競合他社に副業していた…禁止規定なしでも取れる対応とは

競合他社に副業していた…禁止規定なしでも取れる対応とは コンプライアンス
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「うちの社員が、競合他社でアルバイトしているらしい」——取引先からそんな情報が入ってきたとき、まず頭に浮かぶのは「就業規則に何も書いていない…どうすればいいんだろう」という焦りではないでしょうか。禁止規定がなければ何も手を打てないと思いがちですが、実はそうではありません。競合他社での副業が発覚した場合、規定がない状態でも法的根拠に基づいて対応することができます。この記事では、発覚直後の実務対応から規程整備の優先順位まで、専任人事がいない企業でも実践できる手順を解説します。

禁止規定がなくても対応できる法的根拠がある

就業規則に競合他社への副業禁止条項がなくても、法的に対応できる根拠は存在します。「規定がなければ野放し」という誤解は、まず解消しておきましょう。

労働契約上の誠実義務(信義則)

民法1条2項が定める「信義誠実の原則」は、労働契約にも適用されます。従業員は雇用契約に基づき、使用者の正当な利益を不当に害さない誠実義務を負っています。競合他社で働くことで自社の顧客情報や営業ノウハウが流出するリスクが具体的に生じる場合、この誠実義務違反を根拠に業務命令や注意指導を行う余地があります。

在職中の競業避止義務

就業規則の条文がなくても、在職中の従業員は労働契約の性質上、競業避止義務を一般的に負うと解されています。これは学説・裁判例でも多数を占める考え方です。ただし、この義務が認められるのはあくまで在職中に限った話です。退職後については、明示的な合意や規定がない限り競業を制限することは原則として困難であり、退職後を制限したい場合は別途「競業避止合意書」を締結する必要があります。

不正競争防止法による営業秘密の保護

競合他社への副業で最も深刻なリスクのひとつが、情報漏洩です。自社の顧客リスト・価格情報・技術情報などが「営業秘密」(不正競争防止法2条6項)に該当する場合、就業規則の規定がなくても同法に基づく差止請求や損害賠償請求が可能です。ポイントは、当該情報が「秘密として管理されていること」「有用性があること」「公然と知られていないこと」の3要件を満たしているかどうかです。社内でパスワード管理や「社外秘」表示などの措置が取られていれば、保護の対象になりやすくなります。

発覚直後にやるべき実務対応の流れ

発覚後は感情的に動かず、記録を積み重ねながら段階的に対応することが鉄則です。規定がない状態での懲戒処分は難しくても、業務命令・注意指導・誓約書の取得という手順は確実に実行できます。

事実確認とヒアリングの進め方

まず最初に行うべきは、本人からの事実確認です。伝聞情報だけで動くと後々トラブルになるため、必ず本人に直接ヒアリングを行い、その内容を書面で記録します。ヒアリングでは「いつから」「どの企業で」「どのような業務に」「週何時間程度」従事しているかを確認します。ヒアリングの場には可能であれば2名(経営者+別の担当者)が同席し、後日「言った・言わない」のトラブルを防ぎましょう。

リスクアセスメントで優先順位を決める

事実確認が取れたら、次に情報漏洩・顧客接触のリスクを評価します。以下の観点で確認しましょう。

  • 当該従業員が自社の顧客情報・価格情報・技術情報にアクセスできる立場にあるか
  • 競合他社でどのような業務を担当しているか(自社業務との重複度)
  • 自社顧客との接触機会があるか、または過去に接触した形跡があるか
  • 副業期間中に自社の不審な情報流出や顧客離反が発生していないか

リスクが高いと判断される場合は、対応のスピードを上げる必要があります。証拠保全(メールログ、アクセス履歴など)の確認も早期に行いましょう。

業務命令と誓約書で実態を抑制する

ヒアリングと事実確認が済んだら、競合他社業務の中止を「業務命令」として書面で指示します。根拠は前述の誠実義務と労働契約です。口頭ではなく必ず書面で指示し、受領確認のサインを得ましょう。あわせて「競業行為の中止および今後行わない旨の誓約書」を取得することで、万一再発した際に対応しやすくなります。この誓約書は、就業規則改定後の新ルールへの接続にも活用できます。

懲戒処分ができないケースと、できるケースの分岐

禁止規定がない場合、懲戒処分は原則として困難です。しかし状況によっては一定の対応が可能なケースもあるため、自社の状況に照らして判断することが重要です。

規定なしで懲戒処分をしてはいけない理由

労働契約法15条は、懲戒処分の有効要件として「就業規則に懲戒事由が定められていること」と「処分が客観的に合理的で相当であること」を求めています。競合他社副業に関する規定が就業規則に存在しない場合、懲戒解雇や減給・出勤停止といった懲戒処分を行うことはほぼ不可能であり、仮に行えば不当処分として訴訟リスクが生じます。また、発覚後に急いで就業規則に禁止規定を追加し、それを遡及して適用することも「後付けルールによる不利益処分」として労働契約法上問題になります。今回の案件には適用できないことを明確に認識してください。

既存の懲戒規定で対応できる余地

既存の就業規則に「会社の信用・名誉を傷つける行為の禁止」「秘密保持義務違反」「会社の利益に反する行為の禁止」などの条項がある場合、競合他社副業がそれらに該当するかを検討できます。たとえば、競合他社への就業により顧客情報が実際に漏洩した事実があれば、秘密保持違反を理由とした懲戒事由に該当しうるケースもあります。既存規定の文言を確認し、弁護士や社会保険労務士に相談のうえ判断することを強くお勧めします。

副業を全面禁止にしなくても競合だけ制限できる

副業推進の流れを受け、「副業は認めたいが競合他社だけは別」という方針は合理的であり、就業規則上も実現可能です。全面禁止より「事前許可制」の採用が現実的かつ効果的です。

事前許可制という現実的な選択肢

副業を全面禁止にすると、優秀な人材が「副業できる会社」に流れるリスクがあります。一方で、競合他社への副業だけを無条件に許容するわけにもいきません。この矛盾を解消するのが「副業・兼業の事前許可制」です。副業を原則禁止にするのではなく、「会社への事前申請・承認を条件に認める」としたうえで、競合他社への従事は承認しない旨を明記します。これにより、副業の自由を尊重しながら、自社の営業上の利益を守るルールを設計できます。

競合他社の定義を明確にしておく重要性

「競合他社」の範囲があいまいなままルールを設けると、現場での運用が難しくなります。規程を整備する際は「当社と同一または類似する事業を営む企業」「当社の取引先または潜在的な取引先」など、できる限り具体的に定義することが重要です。業種・提供サービス・対象顧客などを軸に自社なりの定義を作り、就業規則または副業管理規程に明記しましょう。

今すぐ整備すべき就業規則・規程の優先順位

再発防止のための規程整備は、優先順位をつけて段階的に進めることが現実的です。すべてを一度に整えようとすると手が止まりがちです。

最優先で整備すべき条項

まず優先すべきは、競業避止・副業に関する条項の新設または改定です。具体的には以下の内容を就業規則に盛り込みます。

盛り込む内容 ポイント
在職中の競合他社就業禁止 「競合他社」の定義を具体的に記載する
副業・兼業の事前許可制 申請・承認フローを明確にする
退職後の競業避止(合意書方式) 就業規則への記載+個別の競業避止合意書を入社・退職時に締結
懲戒事由の明記 違反時の懲戒処分の根拠規定として整備する

情報管理・秘密保持規程の整備

競業リスクと表裏一体なのが情報漏洩リスクです。不正競争防止法の営業秘密として保護を受けるためには、社内での「秘密管理措置」が取られていることが必要です。具体的には、秘密情報の定義・範囲を社内規程で明確にしたうえで、パスワード管理・「社外秘」表示・アクセス権限の設定などの管理措置を実施します。入社時・退職時に秘密保持誓約書を締結することも有効です。これらの整備は、万一訴訟になった際の証拠能力を高めることにも直結します。

就業規則変更の手続きを忘れずに

就業規則を変更・新設する際は、労働基準法の手続きに従う必要があります。具体的には、過半数労働者を代表する者(または過半数組合)の意見を聴取し、意見書を添付のうえ労働基準監督署に届け出ます(常時10名以上の事業場の場合)。また、変更した規則は従業員に周知する義務があります。この手続きを省略すると、せっかく整備した規程が無効とみなされるリスクがあるため、必ず正規の手順を踏みましょう。

まとめ

競合他社への副業が発覚しても、就業規則に禁止規定がないからといって何も手を打てないわけではありません。民法の誠実義務・在職中の競業避止義務・不正競争防止法という三つの法的根拠を理解したうえで、事実確認・業務命令・誓約書取得という順序で対応を進めることが基本です。同時に、今回の案件を根拠に懲戒処分を行うことはリスクが高く、まずは業務命令・注意指導にとどめるのが現実的な選択です。そして再発防止のために、競業避止条項の新設・副業事前許可制の導入・秘密保持規程の整備を優先的に進めましょう。

「うちの状況ではどこから手をつければいいかわからない」「本人へのヒアリングをどう進めればよいか不安」という場合、ウェルセンス株式会社では人事・労務の専門家が中小企業の実情に合わせた対応をサポートしています。懲戒処分の判断、業務命令書や誓約書の作成、その後の規程整備まで、段階的にサポートすることが可能です。まずはお気軽にご相談ください。

よくある質問

Q. 就業規則に副業禁止の規定がなくても、競合他社でのアルバイトを今すぐ辞めさせることはできますか?

A. 懲戒処分による強制的な解雇は就業規則の規定がなければ原則として困難ですが、「業務命令」として競業行為の中止を指示することは可能です。根拠は労働契約上の誠実義務(民法1条2項)および在職中の競業避止義務です。書面で中止命令を発し、誓約書を取得することで実態上の制限は可能です。

Q. 発覚後に急いで就業規則に禁止規定を追加し、それを理由に処分することはできますか?

A. できません。発覚後に新設した規定を遡及して適用することは「後付けルールによる不利益処分」となり、労働契約法上問題になります。新しく整備した規程はあくまで今後の再発防止に活用するものであり、今回の案件への適用は避けてください。

Q. 退職した元社員が競合他社に就職しています。規定がなくても制限できますか?

A. 退職後の競業避止は、在職中とは異なり明示的な合意・規定がなければ原則として制限できません。退職後を制限したい場合は、在職中または退職時に「競業避止合意書」を別途締結することが必要です。すでに退職している場合は、法的対応の余地が大幅に狭まるため、弁護士への相談をお勧めします。

Q. 副業を全面禁止にしないと、競合他社への就業を止めることはできないのでしょうか?

A. 全面禁止にしなくても対応は可能です。「副業・兼業の事前許可制」を導入し、競合他社への従事は承認しない旨を規程に明記する方法が現実的です。これにより副業の自由を尊重しながら、競合就業だけを制限できます。全面禁止は人材確保の面でもデメリットが生じやすいため、許可制の採用をお勧めします。

Q. 情報漏洩の証拠がないのに、不正競争防止法を根拠にした対応はできますか?

A. 証拠なしに不正競争防止法に基づく法的措置(差止・損害賠償請求など)を起こすことは難しいです。ただし、現時点で自社の情報が「営業秘密」の3要件(秘密管理・有用性・非公知性)を満たしているかを確認し、アクセスログや業務記録の保全を行っておくことで、今後の対応に備えることができます。まずは証拠保全と社内の情報管理体制の整備を並行して進めましょう。

【監修】ウェルセンス株式会社
ウェルセンスは、メンタル不調者対応・休職復職支援に強い職場メンタルケアサービスです。産業医・保健師・心理士・社労士などの専門家ネットワークが、人事・管理職だけでは判断しづらいケースの初動対応、専門家連携、再発防止まで支援します。

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