「休職していた社員の評価欄、どう埋めればいいんだろう……」。専任の人事がいない中小企業では、こうした悩みを抱きながらも、前例と感覚で乗り切っているケースが少なくありません。しかし対応を誤ると、不当差別・不利益変更として法的リスクにつながる可能性があります。この記事では、休職中・不調期間中の業績評価を適切に設計・運用するための実務的な考え方を解説します。
休職中の業績評価がなぜ難しいのか
業績評価の前提が崩れる
通常の業績評価は、一定期間にわたる業務遂行の成果や行動を測定することを前提としています。しかし休職者は、その評価対象期間の一部または全部を欠いています。たとえば半年間の評価期間のうち4か月を休職した場合、残る2か月だけで他の社員と同じ基準を当てはめるのは、実態に合いません。
「とりあえず最低評価にする」という対応は、後述する法的リスクと直結するため避けなければなりません。むしろ「どの期間を評価対象にするのか」という判断基準が必要になるのです。
不調期間と休職期間は別物として捉える
完全に休職に入る前の「遅刻・早退が増えている」「明らかにパフォーマンスが落ちている」という不調期間や、復職後に時短勤務・軽減業務を行っている期間も、評価上の扱いに困るポイントです。この期間は「出勤はしているが成果が出ていない」状態であり、「低評価にしたら差別では?」「でも高評価にする根拠もない」というジレンマが生まれます。
休職中・休職前後・復職後という各フェーズを分けて設計することが、適切な業績評価の第一歩です。
制度の不在が属人化を生む
多くの中小企業では、就業規則や評価規程に「休職・不調期間中の評価の扱い」が明記されていません。その結果、対応が担当者や上司の裁量に委ねられ、「Aさんのときはこうした」「Bさんのときは別の対応だった」という不統一が起きます。
後からの比較によるトラブルを防ぐには、制度として明文化することが不可欠です。制度があれば、社内の公平感も保ちながら一貫した対応が可能になります。
法的に押さえておくべき「不利益取り扱いの禁止」
障害者雇用促進法が適用される可能性
うつ病・適応障害などの精神疾患は、障害者雇用促進法における「精神障害」の保護対象に含まれる場合があります。同法第35条は、障害を理由とした賃金・配置・昇進などでの不利益取り扱いを禁止しています。
つまり「休職した(=メンタル不調だった)から業績評価を下げた」という直接の因果関係がある場合、違法リスクが生じます。評価を下げる場合は、その根拠が「休職という事実」ではなく「業務上の客観的な事実」に基づいていることを説明できる状態にしておく必要があります。
労働契約法における権利濫用のリスク
労働契約法第3条・第16条は、合理的な理由のない権利行使を禁じています。評価基準が存在しないまま、あるいは曖昧なまま恣意的に低評価・降格・賃金減額を行った場合、裁判所が「権利濫用」と判断するケースがあります。
特に「制度がなく感覚でつけた業績評価」が降格・賃金減額の根拠になっている場合は、後から無効と判断されるリスクを抱えることになります。
安全配慮義務と評価フィードバックの関係
労働契約法第5条に定める安全配慮義務は、評価フィードバックの場面にも適用されます。回復途中の社員に低評価や降格を不適切なタイミング・方法で伝えた結果、症状が悪化した場合、安全配慮義務違反として企業責任が問われる可能性があります。
「業績評価を伝えること」と「伝え方・タイミングの配慮」はセットで考える必要があります。
実務の基本:評価対象期間の「按分処理」と代替設計
按分処理を基本ルールにする
休職中の業績評価の実務的な基本は、「休職期間を評価対象外として除外し、実働期間のみで評価する」という按分処理です。たとえば半期(6か月)の評価期間のうち4か月を休職していた場合、残り2か月の実働期間のみを評価対象とします。
ただし、2か月という短い期間では十分な評価データが得られないケースもあります。その場合は「前期評価の据え置き」や「評価保留」を選択肢として就業規則・評価規程に明記しておくことで、ケースバイケースの対応を防ぐことができます。
「成果評価」と「行動・プロセス評価」を分離する
数値目標が測定できない期間であっても、行動やプロセスを評価することは可能です。たとえば「与えられた範囲での業務遂行姿勢」「同僚や上司への報連相の質」「業務改善への取り組み態度」などは、成果が出ていない状況でも評価の根拠になります。
コンピテンシー(行動)評価に比重を移す設計は、不当差別リスクを下げながら業績評価の実効性を保つ有効な方法です。復職後の軽減業務期間においても、この考え方を適用することができます。
「評価不能期間」の明文化が後のトラブルを防ぐ
「実働期間が1か月未満の場合は評価を保留し、前期評価を参照する」「リハビリ勤務中は通常の目標設定を行わず、専用の評価基準を適用する」といったルールを評価規程に記載しておくことが重要です。
制度として明文化されていれば、「なぜあの人だけ特別扱いなのか」という社内の不公平感も抑制できます。実際に規程に明記しておくことで、社員からの異議申し立てにも客観的な根拠を示して対応できます。
復職後の業績評価設計:リハビリ期間をどう扱うか
復職直後は専用の評価基準を設ける
復職後しばらくの間は、時短勤務・軽減業務・特定業務の制限といった配慮が必要なケースがほとんどです。この期間に通常の目標設定と同じ業績評価基準を当てはめると、構造的に低評価になり、本人のモチベーション低下や症状悪化につながるリスクがあります。
「リハビリ勤務期間専用の評価基準」または「評価保留期間(例:復職後3か月間)」を制度化しておくことで、この問題を回避できます。
復職時の合意書に業績評価の扱いを明記する
復職する際に作成する「復職誓約書」や「復職支援計画書」には、業務範囲・勤務時間だけでなく、業績評価や賃金の扱いについても明記することを推奨します。
たとえば「復職後3か月間は評価保留とし、賃金は現状維持とする」という内容を書面で合意しておけば、後から「評価が下がった」「給与が下がった理由がわからない」というトラブルを防ぐことができます。口頭合意は後の証拠にならないため、必ず書面化してください。
段階的な目標設定で本人の回復を支援する
評価設計は、本人の復職プロセスの「マイルストーン」にもなります。たとえば「最初の1か月は業務遂行の安定を目標とする」「2か月目からは特定業務の自立を目指す」「3か月後に通常業務への移行を検討する」という段階的な目標設定は、本人に回復の見通しを持たせると同時に、業績評価の根拠を明確にします。
産業医や主治医の意見を踏まえながら設計することで、安全配慮義務の観点からも適切な対応が可能になります。
業績評価フィードバックの「伝え方」に潜むリスク
タイミングは主治医・産業医の意見を踏まえる
評価面談の実施タイミングは、本人の健康状態を無視して決めてはなりません。「評価時期だから」という理由だけで、回復途中の社員を評価面談に呼ぶことは安全配慮義務の観点から問題になる可能性があります。
主治医の診断書や産業医の意見をもとに、「今この人に業績評価面談を行って問題ないか」を判断することが重要です。場合によっては、評価通知を書面で行い、面談は状態が安定してから実施するという選択肢も検討してください。
「なぜこの評価か」の根拠説明を丁寧に行う
評価結果を伝える際は、「なぜこの業績評価になったか」を具体的な事実に基づいて説明することが鉄則です。「休職していたから」という説明は法的リスクを招くだけでなく、本人の納得感も得られません。
「評価対象期間はXか月であり、その期間の業務遂行状況をもとに評価した」「この点は評価できるが、この部分は対象外とした」という形で、根拠を示しながら説明することが求められます。
ネガティブな評価は「改善支援」とセットで伝える
どうしても低評価になるケースでも、「改善のための支援内容」をセットで伝えることが重要です。「次の期間ではこのような目標を設定し、会社としてこういうサポートをします」という前向きなメッセージを添えることで、本人の症状悪化リスクを下げ、職場への再定着を促すことができます。
業績評価面談は「評価を伝える場」ではなく「次のステップを一緒に考える場」として設計することが、メンタルヘルスへの配慮と評価実務の両立につながります。
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制度がない会社がまず取り組むべきこと
現状の評価規程を点検する
まず現在の就業規則・評価規程を確認し、「休職・不調・復職に関する業績評価の記載があるか」をチェックしてください。多くの中小企業では、この記載が存在しないか、非常に曖昧な表現にとどまっています。
記載がなければ、最低限「休職期間の評価除外」「評価保留期間の設定」「リハビリ勤務中の評価基準」の3点を追記することを検討してください。これだけでも、属人的な対応から脱却するための基盤になります。
ケース対応の記録を残す
制度整備が間に合わない現状でも、「今回のケースでどういう判断をしたか」を必ず書面で記録しておくことが重要です。記録がなければ、後から「なぜあの人と違う対応をされたのか」という比較トラブルに対応できません。
ケースごとの判断根拠・対応内容・関係者の合意事項を残しておくことで、制度が整備されるまでの暫定的なリスク管理が可能になります。
外部の専門家に相談する選択肢を持つ
休職者の業績評価設計は、労働法・人事制度・メンタルヘルスの知識が複合的に求められる領域です。専任人事がいない中小企業が単独で対応するには限界があります。
社労士・産業カウンセラー・人事コンサルタントなどの専門家と連携することで、法的リスクを抑えながら実態に合った制度を設計することができます。特に「今いる社員のこのケースはどう評価すればよいか」という個別の判断については、専門家への壁打ち相談が有効です。
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まとめ
休職中の業績評価は、感覚や前例で乗り切ることのできない、法的リスクと実務的難しさを兼ね備えた領域です。基本は「休職期間を評価対象外とした按分処理」と「行動・プロセス評価への比重移動」にあります。さらに復職後のリハビリ期間には専用の評価基準を設え、復職時の合意書に評価・賃金の扱いを明記することで、後のトラブルを大幅に減らすことができます。
評価フィードバックの場面では、主治医・産業医の意見を踏まえたタイミング判断と、根拠ある説明・改善支援のセット提示が欠かせません。
ウェルセンス株式会社では、休職・復職支援と評価制度設計を一体で支援しています。「今いる社員のケースをどう評価すればよいか」「就業規則に何を追記すればよいか」といった個別の疑問にも対応しています。制度づくりの最初の一歩として、まずはお気軽にご相談ください。
よくある質問
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