「体調が悪いのでしばらく休ませてほしい」——社員からそう言われ、その場で「わかった、ゆっくり休んで」と答えた。ところが数週間後、本人の家族から「正式な申請はしていない」「会社が無断欠勤扱いにしようとしている」と連絡が入った。こうした事態に、専任人事のいない中小企業の経営者・人事担当者がぶつかるケースは少なくありません。口頭だけで進めてきた休職対応は、記録が残らないぶん、後から大きなトラブルに発展するリスクがあります。この記事では、休職申請のトラブルを防ぐための書面化の考え方と、今日から使える対応ステップを解説します。
口頭申請だけで進めると何が起きるか
休職申請を口頭のみで処理すると、「言った・言わない」の争いが起きやすく、会社側が不利な立場に置かれるリスクが高まります。具体的にどのような問題が生じるかを整理しておきましょう。
「合意した内容」が証明できない
労働契約法上、休職という特別な地位の付与は口頭でも合意が成立しうると解されています。しかし、問題は「何を合意したか」を後から立証できるかどうかです。休職開始日、期間、給与の扱い、連絡方法——これらについて口頭でやり取りしただけでは、双方の認識がずれたときに会社側が主張を通せなくなります。
無断欠勤扱いが不当解雇に発展するリスク
休職申請の記録がないまま社員が長期欠勤した場合、会社が「無断欠勤」として懲戒処分・解雇に踏み切ると、社員側から不当解雇として争われることがあります。記録の不備は、このような場面で会社側の不利に働く典型パターンです。後から「実は口頭で申請していた」と主張されると、会社は反論の根拠を持てません。
現場判断が「会社の公式承認」として扱われてしまう
専任人事のいない企業では、現場の上司が「じゃあ来週から休んでいいよ」と独断で対応してしまうことがあります。このやり取りがLINEやチャットに残っていても、「上司個人と話した」「私的な会話だ」として会社の意思表示と認められない場合があります。逆に、会社の公式な対応とみなされた場合でも、休職期間や条件の合意がないまま手続きが走り始め、後に収拾が難しくなります。
書面化が必要な理由と就業規則の関係
休職申請を書面で受け付けるためには、その根拠を就業規則に明記しておくことが前提です。規定がなければ、書面化の要求自体が社員に対して不当な手続き負担と受け取られかねません。
就業規則への明記が「書面化の正当根拠」になる
就業規則に「休職の申請は所定の様式により書面で行うものとする」と定めておけば、書面なき申請を正式な休職申請とみなさないという会社の立場を明確にできます。逆に、こうした規定がない場合は口頭申請も有効とみなされる可能性があるため、まず就業規則の確認・整備が必要です。労働契約法第4条は、労働契約の内容を書面で確認することを努力義務として規定しており、法的な裏付けとしても参照できます。
産業医・就業規則の有無で対応レベルが変わる
読者の状況によって、整備の優先順位は異なります。下の表を参考に、自社の状況を確認してください。
| 状況 | 優先して取り組むこと |
|---|---|
| 就業規則がない(常時10人未満の場合も含む) | 休職に関するルールを社内文書として文書化し、社員に周知する |
| 就業規則はあるが休職規定が曖昧 | 休職申請の様式要件・期間・給与扱いを就業規則に明記・改定する |
| 就業規則・規定は整備済み・産業医もいる | 申請書様式と受理確認フローを整備し、現場管理職に周知する |
診断書だけでは休職の「条件合意」を証明できない
「主治医の診断書があるから大丈夫」と思っている方は注意が必要です。診断書は「療養が必要である」という医師の見解を示すものであり、会社が休職を承認した事実や、休職期間・給与の扱いについての合意を証明するものではありません。診断書とは別に、会社側が承認内容を書面で確認する必要があります。
📄 【無料】休職・復職 実務書式パック(全5点)
休職の根拠規定・開始日・期間・期間中の取扱いを明示する休職指示書と、復職の条件・提出書類・手続の流れを休職の入口で本人に渡す説明書を含む、休職・復職の実務書式5点です。
休職申請トラブルを防ぐ書面化の3ステップ
休職申請の書面化は、まず様式を用意し、次に受理フローを固め、最後に受理通知で会社側の意思を明確にする、という3段階で進めます。一度整備しておけば、その後の対応が大幅にスムーズになります。
休職申請書の様式を用意する
まず最初に、社員が記入する「休職申請書」の様式を作成します。最低限、以下の項目を盛り込んでください。
- 申請者氏名・所属・申請日
- 休職希望開始日・予定期間
- 休職事由(私傷病・メンタル疾患・その他)
- 主治医の診断書の添付有無
- 休職中の連絡先・連絡方法
- 本人直筆サインまたは記名押印欄
様式はWordやGoogleドキュメントで作成し、人事担当者(または経営者)が保管するフォルダに置いておくだけで十分です。「フォーマットがないからアドホック対応になっていた」という状況を脱するには、まずこの一枚を作ることが最優先です。
受理確認フローを決めて現場に周知する
次に、申請書を受け取った後の手順を明文化します。ポイントは「誰が受け取り、誰が承認し、どのように記録するか」を事前に決めておくことです。現場の上司が独断で了承しないよう、「休職の申請受付は人事担当者(または社長)に報告・確認すること」というルールを全管理職に周知してください。申請書の受け取り後は、コピーや電子データとして保管し、受け取った日時も記録に残します。
実務のコツ: 規定を作ったら、実際にそれが機能するか試行運用することが重要です。「机上の対応マニュアル」に終わらないよう、管理職や人事担当者が実際に使える形に調整しましょう。ここで詰まった点が、後々のトラブル防止につながります。
受理通知書を会社側から発行する
最後に、会社側が「受理通知書」を社員に交付します。これは「申請を受け取り、以下の条件で休職を承認した」という会社の意思表示を書面にしたものです。記載すべき内容は、承認した休職開始日・期間・給与の扱い(無給か、傷病手当金の案内を行ったかどうか)・復職時の手続き概要・休職中の定期連絡のルールです。本人に手渡し、または郵送(受領確認付き)で交付し、会社控えを保管します。メールで送付する場合は、本人からの返信(内容確認の一言でも可)を記録として残してください。
口頭だけで進んでしまった案件の事後対応
すでに口頭のみで休職に入ってしまった案件は、今からでも記録を整えることができます。放置するほどリスクが高まるため、できるだけ早く動くことが重要です。
本人と連絡が取れる状況なら確認書を取り直す
本人と連絡が取れる場合は、「今後の手続きを整理したい」という趣旨で、休職開始日・期間・条件を確認する書面(確認書)に改めてサインをもらいます。このとき、責める姿勢ではなく「双方が安心して進めるための確認」として伝えると本人も応じやすくなります。メールやチャットで内容を確認し合い、本人から「内容に同意します」という一言を引き出すだけでも、事後的な記録として機能します。
本人と連絡が取れない場合の対応
休職後に連絡が取れなくなっているケースは、対応が難しい段階です。この状況で無断欠勤扱いや解雇に進むと、不当解雇として争われるリスクがあります。まず、会社側が把握している内容(口頭でやり取りした日時・内容・経緯)を社内で文書化し、証拠として残します。その上で、緊急連絡先(家族)への連絡や書面の郵送(内容証明郵便)で意思疎通を図ります。法的リスクが生じる可能性がある場合は、社会保険労務士または弁護士への相談を検討してください。
過去の案件を踏まえて制度を見直す
事後対応を終えたら、同じ問題が繰り返されないよう、就業規則・申請書様式・受理フローの見直しをセットで行います。「今回の案件があったから整備した」というきっかけを活かして、次の休職対応を安全に進める体制を作ることが重要です。
様式と規程を整備するときの実務上の注意点
書面化の仕組みを整えるにあたって、見落としがちな実務上のポイントがあります。形式を整えるだけでなく、運用が機能するかどうかが重要です。
様式は「使われる形式」にする
申請書の様式が複雑すぎると、体調が悪い社員にとって記入のハードルが上がり、「口頭で済ませたい」という気持ちにつながります。A4一枚・記入項目は必要最小限・手書きまたはPC入力どちらでも対応できる形式が理想です。また、診断書の添付を条件にする場合は、「診断書が用意できるまで申請を受け付けない」という運用は避けてください。まず申請書を受け取り、診断書は後から提出させる運用にすることで、申請のタイミングを遅らせないようにします。
規程・様式は社員に事前に周知しておく
休職申請の様式や手順が存在していても、社員が知らなければ機能しません。就業規則や社内規程の改定時に全社員へ周知するとともに、入社時のオリエンテーションで「休職が必要になった場合は所定の様式で申請する」と伝えておくことが重要です。様式はイントラネットや共有フォルダに置き、いつでも取得できる状態にしておきましょう。
管理職向けの対応ルールを明文化する
現場の上司が独断で休職を了承するトラブルを防ぐには、管理職向けに「部下から休職の相談を受けた場合の対応手順」を別途文書化することが効果的です。内容は、「すぐに了承せず、まず人事担当者または経営者に連絡する」「申請書の様式を本人に案内する」「受理・承認は会社(人事・経営者)が行う」という3点を明記するだけで十分です。管理職研修や朝礼で定期的に共有することで、現場の独断対応を防ぎやすくなります。
よくある悩み: 「規定を作ったはいいけど、実際の運用で判断に困る場面がある」——そんなときは、人事の専門家に個別相談することで、自社に合わせた対応を整えることができます。制度と現場のギャップを埋めることが、本来のトラブル防止につながります。
まとめ
休職申請のトラブルは、「口頭だけで対応してきた」という小さな積み重ねから生まれます。防ぐための手順はシンプルで、まず就業規則に書面申請の根拠を明記し、次に休職申請書の様式と受理確認フローを整え、最後に受理通知書を会社側から発行する、という流れを社内に定着させることです。すでに口頭のみで進んでしまった案件は、今から確認書を取り直すか、社内記録を整えることで一定のリスクを軽減できます。
休職対応は「個別対応の積み重ね」だからこそ、早めに制度整備をしておくことが後々の安心につながります。ウェルセンス株式会社では、専任人事のいない中小企業を対象に、休職対応の書面整備・規程の見直し・個別ケースの相談支援を行っています。「まず何から手をつければいいかわからない」という段階からご相談いただけますので、気軽にお問い合わせください。
よくある質問
ウェルセンスは、メンタル不調者対応・休職復職支援に強い職場メンタルケアサービスです。産業医・保健師・心理士・社労士などの専門家ネットワークが、人事・管理職だけでは判断しづらいケースの初動対応、専門家連携、再発防止まで支援します。
不調者対応を、人事だけで抱えない。
メンタル不調者面談や休職・復職対応を、1件からスポットでご相談いただけます。


