副業先の労災で本業会社に請求が来たら

副業先の労災で本業会社に請求が来たら コンプライアンス
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「副業先で事故が起きたんですが、本業の会社にも責任があると言われています」——顧問弁護士もいない中小企業の経営者や人事担当者が、ある日突然こんな連絡を受けたとしたら、どこから手をつければいいか見当もつかないはずです。副業解禁の流れで「認めないわけにもいかない」と副業を容認してきたものの、社内規程は口頭ベース、書面は何もない、という状態の会社は少なくありません。本業会社は本当に責任を負うのか。どんなケースなら責任が生じるのか。そして今すぐ何をすべきか。この記事では、実務目線でひとつひとつ整理していきます。

本業会社は副業先の労災に責任を負わないのが原則

結論から言えば、副業先で起きた労働災害の責任は、原則として副業先(使用者)が負います。本業会社に自動的に責任が及ぶことはありません。

安全配慮義務は「雇用契約の当事者間」に生じる

労働契約法第5条は、「使用者は、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする」と定めています。この安全配慮義務は、あくまで当該雇用関係の当事者間に生じるものです。副業先と労働者の間に雇用契約があり、そこで業務上の事故が起きた場合、責任を問われるのは副業先の使用者です。本業会社はその雇用契約の外にいます。

労働安全衛生法上の責任者も副業先

労働安全衛生法第3条は、事業者が「その事業場の労働者」に対して安全衛生上の措置を講じる義務を負うと規定しています。「その事業場の労働者」という限定がある以上、本業会社が副業先の事業場における安全管理責任を問われる根拠はありません。副業先で起きた転倒事故・機械事故・作業災害などは、まず副業先の安全管理体制が問題になります。

「副業を許可した」だけでは責任は生じない

「副業を認めた=連帯して責任を負う」という認識は誤りです。副業の許可は、会社が就業規則上の制限を解除したにすぎず、副業先の業務執行に関与したことにはなりません。許可した事実だけをもって本業会社の法的責任を追及することは、原則として認められません。

例外的に本業会社の責任が問われるケース

ただし、実態によっては本業会社への責任追及が認められる余地があります。以下のケースに該当しないか、まず自社の状況を確認してください。

本業の業務指示と副業が連続していた場合

「副業先への訪問を本業の上司が指示した」「業務上の取引先で働いていた」「本業のプロジェクトの一環として副業先に送り込まれた」——こうした実態がある場合、「副業」という形式よりも「実態として本業会社の業務の延長」と評価されます。書面がなくても、業務チャット・メール・日報などに指示の痕跡が残っていれば証拠になりえます。出向・派遣に類似した形態になっていた場合も同様で、「二重の使用者」として本業会社が責任を問われる可能性があります。

本業での過重労働が副業中の事故に影響した場合

2020年9月に施行された改正労災保険法により、複数の事業所で働く「複数事業労働者」については、すべての就業先の労働時間と賃金が合算されて給付額が算定されるようになりました。これは給付面の話ですが、実務的には労基署の調査において本業会社の労働時間記録や賃金台帳の提出を求められることがあります。本業での長時間労働を放置したまま副業を許可しており、心身が著しく疲弊した状態で副業中の事故が発生した場合、本業会社の安全配慮義務違反が争点になりえます。

副業許可の条件を設けたのに管理していなかった場合

「週10時間以内」「同業他社以外」など条件を設けて副業を許可しながら、実際の就業状況を確認していなかったケースも注意が必要です。条件違反の過重副業状態を会社が把握できたはずなのに放置したと判断された場合、健康管理上の配慮義務違反として責任を問われる余地が生じます。「許可したので後は本人の責任」では済まないことがあります。

損害賠償請求に不安を感じたら、まずは事実関係を整理した上で専門家への早期相談が重要です。法的なアドバイスなしに対応すると、後の交渉を大きく不利にする可能性があります。

損害賠償請求書が届いたときの初動対応

突然、弁護士名義の損害賠償請求書が届いた場合、まず「すぐに返答しない」ことが鉄則です。慌てた回答が後の交渉を不利にします。

事実関係の整理を最優先にする

請求書が届いたら、まず社内で以下の事実を確認します。当該社員の副業を会社として把握していたか、書面・口頭どちらで許可したか、副業先の業務内容・就業時間に関して会社が関与した事実があるか、本業での労働時間管理に問題がなかったか——これらを時系列で整理します。「関係ない」と言い切れるかどうかは、事実を並べてみないとわかりません。

専門家(弁護士)への相談を早急に行う

顧問弁護士がいない場合でも、労働問題を扱う弁護士への相談は早めに行ってください。請求書には通常、回答期限が設定されています。期限を過ぎても法的に即座に不利になるわけではありませんが、相手方との印象を悪化させたり、仮差押えなどの保全措置につながるケースもあります。弁護士費用を懸念する場合でも、初回相談だけで方針が立つことも多いです。

労基署の調査への対応を想定しておく

労災が認定される過程で、労基署が本業会社へ賃金台帳・タイムカード・労働条件通知書などの資料提出を求めることがあります。改正労災保険法の施行後、複数事業労働者に関する調査では本業会社への照会が増えています。調査への対応は法律上の義務であり、拒否はできません。開示できる資料の範囲と内容を事前に整理しておくことが重要です。

副業許可に際して整備すべき社内規程と書面

事前の書面整備は、万一の紛争時に「本業会社の関与はなかった」ことを示す重要な証跡になります。口頭ベースの運用は今すぐ見直してください。

就業規則に副業規程を明記する

副業を認める場合は、就業規則に副業・兼業に関する条項を設けることが基本です。許可制か届出制かの選択、許可・不許可の基準(競業禁止・情報漏洩・本業への支障)、就業時間・業種・雇用形態の制限範囲を明記します。「特に禁止していない」という状態では、会社がどの範囲まで副業を認めていたのかが不明瞭になり、事後的に「黙示の許可があった」と解釈されるリスクもあります。

副業許可申請書と誓約書をセットで整備する

副業を希望する社員には、許可申請書(副業先の業種・業務内容・週あたりの就業時間・雇用形態を記載)を提出させ、許可する場合は誓約書とセットにします。誓約書に盛り込む主な内容は以下のとおりです。

  • 副業先の業務中の事故・トラブルについて本業会社は一切責任を負わないこと
  • 本業と副業の合計労働時間を自己管理し、申告する義務があること
  • 副業先の変更・終了は速やかに届け出ること
  • 本業への支障が生じた場合は副業許可を取り消す場合があること

これらを書面で合意しておくことで、「本業会社が副業を業務として組み込んでいた」という主張に対する反証になります。

規程整備の効果と限界を正しく理解する

書面整備は有効ですが、万能ではありません。実態として本業会社が副業先の業務に指示・関与していた場合、誓約書があっても責任を免れることはできません。また、本業での過重労働を放置したまま副業を許可し続けた事実は、誓約書の存在に関係なく安全配慮義務違反として問われます。書面の整備と並行して、労働時間管理の実務を適正に行うことが不可欠です。

本業会社が副業を「認める場合」と「認めない場合」のリスク比較

副業を認めることのリスクを懸念して全面禁止を検討している会社もあります。しかし、無条件禁止にもリスクがあります。自社の状況に合わせてバランスを取ることが重要です。

判断軸 副業を許可する場合 副業を禁止・制限する場合
法的リスク 適切な規程・誓約書があれば本業会社の責任は限定される。実態関与がある場合は別途リスクあり 原則として副業中の事故責任は生じない。ただし実態として社員が副業している場合、黙認と評価されるリスクあり
労務管理 合計労働時間の把握義務あり。申告ルールの整備が必要 禁止規定があっても実態把握が難しい。無届け副業が横行するリスク
採用・定着への影響 副業希望者の採用・定着に有利に働く場合あり 副業希望の人材に敬遠される可能性。退職の一因になりうる
規程整備コスト 就業規則改訂・申請書式・誓約書の作成が必要 禁止規定を就業規則に明記するだけで済む場合あり

従業員数が20~50名規模の会社であれば、全面禁止より「許可制+規程整備」の選択が現実的です。専任人事がいない場合でも、雛形をもとに弁護士・社労士と確認しながら整備することで、リスクを管理しながら副業を認める体制を作ることができます。

副業ポリシーの整備から実運用の相談まで、人事判断に不安を感じたら専門家のサポートを検討してください。早期対応が紛争のリスク低減につながります。

まとめ

副業先の労災について、本業会社が責任を負うのは例外的なケースに限られます。ただし、本業の業務指示との連続性・過重労働の放置・副業許可の条件管理不備など、実態によっては責任を問われる余地があります。損害賠償請求が届いた場合は、まず事実関係を整理し、早急に弁護士へ相談することが重要です。そして何より、今後のリスクを抑えるためには「許可した書面がない」「就業規則に規程がない」という状態を解消することが先決です。

ウェルセンス株式会社では、専任人事のいない中小企業の経営者・人事担当者を対象に、副業規程の整備・就業規則の見直し・労働時間管理の体制づくりを含めた人事労務の課題解決を支援しています。「いま何をすべきか判断がつかない」「規程整備のステップが分からない」という場合は、まずお気軽にご相談ください。現状のヒアリングから最初の一歩をご提案させていただきます。

よくある質問

Q. 副業を口頭で認めていたのですが、書面がない場合でも本業会社は守られますか?

A. 口頭での許可であっても、副業先の業務に本業会社が指示・関与していなければ、原則として責任は及びません。ただし、書面がない状態では「どのような条件で許可したか」「本業との関与の有無」を証明する手段がなく、紛争時に不利になるリスクがあります。今後のためにも副業許可申請書と誓約書を整備することを強くお勧めします。

Q. 副業先での事故で労基署が本業会社に調査に来ることはありますか?

A. あります。2020年9月施行の改正労災保険法により、複数事業労働者の給付基礎日額はすべての就業先の賃金を合算して算定されます。そのため、労基署が本業会社に賃金台帳・労働時間記録などの提出を求めることがあります。調査への協力は法律上の義務です。この機会に本業の労働時間管理が適正かどうかも確認しておくことが重要です。

Q. 副業を全面禁止にしていれば、今回のようなリスクは完全に回避できますか?

A. 全面禁止にしている場合、副業中の事故責任は原則として生じません。ただし、禁止規定があっても社員が無届けで副業をしているケースは少なくありません。会社が実態を把握していながら黙認していた場合、「事実上の許可あり」と評価されるリスクがあります。また、就業規則に副業禁止規定を明確に設けていない場合は、禁止の根拠自体が曖昧になります。

Q. 副業先から「本業の技術を使って事故が起きた」と主張された場合、責任はありますか?

A. 「本業で習得した技術を使って副業中に事故が起きた」という事実だけでは、本業会社の責任は生じません。本業で習得した技術はあくまで本人の能力であり、副業先での使用について本業会社が指示・関与したわけではないからです。ただし、本業会社が副業先での具体的な作業方法を指示していた、または副業先への業務を本業として命じていた実態があれば話は別です。

Q. 副業規程を整備するには、まず何から始めればいいですか?

A. まず就業規則に副業・兼業に関する条項があるか確認してください。規定がなければ追加が必要です。次に、副業許可申請書(副業先の業種・業務内容・週あたり就業時間等を記載)と誓約書の書式を作成します。社労士や弁護士に雛形の確認を依頼するのが確実です。既存の就業規則の変更には労働者への周知と労働基準監督署への届出が必要ですので、手続きも含めて専門家と進めることをお勧めします。

【監修】ウェルセンス株式会社
ウェルセンスは、メンタル不調者対応・休職復職支援に強い職場メンタルケアサービスです。産業医・保健師・心理士・社労士などの専門家ネットワークが、人事・管理職だけでは判断しづらいケースの初動対応、専門家連携、再発防止まで支援します。

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