「復職面談に弁護士を同席させてほしい」——休職中の従業員からそう告げられたとき、多くの経営者・人事担当者は言葉に詰まります。法的なトラブルを予感させるその一言に、どう返せばいいのか、断っていいのか、断ったら何か問題になるのか。専任の法務担当もいない中小企業にとって、これは「前例のない事態」に映るはずです。この記事では、弁護士同席要求の法的な位置づけから、受け入れる場合・断る場合それぞれの実務的な対応手順まで、人事の専門知識がなくても判断できるよう整理しました。
弁護士同席を断ることは違法ではない——ただし「断り方」が問題になる
結論から言えば、復職面談への弁護士同席を会社が断ること自体は、法律上の違反ではありません。ただし、断り方や状況によっては会社側が不利な立場に置かれるリスクがあります。
法律上の根拠はどこにある?
復職面談は、労働契約に基づく職場復帰支援の手続きです。厚生労働省のガイドライン「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」でも、その目的は「主治医・産業医の意見をもとに、職場復帰の可否と支援計画を確認すること」とされています。これは医療的・業務的な確認の場であり、労働組合法第7条に定める「団体交渉」とは性質が異なります。団体交渉であれば会社は拒否できませんが、復職面談にはそのような義務規定がありません。就業規則や労働協約に弁護士同席を認める条項がない限り、会社が同席を断ることは法的に許容されます。
断ることで生じ得るリスク
法的に断れるとしても、リスクがゼロではありません。特に注意すべきは次の3点です。まず、断られた従業員が面談自体を拒否した場合、復職判断が宙に浮き、休職期間が延長されるという業務上のリスクがあります。次に、その後に訴訟や労働審判に発展した際、「会社が弁護士を排除した=不透明な手続きを行った」と主張される材料にされる可能性があります。さらに、昨今の労働審判・あっせん申立て件数の増加傾向を踏まえると、対話への非協力的な姿勢が会社の不誠実さとして評価されるリスクも無視できません。
「断る=やましいことがある」という誤解を防ぐには
断る際は理由を明確に文書で伝えることが重要です。「本面談は職場復帰支援を目的とした医療的・業務的な確認の場であり、法的交渉の場ではないため、弁護士の同席は想定していません」といった形で、目的に基づく理由を添えましょう。感情的な拒絶や口頭だけのやり取りは避け、メールや書面で記録を残すことが、後のトラブル防止につながります。
「弁護士が来る=訴訟準備」とは限らない——まず背景を確認する
弁護士同席の要求を受けたとき、多くの会社は「もう交渉フェーズに入った」と身構えます。しかし、実際にはそうでないケースも少なくありません。過剰に防衛的になる前に、要求の背景を冷静に把握することが最初のステップです。
同席を求める主な背景パターン
従業員が弁護士同席を希望する背景は、大きく3つに分類できます。ひとつ目は「本人が不安で、専門家に付き添ってもらいたい」という心理的サポートのケースです。メンタルヘルス不調による休職者は、会社との面談そのものにストレスを感じやすく、弁護士を「相談窓口兼付き添い人」として連れてくるケースがあります。ふたつ目は、「弁護士に相談したところ、同席を勧められた」というケースで、本人の意思というより弁護士側の判断による場合もあります。みっつ目は、「会社との間に具体的な紛争の種(解雇・降格・ハラスメント等)があり、復職面談をその交渉の場として位置づけている」ケースで、このパターンは特に慎重な対応が必要です。
最初にすべき確認事項
同席要求を受けたら、まず「面談の目的と議題について、事前に書面で確認させてください」と伝え、相手が面談に何を期待しているかを明らかにします。同時に、弁護士の立場が「同席してアドバイスをする」なのか「代理人として交渉する」なのかを確認することも重要です。代理人として交渉を求められる場合は、復職面談の枠を超えており、別途法的手続きの対応が必要になります。
復職面談が法的交渉に変わってしまわないよう、事前の「確認」が人事対応を大きく左右します。判断に迷う場合は、早めに専門家に相談しましょう。
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受け入れる場合の対応——対等性と記録が命綱になる
弁護士同席を受け入れる選択をした場合、会社側も同等の専門家を同席させ、面談の目的と記録方法を事前に明確化することが不可欠です。対等でない状態で臨むと、面談の場が一方的な情報取得の場になってしまいます。
会社側の同席者を整える
相手に弁護士がいる面談に、会社側が経営者一人で臨むことは避けてください。理想的な同席者の構成は以下の通りです。
| 役割 | 推奨する同席者 |
|---|---|
| 意思決定者 | 経営者または人事責任者 |
| 法的・手続き面のサポート | 顧問社労士または顧問弁護士 |
| 医学的判断の補足資料 | 産業医の意見書・主治医の診断書 |
| 記録担当 | 上記以外の1名(議事録作成専任) |
顧問社労士がいる場合は、まず社労士に連絡を取り、同席を依頼するところから始めましょう。顧問弁護士・顧問社労士がいない場合は、この機会に契約を検討することも一つの判断です。
面談前に書面で目的と条件を確認する
面談を受け入れる前に、相手方に対して文書(メールでも可)で以下の項目を確認・合意しておきます。
- 面談の目的(職場復帰支援の確認であること)
- 議題の範囲(法的交渉は含まない旨)
- 録音・録画の可否(双方合意の上で行う場合はその旨を明記)
- 出席者氏名と役割
- 面談の時間設定
これらを事前に書面で共有しておくことで、「言った・言わない」のトラブルを防ぎ、後日の証拠ともなります。
面談後の記録を24時間以内に残す
面談が終わったら、できる限り当日中、遅くとも翌日中に議事録を作成します。逐語録でなくとも、確認された事項・合意内容・次のステップを箇条書きで整理し、相手方(従業員本人または弁護士)にメールで送付して「内容に相違があればご連絡ください」と添えます。返答がなくても送付の記録は残りますので、これ自体が会社側の誠実な対応の証跡になります。
断る場合の対応——理由を明文化し、代替案を提示する
弁護士同席を断る場合、感情的な拒絶や曖昧な返答は避け、目的に基づく理由と代替案をセットで提示することがポイントです。断った上で面談を前進させることが重要で、断ること自体が目的ではありません。
断る際の正当な理由と表現
以下のような表現を参考に、文書で伝えましょう。
「本面談は、主治医の診断および産業医の意見をもとに、職場復帰の可否と支援計画を確認することを目的としています。法的交渉の場ではないため、弁護士の同席は想定しておりません。ご不安な点は面談前後に文書でご確認いただけます」
この文章のポイントは、「弁護士がいるから断る」のではなく、「面談の目的と性質上、弁護士同席は適切でない」という論理で断っていることです。
代替案を提示して対話の継続を示す
断るだけで終わると、会社が対話を避けていると解釈されます。代替案として、以下のような措置を提示することで、会社としての誠実な姿勢を示せます。
- 面談前後のやり取りはすべて書面で行うこと
- 議事録を双方で確認・署名すること
- ご本人が希望される場合は信頼できる人物(家族等)の同席を検討すること
就業規則・産業医の有無による判断の分岐
会社の状況によって、対応の組み立ては変わります。産業医が選任されている場合(従業員数50名以上では義務)は、産業医の意見書を活用することで面談の医療的・業務的な位置づけが明確になり、弁護士同席の必要性を丁寧に説明しやすくなります。就業規則に復職手続きの規定がある場合は、その規定を根拠に「定められた手順に従って進める」と伝えることができます。
就業規則や産業医がいない場合(従業員数50名未満の企業では産業医選任義務なし)は、外部の社労士に相談し、手続きの枠組みを整えることから始めることをお勧めします。
「判断の根拠」がないまま対応すると、後から説明責任を問われます。就業規則の整備や社労士の活用は、会社を守る基盤となります。
面談記録の残し方——後から「言った・言わない」を防ぐ実務手順
弁護士が関わる場面では、面談の記録が後の紛争解決において決定的な役割を果たすことがあります。面談の前・中・後の3段階で記録を整備することが、会社を守る最大の防御策です。
面談前:アジェンダと出席者を書面で送る
面談の日時・場所・出席者氏名・議題・所要時間の見込みを記載した文書を、面談の少なくとも3〜5営業日前に相手方に送付します。これにより、「想定外の議題を持ち込まれた」「話が広がりすぎた」というトラブルを防ぎやすくなります。
面談中:書記役を立て、録音の可否を事前合意する
面談中は必ず書記役を1名置き、発言の要点・確認事項・決定事項を記録します。録音については、相手方が録音することも想定されますので、会社側も録音を希望する場合は事前に書面で合意を取り、「本面談は双方の合意のもと録音します」と冒頭で明示することが望ましい対応です。
面談後:議事録の作成と送付を記録する
面談終了後は24時間以内を目安に議事録を作成し、相手方にメールで送付します。議事録には「確認いただき、相違点があれば○日以内にご連絡ください」という文言を入れておくと、後で「そんな話はしていない」という主張への備えになります。送付したメールと返答の記録は、フォルダに分けて保存・バックアップしておきましょう。
まとめ
復職面談への弁護士同席要求は、それ自体が即座に「訴訟リスク」を意味するわけではありません。しかし、対応を誤れば会社が不利な立場に置かれることも事実です。断ることは法的に許容されますが、目的に基づく明文化された理由と代替案の提示が必要です。受け入れる場合は、対等な専門家の同席と、面談前後の徹底した記録整備が会社を守る鍵になります。
「専任人事も顧問弁護士もいない」という状況で一人でこれらの対応を進めることには、やはり限界があります。ウェルセンス株式会社では、復職面談の設計・記録方法・社労士との連携など、中小企業が直面する人事労務の現場課題を一緒に整理するご支援をしています。「何から手をつければいいかわからない」という段階からご相談いただけます。まずはお気軽にお声がけください。
よくある質問
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