休職申請と未払い残業代が重なったらどうすればいい?

休職申請と未払い残業代が重なったらどうすればいい? メンタルヘルス対応
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「休職の申請書を受け取った翌日、未払い残業代を請求する内容証明が届いた」——こうした事態が重なると、何から手をつければいいのか、頭が真っ白になるものです。しかも専任の人事担当者がいない環境では、誰かに相談する間もなく判断を迫られることも少なくありません。この記事では、休職申請と未払い残業代請求が同時に発生したとき、経営者・兼務人事担当者がとるべき初期対応を、法的な根拠とともに整理します。

休職対応と賃金請求は「別の問題」として切り分ける

まず最初に押さえておくべき大原則は、「休職申請への対応」と「未払い残業代請求への対応」は、法的にまったく独立した問題だということです。この2つを混同して扱うと、双方で判断を誤るリスクがあります。

休職申請の法的根拠

休職は、就業規則の休職規定に基づいて運用します。社員が医師の診断書を提出し、一定の要件を満たせば、使用者は原則として休職を認める義務があります。休職を不当に拒否した場合、労働契約法第5条が定める安全配慮義務違反として、損害賠償請求に発展する可能性があります。

未払い賃金請求の法的根拠

未払い残業代の請求は、労働基準法第24条(賃金全額払いの原則)および第37条(時間外労働に対する割増賃金の支払い義務)に基づきます。請求できる時効期間は、2020年4月以降に発生した賃金については3年(労働基準法第115条の改正による)です。それ以前の発生分は2年が適用されます。

「休職を認めると請求で不利になる」は誤解

よくある誤解として、「休職を認めたら残業代請求まで認めたことになる」という考え方があります。しかし、この2つは法的根拠がまったく異なります。休職を認めることは、就業規則に沿った対応にすぎず、過去の労働時間管理の正否とは別の話です。「休職を保留にすれば賃金請求への交渉力が高まる」と考えて対応を先送りにすると、安全配慮義務違反のリスクだけが高まる結果になります。

まず動かすべき対応と確認すべき事実

2つの問題が重なったとき、最初にやるべきことはシンプルです。「休職申請は就業規則に沿って速やかに処理し、未払い残業代請求は事実確認を優先する」という方針で動き始めることです。

休職申請への初動

診断書を受け取ったら、就業規則の休職規定を確認します。休職開始日・休職期間の上限・復職条件・休職中の給与の扱いを本人に書面で伝えましょう。口頭だけのやり取りは後のトラブルのもとになります。就業規則に休職規定がない場合(規模の小さい会社では珍しくありません)は、個別に雇用契約の内容を確認しながら対応することになりますが、その場合こそ専門家への相談を早めに検討してください。

未払い残業代請求への初動

請求を受けたら、まず以下の4点を確認します。請求が口頭か書面か(内容証明郵便かどうか)、請求期間と金額の根拠(タイムカード・シフト記録・メール等)、弁護士や労働組合が代理しているか、そして自社の労働時間記録と請求内容に差異があるか、です。この段階で「認める・認めない」を口頭で即答することは避けてください。発言が後に証拠として使われることがあります。

自社の労働時間記録を今すぐ確認する

使用者には労働時間の適正把握義務があります(厚生労働省「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」2017年)。タイムカード・PCログ・入退室記録などの客観的記録を確認し、社員の申告する労働時間との差異を把握してください。差異がある場合、その説明責任は使用者側にあります。記録がまったく残っていない場合は、早期に専門家に相談することを強くおすすめします。

記録が不完全だと判断が難しい局面こそ、人事労務の専門家に相談するべきタイミング。ウェルセンス株式会社では、休職対応と賃金請求が重なった複雑なケースのスポット相談も承っています。

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休職中の賃金・社会保険の基本を整理する

休職中のお金まわりの仕組みを正確に理解しておくことで、未払い残業代問題との混同を防ぐことができます。休職中の給与・傷病手当金・社会保険料の扱いは、それぞれ独立した制度です。

休職中の給与支払いと傷病手当金

就業規則に「休職中は無給」と定めている会社が多いですが、有給を一部支給するケースもあります。健康保険の傷病手当金は、業務外の傷病により休業し、給与が支払われない(または傷病手当金の額より少ない)場合に、標準報酬日額の3分の2が支給されます。なお、未払い残業代の支払いは傷病手当金の受給要件とは直接連動しませんが、すでに支給されている給与額との調整が生じる可能性がある点は念頭に置いてください。

社会保険料の会社負担分

休職中も雇用関係は継続しているため、健康保険・厚生年金の社会保険料の支払い義務は続きます。会社負担分は会社が引き続き負担し、本人負担分については休職中に給与が発生しない場合、翌月以降の給与からまとめて控除するか、本人に直接納付してもらう形をとるのが一般的です。この点も事前に書面で本人に伝えておく必要があります。

未払い残業代と休職中給与は別勘定で管理する

休職開始後も、過去に発生した未払い残業代の請求権は時効まで有効です。「休職に入ったから請求は止まる」ということはありません。休職期間中の給与計算(無給または有給)と、過去の未払い残業代の精算は、まったく別の計算・別の手続きとして管理することが必要です。

安全配慮義務違反に発展するリスクを見極める

未払い残業代請求が「賃金の問題」だけで終わらないケースがあります。長時間労働がメンタル不調の原因となっていた場合、安全配慮義務違反として損害賠償請求に発展するリスクがあるため、早期に事実関係を整理することが重要です。

賃金請求が損害賠償請求に発展する条件

未払い残業代が発生していた期間に、社員が月80時間を超える時間外労働をしていた、または恒常的な深夜・休日労働があったケースでは、それがメンタル不調の業務起因性として主張される可能性があります。労働契約法第5条(安全配慮義務)および民法第709条(不法行為)を根拠とした損害賠償請求に発展した場合、支払い額は未払い残業代だけにとどまりません。

自社のリスクレベルを判断する目安

状況 リスクレベル 推奨対応
残業は月20〜30時間程度・記録あり 低〜中 記録を整理し、書面で事実確認を進める
残業は月45〜60時間・記録が不完全 中〜高 社労士への相談を優先する
月80時間超・記録なし・メンタル不調と関連あり 弁護士・社労士への相談を即時検討する

産業医・就業規則の有無でとれる対応が変わる

産業医が選任されている(常時50名以上の事業場が対象)場合は、休職の判断にあたって産業医の意見を記録に残すことが、安全配慮義務を果たしていた証拠になります。一方、50名未満で産業医が義務付けられていない事業場では、主治医の診断書を基に就業規則に沿って判断を記録することが代替策になります。就業規則自体がない、または休職規定がない場合は、個別対応の記録をより丁寧に残すことが不可欠です。

記録・文書化が後の紛争を防ぐ

休職申請と未払い残業代請求が重なった場面では、その後の労働審判や労働基準監督署の調査に備えた「記録の整備」が最大の自衛手段になります。「言った・言わない」のトラブルを防ぐために、すべてのやり取りを文書化することを習慣にしてください。

今すぐ保存・作成すべき記録

  • 社員から受け取った診断書のコピーと受領日の記録
  • 休職開始通知書(休職期間・無給/有給の別・復職条件を明記)
  • 未払い残業代請求書のコピー(内容証明の場合は封筒ごと保管)
  • 当該社員の過去のタイムカード・勤怠記録(電子データを含む)
  • 業務指示メール・チャット履歴(業務量・残業の実態がわかるもの)
  • 会社として行った対応の記録(日時・内容・対応者名)

口頭対応を避けるべき理由

弁護士や労働組合が代理人として関与している場合、口頭でのやり取りは相手側に記録される可能性があります。その場で「払う・払わない」「認める・認めない」を言明することは避け、「書面にて回答します」と伝えて場を収めることが適切です。その後の回答は、社労士や弁護士に内容を確認してから送付することを強くおすすめします。

複数の問題を一人で判断しようとすると、ミスが生まれやすいもの。記録を整理した段階で、早めに人事労務の専門家に相談することで、後々のリスクを大きく減らせます。

まとめ

休職申請と未払い残業代請求が重なったとき、最も大切なのは「2つの問題を混同しない」ことです。休職は就業規則に沿って速やかに対応し、未払い残業代請求は事実確認と記録整備を優先しながら慎重に進める——この方針を守ることで、問題が不必要に拡大するリスクを抑えることができます。

一方で、長時間労働とメンタル不調が重なるケースでは、安全配慮義務違反への発展リスクも視野に入れた対応が必要になります。「まずは自分で対応してみよう」と動き始めることは大切ですが、記録が不完全な場合や残業時間が月60時間を超えているケースでは、社労士や弁護士への早期相談が結果的にコストを抑える選択肢になります。

ウェルセンス株式会社では、専任人事のいない中小企業の経営者・人事担当者が直面するこうした複合的な問題に対して、メンタルヘルス対応・休職復職支援・人事労務の観点からサポートしています。「何から手をつければいいかわからない」という段階からのご相談も歓迎しています。まずはお気軽にお問い合わせください。

よくある質問

Q. 休職を認めることで、未払い残業代の支払い義務を認めたことになりますか?

A. なりません。休職の承認は就業規則に基づく手続きであり、過去の労働時間管理の正否とは法的に無関係です。「休職を認めると不利になる」という誤解から休職対応を先送りにすると、安全配慮義務違反のリスクだけが高まるため、休職申請は独立した問題として速やかに処理してください。

Q. 未払い残業代の請求には、どのくらいの期間さかのぼって対応が必要ですか?

A. 2020年4月以降に発生した賃金については、時効が3年に延長されています(労働基準法第115条の改正による)。それ以前の発生分については2年が適用されます。請求書に記載された期間と金額の根拠を確認し、自社の勤怠記録と照合することが最初の作業になります。

Q. 就業規則に休職規定がない場合、どのように対応すればよいですか?

A. 就業規則に休職規定がない場合、個別の雇用契約の内容を確認しながら対応することになります。ただし、休職対応の根拠が明確でないまま進めると、後から「休職扱いではなかった」「自己都合退職を強要された」などのトラブルになるリスクがあります。この場合は特に、社労士や弁護士への早期相談をおすすめします。

Q. 弁護士からの請求があった場合、すぐに支払わなければなりませんか?

A. 弁護士からの請求書を受け取っても、その場で即時支払いが義務付けられるわけではありません。請求内容が正確かどうか(期間・金額の根拠)を自社の記録と照合し、事実確認を経た上で対応方針を決めることが適切です。ただし、回答を長期間放置すると労働審判・訴訟に進む可能性が高まるため、受け取り後は速やかに専門家に相談し、期限内に書面で回答する姿勢をとることが重要です。

Q. 休職中の社員への連絡は、どの程度とっていいですか?

A. 休職中の社員への連絡は、業務に関する指示や報告を求めることは原則として避けるべきです。定期的な健康状態の確認(月に1回程度の書面やメールでの確認)は問題ありませんが、頻繁な連絡は「休養を妨げた」として安全配慮義務違反に問われる可能性があります。連絡の頻度・方法・内容は事前に書面で取り決め、記録に残しておくことをおすすめします。

【監修】ウェルセンス株式会社
ウェルセンスは、メンタル不調者対応・休職復職支援に強い職場メンタルケアサービスです。産業医・保健師・心理士・社労士などの専門家ネットワークが、人事・管理職だけでは判断しづらいケースの初動対応、専門家連携、再発防止まで支援します。

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