メンタル不調と労働審判が同時に来た時の初動の進め方

メンタルヘルス対応

月曜の朝、デスクに2通の書類が届いていた。1通は社員からの休職申請書、もう1通は裁判所からの労働審判申立書。「どっちを先に動けばいい?」——頭が真っ白になる状況です。専任の人事担当者もおらず、弁護士へのコネもない中で、両方を同時に対応しなければならないプレッシャーは相当なものです。この記事では、そんな「メンタル不調と労働審判が同時に来た」という緊急事態で、最初の72時間に何をすべきかを、法的な根拠と実務の順序に沿って整理します。

「休職対応」と「法的対応」は別レーンで動かす

結論から言えば、休職への対応と労働審判への対応は、完全に別々のルートで進めるものです。この二つを「同じ問題」として一緒に扱おうとすることが、初動の最大の失敗パターンです。

二つのレーンを混同するとどうなるか

「審判を申し立てられているから、休職を認めると不利になるのでは」と考えて休職対応を止める経営者は少なくありません。しかし、この判断は法的に見て誤りです。労働審判が係属中であっても、会社は社員に対して安全配慮義務(労働契約法第5条)を負い続けます。休職対応を遅らせたり放置したりした結果、社員の精神状態が悪化すれば、それが新たな損害賠償請求の根拠になりかねません。一つの問題を処理しようとして、別の問題を生み出すことになります。

それぞれの担当と役割を明確に分ける

混乱を防ぐために、まず「誰が何を担当するか」を明示的に分けましょう。

レーン 主な担当 主な行動
休職対応レーン 経営者・人事・社労士 休職開始の確認・傷病手当金の案内・休職中のルール整理・社内連絡の管理
法的対応レーン 代理人弁護士 答弁書の作成・証拠収集・期日対応・裁判所との手続き

この分担を決めることが「初動の第一手」です。どちらか一方に引きずられて、もう一方が止まるのが最も危険な状態です。

最初の72時間にやるべきこと

労働審判の通知を受け取ってから最初の72時間(約3日)は、後の対応の質を大きく左右します。この時間内に「法的対応の窓口」を確保することが最優先です。

弁護士への連絡を最初に動かす理由

労働審判法第15条第1項により、申し立てから第1回期日まで原則40日以内とされています。そして答弁書の提出期限は、多くの場合、第1回期日の1〜2週間前に裁判所から指定されます。通知を受け取った時点ですでにカウントダウンは始まっています。答弁書の内容は審判の流れに直結するため、弁護士が事実整理・証拠収集・書面作成に使える時間を確保するには、経営者が72時間以内に弁護士に連絡することが必要です。

顧問弁護士がいない場合は、労働問題を扱う弁護士事務所への問い合わせを最初の一手にしてください。社労士から紹介を受けられるケースも多いです。

社労士には休職対応レーンを依頼する

弁護士に連絡した後、または並行して、社労士への連絡を行います。社労士の役割は休職対応レーンに集中させます。具体的には、就業規則の休職条項の確認、傷病手当金の申請手続きの案内、休職期間中の給与・社会保険の取り扱い整理などです。弁護士と社労士がそれぞれの専門領域で動ける状態を作ることが、経営者・人事担当者の「パンク」を防ぐ仕組みになります。

記録と証拠の保全を忘れない

72時間以内にもう一つやるべきことが、証拠の保全です。労働審判では、労働条件通知書、タイムカードや勤怠管理の記録、業務指示のメールやチャット、面談記録などが証拠として使われます。中小企業ではこれらが散在していることが多く、弁護士が必要だと言ったときにすぐ出せない状況になりがちです。通知を受け取ったタイミングで、関連しそうな記録を一か所に集める作業を始めてください。削除・改ざんはもちろん厳禁ですが、「まだある」と思っていたデータが上書きされていた、というケースも実際にあります。

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休職申請の処理は就業規則の手順通りに進める

労働審判の申し立てがある場合でも、休職申請の処理は就業規則に定めた手続きをそのまま適用することが原則です。「審判があるから例外扱いにする」という判断が、後の紛争リスクを高めます。

休職申請と休職命令の違いを整理する

休職には2種類のパターンがあります。社員が自ら申請する「休職申請」と、会社が業務上の安全配慮や就業不能を根拠に発令する「休職命令」です。今回のようにメンタル不調が背景にある場合、社員側から申請が出るケースが多いですが、申請の有無にかかわらず、「明らかに就業が困難な状態であれば会社から休職を促す」選択肢も検討が必要です。いずれの場合も、就業規則に定めた条件・手順に従うことが、恣意的な運用という批判を防ぎます。

「休職承認=会社の非を認めた」は法的に誤り

この誤解は非常に多く見られます。休職の承認は就業規則に基づく人事上の手続きであり、労働審判の請求原因(ハラスメント・賃金未払い・不当解雇など)とは法的に独立した事柄です。休職を認めることが、申し立てられた請求を認めることにはなりません。この点は弁護士にも確認した上で、休職対応を止める理由にしないようにしてください。

傷病手当金の案内を書面で行う

休職に入る社員には、健康保険の傷病手当金(健康保険法第99条)の受給権があります。この案内を会社が書面で行い、その記録を保存しておくことが重要です。案内を怠ると、後に「会社が情報を意図的に隠した」という主張に使われる可能性があります。社労士と連携して、書面での案内と受領確認の記録を残しましょう。

社内の情報管理方針を早期に決める

「誰が、何を、どこまで知っていいか」を明確に決めないまま対応が進むと、社内の混乱・不安・離職につながります。初動の段階で情報管理の方針を固めてください。

知っていい人を明示的に限定する

当該社員のメンタル不調と労働審判の申し立てという情報は、原則として「直属の上長」「経営者」「人事担当者」の3者程度に限定するのが現実的です。他の社員には、「本人の了解を得た上で、長期の療養休暇を取得する」程度の表現にとどめます。詳細を伝えることは、プライバシー上の問題だけでなく、審判への影響(証人的な立場の社員への接触とみなされるリスク)も生じます。

現場マネジャーへの説明は「業務の穴埋め」に絞る

直属の上長や現場マネジャーには、業務を回すために必要な情報のみを伝えます。「○○さんがしばらく不在になる。業務の引き継ぎを〇〇に頼んでほしい」という内容で十分です。法的手続きの詳細は伝える必要はなく、伝えるべきでもありません。この方針を決めていないと、善意から情報共有が広がり、後でコントロールできなくなります。

企業規模・社内体制による対応の違い

同じ「休職申請+労働審判」の同時発生でも、社内体制によって動き方は変わります。自社の状況に合わせて判断してください。

就業規則が整備されているかどうかで動きが変わる

就業規則に休職条項が明確に定められている場合は、その手続き通りに進めることができます。一方、就業規則が未整備または10人未満の企業で作成義務がない場合は、対応の根拠が曖昧になりやすいです。この場合は社労士と協議しながら、書面での合意(覚書など)を使って個別に処理することになります。いずれにせよ「口頭だけで進める」ことは避けてください。

産業医の有無で初動の対応範囲が変わる

常時50人以上の事業場では産業医の選任が義務(労働安全衛生法第13条)ですが、20〜50名規模の企業では選任していないケースも多いです。産業医がいる場合は、休職の判断に産業医の意見を取り入れることで、その後の対応の正当性が高まります。産業医がいない場合は、主治医の診断書を基本とし、社労士と相談しながら就業規則の条件に照らして判断してください。外部の産業医サービスを活用する選択肢もあり、スポット相談という形で必要な時期だけ専門家のサポートを受けることも現実的です。

弁護士・社労士どちらとも未契約の場合

顧問契約がない場合、初動で「誰に電話すべきか」がわからず時間を失いがちです。この場合、まず社労士に連絡して「労働審判の申し立てが来た。弁護士の紹介も含めて相談したい」と伝えることが現実的な一手です。社労士から労働問題に詳しい弁護士を紹介してもらえることも多く、二つの対応ルートを同時に確保するための入口になります。

まとめ

メンタル不調社員の休職申請と労働審判の申し立てが重なったとき、最も重要な初動の判断は「二つを別レーンで動かす」という割り切りです。まず72時間以内に弁護士へ連絡して法的対応の窓口を確保し、並行して社労士と連携しながら就業規則に沿った休職手続きを止めずに進める。休職を認めることが審判上の不利にはならないという事実を理解した上で、安全配慮義務を果たし続けることが大切です。また、社内の情報管理方針を早期に固め、知るべき人だけに最低限の情報を伝える体制を作ることも、二次的なリスクを防ぐために欠かせません。

しかし現実には「人事だけで両方を抱えている」「専門家に相談したくても、どこから手をつけたらいいかわからない」という経営者・兼務人事担当者が多くいます。そういう時こそ、外部の専門家をうまく活用することが、後の対応を左右します。ウェルセンス株式会社では、休職・復職支援と人事労務対応の両面から、初動の整理と専門家への橋渡しをお手伝いします。問い合わせだけでも構いません。一人で抱え込む前に、まず状況を聞かせてみてください。

よくある質問

Q. 休職を認めると、労働審判で「会社が非を認めた」とみなされますか?

A. みなされません。休職承認は就業規則に基づく人事上の手続きであり、労働審判の請求原因(ハラスメント・賃金未払い等)とは法的に独立しています。むしろ休職対応を止めることで安全配慮義務違反のリスクが生じます。弁護士にも確認した上で、休職対応を止める理由にしないでください。

Q. 労働審判の通知が来てから、弁護士に連絡するまでどのくらいの時間的余裕がありますか?

A. 余裕はほとんどありません。労働審判法第15条により、申し立てから第1回期日まで原則40日以内です。答弁書の提出期限は第1回期日の1〜2週間前に指定されることが多く、通知を受け取ってから72時間以内に弁護士に連絡しないと、書面作成に十分な時間を確保できなくなる場合があります。

Q. 顧問弁護士も顧問社労士もいない場合、最初に誰に連絡すればいいですか?

A. まず社労士に相談するのが現実的な入口です。「労働審判の通知が来た。弁護士の紹介も含めて相談したい」と伝えることで、労働問題を扱う弁護士の紹介を受けられるケースが多いです。二つの対応ルートを同時に確保するための入口として機能します。ウェルセンス株式会社にご連絡いただければ、状況の整理と専門家へのつなぎをサポートします。

Q. 当該社員の状況を、他の社員にどこまで伝えていいですか?

A. 一般の社員には「長期の療養休暇を取得する」程度の表現にとどめるのが原則です。メンタル不調の詳細や法的手続きの有無は、直属の上長・経営者・人事担当者の範囲に限定してください。情報が広がると、プライバシー上の問題だけでなく、審判において証人的な立場の社員への接触とみなされるリスクも生じます。

Q. 傷病手当金の案内を会社がしなかった場合、どんなリスクがありますか?

A. 休職中の社員には健康保険法第99条に基づく傷病手当金の受給権があります。会社が案内を怠った場合、後に「会社が意図的に情報を隠した」という主張に使われる可能性があります。書面で案内し、その記録(送付メールの控え・受領確認書等)を保存しておくことが重要です。社労士と連携して対応することをお勧めします。

【監修】ウェルセンス株式会社
ウェルセンスは、メンタル不調者対応・休職復職支援に強い職場メンタルケアサービスです。産業医・保健師・心理士・社労士などの専門家ネットワークが、人事・管理職だけでは判断しづらいケースの初動対応、専門家連携、再発防止まで支援します。

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