社員が副業で法人設立。発覚後の3ステップ対応と処分の判断基準

採用・定着

「副業禁止と就業規則に書いてあるのに、うちの社員が会社を作っていた——どう対応すればいいのか」。ある日突然そんな事実が発覚したとき、頭の中は「今すぐ解雇できるか」「訴えられないか」「何から手をつければいいか」という問いで埋まるはずです。焦って動くと後で処分が無効になるリスクがある一方、放置すれば社内秩序が崩れます。この記事では、発覚直後にやるべき3つの対応ステップと、処分の重さを決める判断基準を実務目線で整理します。

「副業禁止」の就業規則は本当に有効か

結論から言うと、副業禁止規定は「一律に全従業員へ適用できる万能ルール」ではありません。有効に機能する場面は、競業・秘密漏洩・業務支障など具体的な実害リスクがある場合に限られます。

厚生労働省ガイドラインが変えた常識

2018年に厚生労働省が策定・改定した「副業・兼業の促進に関するガイドライン」は、副業・兼業を「原則禁止から原則容認へ」という方向性を示しました。これを受けて裁判例の傾向も変化しており、就業規則に「副業禁止」と書いてあるだけでは、違反を理由にした懲戒処分が有効と認められない可能性があります。社員から「今どき副業禁止は無効では」と反論されたとき、反論できる根拠を持っておくことが重要です。

禁止・制限が認められる4つのケース

ガイドラインおよびこれまでの裁判例を踏まえると、副業・兼業の禁止や制限が正当と認められやすい場面は次の4つに整理できます。

  • 競業避止義務に抵触する(自社と競合する事業を行っている)
  • 業務に支障をきたしている(疲弊・遅刻・ミスの多発など)
  • 会社の名誉・信用を傷つけている
  • 秘密保持義務に違反している(顧客情報・技術情報の流用など)

逆に言えば、これらに当てはまらない副業を理由に懲戒処分を下すと、労働契約法第15条(懲戒権濫用法理)により処分が無効とされるリスクがあります。自社の就業規則がどの根拠に基づいて副業を禁止しているのかを改めて確認してください。

「副業」と「法人設立」は別問題として扱う

個人で単発の副業をするケースと、法人(合同会社・株式会社等)を設立するケースは、規制の重みが異なります。法人設立は継続的な事業意図の表れであり、取締役に就任することで善管注意義務が発生するなど、社員としての誠実義務との緊張関係が生まれます。また、法人設立は法務局の登記簿謄本(登記事項証明書)に代表者・役員名が公開情報として記録されるため、会社側が事実を把握しやすいという特徴もあります。「副業」よりも「法人設立」の方が問題の深刻度が高いことを念頭に置いて対応を検討しましょう。

競業にあたるかどうかの判断基準

在職中の競業避止義務は、明文規定がなくても労働契約上の誠実義務(付随義務)として一定程度認められます。ただし、「競業」かどうかの判断は個別事情に依存するため、社内で評価軸を持つことが重要です。

競業リスクを評価する4つの軸

実務上、以下の4軸で競業性・利益相反リスクを評価することをお勧めします。

評価軸 高リスク 低リスク
業種・サービスの重複 同一または類似サービスを提供 全く異なる業種
顧客・取引先の重複 自社顧客へのアプローチが疑われる 顧客層に接点なし
情報へのアクセス権限 営業秘密・顧客DB閲覧可能 機密情報へのアクセスなし
役職・職務 経営幹部・営業担当・開発責任者 定型業務担当・一般スタッフ

グレーゾーンをどう扱うか

「業種は近いが顧客層は違う」「社員は一般職だが情報にはアクセスできる」といったグレーゾーンは少なくありません。このような場合、感情的に「競合だ」と断定して処分に進むと、後に不当解雇として争われるリスクがあります。グレーゾーンと判断した場合は、まず本人への事実確認ヒアリングを通じて実態を把握し、社労士や弁護士に評価を依頼するのが安全です。確証のない段階での懲戒処分は避けてください。

発覚後の3ステップ対応

発覚後にやるべきことは「事実確認→リスク評価→処分検討」の順番です。この順序を守ることが、後で処分を無効とされないための最低条件になります。

事実確認とヒアリング

まず最初に行うのは、本人への事実確認ヒアリングです。登記簿謄本で代表者名を確認できたとしても、本人に弁明の機会を与えずに処分を下すことは、懲戒手続きの観点から重大な瑕疵となります。労働契約法第15条が定める「社会通念上の相当性」には、適正な手続きの履践が含まれると解されています。ヒアリングは口頭だけで済ませず、日時・場所・発言内容・本人のサインを記録した書面を残してください。「何をしているのか」「いつから始めたか」「自社との関係はあるか」を具体的に確認します。

リスク評価と社労士・弁護士への相談タイミング

次に、ヒアリング結果をもとに競業性・利益相反・業務支障の3点からリスクを評価します。この段階で社労士または弁護士に相談することを強くお勧めします。特に、競業の疑いがある場合や経営幹部が関係している場合は、法的判断なしに処分の重さを決めるべきではありません。相談に持ち込む際は、就業規則の副業関連条文・ヒアリング記録・登記簿謄本の写しをセットで準備しておくとスムーズです。

処分の選択と相当性の確保

リスク評価が終わったら、処分の重さを選択します。懲戒処分には段階があり、軽い順に「注意・戒告」「減給」「出勤停止」「諭旨退職」「懲戒解雇」となります。初回発覚で即座に懲戒解雇を選択すると、「処分の相当性を欠く」として無効と判断される可能性が高くなります。競業性がある場合でも、まず書面による厳重注意・副業の停止命令を行い、それに従わない場合に段階的に重い処分へ移行するのが実務上の標準的なアプローチです。処分を行う際は必ず書面を交付し、本人の受領確認を記録に残してください。

就業規則の副業規定をどう整備するか

今回の発覚を機に就業規則を見直すことは有効ですが、「発覚後に急いで改訂しても今回の処分には使えない」という点を理解した上で、将来に向けた整備として進めることが重要です。

許可制への切り替えが現実的な選択肢

一律禁止から「事前申請・許可制」への移行は、時代の潮流にも合致し、かつ会社側のコントロール権を維持できる現実的な方法です。申請書に「副業の内容・相手先・想定稼働時間」を記載させ、競業性・秘密漏洩リスク・業務支障の観点から審査する仕組みにします。許可・不許可の判断基準を規程に明記しておくことで、個別判断の恣意性を排除できます。

不利益変更と周知義務への対応

副業禁止を強化する方向での就業規則改訂は、労働契約法第10条の「不利益変更」に当たる可能性があります。変更が有効と認められるには、変更の合理性(業務上の必要性)と、社員への十分な周知が必要です。周知は労働基準法第106条の要件でもあり、単に掲示するだけでなく、説明会の実施や個別配布の記録を残すことが望ましいです。「事前申請・許可制」への変更であれば、禁止強化よりも合理性が認められやすく、社員の反発も小さくなる傾向があります。

就業規則に盛り込むべき具体的な条文の要素

副業・兼業に関する条文を整備する際は、少なくとも次の要素を含めることを検討してください。申請・許可の手続き、禁止または制限の具体的な事由(競業・業務支障・秘密漏洩・信用棄損)、違反した場合の懲戒処分の根拠条文との連動、そして法人設立・役員就任についても申請対象であることの明記です。これらが明文化されていない場合、発覚時の処分根拠が曖昧になります。改訂前に必ず社労士に条文チェックを依頼してください。

社員との対話をどう進めるか

発覚後の社員対応では、感情的な対立を避けながら事実を整理し、会社の意思を明確に伝えることが求められます。対話の質が、その後の処分の有効性にも影響します。

ヒアリングの場の設定と進め方

ヒアリングは必ず複数人(上司と人事担当など)で行い、一対一を避けます。冒頭で「事実確認のための場であり、現時点で処分を決定したわけではない」と伝えることで、社員が防御的になることを防ぎます。質問は「なぜ申告しなかったのか」「現在の状況を教えてほしい」など事実確認に絞り、「裏切り行為だ」といった感情的な言葉は避けてください。録音の可否については社内規程や弁護士の助言に従いつつ、少なくとも議事録として記録することが必須です。

副業停止を求める場合の伝え方

競業性やリスクが確認された場合は、ヒアリングの後日、書面で「副業の停止または縮小を求める」旨を通知します。口頭だけで済ませると「そんな話はなかった」と後で争われる可能性があります。書面には、問題点(競業性・業務支障等の具体的な事実)、会社としての要求(停止期限・報告方法)、従わない場合の処分可能性を明記し、本人に受領サインを求めます。このプロセスを踏むことが、段階的な懲戒処分の正当性を担保します。

まとめ

社員の副業・法人設立が発覚した際の対応は、「事実確認→リスク評価→処分検討」という順序を守ることが最重要です。副業禁止規定は一律に有効ではなく、競業性・業務支障・秘密漏洩などの具体的な実害リスクがある場合に限って制限が正当化されます。発覚直後に感情的に動くと、後に懲戒処分が無効とされるリスクがあるため、ヒアリング記録の保存と社労士・弁護士への早期相談が不可欠です。また、今回の経験を機に就業規則を「事前申請・許可制」へ整備することで、次の発生を予防できます。

ウェルセンス株式会社では、専任人事がいない中小企業の経営者・兼務人事担当者が直面する、こうした突発的な労務課題への対応をサポートしています。「どこから手をつければよいかわからない」という段階からご相談いただけますので、お気軽にお問い合わせください。

よくある質問

Q. 就業規則に副業禁止と書いてあれば、すぐに懲戒解雇できますか?

A. 就業規則の記載だけでは即座に懲戒解雇は難しいケースがほとんどです。労働契約法第15条は、客観的に合理的な理由がなく社会通念上相当でない懲戒処分を無効としています。競業性・業務支障・秘密漏洩などの実害を具体的に確認し、弁明の機会を与えた上で、段階的な処分を検討してください。初回発覚での懲戒解雇は、処分の相当性を欠くと判断されるリスクがあります。

Q. 法人設立の事実はどうやって確認できますか?

A. 法務局で登記事項証明書(登記簿謄本)を取得することで、代表者・役員名を公開情報として確認できます。オンラインでの取得も可能です。ただし、これを証拠として活用する際は、取得の経緯と目的を記録に残し、プライバシーへの配慮を怠らないよう、社労士や弁護士に運用方法を確認することをお勧めします。

Q. 発覚後に就業規則を副業禁止に改訂しても、今回の処分に使えますか?

A. 発覚後に改訂した就業規則を遡及して今回の処分の根拠にすることはできません。処分の根拠は、行為が行われた時点で有効だった就業規則に基づく必要があります。ただし、改訂そのものは将来の再発防止として有効ですので、今回の対応とは切り離して整備を進めることをお勧めします。不利益変更に当たる場合は、労働契約法第10条に基づく合理性の確保と周知が必要です。

Q. 社員が「副業禁止は無効」と主張してきた場合、どう対応すればよいですか?

A. 一律禁止を盾にするのではなく、「競業性がある」「業務に支障が生じている」など具体的な制限事由を根拠に対話することが有効です。厚生労働省のガイドラインを踏まえても、競業・秘密漏洩・業務支障に該当する場合は制限が認められやすいため、その点を冷静に説明してください。感情的な対立に発展する前に、第三者(社労士・弁護士)を交えた話し合いの場を設けることも選択肢です。

Q. 専任の人事担当者がいない場合、どの専門家に相談すればよいですか?

A. 就業規則の整備・ヒアリング手続きのアドバイスは社会保険労務士(社労士)が、懲戒処分の有効性や訴訟リスクの判断は弁護士が専門領域です。まず社労士に初動対応の流れを相談し、競業性が高く法的リスクが大きいと判断された場合は弁護士と連携するのが現実的な進め方です。ウェルセンス株式会社では、こうした専門家との連携を含めた初期対応のご支援も行っています。

【監修】ウェルセンス株式会社
ウェルセンスは、メンタル不調者対応・休職復職支援に強い職場メンタルケアサービスです。産業医・保健師・心理士・社労士などの専門家ネットワークが、人事・管理職だけでは判断しづらいケースの初動対応、専門家連携、再発防止まで支援します。

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