「また休職に入った。しかも今回で3回目だ——」。そんな状況を前に、どう対応すればいいか言葉に詰まった経験はありませんか。休職するたびに期間がリセットされ、いつまでたっても終わりが見えない。専任の人事担当もいない中で、現場と社員の板挟みになりながら、それでも対応を続けている経営者・人事担当者の方は少なくありません。こうした状況を整理するための第一歩が「休職通算規定」の見直しです。
休職通算規定とは何か、なぜ必要なのか
休職通算規定とは、同じ社員が休職を繰り返した場合に、過去の休職期間を合算してカウントする就業規則上のルールです。この規定がなければ、復職のたびに休職期間がゼロに戻り、事実上「無期限の休職」が続く状態になりかねません。
規定がないと何が起きるか
たとえば「休職期間は最長6ヶ月」と就業規則に定めていても、通算規定がなければ次のような状況が起きます。社員が5ヶ月休職し、1週間だけ復職してまた休職に入った場合、その時点から改めて6ヶ月の休職期間がスタートする可能性があります。これが繰り返されると、休職期間満了による退職という会社側の対応手段が実質的に機能しなくなります。
通算規定が果たす役割
通算規定を設けることで、「過去にどれだけ休職したか」を累積管理できるようになります。たとえば「直近2年以内の休職期間を合算し、合計が6ヶ月を超えた場合は休職期間満了とする」という規定があれば、細切れの休職が繰り返されても会社として明確な判断基準を持つことができます。対応が感情的・場当たり的にならないためにも、規定の整備は不可欠です。
就業規則への記載義務との関係
労働基準法第89条では、休職に関する事項は「任意的記載事項」とされています。ただし、会社が休職制度を設けている以上、その内容は就業規則に明示しなければなりません。休職通算規定も「休職に関する事項」の一部ですから、制度として運用するならば就業規則に書き込む必要があります。「なんとなく慣行でやってきた」という状態は、トラブルが起きたときに会社側の根拠が崩れるリスクがあります。
休職期間が「リセット」される仕組みと防ぎ方
休職期間のリセット問題は、通算規定の不備から生じます。復職後に一定期間が経過してから再休職した場合でも、期間の扱いを明確にルール化しておくことで、繰り返しの休職に対処できます。
リセットが起きる具体的な構造
就業規則に「休職期間は最長○ヶ月とする」とだけ書かれていて、通算に関する定めがない場合、復職により休職事由が消滅したとみなされ、その後の再休職は「新たな休職」として扱われます。この構造が、実質的な無期限休職を生み出します。
通算規定の代表的な記載パターン
小規模企業で実務上使いやすい通算規定には、主に以下のパターンがあります。
| パターン | 内容のポイント | 向いている企業規模・状況 |
|---|---|---|
| 復職後○ヶ月以内に再休職した場合は残余期間から控除 | 復職後の期間を設定し、その期間内の再休職は期間を引き継ぐ | 制度をシンプルに保ちたい20~30名規模 |
| 同一・関連疾病は通算する | 疾病の同一性・関連性に着目して累積管理する | メンタルヘルス関連の休職が多い職場 |
| 上記2つを組み合わせたハイブリッド型 | 「関連疾病は通算かつ復職後○ヶ月以内なら残余期間を引き継ぐ」 | 繰り返し休職への備えを厚くしたい場合 |
「復職後○ヶ月」の期間設定の目安
何ヶ月を区切りにするかは法律上の定めがなく、会社が合理的な範囲で設定できます。実務的には3ヶ月から6ヶ月程度を設定するケースが多く見られます。期間が短すぎると「実質的に復職させない」と見られるリスクがあり、長すぎると通算規定の効果が薄れます。業務の特性や過去の休職傾向を踏まえて決めることが重要です。
同一疾病・別疾病の判断基準
「うつ病で休職した後、適応障害で再休職した場合は同一の疾病として通算できるのか」という問いは、実務でよく迷うポイントです。法律上に明確な定義はありませんが、裁判例の考え方と就業規則の文言を組み合わせて対応することが現実的です。
裁判例が示す「同一・関連疾病」の考え方
東京高裁の日本電気事件をはじめ、メンタルヘルス関連の休職・復職をめぐる裁判例では、「実質的に同一または関連性のある疾病」については通算して扱うべきとする考え方が示されています。うつ病と適応障害のように、同じストレス要因に起因する精神疾患については「関連性あり」と判断される可能性があります。ただし、個々のケースによって異なるため、医師の診断書や経緯の記録が判断材料になります。
就業規則の文言で備えておくポイント
実務対応として有効なのは、就業規則の通算規定に「同一または関連する疾病による休職は通算する」という文言を入れておくことです。「同一疾病のみ通算」と書いてしまうと、疾病名が変わるたびに通算できないとする解釈が生じるリスクがあります。「関連する疾病」という言葉を加えることで、メンタルヘルス関連の休職に対してより実態に即した運用が可能になります。
判断に迷う場合の現実的な対処
産業医の選任義務がない50名未満の企業では、主治医の診断書だけで同一性・関連性を判断しなければならないケースがあります。その場合は、主治医に対して「前回の休職との関連性」について意見を求める文書を作成し、書面で回答をもらうことが記録として有効です。あいまいな状態で退職扱いの手続きを進めると、後から「不当解雇」として争われるリスクがあります。
就業規則に通算規定を後から追加する方法
通算規定を就業規則に追加する手続き自体は難しくありませんが、「不利益変更」に該当する可能性があるため、正しい手順を踏むことが重要です。届出さえすれば即時適用できると思い込んでいると、後のトラブルにつながります。
不利益変更に当たるかどうかの整理
労働契約法第9条・第10条では、労働者に不利益となる就業規則の変更は原則として労働者の同意が必要と定めています。ただし「合理的な変更」であり、かつ「周知」がされている場合は、同意がなくても有効となりうる例外があります。通算規定の追加は、休職可能な期間を実質的に短縮する効果があるため、「不利益変更に当たりうる」と考えて手続きを進める方が安全です。
変更手続きの進め方
まず変更内容を書面で全社員にわかりやすく説明します。次に、労働者代表または過半数労働者から意見を聴取します(労働基準法第90条)。ここで重要なのは、「同意を得る」ことと「意見を聴く」ことは別だという点です。反対意見が出ても聴取したこと自体を記録に残せれば、手続き上は問題ありません。その後、労働基準監督署に変更届を提出し、全社員に周知します。この一連の流れを書面で証拠として残しておくことが、後のトラブル防止につながります。
既存社員への適用と経過措置の考え方
変更後の就業規則を既存社員に即時適用することへの抵抗を軽減するために、「変更後の入社者から適用し、既存社員には経過措置を設ける」という方法も選択肢のひとつです。たとえば「変更前から在籍している社員については、変更後1年間は旧規定を適用する」といった移行期間を設けることで、変更の合理性を示しやすくなります。一方で、経過措置を設けると社員によってルールが異なる期間が生じるため、管理の手間が増える点は認識しておく必要があります。
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休職期間満了退職を有効にするための条件
通算規定に基づいて休職期間が満了した場合、就業規則の定めに従った「自動退職」として扱うことができます。ただし、規定の書き方や手続きに不備があると、「解雇」と同様に争われるリスクがあります。
「自動退職」として有効に機能するための要件
休職期間満了退職が有効に機能するためには、就業規則に「休職期間が満了した場合は自然退職とする」という明確な定めがあること、その規定が社員に周知されていること、そして休職期間満了の事実が記録として残っていることが必要です。逆に言えば、規定が曖昧・未周知の状態で退職扱いにした場合、裁判では無効とされるリスクが高まります。
復職可否の判断と満了退職の関係
主治医が「復職可能」と判断していても、会社が「実際の業務に戻れる状態ではない」と判断した場合の対応が難しいケースがあります。産業医が選任されている企業(原則50名以上)では産業医の意見も踏まえた判断が可能ですが、50名未満の企業では主治医の診断書だけが手元にある場合がほとんどです。このような場合は、会社として「どの業務に・どの程度従事できれば復職とみなすか」という基準を事前に文書化しておくことが重要です。その基準を社員にも事前に示しておけば、判断の透明性が高まります。
満了前に行うべきコミュニケーション
休職期間満了の前には、必ず社員本人に対して「いつまでに復職の見込みがなければ退職となる」という点を書面で通知しておく必要があります。突然の退職扱いは、たとえ規定に基づいていても「通知がなかった」「知らなかった」という主張の余地を残します。期間満了の2~4週間前を目安に書面で連絡し、その記録を保管しておきましょう。
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まとめ
休職を繰り返す社員への対応で手詰まりを感じているとき、その根本にあるのは「就業規則に通算規定がない」または「あっても不完全」という問題であることが多いです。通算規定があることで、休職期間の累積管理ができ、会社として明確な判断基準を持てるようになります。変更手続きは不利益変更の観点から慎重に進める必要がありますが、正しい手順を踏めば既存社員への適用も可能です。同一・関連疾病の判断基準や、休職期間満了退職の有効要件まで整理しておくことが、後のトラブルを防ぐ備えになります。
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