メンタル不調の社員、異動後も回復しないときどうする?

メンタル不調の社員、異動後も回復しないときどうする? メンタルヘルス対応
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「部署を変えれば良くなると思っていたのに、あれから3ヶ月経っても一向に改善しない——」。そう感じているなら、今まさに多くの中小企業の担当者が直面している局面にいます。異動という「誠実な対応」をしたにもかかわらず、メンタル不調の社員が回復しないとき、次に何をすべきか分からず、対応が止まってしまうケースは少なくありません。この記事では、異動後も不調が続く社員への具体的な次のステップと、会社として押さえておくべき判断基準を整理します。

「異動すれば回復する」が通じないとき、何が起きているのか

異動後も不調が続く場合、それは「環境調整の効果がない」のではなく、「問題の構造が想定より複雑だった」と捉え直すことが出発点です。

「環境の問題」と「本人の状態」は別の軸で動いている

本人が「あの上司が原因」「あの部署が合わない」と訴えたとき、その主訴は事実であることが多いです。ただし、メンタル不調は「原因が除去されれば自動的に回復する」ほど単純ではありません。長期間にわたるストレス状態は、脳の働きや睡眠・食欲といった基本的な機能にまで影響を与えることがあり、環境を変えても回復に時間がかかるケースがあります。また、不調が深刻化していた場合には、医療的なサポートそのものが必要な段階になっている可能性もあります。「異動しても良くならないのは本人の問題だ」と断定することは、状況を誤読するリスクがあるため注意が必要です。

異動は「環境調整の完了」ではなく「調整の一要素」にすぎない

担当者として陥りやすいのが、「異動という対応をした時点でやるべきことは終わった」という感覚です。しかし、労働契約法第5条が定める安全配慮義務は、異動後も継続します。つまり会社は、異動後の状況を把握し、必要であれば追加の対応を検討し続ける義務を負っています。「本人が希望した異動だから」という事実も、この義務の免責理由にはなりません。異動後に定期的な状況確認の面談を設けていない場合、それ自体が安全配慮義務の観点でリスクになりえます。

回復しない理由を「本人のせい」にする前に確認すること

実態が見えていないまま判断しようとすると、誤った結論に向かいがちです。まず確認すべきポイントは以下の通りです。

  • 異動後、業務内容・量・人間関係に新たなストレス要因が生まれていないか
  • 本人は医療機関を受診しており、治療が継続されているか
  • 主治医から就労継続の可否についての判断が出ているか
  • 直属の上司が本人の状態を定期的に確認・報告しているか

これらが確認できていない段階で「本人の問題」と判断することは早計です。

「見守り」と「放置」の境界線——判断の基準を持つ

経過観察は必要ですが、終わりのない待機は本人にとっても会社にとっても有害です。いつまでに、何をもって次のフェーズと判断するか、具体的な基準を持つことが重要です。

経過観察に「期限」を設ける

「様子を見る」という対応が長期化するのは、終了条件が設定されていないからです。異動後の経過観察には、あらかじめ評価のタイミングを決めておくことが実務上の鉄則です。たとえば「異動から2ヶ月後に状況を再評価する面談を実施する」「欠勤が月に一定日数を超えた場合には休職の可否を検討する」といった基準を、担当者レベルで内部合意しておくことが有効です。これは冷淡な対応ではなく、むしろ対応の恣意性を排除し、公平な判断につなげるための仕組みです。

「何が変われば回復とみなすか」をあらかじめ定義する

「回復」の定義が曖昧なまま経過観察を続けると、改善も悪化も「様子見」で片づけられてしまいます。実務的には、次の観点で状態を定期的に確認し、記録を残すことを勧めます。

  • 出勤状況(遅刻・早退・欠勤の頻度)
  • 業務パフォーマンス(通常業務をどの程度こなせているか)
  • 本人の主訴(体調・不安・ストレスについての自己申告)
  • 医療情報(診断書の更新内容・主治医の就労可否判断)

これらの項目を定期面談で確認し、記録することで、「いつから」「どの程度」悪化または改善したかが可視化されます。判断の根拠として、後日トラブルになった際にも有効な証跡となります。

面談記録が「次の判断」の根拠になる

特に専任人事がいない職場では、面談の内容が記録されずに口頭のやり取りで終わるケースが多くあります。しかしこれは実務上の大きなリスクです。面談記録は、休職命令・配置再変更・復職判断のいずれの局面でも、会社が「誠実に対応してきた」ことを示す証拠になります。日付・参加者・確認内容・本人の発言・会社の対応方針を簡潔にメモし、ファイルに残す習慣をつけることを強くお勧めします。

医療情報を把握する——産業医がいなくても動ける方法

50名未満の事業所には産業医の選任義務がありませんが、医療と職場の橋渡し機能を補完する手段は存在します。医療情報を適切に取得・活用することが、次のステップの判断精度を大きく左右します。

主治医から「就労に関する情報」を取得する手順

診断書には「要加療」「休養が必要」といった記載が多く、就労継続の可否や業務上の制限については書かれていないことがほとんどです。より具体的な情報が必要な場合、本人の同意を得たうえで「就労状況に関する情報提供依頼書」を主治医に送付し、職場での就労可能性・制限事項について意見を求めることができます。本人の同意なく医療情報を取得することはプライバシーの侵害になるため、必ず本人の書面による同意を先に取得してください。

産業医がいない場合の代替手段

産業医が選任されていない場合でも、以下の機関や仕組みを活用できます。

  • 産業保健総合支援センター(産保センター):都道府県ごとに設置されており、50名未満の事業所も無料で相談可能。産業医・保健師・カウンセラーによるアドバイスを受けられます
  • 外部産業医・産業保健職との単発契約:従業員数が少なくても、スポット契約で就労可否の判断や面談に同席してもらうことが可能です
  • EAP(従業員支援プログラム)サービス:外部のカウンセリング機関と契約することで、本人への専門的なサポートと職場へのフィードバックを得られます

「医療の話は会社には関係ない」と線引きしてしまいがちですが、就労可否の判断には医療情報が不可欠です。適切な手段で情報を補完することが、適切な対応への近道です。

会社として取れる次の選択肢と、その判断基準

異動後も不調が続く場合、会社が取りうる主な選択肢は「継続就労(業務調整あり)」「休職命令」「配置再変更の検討」の三つです。どの選択肢を選ぶかは、本人の医療状況・就業規則の内容・職場環境の実態によって異なります。

各選択肢の概要と判断の目安

選択肢 適用の目安 主な前提条件
継続就労(業務調整) 出勤できており、軽業務なら遂行可能 主治医が就労継続を認めている
休職命令 欠勤が続く・業務遂行が困難な状態 就業規則に休職命令の根拠規定あり
配置再変更 現部署の業務内容が不調の要因として疑われる 本人・医療の意見をふまえて検討

休職命令を検討する際の法的ポイント

多くの就業規則には「業務外の傷病により一定期間就業できない場合、休職を命じる」旨の規定があります。本人からの申請を待たず、会社から休職を命じること(休職命令)は、就業規則にその根拠がある場合に適法に行えます。まず自社の就業規則に該当する規定があるかを確認してください。規定がない場合、あるいは内容が不明確な場合は、対応の前に専門家への確認が必要です。また、休職期間満了時に復職できない場合の「自然退職」や「解雇」については、裁判例(最高裁平成10年4月9日・片山組事件)でも示されているように、会社側に「復職可能な業務を検討する義務」が認められる場合があります。解雇を視野に入れる段階では、必ず社会保険労務士や弁護士に相談することを強くお勧めします。

「退職勧奨」への移行は最終手段と位置付ける

労働契約法第16条は、客観的合理的理由と社会通念上の相当性がない解雇を無効としています。メンタル不調を理由にした解雇・退職勧奨は、手続きの不備や対応の記録不足が判明すると、無効とされるリスクが高いカテゴリーです。退職に関する話し合いを進める前に、上記の選択肢を順序立てて実施し、その記録を残しておくことが、会社を守る唯一の方法です。

本人との関係を壊さずに動くための伝え方

「また環境を変えてほしい」「もう少し待ってほしい」という本人からの要望に押されて判断が止まるケースは多くあります。ただし、会社が適切な判断を先送りすることは、本人にとっても良い結果をもたらしません。

「会社の判断」を「本人への押しつけ」と区別して伝える

休職命令や業務制限を告げる際に重要なのは、「この判断はあなたを排除するためではなく、あなたの状態を守るために行う」という文脈を丁寧に伝えることです。「就業規則に基づき、今の状態では働き続けることが本人にとっても負荷になると判断したため」という説明は、感情的な対立を避けながら会社の意思決定を伝える実務的な言い方です。一方的に通知するのではなく、本人に「今の状態についてどう感じているか」を先に聞く姿勢を持つことも大切です。

記録を残すことが「誠実さの証明」になる

面談の内容を記録することを「監視されているようで嫌だ」と感じる担当者もいますが、これは会社側だけでなく本人も守ります。面談記録があることで、「会社は定期的に状況を確認し、本人の意向をふまえた上で判断した」という事実が残ります。記録は本人にも開示可能な形で保管し、必要に応じて共有することで、プロセスの透明性が確保されます。

まとめ

異動後も社員のメンタル不調が回復しない場合、「環境調整が終わった」のではなく「次のフェーズへの対応が必要」というサインです。安全配慮義務は異動後も継続しており、会社には状況を把握し続ける義務があります。経過観察には期限を設け、面談記録を残し、医療情報を適切に取得したうえで、就業規則の内容に基づいて判断することが重要です。休職命令・配置再変更・復職支援のいずれも、記録と根拠があって初めて適法に機能します。

「自分のケースでは次に何をすべきか」が明確になっていない場合、専任人事がいない環境で一人で抱え込む必要はありません。ウェルセンス株式会社では、メンタル不調の社員対応・休職復職支援・就業規則の整備まで、中小企業の実情に合わせた相談対応を行っています。メンタル不調で異動後も回復しない社員への対応について、「うちの場合どうすればいいか」という段階からでも、お気軽にご相談ください。

よくある質問

Q. 本人が「もう少し様子を見てほしい」と言っています。いつまで待てばよいですか?

A. 「様子を見る」期間には明確な終了条件を設定することが必要です。たとえば「異動から2ヶ月後に再評価面談を実施する」「欠勤が月に一定日数を超えた場合は休職を検討する」といった基準を担当者レベルで内部合意しておきましょう。終わりのない待機は本人の回復にも会社にも良い結果をもたらしません。本人の意向を尊重しつつ、「いつまでに何を確認するか」をあらかじめ伝えることが、信頼関係を守りながら動ける方法です。

Q. 産業医がいない会社でも、休職の判断はできますか?

A. 産業医がいなくても、就業規則に休職命令の根拠規定があれば、会社から休職を命じることは可能です。ただし、就労可否の判断には医療的な根拠が必要です。産業医が選任されていない場合は、産業保健総合支援センター(産保センター)への無料相談や、外部の産業医・産業保健職とのスポット契約、EAPサービスの活用など、橋渡し機能を補完する手段を検討してください。

Q. 本人希望で異動させた場合、会社の責任は軽減されますか?

A. 軽減されません。本人の申し出による異動であっても、安全配慮義務(労働契約法第5条)は継続します。異動後に回復しない場合、「本人が希望した異動だから会社の配慮は終わった」と判断して放置すれば、むしろ義務違反の証拠になりかねません。異動後も定期的な状況確認面談を実施し、記録を残し続けることが必要です。

Q. 主治医の診断書しかなく、本人が本当に働けない状態なのか判断できません。

A. 診断書は「休養が必要」という記載が中心で、就労の可否や業務上の制限については書かれていないことがほとんどです。より具体的な情報が必要な場合は、本人の書面による同意を得たうえで、「就労状況に関する情報提供依頼書」を主治医に送付し、職場での就労可能性や制限事項についての意見を求めることができます。本人の同意なく医療情報を取得することはプライバシーの侵害になるため、必ず本人同意を先に取ることが前提です。

Q. 休職期間が終わっても復職できない場合、解雇することはできますか?

A. 就業規則に「休職期間満了時に復職できない場合は自然退職または解雇とする」旨の規定があり、かつ適正な手続きを経ていれば、法的根拠のある対応が可能です。ただし、労働契約法第16条により、メンタル不調を理由にした解雇には客観的合理的理由と社会通念上の相当性が必要です。最高裁の判例(平成10年4月9日・片山組事件)では、復職判断に際して会社側に「復職可能な業務を検討する義務」が認められた例もあります。解雇を視野に入れる段階では、必ず社会保険労務士や弁護士に事前確認することを強くお勧めします。

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【監修】ウェルセンス株式会社
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