門家の視点を交えて一緒に考えることをお勧めします。ぜひお気軽にご相談ください。

よくある質問

Q. 喫煙休憩を「無給」にするだけで、法的に問題はありませんか?

A. 就業規則に明記し、全社員に周知したうえで行うなら違法とはなりません。ただし、これまで会社が暗黙的に喫煙休憩を認めてきた慣行がある場合は、突然の無給化が労働条件の不利益変更とみなされる可能性があります。変更する際は、合理的な理由の説明と一定の移行期間の設定が重要です。

Q. 就業規則に喫煙の規定を追加するだけで、社員に守ってもらえますか?

A. 就業規則の整備は必要条件ですが、それだけでは不十分です。全社員への書面や社内システムを通じた周知、および管理職層への運用方法の説明が伴わなければ、「知らなかった」というトラブルが起きます。規則の変更・追加時は必ず全員への周知プロセスを設けてください。

Q. 屋外の喫煙場所なら、健康増進法の制限を受けませんか?

A. 改正健康増進法が規制するのは主に「屋内」での喫煙です。屋外での喫煙は原則として規制対象外ですが、屋外であっても他の従業員が受動喫煙にさらされる場所(出入口付近など)への配慮は必要です。喫煙場所の設置にあたっては、受動喫煙が生じない場所の選定と、その利用に関する社内ルールを合わせて整備することをお勧めします。

Q. 喫煙を繰り返す社員を懲戒処分にすることはできますか?

A. 就業規則に「休憩時間以外の喫煙禁止」や「違反した場合の懲戒規定」が明記されており、その内容が社員に周知されていれば、注意・指導を経たうえで懲戒処分の根拠とすることは可能です。ただし懲戒処分は、違反の程度・頻度・指導の経緯などを踏まえて段階的に行う必要があります。就業規則の整備なしに突然の懲戒処分を行うことは、不当処分として争われるリスクがあります。

Q. 喫煙者の採用を禁止することは法的に許されますか?

A. 日本の現行法上、喫煙者であることを理由に採用を拒否することを直接禁止する法律は存在しません。一部の企業では「採用条件として非喫煙者であること」を明示しているケースもあります。ただし、就業時間外の喫煙を含めて全面禁止することは、私生活上の自由に踏み込む可能性があるため慎重な検討が必要です。導入を検討する場合は専門家への相談をお勧めします。

【監修】ウェルセンス株式会社
ウェルセンスは、メンタル不調者対応・休職復職支援に強い職場メンタルケアサービスです。産業医・保健師・心理士・社労士などの専門家ネットワークが、人事・管理職だけでは判断しづらいケースの初動対応、専門家連携、再発防止まで支援します。

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