懲戒解雇で退職金不支給にする3つの条件と就業規則の書き方

懲戒解雇で退職金不支給にする3つの条件と就業規則の書き方 コンプライアンス
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「懲戒解雇したのだから退職金は払わなくていい」と思い込んだまま対応し、後から労働審判を起こされた——そんな事態が中小企業でも決して珍しくありません。実は、懲戒解雇と退職金不支給は自動的にセットになるわけではなく、不支給を認めてもらうには法的に有効な就業規則の整備と、裁判例が示す一定の条件を満たすことが不可欠です。この記事では、退職金を不支給にするための3つの条件と就業規則の具体的な書き方を、専任人事がいない企業の担当者にもわかりやすく解説します。

退職金不支給は「自動」では認められない

退職金は賃金に準じる保護を受ける

退職金は法律上の強制給付ではありませんが、就業規則・退職金規程・労働契約に定めがある場合は、労働基準法第11条・第89条のもとで賃金と同等の保護を受けます。つまり、一度「払う」という規程を設けた時点で、経営者が一方的に「今回は払わない」と決めることはできません。

さらに怖いのが「慣行」による支払義務です。規程がなくても、過去に退職者全員に退職金を払い続けていれば、「労使慣行として支払義務がある」と裁判所に認定されるリスクがあります。「うちは口約束で払ってきただけ」という企業ほど注意が必要です。

「規程なし=不支給OK」という誤解が招くトラブル

実際に起きやすいのは次のようなケースです。問題社員を懲戒解雇し、退職金を支払わなかったところ、元従業員から内容証明が届き、労働審判の申立てを受ける。就業規則を確認すると「懲戒解雇の場合は退職金を支給しないことがある」という表現しかない——この「することがある」という文言が致命的な弱点になります。裁判所はこれを「支給しないことも支給することもある」と読み、不支給の絶対的根拠にはならないと判断する可能性が高いのです。

退職金を不支給にするための3つの条件

就業規則に「断定的な不支給条項」があること

退職金不支給の第一条件は、就業規則または退職金規程に明確な根拠条項があることです。「支給しない」「支給を行わない」という断定的・義務的な文言が必要で、「支給しないことがある」「減額することができる」のような任意規定や努力規定では不十分とされる裁判例があります。

実務上おすすめの文言例は次のとおりです。「懲戒解雇により退職した者に対しては、退職金の全部または一部を支給しない。ただし、情状によりその一部を支給することができる。」このように「原則不支給・例外で一部支給」という構造にしておくと、全額不支給が難しいケースでも会社側の裁量を確保できます。

懲戒解雇そのものが手続的・実体的に有効であること

退職金不支給を争う前提として、懲戒解雇が法的に有効でなければなりません。懲戒解雇が無効と判断されると「普通解雇」扱いに切り替わり、退職金の支払義務が発生するという最悪のシナリオに陥ります。

有効な懲戒解雇には次の要素が必要です。まず、就業規則に懲戒事由と手続きが明記されており、かつ従業員に周知されていること(労基法第89条・第106条)。次に、解雇前に本人へ弁明の機会を与えること。そして、非違行為の重大性と懲戒処分の重さが均衡していること(比例原則)、さらに同一事由での二重処罰をしないこと(一事不再理)が挙げられます。手続きの不備が一つあるだけで懲戒解雇全体が覆るリスクがあるため、対応の順序と記録の保全が極めて重要です

非違行為が「勤続の功労を全て帳消しにする程度」の重大性を持つこと

最高裁を含む多くの裁判例は、退職金の全額不支給が認められるのは「労働者の非違行為が、退職金制度の趣旨・目的に照らして、全部または一部を不支給とすることが合理的と認められる程度に重大な場合に限られる」という立場をとっています。

全額不支給が認められやすい行為の典型例は、横領・背任・重大なセクシャルハラスメント・顧客情報の大量漏洩などです。一方、勤続年数が長く功労が大きい場合には、非違行為があっても一部支給を命じる裁判例が複数存在します。「懲戒解雇したのだから全額不支給が当然」という感覚は危険で、行為の重大性を客観的に評価することが不可欠です。

就業規則・退職金規程の具体的な書き方

退職金規程に盛り込むべき4つの項目

退職金規程を整備または見直す際には、次の4項目を必ず盛り込みましょう。

支給対象者の定義:「勤続○年以上の正社員に支給する」など、支給対象を明確にします。

計算方法:基本給×勤続年数×支給率など、算定式を具体的に記載します。曖昧な規定は後のトラブルの原因になります。

不支給・減額条項:「懲戒解雇により退職した者には退職金の全部または一部を支給しない」という断定的文言を入れます。さらに、「横領・背任その他会社に重大な損害を与えた行為が認められた場合は全額を不支給とする」と行為の類型を例示しておくと、後の判断に説得力が増します。

段階的減額規定:全額不支給のリスクを分散するため、「懲戒処分の種別に応じて、退職金の10〜100%を減額できる」という段階的な規定を設けることも実務上有効です。

懲戒手続き条項を就業規則本体に明記する

退職金規程だけでなく、就業規則本体の懲戒規程も同時に整備する必要があります。具体的には、懲戒事由の列挙(横領・情報漏洩・無断欠勤○日以上など)、懲戒の種類と手続き(戒告・減給・出勤停止・懲戒解雇)、弁明機会の付与方法、懲戒委員会の設置と権限などを明記します。

就業規則は作るだけでなく「周知」が法的要件です(労基法第106条)。社内イントラへの掲載、入社時の説明、紙の配布など、「従業員がいつでも確認できる状態」を作り、その記録を残しておきましょう。

中退共・確定拠出年金(DC)加入企業が知っておくべき注意点

中退共は懲戒解雇後でも本人へ直接支払われる

中小企業退職金共済(中退共)に加入している企業は要注意です。中退共の制度上、退職金は会社を経由せず、直接本人(元従業員)の口座へ支払われます。つまり、社内の退職金規程で「不支給」と定めていても、中退共の積立分については会社が止めることができません。

中退共の退職金と社内退職金規程による退職金は、法的に別の制度として機能します。「うちは中退共に入っているから不支給にできない」と諦める必要はありませんが、「社内規程で不支給にしても中退共分は支払われる」という事実を把握した上で対応方針を決める必要があります。

確定拠出年金(DC)の場合も同様に注意が必要

企業型確定拠出年金(企業型DC)についても、懲戒解雇によって積立済みの資産を没収することはできません。既に従業員の口座に積み立てられた資産は従業員の財産であり、懲戒解雇はその権利に影響を与えません。外部積立制度と社内の退職金規程は切り分けて整理しておくことが、混乱を防ぐポイントです。

懲戒解雇・退職金トラブルを未然に防ぐ実務フロー

問題行動が発覚した段階で記録と事実確認を徹底する

懲戒解雇および退職金不支給が後から争われた場合、「事実認定」が最大の争点になります。横領なら帳簿・口座履歴・防犯カメラ映像、セクシャルハラスメントなら被害者の陳述・メッセージ記録、情報漏洩なら社内サーバーのアクセスログなど、客観的な証拠を早期に保全することが不可欠です。

問題が発覚した段階で感情的に動かず、まず事実確認と記録の保全を優先させましょう。この段階で弁護士や社会保険労務士に相談することで、後の手続き不備を防げます。

弁明機会の付与と懲戒手続きを文書で残す

懲戒解雇の前には必ず本人に弁明の機会を与え、その内容を書面で記録します。口頭だけでは「聞いていない」と反論された際に対抗できません。弁明聴取書、懲戒委員会の議事録、解雇通知書などの書類をセットで作成・保管する習慣をつけましょう。

中小企業では懲戒委員会を形式的に設置することが難しい場合もありますが、少なくとも「複数名で協議した記録」を残すことで手続きの合理性を示せます。就業規則に手続きの概要を明記しておけば、委員会がなくても一定の正当性を主張できます。

まとめ

懲戒解雇をしたからといって、退職金を自動的に不支給にできるわけではありません。不支給が認められるには、就業規則・退職金規程に断定的な不支給条項があること、懲戒解雇そのものが手続的・実体的に有効であること、そして非違行為が勤続の功労を全て帳消しにするほど重大であることという3つの条件を満たす必要があります。文言が曖昧な就業規則のままでは、後から支払いを命じられるリスクが残ります。また、中退共・企業型DCは社内規程とは独立した制度であることも忘れないようにしましょう。

ウェルセンス株式会社では、専任人事のいない中小企業の実態に合わせた就業規則・退職金規程の整備や、懲戒処分前の手続きサポートをご支援しています。「今の規程で本当に大丈夫か確認したい」「問題社員の対応を相談したい」という段階からでも、お気軽にご相談ください。

よくある質問

Q. 就業規則に「懲戒解雇の場合は退職金を支給しないことがある」と書いてあります。これで不支給にできますか?

A. その文言では不十分とされる可能性が高いです。「することがある」という任意規定は「支給する場合もある」と読まれ、不支給の絶対的根拠にならないと判断した裁判例があります。「懲戒解雇により退職した者には退職金の全部または一部を支給しない」という断定的な文言に改定することをお勧めします。

Q. 横領をした社員を懲戒解雇しました。退職金は全額不支給にできますか?

A. 横領は全額不支給が認められやすい非違行為の代表例ですが、勤続年数や横領額・態様によっては一部支給を命じた裁判例もあります。全額不支給を主張するためには、就業規則に明確な根拠条項があること、懲戒解雇手続きが適正であること、そして横領の事実を客観的な証拠で示せることが必要です。金額や証拠の状況を弁護士や社会保険労務士に確認することをお勧めします。

Q. 中退共に加入しています。懲戒解雇した社員への退職金支払いを止められますか?

A. 中退共の積立分については、会社が支払いを止めることができません。中小企業退職金共済法の規定により、退職金は中退共から直接本人へ支払われます。社内の退職金規程による不支給と中退共の支払いは別の仕組みであることを理解した上で、退職金制度全体の設計を見直すことが重要です。

Q. 退職金規程がない場合でも、退職金の支払い義務が発生することはありますか?

A. はい、発生する可能性があります。規程がなくても、過去に全ての退職者へ退職金を支払ってきた実績がある場合、「労使慣行として支払義務が成立している」と裁判所が認定することがあります。「慣行で払ってきた」という企業は、規程の整備と同時に、慣行の内容を明確に文書化しておくことが重要です。

Q. 懲戒解雇の手続き上の不備とは具体的にどのようなものですか?

A. 主な手続き不備の例として、就業規則に懲戒事由が明記されていない・周知されていない、本人への弁明機会を与えていない、懲戒委員会などの協議プロセスを経ていない、解雇理由を書面で交付していないなどが挙げられます。これらの不備があると懲戒解雇そのものが無効と判断され、普通解雇として退職金の支払いを命じられるリスクがあります。懲戒処分を検討している段階で専門家に確認することが最善です。

【監修】ウェルセンス株式会社
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